高齢者の運動による老化予防および体力向上に関する長期縦断的研究

文献情報

文献番号
199700603A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の運動による老化予防および体力向上に関する長期縦断的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
能勢 隆之(鳥取大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村好一(自治医科大学)
  • 藤田正一郎(財・放射線影響研究所)
  • 種田行男(財・明治生命厚生事業団体力医学研究所)
  • 佐々木英夫(広島原対協・健康管理増進センタ-)
  • 大城喜一郎(沖縄県総合健康センタ-)
  • 横山徹爾(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
9,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人体の生理機能や体力は年齢とともに低下するが、継続的な運動を行うことは、生理機能や体力の低下を抑制して老化を防止すること、および心臓病、高血圧、糖尿病などの生活習慣病を予防し、自立した老後を過ごすのに必要なことであるといわれている。この研究の目的は、高齢者の継続的な運動習慣が、体力の維持増進および生命予後に与える影響を科学的に明らかにすることである。
研究方法
1)健康増進センタ-受診者の追跡調査?全国5か所の健康増進センタ-を1982年1月~1987年12月に訪れた 7,286名を、受診後の調査票郵送調査などにより追跡した。ベ-スライン情報は来所時の問診・検査結果、体力測定結果(反復横飛び、立位体前屈、上体おこし、握力、垂直飛び、上体そらしの6項目)である。追跡調査票では日常生活の状況、疾病罹患状況、死亡の場合には死亡原因を調査した。調査票を1度も回収されなかった 673名を除いて解析を行った。コックスの比例ハザ-ドモデルを用いて死亡をエンドポイントとしたハザ-ド比を計算し、相対危険度とした。体力測定結果は、センタ-ごとの性・年齢別測定値の中央値よりも高い者を高体力水準群とし、低体力水準群に対するハザ-ド比を計算した。?広島市の健康管理増進センタ-の健康増進コ-スを複数回受診した者 2,923名(男 1,852名、女1,071名)を対象として、初回とその後の受診時の運動量変化と体力の変化との関連を縦断的に比較・検討した。今回は、初回受診時の日常生活において余暇の運動として当該の運動をおこなっていないものが、その後にその運動を実施した場合に、どの程度の運動能力ないしは体力の変化がみられるかを検討した。?高血圧症の家族歴のある者に対して、運動習慣がどのように影響するかを縦断的に検討した。対象者は、平成7年度の沖縄県総合健康増進センタ-全受診者(約 2,459人)の内、受診回数が8回以上の男性150人とした。2)生活体力を指標とした運動による老化予防の評価 従来の体力測定法は高齢者にとって負荷が大きく不適である。そこで研究者は高齢者のための新しい体力測定法として「生活体力-起居能力、歩行能力、手腕作業能力、身辺作業能力-」を提唱してきた。この「生活体力」を用いて高齢者の体力を評価し、体操と歩行を中心にした運動処方の効果を調べた。対象者は小都市に在住する在宅高齢者 123名(男性:38名、1995年時点の平均年齢 75.0±4.4歳、女性:85名、平均年齢 73.6±5.2歳)であった。運動習慣の継続と形成を目的に、「元気歩行」(速歩)および「長生き体操」(関節可動域および筋力の改善)を2ヵ月毎に2年間(1995~1997年)継続して指導した。その効果を生活体力によって評価した。3)老化指標としての握力の意義 これまで、老齢化指標としての握力の意義を検討してきた。今年度は握力検査時点から5年間、検査時点から10年間、検査時点から20年間のそれぞれの期間における死亡率と握力との関係を調べた。4)地域住民集団のコホ-ト研究 地域住民を対象とした長期間追跡のコホ-ト研究(ベ-スライン調査は1977年)によって、身体活動度と循環器疾患との関連について、高齢者と若年者で比較した。対象は新潟県S市A-1地区40歳以上の住民2,651人のうち、男性999人(受診率85%)、女性1,360人(受診率93%)とした。身体活動調査については、「簡易エネルギ-消費量推定法」を用い、その結果より日常生活の労作強度(生活活動指数)を算出した。脳卒中と虚血性心疾患の
