治療抵抗性統合失調症薬の安全性の検証による望ましい普及と体制構築に向けた研究

文献情報

文献番号
202218005A
報告書区分
総括
研究課題名
治療抵抗性統合失調症薬の安全性の検証による望ましい普及と体制構築に向けた研究
課題番号
20GC1017
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
上野 雄文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 古郡 規雄(弘前大学大学院 医学研究科 神経精神医学講座)
  • 古川 壽亮(国立大学法人京都大学 大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康増進・行動学分野)
  • 金沢 徹文(大阪医科薬科大学 神経精神医学教室)
  • 新津 富央(千葉大学 大学院医学研究院 精神医学)
  • 稲田 健(北里大学 医学部 精神科学)
  • 宇野 準二(桶狭間病院藤田こころケアセンター)
  • 橋本 亮太(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,450,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治療抵抗性統合失調症患者へのクロザピンの投与が推奨されているが他の薬物療法に比べて副作用の発現が多く、一旦発症すると致死的になる可能性が指摘されているために専門家でも使用をためらうことが考えられる。クロザピン適正使用のガイドラインが非常に厳しく、使用にあたってはCPMSというデータベースへの登録が義務付けられており、内科医との連携ができる病院のみに使用が許されている。そのために処方率が極めて低い。この実態を明らかにするために、現在データベースに登録されているクロザピンの処方量、白血球数、好中球数をもとに解析を行い、現状についての理解を深めることが重要と考えられる。現在CPMSに登録されないデータである血中濃度を把握している症例もあり、血中濃度が副作用に与える影響も検討が可能である。また、諸外国の処方の現状を調査することで本邦と諸外国でのクロザピンの処方率の違いが何によって起こるものかを検討する。また患者の側からも何がクロザピン導入の妨げになっているかをアンケートなどによって調査する。このような検討を行うことによって精神科病床に多く入院している治療抵抗性統合失調症患者へのクロザピン導入を現在より施行しやすくすることを目指すものである。
研究方法
1.現在国内でクロザピンを処方する際に登録を行っているCPMSデータを解析した。2.クロザピン処方における投与基準に関しての諸外国での承認時の資料や国内外の文献を用いて本邦との比較を行った。3.血中濃度の測定を行っている患者の中で中止になった事例がどれほど含まれているかを研究した。4.クロザピン治療に関する医療機関へのアンケートを行い、促進因子・阻害因子となり得る項目を検討した。また、これからの体制構築に向けた検討を行う。5.臨床でのデマンド、及び処方のより良い方法を模索するために、クロザピン治療に関する当事者・家族へのアンケートを行った。6.全体をまとめて指針の作成を行った。

結果と考察
1.全体の年齢の中央値は40歳で、男性4470人、女性は3793人であった。クロザピン使用量の中央値は280.4㎎。白血球減少は352例(52週以前)と106例(52週以降)で認め、無顆粒球症は52週以前の発生は79例で、52週以降の発生も5例に認めた。中断について40歳以上、オランザピンに耐容性不良群、クロザピンの再投与群、白血球数6000/㎣未満が独立したリスク因子である。2.各国の白血球数や好中球数の基準や、採血間隔に関する本邦及び西欧各国の基準を比較した。クロザピン導入時に入院を義務付けているのは本邦だけである。導入する時の基準では白血球数は諸外国が3500/㎣以上に対して本邦は4000/㎣以上と基準が厳しい。投与中止の基準では本邦と比べ、カナダでは白血球数の基準が2000/㎣未満と緩く、アメリカでは好中球数が1000/㎣未満の場合に投与中止としている。安定期の本邦の採血間隔は最長2週に1回に対して、諸外国では採血間隔を最長4週間にしている。(令和3年6月3日に規制緩和され、血液モニタリングが52週以降、条件付きで4週間間隔となった。)耐糖能モニタリングの比較において諸外国では基準やモニタリングの間隔は定めていない。諸外国では空腹時血糖を治療開始時、1ヶ月後、その後は4-6ヶ月ごとに測定することを推奨しているのみである。本邦では糖尿病リスクの度合いによりプロトコールA、B、Cの基準に分け、血糖値あるいはHbA1cのための採血頻度を規定している。さらに、プロトコールごとへの糖尿病内科へのコンサルトの度合いを定めている。このように血糖値・HbA1cの規定は日本特有であり、諸外国とは大きく異なる。3.肥前精神医療センターに集積された症例のうち、クロザピン血中濃度を追跡できている症例は329例であり、中止を確認できている症例は25例(うち白血球減少症が5例)であった。白血球減少症での血中濃度は1例で低値、1例で比較的高値であった。4.医療機関へのアンケートを作成し調査を行った。クロザピン使用医療機関の8割が、CPMS基準の緩和を希望していた。血液内科との連携は概ね良好であった。大学病院や有床総合病院精神科と比べて、単科精神病院や診療所では血液内科との連携確立の負担感が大きかった。5.クロザピンによる治療を受けている患者またはその家族のどちらかにアンケートを行った。89例からアンケートを得ることが出来、半数以上が導入時には外来を希望していた。通院間隔についても半数以上が4週間隔を希望していた。
6.上記をまとめて指針の作成を行った。
結論
クロザピン普及のための総合的な研究を行った。本年度は今までに行ってきた研究のまとめとしての指針を策定する事ができた。今後のクロザピンの普及に資することが期待できる。

