精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究

文献情報

文献番号
202218007A
報告書区分
総括
研究課題名
精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究
課題番号
20GC1021
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
西 大輔(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 有紀(東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 精神看護学分野)
  • 神庭 重信(日本うつ病センター)
  • 竹島 正(大正大学 地域構想研究所)
  • 亀岡 智美(兵庫県こころのケアセンター)
  • 臼田 謙太郎(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 公共精神健康医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,487,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子ども期の逆境体験(ACEs)の頻度は高く、米国では研究参加者の52.1%が18歳以前に1つ以上の、6.2%は4つ以上のACEsを経験しており、4つ以上のACEsを体験している人はACEsがない人に比べて非常に多くの精神・身体疾患の発症リスクが増大することが示されている。
ACEsの頻度の高さと影響の大きさが明らかになったこと等から、近年「トラウマインフォームドケア(TIC)」が注目されている。TICはPTSDに特化した治療ではなく、ACEsのようなトラウマ体験の影響を理解し、当事者がトラウマを体験したことが明らかではなくともその可能性を念頭に置き、それを踏まえた対応を通常の医療やサービスの中に組み込んでいくことである。TICは患者の症状緩和や支援者の燃えつきを予防する可能性がJAMAでも指摘され、既にTICのための手引きも出版されているが、わが国においてTICの実践に向けた取り組みは進んでいるとは言えない。
本研究では、精神科医療機関をはじめとする支援機関において、支援者が潜在的なトラウマ体験者にどのように対応しているかについて実態を把握するとともに、TICの実践・普及のために有用な指針および研修を作成しその有効性を検討することを目的とする。
研究方法
オンライン調査によって医療従事者のTICに関する実態把握を行った。また精神保健福祉センター長、保健所長、精神保健福祉センター相談スタッフを対象とした調査を行い、それらの期間におけるTICの実態を把握し、そのうえで精神保健福祉センター等が活用可能な動画研修・研修資材を作成した。それらを用いた研修が、看護職員のTICに対する態度やバーンアウト、心理的安全性等を向上させるかどうかを検討する非ランダム化比較試験、および看護師が研修を受けた場合に隔離・身体拘束の時間の短縮が認められるかどうかを検討する非ランダム化比較試験を実施した。さらにヒアリング等を通して、児童相談所をはじめとする精神科医療機関以外の支援機関におけるTICの実態把握を行った。
結果と考察
精神保健福祉センター等ではTICに関する一定のニーズはあるものの実際には普及が進んでいない状況が明らかになった。そのため、本研究班でエキスパートや当事者の意見も踏まえて研修動画と研修資材を作成した。それらを用いた研修によって、精神科看護師のTICに関する態度や心理的安全性が向上し、燃えつきが軽減しうることを示唆した。本研究で開発されたプログラムは短時間(1時間程度)で、介入強度としては低いものの実施可能性が高く、この介入強度で一定の有効性が示されたことには意義があると考えられる。また、様々な医療機関から受講者を集めて行う集合型の研修ではなく、同じ医療機関の看護職員が全員受講することが可能なモダリティ(動画視聴)であるため、視聴後に病院・病棟でTICを重視する文化が生まれる可能性があり、これが心理的安全性の向上に寄与している可能性が考えられる。
隔離・身体拘束実施時間に有意な短縮は示されなかった。その理由として介入強度の低さが考えられる。しかし統計学的には有意差はなかったものの、隔離・身体拘束実施時間ともに減少傾向が示されており、特に身体拘束に関しては有意傾向であったことから、病棟における視聴者の割合を増やす、視聴後の勉強会を行う等によって将来的に有効性が認められる可能性はあると考えられる。
また、研修動画や研修資材を公開したホームページは2021年4月1日から2023年3月31日までの間に新規ユーザー10670人、ベージビュー数44355件を記録しており、精神保健医療福祉領域におけるTICの普及に本研究が一定の役割を果たした可能性、および精神保健医療福祉以外の領域におけるTIC普及の土台が形成された可能性が考えられた。
結論
精神保健福祉センター等ではTICに関する一定のニーズはあるものの実際には普及が進んでいない状況が明らかになった。本研究班で研修動画と研修資材を作成し、それらが看護師のTICに関する態度や心理的安全性を向上させ、燃えつきを軽減させる可能性を示唆した。それらを公開したホームページは多くの人に視聴されており、精神保健医療福祉領域におけるTICの普及に本研究が一定の役割を果たした可能性、および精神保健医療福祉以外の領域におけるTIC普及の土台が形成された可能性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202218007B
報告書区分
総合
研究課題名
精神保健医療福祉施設におけるトラウマ(心的外傷)への対応の実態把握と指針開発のための研究
課題番号
20GC1021
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
