地域における感染症対策に係るネットワークの標準モデルを検証・推進するための研究

文献情報

文献番号
202219001A
報告書区分
総括
研究課題名
地域における感染症対策に係るネットワークの標準モデルを検証・推進するための研究
課題番号
20HA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
宮入 烈(国立大学法人浜松医科大学 医学部 小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 笠井 正志(地方独立行政法人 長野県立こども病院 総合小児科)
  • 宇田 和宏(東京都立小児総合医療センター 感染症科)
  • 大久保 祐輔(国立研究開発法人国立成育医療研究センター  社会医学研究部)
  • 岩元 典子(木下 典子)(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,040,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
国内では2016年の薬剤耐性菌(AMR)アクションプランに則り、各種対策がとられてきた。本研究班では過去6年にわたり、地域の一次医療機関における小児への経口抗菌薬適正使用を推進する手法を開発し実施してきた。本研究の目的は、抗菌薬処方の現状を把握し、これまでのAMRアクションプランの効果を検証し、休日夜間急患センター(急患センター)と保健所を中心に行政とプライマリケア従事者が綿密に連携する地域感染対策ネットワークを確立し、全国に展開し処方量や耐性菌検出率を比較検討することで抗菌薬適正使用の評価指標を確立させることである。2022年度は②と③を中心に検討した。
研究方法
以下の計画を実施した。
① 抗菌薬処方状況の調査
② 地域において継続可能で汎用性の高いシステムの構築
③ 急患センタにおける感染症診療実態の把握とフィードバック
④ 抗菌薬処方状況集計ツールの開発
結果と考察
① AMR対策の有効性の検証
2018年4月からは政策として「小児抗菌薬適正使用支援加算(以下、ASP加算)」が開始された。我々は2016年4月から2019年3月でのレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いて、感染症関連病名で受診した1歳未満の患者群を抽出しASP加算の導入頻度を調査した。また、3年間の推移を追い、ASP加算の導入群と非導入群に分けて、抗菌薬処方、呼吸器系薬剤の処方、入院率、時間外受診の変化を検討した。全体でASP加算は29%で導入され、4.8%から45.5%と都道府県毎にばらつきが見られた。抗菌薬処方はASP加算の導入前後で176 DOTs/1000 visitorの減少が見られた。一方で、その他の薬剤処方、入院率、時間外受診については増加しなかった。ASP加算は比較的安全に抗菌薬適正使用を推進する政策となりうることが示唆された。
病院を中心として導入された抗菌薬適正使用支援加算(H-ASP)については、2011年から2018年の全年齢の患者を対象とし、感染対策防止加算(IPC-1)のみの病院51病院とIPC-1にH- ASP加算を導入した421病院において、H-ASP加算の効果を評価した。H-ASP加算導入の全抗菌薬処方、広域抗菌薬処方の減少効果は認めなかった。H-ASP加算はP-ASP加算と比較すると医師の処方行動への影響は乏しいことが示唆された。
② 急病センターにおけるAMR対策の推進
我々は地域における薬剤耐性菌対策として、これまで休日・夜間急病センターでの抗菌薬適正使用に着目してきた。令和4年度は以下2点に取り組んだ。1点目は神戸こども初期急病センターで行ってきたNews letterを用いた出務医師への抗菌薬処方動向のフィードバックおよび感染症情報の共有をより簡素化した。その後も抗菌薬処方割合は減少が継続し、2023年は2%以下を推移した。2点目は前年度より開始した姫路市休日・夜間急病センター耳鼻咽喉科における抗菌薬処方モニタリングを継続した。COVID-19の流行により2020年以降受診患者数が減少したが、第3世代セファロスポリン系薬からアモキシシリンへの処方選択変化は継続して確認された。今後は小児耳鼻咽喉科学会と連携して取り組みの継続及び全国への波及を目指していく。
③ 市民啓発活動
令和3年度に開始した乳児健診案内を通じた意識調査および市民教育モデルを継続した。2021年4月から神戸市での乳児健診案内に保護者に対する抗菌薬適正使用に関する意識調査を同封し2023年3月までに1038件の回答を得た。リーフレット配布期間に案内を受け取った保護者の53%がリーフレットを認知しており、リーフレットを配布されていない群と比較し、配布された群で問いの正答割合が改善していた。兵庫モデルとして一定の成果を残すことができた。
④ 抗菌薬集計ツールの構築
休日夜間急患センターにおける抗菌薬の処方状況を簡易かつ正確に集計することができるように、各施設が保有するレセプトコンピュータから出力される医科レセプトデータを解析し、任意の方法で集計結果を表示することができるソフトウェアの開発を行なった。
⑤ 休日夜間急患センターにおける抗菌薬処方状況集計ツールの実践(OASCISを用いた検討)
休日夜間急患センターにおける抗菌薬の処方状況をAMR臨床リファレンスセンターによる診療所版J-SIPHE[診療所における抗菌薬適正使用支援システム OASCIS]を用いることが可能か検証を行った。OASCISの運用は休日夜間急患センターでも大きな問題なく運用可能であった。
結論
小児の一次診療を軸とした取り組みにより、全国レベルで抗菌薬処方の減少が認められている。更なる進展の為には小児にかかわる他の診療科との協働やシステムの開発、評価指標の開発が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202219001B
