メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の外科手術術前除菌操作の是非に関するFeasibility Study

文献情報

文献番号
200918033A
報告書区分
総括
研究課題名
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の外科手術術前除菌操作の是非に関するFeasibility Study
課題番号
H21-臨床研究・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
澤 芳樹(大阪大学 医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 前原 喜彦(九州大学 医学研究院)
  • 李 千萬(大阪大学 医学部附属病院)
  • 大門 貴志(兵庫医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究・予防・治療技術開発研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 MRSAの術前除菌操作が必要であるか否かの検討を行なうことを目的とする。MRSA保菌者への術前除菌の術後感染症に対する有効性について十分なエビデンスは得られていない。それ故、本邦においては、MRSA保菌者に対する術後感染症制御のための術前除菌について、術前MRSAスクリーニングの有無を含め、各施設が独自の方針を立てている。本研究は、漫然と行なわれてきたMRSA保菌者に対する術前除菌が有用であるかを検討するため、そのエビデンスとなる情報収集をはかり、また当該情報・症例情報を基に次年度以降の臨床研究プロトコールを作成することを目的とした。
研究方法
術前MRSA除菌操作と術後感染症発生率との関連性について、後ろ向き研究ではMRSA保菌者を対象とし、前向き研究ではMRSAスクリーニングを実施された症例を対象とし、年齢、PS、Physical Status、術式などの背景因子を検討し、術前MRSA除菌群と術前MRSA非除菌群の術後(MRSA)感染症の発生割合、感染症治癒までの日数、術後在院期間などを比較、術前MRSA除菌の有用性について検討した。
結果と考察
 外科学会指定施設において186施設中112施設59.6%にて術前スクリーニングを行っており、無条件に術前症例にMRSAスクリーニングを行っている施設は、46施設24.5%であった。また、スクリーニングを行っている施設で術前MRSA保菌者に対する除菌は、112症例中86例(76.8%)で実施されていた。
 後ろ向き研究では、MRSA保菌者129例の症例を登録し、術前除菌有群(76例)、術前除菌無群(36例)、除外症例(17例)で検討すると、術後感染症の発生割合は、術前除菌有群で0.2162、術前除菌無群で0.1388となり、Fisherの正確検定でp=0.4410であった。また、前向き研究では、登録症例数87例を登録したが、術前MRSA保菌者が1例のみであったため、統計解析が不可能であった。術後感染症の発生割合は0.1343であった。
結論
 今回のFeasibility Studyでは、大阪大学、九州大学において後ろ向き研究ならびに前向き研究を行ったが、後ろ向き研究においては、術前MRSA除菌の有無が術後感染症の発生率に影響を与えなかった。また、前向き研究に関しては症例数が少なく、MRSA保菌者の割合が少ないために統計解析が不可能であり、今後外科学会臨床研究推進委員会の協力のもとに、大規模多施設研究を行い、その研究によって得られたエビデンスを基盤として「MRSA保菌者に対する術前除菌についてのガイドライン」を策定する予定である。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200918033C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 外科学会指定施設中約6割の施設でMRSAに対するスクリーニングが行われており、76.8%の施設で術前除菌操作が行われているが、外科学会としてのガイドラインは策定されていない。後ろ向き研究では症例数が少ないが、術前MRSA除菌の有無にかかわらず、術後感染症の発生割合に有意差を認めなかった。また、前向き研究では、MRSA保菌者の割合が少なく、また登録症例数が少ないために解析が不可能であった。これらのことより、今後大規模多施設研究を行い、十分な統計解析を行える症例数を確保する必要がある。
臨床的観点からの成果
臨床的には、今回の結果では、後ろ向き研究では術前除菌の有無で術後感染症発生率に有意差を認めなかったが、今後前向き研究を推進することで、MRSA術前除菌操作が有用な手術症例群を選別することは、漫然と行われているMRSA術前除菌を適正化するために非常に重要である。
ガイドライン等の開発
最新のCDCのガイドラインでは、MRSAに対する除菌は、必要最低限に留めるように記載されており、手術前の除菌に関しても、推奨はなされていない。我々は、今回のFeasibility Studyの結果により、今後の多施設大規模試験を行い、術前鼻腔咽頭MRSA除菌操作が有用である手術症例を選別することで、日本外科学会によるガイドラインの策定予定である。
その他行政的観点からの成果
MRSAに関する除菌操作は、現在も外来でのスクリーニング後に、感染者でなく、感染非発症保菌者であっても術前の除菌操作を行っている施設があり、医療経済上も非効率的であると言わざるを得ない。今後ガイドラインを作成し、術前除菌操作が必要である手術症例を選別できた場合に、スクリーニング、除菌操作が保険診療となる可能性もあり、そうなれば、無駄な医療費が削減でき、健全な医療行政が行われると考えられる。
その他のインパクト
MRSAの術後感染症は、約15年ほど前にマスコミを騒がせ、また訴訟沙汰にもなったためにインパクトの高い話題である。しかし、逆にそのために訴訟対策として漫然と術前のMRSAスクリーニングとMRSA除菌を行っている施設も多々認められる。このような状況において、外科学会が主導し、MRSA術前スクリーニングならびに術前除菌のガイドラインを策定することは、外科学会指定施設だけでなく、国民にも保菌の意義を知らしめるために重要であり、今後の大規模多施設研究の際には公開シンポジウムなどを行いたいと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-