西 大輔(東京大学大学院医学系研究科 精神保健学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 宮本 有紀(東京大学大学院 医学系研究科 健康科学・看護学専攻 精神看護学分野)
  • 神庭 重信(日本うつ病センター)
  • 竹島 正(大正大学 地域構想研究所)
  • 亀岡 智美(兵庫県こころのケアセンター)
  • 臼田 謙太郎(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 公共精神健康医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
子ども期の逆境体験(ACEs)の頻度は高く、米国では研究参加者の52.1%が18歳以前に1つ以上の、6.2%は4つ以上のACEsを経験しており、4つ以上のACEsを体験している人はACEsがない人に比べて非常に多くの精神・身体疾患の発症リスクが増大することが示されている。
ACEsの頻度の高さと影響の大きさが明らかになったこと等から、近年「トラウマインフォームドケア(TIC)」が注目されている。TICはPTSDに特化した治療ではなく、ACEsのようなトラウマ体験の影響を理解し、当事者がトラウマを体験したことが明らかではなくともその可能性を念頭に置き、それを踏まえた対応を通常の医療やサービスの中に組み込んでいくことである。TICは患者の症状緩和や支援者の燃えつきを予防する可能性がJAMAでも指摘され、既にTICのための手引きも出版されているが、わが国においてTICの実践に向けた取り組みは進んでいるとは言えない。
本研究では、精神科医療機関をはじめとする支援機関において、支援者が潜在的なトラウマ体験者にどのように対応しているかについて実態を把握するとともに、TICの実践・普及のために有用な指針および研修を作成しその有効性を検討することを目的とする。
研究方法
1.医療従事者のTICに関する実態把握
TICに関する知識・態度・力量・実施へのハードル・実践について評価する自己記入式質問紙TIC Provider Surveyの日本語版を開発し、医療従事者を対象としたオンライン調査を行った。
2.精神保健福祉センターと保健所におけるTICに関する実態把握
3.精神保健福祉センター等が活用可能な研修資材の作成・検討
TIC動画研修の一部をウエブサイトで公開するとともに、精神保健福祉センター等に提供可能な資材を作成した。
4.TIC研修の看護職員に対する有効性の検討
ある1つの精神科医療機関の看護職員を対象として、TICに関する質問紙(Attitude related TIC: ARTIC)、バーンアウト、心理的安全性等の評価項目が改善しているかどうかを検討する非ランダム化比較試験を行った。
5.隔離・身体拘束最小化に対するTIC研修の有効性の検討
TICは、隔離・身体拘束最小化の理論的基礎の1つに含まれており、先行研究では隔離・身体拘束の減少をアウトカムとしてTIC導入の効果を測定しているものもある。
看護職員のTICに関する態度の変化や精神健康の改善が認められるかどうかを検討することを目的に非ランダム化比較試験を開始した。
6.精神科医療機関以外の支援機関での実態把握
ヒアリング等を通して、児童相談所等、精神科医療機関以外の支援機関におけるTICの実態把握を行った。
結果と考察
1.日本の医療従事者は、米国の医療従事者と比較してTICに関する知識や力量、実践が不足しており、その障壁となっているものが示唆された。
2.約6割の精神保健福祉センターはTICに関する研修の必要性を感じていた。保健所においてはTICという言葉に触れる機会自体がまだ少なく、概念の普及が進んでいないことが示唆された。精神保健福祉センター職員には一定程度TICの概念が既に浸透していること、ケース対応においてTICの潜在的なニーズがあることが示唆された。
3.ホームページに公開した動画研修は多くの人に視聴されており、精神保健医療福祉領域におけるTICの普及に本研究が一定の役割を果たした可能性が考えられる。
4.本研究では、主要アウトカムであるARTICの得点の上昇に関して、主解析において有意な効果は認められなかったが、副次アウトカムである心理的安全性の得点の上昇については有意な効果が認められた。
5.隔離・身体拘束実施時間ともに減少傾向が示されており、特に身体拘束に関しては有意傾向であったことから、病棟における視聴者の割合を増やす、視聴後の勉強会を行う等によって将来的に有効性が認められる可能性はあると考えられる。
6.児童相談所等でもTIC研修のニーズは比較的高いことが明らかになり、児童相談所職員を対象とした動画研修コンテンツのたたき台を作成したことから、児童相談所等におけるTIC普及の土台が形成できたと考えられる。
結論
精神保健福祉センター等ではTICに関する一定のニーズはあるものの実際には普及が進んでいない状況が明らかになった。本研究班で研修動画と研修資材を作成し、それらが看護師のTICに関する態度や心理的安全性を向上させ、燃えつきを軽減させる可能性を示唆した。それらを公開したホームページは多くの人に視聴されており、精神保健医療福祉領域におけるTICの普及に本研究が一定の役割を果たした可能性、および精神保健医療福祉以外の領域におけるTIC普及の土台が形成された可能性が考えられた。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218007C

収支報告書

文献番号
202218007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,832,000円
(2)補助金確定額
5,832,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 763,991円
人件費・謝金 818,384円
旅費 41,520円
その他 2,863,105円
間接経費 1,345,000円
合計 5,832,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-03-27
更新日
-