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-09-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202218005B
報告書区分
総合
研究課題名
治療抵抗性統合失調症薬の安全性の検証による望ましい普及と体制構築に向けた研究
課題番号
20GC1017
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
上野 雄文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本 亮太(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神疾患病態研究部)
  • 古郡 規雄(獨協医科大学 精神神経医学講座 教授)
  • 金沢 徹文(大阪医科薬科大学 神経精神医学教室)
  • 稲田 健(北里大学 医学部 精神科学)
  • 古川 壽亮(国立大学法人京都大学 大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康増進・行動学分野)
  • 新津 富央(千葉大学 大学院医学研究院 精神医学)
  • 宇野 準二(桶狭間病院藤田こころケアセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
治療抵抗性統合失調症患者への薬物療法としてクロザピンの投与が推奨されているが、他の薬物療法に比べて無顆粒球症、糖尿病などの副作用の発現が多く使用をためらうということが考えられる。実態を明らかにするためデータベースに登録されている処方量、白血球数、好中球数をもとに解析を行い理解を深めることが重要と考えられる。CPMSに登録されないデータである血中濃度を把握している症例もあり副作用に与える影響についても検討が可能である。諸外国の処方の現状を調査することで本邦と諸外国でのクロザピンの処方率の違いが何によって起こるものかを研究する。何がクロザピン導入の妨げになっているのかをアンケートによって調査する。以上よりクロザピンの導入を現在よりしやすくすることを目指すものである。
研究方法
①現在国内でクロザピンを処方する際に登録を行っているCPMSデータを解析した。2009年~2020年についてのデータの解析を行った。血液内科医に意見を頂いた。 
②クロザピン処方における投与基準に関して諸外国での承認時の資料や国内外の文献を用いて本邦との比較を行った。
③血中濃度の測定を行い中止事例との関連、臨床症状との相関を研究した。
④クロザピン治療に関する医療機関へのアンケートを行い、促進因子・阻害因子となり得る項目を検討した。また、これからの体制構築に向けた検討を行う。
⑤臨床でのデマンド、および処方のより良い方法を模索するために、クロザピン治療に関する当事者・家族へのアンケート調査を行なった。
⑥上記研究成果をもとにガイドラインの作成を行った。
結果と考察
①中断について40歳以上、オランザピンに耐容性不良群、クロザピンの再投与群、白血球数6000/ mm3未満が独立したリスク因子である。無顆粒球症に関して米国のシミュレーションに沿って解析を行い米国と同様の結果を示すことが出来た。この結果を参考に検査の間隔の改定が行われた。血液内科医への聞き取りでは無顆粒球症は予測の難しい疾患であり突然の発症であることが多く発熱などの臨床症状を注意深く観察し、発熱の際には直ちに受診させる体制づくりが重要であるとのことであった。糖尿病に関しては導入からややHbA1cの値は軽度上昇するがHbA1cの高かった患者群は導入で大きく改善することも分かった。
②本邦および西欧各国の基準を比較した。クロザピンの導入時に入院を義務付けているのは本邦のみ。導入時の基準では白血球数は4000/mm3以上と基準が厳しい。中止の基準はカナダでは白血球数の基準が2000/mm3未満、アメリカでは好中球数が1000/mm3未満の場合に投与中止としている。安定期の本邦の採血間隔は最長2週に1回に対して、諸外国では採血間隔を最長4週間にしている。(この研究班での成果と学会の協力で令和3年6月3日に規制緩和され、血液モニタリングが52週以降、条件付きで4週間隔となった。)耐糖能モニタリングの比較において諸外国では基準やモニタリングの間隔は定めていない。血糖値・HbA1cの規定は日本特有である。
③集積された症例のうち、クロザピン血中濃度を追跡できている症例は329例であり、中止を確認できている症例は25例(うち白血球減少症が5例)であった。白血球減少症での血中濃度は1例で低値、1例で比較的高値であった。クロザピンの血中濃度と臨床指標(BPRS)との相関の検証を行ったが相関は明確には掴めなかった。クロザピンへの感受性が高い群では比較的低用量でも有効となるケースが有ることを示している。
④医療機関へのアンケートを作成し、調査を行った。クロザピン使用医療機関の8割が、CPMS基準の緩和を希望していた。また、8割がクロザピン血中濃度測定の利用を希望していた。血液内科との連携は概ね良好であった。
⑤患者またはその家族のどちらかにアンケートを行った。治療導入時に入院あるいは外来のどちらを希望するか、通院間隔の希望調査(2週と4週)を行ったところ。89例からアンケートを得ることが出来、半数以上が導入時には外来を希望していた。通院間隔についても半数以上が4週間隔を希望していた。
⑥1から5までの研究を総合して本研究の結果を用いたガイドラインを作成した。上記の無顆粒球症、糖尿病に関しての記載、血中濃度に関する記載、国際比較やこの研究により改定された新しい基準を記載しクロザピンの普及に役立つものと考えている。
結論
CPMS,血中濃度、国際比較、アンケートを通して得られた知識、情報を共有することで今後の処方のハードルを下げるとともに、新たな研究の材料となることが考えられる。特に副作用の無顆粒球症や糖尿病の実態に関して今回明らかになったことも多い。ガイドラインを利用して今後クロザピンへの理解が進み、今回の研究が今後の治療や研究の礎になると考える。