新発生は発症登録制度、死亡票、病院のカルテ閲覧などにより把握した。労作強度を性・年齢別の三分位で分け、各群ごとに比例ハザ-ドモデルによる相対危険度の推定を行った。
結果と考察
1)健康増進センタ-受診者の追跡調査 (a) 68,463人年(1人平均 10.3年)観察し、319 名の死亡を確認した。死亡原因は悪性新生物 126名、心疾患42名、脳卒中25名などであった。単変量解析(性・年齢で補正)の結果で、上体起こし、上体そらしで体力水準の高い者は死亡率が低い傾向を示し、立位体前屈、垂直飛びで体力水準の高い者は低い者に比べて死亡率が有意に低くかった。また、喫煙者、低コレステロ-ル者、生活活動強度の高いもので死亡率が高かった。単変量解析で有意であった項目を同時にモデルに組み込んだ多変量解析も併せて行ったが全体の傾向は変わらなかった。次に、疾患別に解析を行った。悪性腫瘍において体力水準は大きい影響を死亡に与えていないが、動脈硬化が原因と考えられる脳卒中と心臓病においては体力水準の高い者に相対危険度が低い傾向を認めた。?ジョギングでは心肺持久力が向上したが、この効果は50歳未満で明確であった。歩行、水泳でも心肺持久力の改善がみられたが、有意差はなかった。また、水泳によって瞬発力の向上が認められた。中高年においても適度な強度の運動が体力の改善に重要である。 ?高血圧の非家族歴群のウォ-キングおよびジョギング実施群については、加齢とともに非運動群より血圧が高くなる傾向にあった。家族歴群のウォ-キング実施群については、非運動群より血圧が低くなる傾向がみられ、運動による降圧効果が示唆された。2)生活体力を指標とした運動による老化予防の評価 生活体力の起居時間および歩行時間は、2年間で「元気歩行」実施群の方が非実施群よりも有意に増加の程度が低かった。また、「元気歩行」実施群では身辺作業時間に有意な減少が認められた。「長生き体操」では、これらの変化は実施群において少なくなる傾向がみられたが有意差は認められなかった。「元気歩行」の実施者において、中性脂肪と動脈硬化指数の減少、およびHDLコレステロ-ルとヘマトクリット値の増加が認められた。全対象者の抑うつ度の平均値は有意な減少を示した。運動習慣別では継続群に有意な減少および運動形成群に減少傾向が認められたが、非実施群では増加する傾向がみられた。3)老化指標としての握力の意義 検査時点で握力に10?の差があれば、握力が強い人の検査後5年間、検査後10年間、検査後20年間の死亡確率は、握力が弱い人の死亡確率の、それぞれ、65%、71%、91%であった。4)地域住民集団のコホ-ト研究 1992年12月までの15.5年間の追跡期間中の全脳卒中142例(脳梗塞75例、脳出血27例)、虚血性心疾患50例(急性心筋梗塞24例、24時間以内の突然死26例)が把握された。女性では年齢に関係なく労作強度が強いほど全脳卒中のリスクが低下していた。男性では強い労作が若年では高リスク、高齢では低リスクという違いがあった。虚血性心疾患は高齢女性で労作強度が強いほどリスクが低下する傾向があったが有意ではなかった。
結論
1.体力水準の高い群は、体力水準の低い群と比較してその後の死亡確率が低いことが示された。2.中高年者においても、継続的な有酸素運動は心肺持久力の向上に有用であった。3.高血圧の家族歴有りの者には、比較的軽い運動のウォ-キングが有効であることが示唆された。4.生活体力等により我々の実施した健康教育プログラムの効果を評価した。「元気歩行」は高齢者の生活機能の老化抑制に有効であると推察された。5.握力が強い群では、低い群と比較してその後の死亡確率が低いことが示された。6.女性では年齢に関係なく労作強度が強いほど全脳卒中のリスクが低下していた。男性では強い労作が若年では高リスク、高齢では低リスクであった。

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