医療現場における対面および遠隔での手話通訳を介したコミュニケーション時に生ずる意思疎通不全要因の研究

文献情報

文献番号
202218038A
報告書区分
総括
研究課題名
医療現場における対面および遠隔での手話通訳を介したコミュニケーション時に生ずる意思疎通不全要因の研究
課題番号
22GC1011
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
芝垣 亮介(椙山女学園大学 国際コミュニケーション学部)
研究分担者(所属機関)
  • 奥田 太郎(南山大学 社会倫理研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
4,850,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成31年の「専門分野における手話言語通訳者の育成カリキュラムを検討するためのニーズ調査研究事業」厚生労働科学研究成果報告書において、手話通訳に関する現状と課題が提示された。本研究は、それらの現状を踏まえ、意思疎通不全の起こる具体的原因の解明およびその解決方法を言語学的・コミュニケーション論的観点から探求することを目的とする。とりわけ手話の言語性および医療の倫理性の観点から調査・分析を進めることで、手話を通じたコミュニケーションに関する医療従事者側の理解を深化させるためにはどのようなことが必要か、また、医療分野の専門性がどのような仕方で手話通訳の障壁となっているのかについて具体的に把握することを目指す。さらに、これらについて、対面の場合とICTを用いた遠隔サポートの場合とで比較し、医療現場での遠隔サポートによる意思疎通の可能性も探る。そして、最終的には、研究成果を視覚化し、実務改善と情報発信のためのツール(留意点をわかりやすく示したリーフレット・動画等)を開発する。
研究方法
医療従事者、ろう者、手話通訳者とともに意思疎通不全の要因を探るためのロールプレイ実験を実施して、データを収集・構築し、構築されたスクリプトを分析し、基本的な要因の発見に努めた。また、分析に必要な手話に関する多角的な知見を得るため、当事者や有識者からの助言を受けた。また、本研究では、日本語の習熟度の低い外国人を患者役としてロールプレイ実験も行った。これは、先行研究において、ろう者と医療従事者の間で発生する問題として提起されているもののうち、単に言葉が異なるから発生する問題と、ろう者であることや言語が手話であることが原因で発生する問題を区別するためである。前者については、既に様々な言語間のデータをもとにコミュニケーション論の分野に知見があり、それを参考に解決できると考えられる。他方、後者こそが本研究のスコープである。
結果と考察
上記手法による実験の結果として、ろう者と手話通訳を介した医師との会話の文字起こしを行いデータ化した。また、各ロールプレイ実験後に患者役、手話通訳役、医師役の3者に対して半構造化インタビューを行いデータ化した。
本研究に知見のある専門家も積極的に訪れ、意見交換を行い、データの分析をより中立な立場から進めるべく意見を集約した。
上記研究結果および先行研究について以下のように考察した。まず、本科研のテーマである、手話通訳を介したコミュニケーションの改善について、対面およびICT利用のコミュニケーションの現場における課題を発見しその課題の原因を探った。この点において、先行研究(「障害のあるがん患者のニーズに基づいた情報普及と医療者向け研修プログラムの開発に関する研究」代表者八巻知香子、など)では、ろう者の知見や体験に基づいた提案がなされており、本研究ではデータを言語学的かつコミュニケーション論的に分析することで独自の分析を行った。具体的には、医師が多用する傾向のある程度の表現やあいまい表現のろう者の受け止め方、例えば「家族」のような手話にも日本語にも存在するがその意味範疇の異なる言葉に着目し、医療従事者が閲覧するためのリーフレットを作成することでコミュニケーション不全を解消する方策を模索した。
また、医療現場におけるコミュニケーションの特殊性にも着目し、コミュニケーションにおいてろう者が望んでいるものが日常会話とは異なることを発見した。この医療現場特有のコミュニケーションの在り方に根付いた解決方法の中には、医師の発言を文字化しろう患者に渡すという方法も考えられるが、そこには倫理的問題もあり、実現するには工夫が必要であると考えられる。この点については、本研究の倫理的考察を分担する奥田太郎が、別紙分担研究者の報告書で論じる。
結論
令和4年度の研究の結論として以下2点を挙げる。1点目は、ろう患者と医療従事者がコミュニケーションに入るまでの工夫について、本研究独自の提案ができることがわかった。具体的提案内容については、令和5年度の研究を通して形にし、その成果物として提示する。2点目は、手話通訳者を介したコミュニケーションにおいて、医療従事者が閲覧しながら利用するだけでコミュニケーションが円滑になるリーフレットの作成が可能であることを発見したということである。この具体的内容については令和5年度の研究内で、実際にそのリーフレットの試作版を用いたロールプレイを行い、ロールプレイ実験を通してブラッシュアップするという独自の方法を試みる。

公開日・更新日

公開日
2023-11-21
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-11-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202218038Z