大規模疫学研究データと診療報酬明細書(レセプト)データを用いた一般住民における入院外統合失調症及び統合失調症関連障害の有病率推定方法の開発

文献情報

文献番号
202218026A
報告書区分
総括
研究課題名
大規模疫学研究データと診療報酬明細書(レセプト)データを用いた一般住民における入院外統合失調症及び統合失調症関連障害の有病率推定方法の開発
課題番号
21GC1018
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
太田 充彦(藤田医科大学 医学部 公衆衛生学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 岩田 仲生(藤田医科大学 医学部)
  • 谷原 真一(久留米大学 医学部)
  • 岸 太郎(藤田医科大学 医学部)
  • 松永 眞章(藤田医科大学 医学部公衆衛生学)
  • 李 媛英(リ エンエイ)(藤田医科大学 医学部)
  • He Yupeng(ホー ウホウ)(藤田医科大学 医学部・公衆衛生学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
5,540,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、本研究は、令和3~5年度の3ヵ年で、日本における統合失調症等の有病率を大規模疫学研究やレセプトデータを用いて推定する方法を開発することを目的としている。このため、本年度は生活状況や心身の状況から統合失調症を判別できるモデルの開発、および、レセプトを使用した統合失調症抽出のための妥当性検証を行った。
研究方法
統合失調症を有する人と精神障害を有さない人を対象とした症例対照研究を行い、日本における統合失調症を有する者において多く見られる身体的・精神的・社会的併存症状を明らかにした。このデータをもとに、機械学習を用いて、統合失調症の症例を判別するモデルを構築した。レセプトに記載された傷病名「統合失調症」と真に統合失調症であること(精神科医による最終診断:ゴールデンスタンダード)を突合させ、陽性的中率、陰性的中率、感度、特異度を算出した。大規模レセプトデータベースにおいて、傷病名の一部に「統合失調」を含む傷病名のなかに統合失調症ではない者があるかを調べた。
結果と考察
統合失調症を有する成人223人と精神障害を有さない成人1776人を対象とした症例対照研究を行い、日本における統合失調症を有する者において多く見られる身体的併存症状(骨折、睡眠時無呼吸、過体重・肥満、糖尿病、脂質異常症)、精神的併存症状(うつ症状、長時間睡眠、認知ストレスの自覚、中途・早朝覚醒、入眠困難、幸福感の欠如、生きがいの欠如、不良な睡眠の質、長時間のインターネット使用)、社会的併存症状(非就労、非正規雇用、親との同居、低い世帯収入、未婚、定期健康診断未受診、低い認知的ソーシャルキャピタル、高校・短期大学卒以下の学歴、低いソーシャルサポート)を明らかにした。統合失調症を有する者と精神障害を有さない者の間に、身体的・精神的・社会的併存症状の有病率に違いがあることが明らかになった。本研究結果は海外における先行研究結果と類似する点もあったが、日本における肥満や生活習慣病の高い有病率や低いヘルスリテラシーといった新規性のある発見もあった。このデータをもとに、機械学習を用いて、統合失調症の症例を判別するモデルを構築したところ、その感度、特異度、陽性的中率、陰性的中率はそれぞれ56%、97%、69%、95%であった。個人レベルで統合失調症の有無を判別することに使用するには限界はあるが、この機械学習モデルを既存の一般住民を対象とした大規模疫学研究データに当てはめ、集団レベルでの統合失調症の有病率を推測するためには使える可能性がある。そのためには、本研究で開発した機械学習モデルを精神科医が診断を確定した症例に当てはめ、妥当性をさらに検討する必要がある。この検討は令和4年度に完了できなかったため、令和5年度に実施する。
某病院でレセプトに記載された傷病名「統合失調症」と真に統合失調症であること(ゴールデンスタンダード)を突合すると、陽性的中率、陰性的中率、感度、特異度はそれぞれ41.3%、100%、100%、84.5%であった。統合失調症を有さなかった人のうち15.5%のレセプトに傷病名「統合失調症」が付けられていた。いずれかの第2世代抗精神病薬の処方情報を加えた場合、陽性的中率は54.2%と上がったが、感度は66.0%と大きく下がった。このことは、抗精神病薬の処方情報を加えることによって統合失調症の定義が変化し、一定の特徴を有する統合失調症患者しか抽出できなくなることを示している。大規模レセプトデータベースにおいて調査をしたところ、傷病名の一部に「統合失調」を含む傷病名のうち4.1%は必ずしも統合失調症とは限らないと考えられた。レセプトデータから統合失調症に該当する患者を抽出して分析を行う際には、標準病名の分類を精緻に行い、レセプトに記載された情報から統合失調症をどのように定義するかを明確にすることで、レセプトデータから得られた結果を正しく解釈することが可能となる。
結論
精神障害にも対応した地域包括ケアシステムを実現するためには、入院外を含めた統合失調症等の有病率を明らかにしたうえで、退院後の医療・アウトリーチ等の継続支援、住まいの確保支援、家族への支援などに必要なニーズを算出し整備する必要がある。本研究結果はこの実現に寄与する基本的な資料となりうる。
本研究の成果は学術的にも貢献している。統合失調症を有する者の主観的健康感・幸福感・生活満足度や身体的・精神的・社会的併存症についての先行文献レビュー、および、日本における統合失調症を有する者において多く見られる身体的・精神的・社会的併存症状に関しては論文発表を行った。機械学習を用いて開発した統合失調症の症例を判別モデルについても論文を投稿中である。

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-12-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202218026Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,200,000円
(2)補助金確定額
7,200,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,448,980円
人件費・謝金 1,664,278円
旅費 59,137円
その他 367,605円
間接経費 1,660,000円
合計 7,200,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-03-27
更新日
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