公開日・更新日

公開日
2023-09-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
CPMS,血中濃度、国際比較、アンケートを通して結果として得られた知識、情報を共有することで他の医療機関で今後の処方のハードルを下げるとともに、新たな研究の材料となることが考えられる。特に副作用の無顆粒球症や糖尿病の実態に関して今回明らかになったことも多い。ガイドラインを利用して今後クロザピンへの理解が進み、今回の研究が今後の治療や研究の礎になると考える。
臨床的観点からの成果
クロザピンを処方するにあたり重篤な副作用がどのように発生し、どのように予防されるかなどが分かってきた。本研究の成果を参考にして添付文書に記載される検査のあり方も国際的な水準とほぼ同等となった。処方が広がることが期待される。
ガイドライン等の開発
本研究をもとにガイドライン(指針)の作成を行った。この指針が公開されることによって全国のクロザピン処方に関して安全性を確保するとともに処方のハードルが下がると思われる。
その他行政的観点からの成果
国際比較の結果と本研究課題の他の研究による結果を踏まえて、日本精神神経学会、日本臨床精神神経薬理学会、日本神経精神薬理学会、日本統合失調症学会と連携して厚生労働省にCPMS基準緩和についての要望書を提出し、令和3年6月3日にクロザピンの添付文書の改訂が行われた。この改定によりクロザピンの普及がより進むことが期待される。
その他のインパクト
精神神経学会にてシンポジウムを企画した。クロザピン処方に関する教育を行うとともに留意点を発表した。この事によって臨床現場でのクロザピン処方のハードルを下げることができた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
13件
その他論文(和文)
10件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yasui-Furukori N, Muraoka H, Hasegawa N,et al.
Association between the examination rate of treatment-resistant schizophrenia and the clozapine prescription rate in a nationwide dissemination and implementation study.
Neuropsychopharmacol Rep. , 42 ((1)) , 3-9  (2022)
10.1002/npr2.12218
原著論文2
Kikuchi M, Nakazawa T, Kinoshita M,et al.
Methylation Analysis in Monozygotic Twins with Treatment-Resistant Schizophrenia and Discordant Responses to Clozapine.
Front Psychiatry, section Schizophrenia , 12 , 734606-  (2021)
10.3389/fpsyt. 2021.734606
原著論文3
Imazu S, Hata T, Toyoda K,et al.
Safety profile of clozapine: Analysis using national registry data in Japan.
J Psychiatr Res , 141 , 116-123  (2021)
10.1016/j.jpsychires.2021.06.041
原著論文4
Ninomiya K, Saito T, Okochi T,et al.
Cost effectiveness of pharmacogenetic-guided clozapine administration based on risk of HLA variants in Japan and the UK.
Transl Psychiatry. , 11 ((1)) , 362-  (2021)
10.1038/s41398-021-01487-4
原著論文5
Japanese Society of Neuropsychopharmacology.
Japanese Society of Neuropsychopharmacology: "Guideline for Pharmacological Therapy of Schizophrenia".
Neuropsychopharmacol Rep. , 41 ((3)) , 266-324  (2021)
10.1002/npr2.12193
原著論文6
Tsukiji M, Sasaki T, Nakata Y, et al.
Risk factors for early-phase clozapine discontinuation: A nested case-control study.
Asian J Psychiatr. , 62 , 102745-  (2021)
10.1016/j.ajp.2021.102745
原著論文7
Toyoda K, Hata T, Yamauchi S,et al.
