地域共生社会の実現に資する障害福祉人材の確保、養成のための研究

文献情報

文献番号
202218016A
報告書区分
総括
研究課題名
地域共生社会の実現に資する障害福祉人材の確保、養成のための研究
課題番号
21GC1007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
岩崎 香(早稲田大学 人間科学学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 野澤 和弘(植草学園大学 発達教育学部)
  • 山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)
  • 種田 綾乃(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
人口減少、少子高齢化という状況にあるわが国において、社会福祉分野での人材育成・確保は喫緊の課題である。障害福祉分野においても事業所数の増加は著しく、人材不足も深刻である。本研究では、障害福祉人材の確保が困難な理由を明らかにするとともに、確保と定着を目的として以下の調査研究等を実施した。
研究方法
令和4年度の調査研究としては、①障害福祉事業を運営する法人を対象としたオンライン調査と②大学生を対象としたフォーカスグループインタビュー調査、③他業種からの転職希望者など潜在的な福祉人材の確保に関するヒアリング調査を実施した。
結果と考察
①障害福祉事業を運営する法人を対象としたオンライン調査の結果、537法人が法人調査票に回答した(有効回収率:26.9%)。また、160法人が新入職員(n=501)のデータを入力し、142法人が退職職員(n=365)のデータを入力した。新入職員のうち、新卒者は57名(11.4%)であり、転職者は444名(88.6%)であった。新卒者の約3割が福祉系学部・学科の大学の卒業生であり、約半数が有資格者であった。転職者では、前職が障害福祉系の事業所職員(29.3%)と福祉・医療以外の企業職員(27.3%)の者が多かった。また約4割が有資格者であった。退職者については、3年未満で退職した者が全体の約6割を占めた。退職理由として、転職・進学(19.5%)と人間関係(18.3%)と推測される者が多く、収入条件を理由とする者は少なかった(3.9%)。転職先として最も多い業界は、障害福祉系(36.8%)であり、次いで福祉・医療以外の業界(29.1%)であった。
②職業選択につながる「魅力」や人材確保のコンテンツの在り方に関する大学生へのインタビュー調査結果では、進路選択にあたって重視する要素や障害福祉領域で働く上での魅力ややりがいとしては、計206のコードから57カテゴリが抽出され、進路選択にあたって魅力を感じるコンテンツの内容や方法については、計133のコードから66のカテゴリが抽出された。調査結果から、進路選択において自分なりの興味関心・強みなどを発揮できる職場環境であるかと働きやすさが重要な視点となっていることが推察された。調査結果は昨年度の先駆的な実践を行う法人の採用活動で大切にしている視点や工夫等として語られていた内容とも重なるものであり、大学生の視点からも働きたいという思いを高めるものでもあることが示唆されるとともに、本調査でさらに明らかになった大学生の視点での様々なツールやコンテンツのもつ良さや課題点を今後の障害福祉領域全体での魅力発信においてつなげていくことが重要であることが示唆された。
③他業種からの転職希望者など潜在的な福祉人材の確保に関する研究では、企業等に対するアプローチとして、高齢社員の就労先として障害福祉業界という選択肢があることをどのように企業等に伝えればよいか、中高年層が障害福祉業界を転職先の選択肢とし、入職につなげるためには、どのようなアプローチが必要かという点を中心に2か所を対象にヒアリング調査を実施した。一般社団法人定年後研究所へのヒアリングでは、企業外での研修や、副業・ボランティアといった「越境体験」が有効であることなどが語られ、企業の人事担当者へのヒアリングでは、社員が福祉の仕事に対して好意的なイメージをあまり持っていないこと、近年の企業では出向や副業を推進していることなどが語られた。いきなり転職ではなく、副業やボランティアとしての越境体験を通してから転職するという方向性のほうが現実的かつ効果的であると考えられた。また副業者やボランティアを募集する際には、現場での支援職以外にも多様な仕事があることなど業務内容をわかりやすい形で募集したり、福祉業界だからこそ得られるものをアピールするなどの工夫が必要であることも明らかとなった。
結論
以上の調査結果から、学生の進路選択については、自分なりの興味関心・強みなどを発揮できる職場環境であるかと働きやすさが重要な視点となっていることが推察された。福祉分野における新卒採用の比率は本調査では11.4%であったが、その比率は低く、そもそも新卒採用そのものをしていない事業所もある。障害福祉サービス事業所における新しい人材の多くが転職者であり、そこにはまだまだ潜在的なニーズがあることが推察された。そうした層に対して、越境経験をしてもらったり、副業という形での参画を促すなど、今以上に実態を知ってもらうための多様な取り組みの必要性と、啓発のための資料作成が望まれる。一方、採用に結びついても、採用後3年未満の退職者が多いという現実もある。その理由として人間関係の問題、待遇などが大きいことから、離職を防止し、定着をはかっていくための新たな仕組みづくりも重要な課題であると言える。

