人口集団の長期追跡による老化抑制因子の解明に関する疫学的研究

文献情報

文献番号
199700602A
報告書区分
総括
研究課題名
人口集団の長期追跡による老化抑制因子の解明に関する疫学的研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
柳川 洋(自治医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 児玉和紀(放射線影響研究所)
  • 坂田清美(和歌山県立医科大学)
  • 岡山明(滋賀医科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究は、長期コホート研究を実施している地域住民集団の資料を用いて、ライフスタイルにおける老化の客観的な指標を明らかにすること、老化を促進または抑制する因子を探索して総合的な長寿要因を解明すること、長寿を達成するための積極的な介入方策を明らかにすることを目的とする。
研究方法
 1)農村地域住民の老化予防に関する追跡研究: 1983年に追跡開始した2334人の住民コホート集団について、1995年に実施した老化水準の現状調査成績とベースラインデータとの結合を行い、長寿要因の解析を行った。また、1994年、95年の両年に老化水準を測定し得た者887人については、両時点の成績より質問票による老化水準の再現性を評価した。
2)原爆被爆者集団の老化予防に関する追跡研究: 全国5地区・3施設で実施しているコホート研究集団を対象に老化に関する自記式共通質問票による調査を実施した。この資料を用いて年齢を目的変数に、老化に関する質問項目を説明変数にして性別、年齢群別(65歳以上、65歳未満の2群)にわけて重回帰分析を行い老化年齢推定式を作成し妥当性を検討した。
3)山間地域住民の老化予防に関する追跡研究: 和歌山県山間地域住民コホート集団を利用し、死亡情報および1997年に実施した現状調査より、死亡およびADLに寄与している生活習慣要因をコックスの比例ハザードモデル等を用いて解析した。
4)高齢者のADL、生命予後要因に関する長期追跡研究: 1980年循環器疾患基礎調査対象者のうち、1994年現在65歳以上で生存が確認されたものを対象に14年後の生命予後、日常生活動作に関する追跡研究を実施した。年齢、血圧、血清総コレステロール、喫煙習慣、飲酒習慣、労働強度、随時血糖を独立変数、日常生活動作能低下を従属変数として解析した(2656人)。さらに、死亡への影響も考慮する意味で、死亡者(1103人)と動作能低下者を同一に扱った分析も行った。また、高齢者を90,85,80歳で区分して観察終了時の年齢が対象以上の年齢の日常生活動作の低下や、死亡者を「低下・死亡群」とせず、単に観察終了とした解析も実施した。
結果と考察
 1)農村地域住民の老化予防に関する追跡研究: 老化年齢推定式を用いて算出した推定老化年齢と実際の年齢との差をとり、推定老化年齢が2歳以上実際の年齢を上回っていた群(老化あり)と、それ以外の群(老化なし)の2群に分類し、生活習慣などが老化に与える影響を多重ロジスティックモデルにより分析した結果、男では、高血圧(少なくとも1回は高血圧)、肥満(標準体重110%以上)、ヘモグロビン(14未満)、高蛋白(8.0以上)などが老化を促進し、みそ汁・漬け物(両方ともよく食べる)、ご飯(週31杯以上)などが老化抑制因子と考えられた。女ではやせ(標準体重89%以下)以外には、明らかな影響因子は見られなかった。各質問項目の一致性を評価する目的で、カッパ統計量を計算した結果、ADLに関する項目を中心とした28項目は0.4以上であった。特に「糖尿病既往」については0.75を越えており極めてよく一致していた。老化水準推定式では2回のデータの相関係数は0.6であった。
老化に影響する指標のなかで、高血圧、肥満、ヘモグロビンなどがあげられ、男女で影響の大きさが異なっていた。食習慣については、動物性タンパク質、みそ汁、漬け物、ご飯などを多く摂取しているものが老化しにくい傾向を認めた。もともと摂取食品量が多いものは、少ないものと比較してベースライン調査時点から健康であったとも考えられる。