報告書区分
総合
研究課題名
地域における感染症対策に係るネットワークの標準モデルを検証・推進するための研究
課題番号
20HA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
宮入 烈(国立大学法人浜松医科大学 医学部 小児科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 笠井 正志(地方独立行政法人 長野県立こども病院 総合小児科)
  • 宇田 和宏(東京都立小児総合医療センター 感染症科)
  • 大久保 祐輔(国立研究開発法人国立成育医療研究センター  社会医学研究部)
  • 岩元 典子(木下 典子)(国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 国際感染症センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本国内では2016年の薬剤耐性菌(AMR)アクションプランに則り、各種対策がとられてきた。本研究班では過去6年にわたり、地域の一次医療機関における経口抗菌薬適正使用を推進する手法を開発し実施してきた。本研究(2020-2022年度)の目的は、抗菌薬処方の現状を把握し、AMRアクションプランの効果を検証し、休日夜間急患センターと保健所を中心に行政とプライマリケア従事者が綿密に連携する地域感染対策ネットワークを確立し、処方量や耐性菌検出率を比較検討することで抗菌薬適正使用の評価指標を確立させることである。
研究方法
目的を達成するために以下の計画を実施した。
①ナショナルデーターベースを用いた本邦における小児の内服抗菌薬の使用実態に関する研究
②小児抗菌薬適正使用支援加算および抗菌薬適正使用支援加算が抗菌薬処方に与えた影響に関する検討
③急病センターにおけるAMR対策の推進
④乳児健診の受診案内を利用した神戸市民の耐性菌および抗菌薬適正使用に関する意識調査・市民教育
⑤抗菌薬処方状況集計ツールの開発
⑥浜松市夜間救急室へのOASCIS(診療所における抗菌薬適正使用支援システム)導入の検証
⑦薬剤耐性菌と抗菌薬処方量の関係の検証
結果と考察
① ナショナルデーターベースを用いた本邦における小児の内服抗菌薬の使用実態に関する研究
AMR 対策アクションプランの策定前と策定後の小児の全国の経口抗菌薬使用量の変化を詳細に評価し、8 歳以下の患者では使用量が減少し、15 歳以上の患者では増加したことが確認された。 病院、診療所ともに、2016 年以降は、抗菌薬の処方は減少する傾向にあった。また小児外来経口抗菌薬全体の35%が耳鼻科医院で処方され、8%が皮膚科医院で処方されていることが明らかになった。
② 小児抗菌薬適正使用支援加算および抗菌薬適正使用支援加算が抗菌薬処方に与えた影響に関する検討
2018年4月からは政策として導入された小児抗菌薬適正使用支援加算では、抗菌薬投与が228.6DOTs/1000 cases 減少していた。一方、時間外受診、入院率の増加は認めなかった。病院を対象とした抗菌薬適正使用支援加算 については、検討期間中には8年間で全抗菌薬は8.6%の減少が認められたが、全抗菌薬処方、カルバペネム系抗菌薬処方、広域抗菌薬についてもH-ASP加算導入による直接の減量効果は認めなかった。
③ 急病センターにおけるAMR対策の推進
神戸市の急病センターにおいて、処方のモニタリングとフィードバックを行ってきたが、継続的な取り組みが定着するなかで、その媒体であるNews letterを簡素化した。その中でも抗菌薬処方割合は経時的に低下した。姫路市の急病センター耳鼻咽喉科における過去7年間の1,000患者あたりの抗菌薬処方件数は第3世代セファロスポリン系抗菌薬が442から156、カルバペネム系抗菌薬が60から12へ減少し、アモキシシリンが128から369へ増加した。その他、キノロン系抗菌薬やマクロライド系抗菌薬の処方件数も減少した。
④ 乳児健診の受診案内を利用した神戸市民の耐性菌および抗菌薬適正使用に関する意識調査を行い、2021年4月〜2023年3月で1083件の回答を得た(回収率約5%)。1歳6か月までに抗菌薬を処方されたと全体の61.7%が回答し、6.7%が医師に抗菌薬処方を希望したことがあると答えた。また、リーフレットを配布された保護者が1歳6か月の健診案内を受け取り始める2022年1月以降の回答結果から53.3%の保護者がリーフレットを認知していたことがわかった。「抗生物質はウイルスを減らすか」「抗生物質は風邪やインフルエンザを治すか」「耐性菌という言葉を知っているか」という問いについては、リーフレットを配布された群の正答割合が高かった。
⑤ 抗菌薬処方状況集計ツールの開発
休日夜間急患センターにおける抗菌薬の処方状況を簡易かつ正確に集計することができるように、レセプトコンピュータから出力される医科レセプトデータを解析し、任意の方法で集計結果を表示することができるソフトウェアの開発を行なった。
⑥ 浜松市夜間救急室へのOASCIS導入の検証
年齢ごとの受診患者、抗菌薬処方件数、気道感染症に対する処方件数と抗菌薬処方件数、処方された抗菌薬の種類といったデータを収集し描画することが可能であった。
⑦ 薬剤耐性菌と抗菌薬処方量の関係の検証
マクロライド系抗菌薬と肺炎球菌、カルバペネムと緑膿菌などについては一定の相関を認めたが、多くの菌種では短期間の経過で薬剤耐性菌の減少に直接寄与しない可能性が示唆された。
結論
小児の一次診療を軸とした取り組みにより、全国レベルで抗菌薬処方の減少が認められている。更なる進展の為には小児にかかわる他の診療科との協働やシステムの開発、評価指標の開発が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202219001C

収支報告書

文献番号
202219001Z