公開日・更新日

公開日
2023-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202218016B
報告書区分
総合
研究課題名
地域共生社会の実現に資する障害福祉人材の確保、養成のための研究
課題番号
21GC1007
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
岩崎 香(早稲田大学 人間科学学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 野澤 和弘(植草学園大学 発達教育学部)
  • 山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所地域精神保健・法制度研究部)
  • 種田 綾乃(神奈川県立保健福祉大学 保健福祉学部 社会福祉学科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国における社会福祉分野での人材育成・確保は喫緊の課題である。障害福祉領域においても人材不足が深刻な状況となっている。そこで、本研究では、障害福祉人材の確保が困難な現状を明らかにし、確保と定着に必要な要素を導き出すことを目的として以下の調査研究等を実施した。
研究方法
 福祉人材に関する実態を把握するために大学生と障害福祉事業を運営する法人を対象としたオンライン調査を実施した。また、先駆的に取り組んできた障害福祉サービス事業所へのヒアリング、社会福祉系の学部に所属する学生たちを対象としたグループインタビューを実施し、質的な分析を加えた。さらに、他業種から障害福祉領域への転職ニーズに基づいた調査研究を行った。
結果と考察
1.1大学生を対象としたオンライン調査
 人材確保が困難な原因について、約500名の大学生を対象とし、オンライン調査会社に委託して実施した。有効回答が得られた472名のうち、約200名が福祉系領域の回答者であり、47名が就職・進路先として障害福祉分野を希望していた。就職・進路として福祉領域を選択する理由、しない理由の輪郭を明らかにすることができた。
1.2障害福祉事業を運営する法人を対象としたオンライン調査
 障害福祉領域の事業者を対象とした調査に関しては、2000法人を無作為に抽出しオンライン横断調査として実施した。その結果、537法人が法人調査に、160法人が新入職員(n=501)のデータを入力し、142法人が退職職員(n=365)のデータを入力した。新入職員のうち、新卒者は57名(11.4%)であり、転職者は444名(88.6%)、転職者では、前職が障害福祉系の事業所職員(29.3%)と福祉・医療以外の企業職員(27.3%)の者が多く約4割が有資格者であった。退職者については、3年未満で退職した者が全体の約6割を占めた。
2.1「魅力」の言語化および発信に向けた先駆的実践者へのインタビュー
一般社団法人 FACE to FUKUSHIが運営するウェブサイト上で告知された福祉就職フェアの出展法人のうち、18法人を調査協力機関とした。インタビュー結果から、障害福祉の魅力・やりがいの要素として17のカテゴリが抽出された。人材確保に関する取り組みとしては、ターゲット層に関する要素として11カテゴリ、採用のためのチーム・体制づくりに関する要素としては6カテゴリ、多様なツールの効果的な活用に関連する要素として15カテゴリ、採用活動で大切にしている視点や工夫として10カテゴリが抽出された。調査を通じて先駆的な実践を行う法人の具体的な取り組みの実際や人材確保において大切にしている視点や要素などが明らかになった。
2.2 職業選択につながる「魅力」や人材確保のコンテンツの在り方に関する大学生へのインタビュー調査
大学生を対象としたフォーカスグループインタビューを実施(5大学計25名の学生が参加)したが、進路選択にあたって重視する要素や障害福祉領域で働く上での魅力ややりがいとしては、計206のコードから57カテゴリが抽出され、進路選択にあたって魅力を感じるコンテンツの内容や方法については、計133のコードから66のカテゴリが抽出された。調査結果から、進路選択において自分なりの興味関心・強みなどを発揮できる職場環境であるかと働きやすさが重要な視点となっていることが推察された。
3. 他業種からの転職希望者など潜在的な福祉人材の確保に関する研究
初年度、転職ニーズのある人を対象とした研修用冊子「企業等からの転職者ガイド(仮)」の素案及び「福祉ではたらく人のために(仮)」の素案を作成した。
2年目に実施したヒアリングでは、企業外での研修や、副業・ボランティアといった「越境体験」が有効であることなどが語られた。副業者やボランティアを募集する際には、現場での支援職以外にも多様な仕事があることなど業務内容をわかりやすい形で募集したり、福祉業界だからこそ得られるものをアピールするなどの工夫が引き続き求められているのである。
結論
 調査結果から学生の中に一定数、障害福祉分野を希望する学生がおり、役に立ちたいという気持ちや障害のある人への関心などが動機となっていることが明らかとなった。反面、希望しない理由として、給与水準の低さと他の仕事への興味が上回っていることが挙げられていた。また、学生へのグループインタビュー結果から、進路選択については自分の興味関心・強みなどを発揮できる職場環境であるか、働きやすい職場であるかどうかが重要な視点となっていることが推察された。法人を対象としたアンケート調査結果からは新卒採用の比率が低く、他業種、他法人からの転職が多いこと、採用後3年未満で離職が多いといった結果が出ており、採用後の定着をはかる新たな仕組みづくりが重要な課題であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2023-06-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-06-12
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 障害福祉の領域に関して、新卒学生が減少し、多領域から人材が流入していること、さらに離職が多いことなどから、多様な障害福祉領域の人材不足に対応する新たな仕組みづくりの必要性が明らかとなった。
臨床的観点からの成果
 深刻な人材不足に対して、学生が障害福祉分野を就職の望まない理由を明らかにすることができた。また、先駆的な実践を行っている事業所の具体的なメリットを明確にすることで、臨床現場の参考になる結果が導き出せた。
ガイドライン等の開発
「企業等からの転職者ガイド(仮)」
「福祉ではたらく人のために(仮)」
その他行政的観点からの成果
 福祉人材に関する調査は多くみられるが、障害福祉人材に焦点化し、多角的な調査研究を実施することにより、人材不足の実際をよりリアルに浮彫りにすることができた。採用が困難なうえに離職が早いという現実は厳しいものであるが、得られたデータは今後の人材確保・定着に向けた仕組みづくりに貢献できると考えている。
その他のインパクト
特記なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-12
更新日
-

収支報告書

文献番号
202218016Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
18,000,000円
(2)補助金確定額
11,678,333円
差引額 [(1)-(2)]
6,321,667円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,339,591円
人件費・謝金 3,167,662円
旅費 114,572円
その他 4,356,508円
間接経費 2,700,000円
合計 11,678,333円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2024-03-27
更新日
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