2)原爆被爆者集団の老化予防に関する追跡研究: 調査票を回収した12,841人を解析対象者とした。老化年齢推定式に選択された質問項目をみると、65歳以上では男女とも共通に選択されたものは「聴力障害」、「転びやすい」、「外出」である。その他では、女で家事に関連する「食事の準備」、「家計簿」が選択された。65歳未満では男女とも共通に選択された質問項目は「高血圧の治療」、「物忘れ」である。65歳未満では生活活動能力に関する質問項目は選択されなかった。老化年齢推定式の項目選択には調査地区や施設に特有なもの、或いは特定の質問群に特有なものに偏らないように配慮した。対象者は地域住民と健康増進センタ-受診者である。寝たきりのものの占める割合は1%と少なく、生活活動能力に対象集団間の偏りは少ないと考えられる。
3)山間地域住民の老化予防に関する追跡研究: 和風の食生活をしているものは、男では総死亡リスクを2.1倍、悪性新生物のリスクを3.1倍高めていた。洋風の食生活は男では循環器疾患死亡のリスクを2.8倍、女では4.1倍高めていた。野菜をよく摂取する生活習慣と死亡との関連は認められなかったが、果物をよく摂取する者では、男はリスクが0.17倍、女は0.25倍と低かった。塩分をよく摂るものは、循環器疾患の死亡リスクを男では2.2倍、女では5.2倍高めていた。不活発な生活習慣のものは、循環器疾患死亡のリスクが高く、男では5.3倍、女では10.9倍リスクを上げていた。これらの結果は、喫煙歴と飲酒歴について調整しても、ほぼ同様の結果となった。元気スコアを過去1年間に治療した疾病の有無別に比較すると、脳卒中、白内障で治療したことのあるものがWilcoxonの順位和検定で5%水準で有意に元気スコアが低い結果となった。和風食生活をしている者では、男では総死亡および悪性新生物死亡のリスクが上昇していたが、喫煙と塩分の多い食生活が影響しているものと思われる。一方、洋風食生活をしているものでは、男女とも循環器疾患死亡のリスク高めており、コレステロールの上昇、高血圧等の危険因子を介して死亡のリスクを高めているものと考えられる。果物についてはよく摂取しているものほど死亡のリスクが低い結果が得られ、ビタミンやカリウム等の補充が死亡の減少に寄与しているものと考えられる。塩分を好む食生活、不活発な生活は循環器疾患死亡のリスクを高めており、このような生活習慣の改善が必要である。脳卒中、白内障の治療歴の有無で活動度に差がみられ、これらの疾病予防が重要である。
4)高齢者のADL、生命予後要因に関する長期追跡研究: 1994年に日常生活動作能力維持状況を調査できたものを対象にして、循環器疾患の危険因子と維持状況との関係を見たところ危険因子として有意なものは高血圧、血糖、喫煙、禁酒、年齢であった。また予防因子として有意なものは高血症、飲酒、肥満であった。死亡者を追加した場合の解析では、肥満度は影響せず、その他の危険因子、予防因子はほぼ同様であった。
年齢層を限定した解析では年齢の影響は90歳以上を分析対象としたときに急激に高くなり、85歳以下では大きな差はなかった。高血圧は対象年齢を引き下げるとやや低下傾向にあったが、有意な差ではなかった。血糖は年齢にほとんど関係がなかった。喫煙は年齢が若くなるほど影響が強い傾向が見られた。飲酒習慣は、年齢幅を大きく取ると飲酒習慣のあるものの方が維持能が高い傾向が見られた。禁酒は若いほど強い影響が見られた。
血清総コレステロールを除く循環器疾患の危険因子が総死亡や日常生活動作能力維持に強い影響が見られることが明かとなった。長寿者の年齢を区分した解析では、85歳以下で生活習慣の影響が相対的に強く、それ以上では体質が影響していることを示唆した。
結論
 老化関連要因を明らかにする目的で、各地域の人口集団を対象に追跡研究を行った結果、老化を促進させる身体的要因として、高血圧、肥満、低ヘモグロビン、高血糖などがあげられた。老化を促進させるライフスタイルの特徴としては、喫煙、不活発な身体活動があげられた。簡単な質問票による老化年齢予測式を作成した。

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