Clozapine Is Better Tolerated in Younger Patients: Risk Factors for Discontinuation from a Nationwide Database in Japan.
Psychiatry Investigation , 18 ((2)) , 101-109  (2021)
10.30773/pi.2020.0376
原著論文8
Ichihashi K, Kyou Y, Hasegawa N,et al.
The characteristics of patients receiving psychotropic pro re nata medication at discharge for the treatment of schizophrenia and major depressive disorder: A nationwide survey from the EGUIDE project.
Asian J Psychiatr, , 69 , 103007-  (2022)
10.1016/j.ajp.2022.103007
原著論文9
Onitsuka T, Hirano Y, Nemoto K,et al.
Trends in big data analyses by multicenter collaborative translational research in psychiatry.
Psychiatry Clin Neurosci , 76 ((1)) , 1-14  (2022)
10.1111/pcn.13311
原著論文10
Hashimoto N, Yasui-Furukori N, Hasegawa N,et al.
Characteristics of discharge prescriptions for patients with schizophrenia or major depressive disorder: Real-world evidence from the Effectiveness of Guidelines for Dissemination and Education (EGUIDE) psychiatric treatment project.
Asian J Psychiatr, , 63 , 102744-  (2021)
10.1016/j.ajp.2021.102744
原著論文11
Numata S, Nakataki M, Hasegawa N,et al.
Improvements in the degree of understanding the treatment guidelines for schizophrenia and major depressive disorder in a nationwide dissemination and implementation study.
Neuropsychopharmacol Rep, , 41 ((2)) , 199-206  (2021)
10.1002/npr2.12173
原著論文12
Ito S, Matsumoto J, Sakai Y,et al.
Positive association between insight and attitudes toward medication in Japanese patients with schizophrenia: Evaluation with the Schedule for Assessment of Insight (SAI) and the Drug Attitude Inventory - 10 Questionnaire (DAI-10).
Psychiatry Clin Neurosci, , 75 ((5)) , 187-188  (2021)
10.1111/pcn.13215
原著論文13
Toyoda K, Hata T, Yamauchi S,et al.
A descriptive study of 10-year clozapine use from the nationwide database in Japan.
Psychiatry Research , 297 , 1-6  (2021)
10.1016/j.psychres.2021.113764

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202218005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,985,000円
(2)補助金確定額
10,674,871円
差引額 [(1)-(2)]
310,129円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,343,750円
人件費・謝金 1,979,547円
旅費 835,933円
その他 980,641円
間接経費 2,535,000円
合計 10,674,871円

備考

備考
大阪医科大学金沢先生に配分されていた研究費のうち予定されていた310,129円が不必要となった。物品の購入費に当てられる予定であったが既存のもので対応できたため。

公開日・更新日

公開日
2024-03-27
更新日
-