認知行動療法の技法を用いた効率的な精神療法の施行と普及および体制構築に向けた研究

文献情報

文献番号
202218004A
報告書区分
総括
研究課題名
認知行動療法の技法を用いた効率的な精神療法の施行と普及および体制構築に向けた研究
課題番号
20GC1016
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
久我 弘典(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 大杉 泰弘(藤田医科大学 連携地域医療学)
  • 岡田 佳詠(国際医療福祉大学成田看護学部)
  • 片岡 弥恵子(聖路加国際大学大学院 看護学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
8,973,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
3年間の本研究において、認知行動療法の技法を用いた精神療法を効率よく提供するための効率認知行動療法(Streamlined-Cognitive Behavioral Therapy; SCBT)に関して、以下を目的とする。
1. SCBTの実施マニュアル・マテリアルの作成
2. マニュアルに基づくSCBTの研修効果の評価
3. ICT/人工知能技術を用いたコンサルテーションシステムの構築
4. 臨床試験によるSCBTの有効性及び実施可能性の検証
令和4年度は、主として1,3,4に関しての研究を行った。
研究方法
Ⅰ. マテリアル作成及びエキスパート・オピニオンによるマニュアル・マテリアル改訂
 CBTスキルを説明するワークシートを作成し、その記載方法を説明する動画を作成した。多職種の研究分担者・協力者から得られたエキスパート・オピニオンを踏まえ、開発したマニュアル・ワークシートを改良し、ウェブサイト上に掲載した。
Ⅱ. 臨床試験による SCBTのフィージビリティの検証
 国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の一括審査にて承認を得て(2021年11月10日、承認番号:B2021-080)、軽症以上のうつ病患者を対象とした臨床試験を実施した。臨床試験は、国立精神・神経医療研究センターと信貴山病院ハートランドしぎさんにて実施した。
Ⅲ. ICT/人工知能技術を用いたコンサルテーションシステムの構築
 臨床試験実施中に行うグループスーパービジョンや、班会議等での質問とその回答を基に、CBTやSCBT についてのチャットボット形式のQ&Aを作成した。
Ⅳ. 医療経済効果の検討 
 短時間の認知行動療法に関する医療経済効果のレビューや本研究の臨床研究データをもとに、SCBTの医療経済効果の検討を行った。
結果と考察
I.エキスパート・オピニオンを踏まえ、うつ病患者に配慮した音量・音質、スピード、文字数にした、1本5〜7分でSCBTの構造や各ワークシートの記載方法を説明するSCBTを実施するための動画を7本作成した。CBTワークシートを13種類作成し、一部をチェック方式とし、記載時間を短縮した。認知再構成を効率的に行う方法として、通常7つのコラムを使用するところ、簡略版の6つのコラムを使用することとした。また、動画のみで自己学習を進めるより、字面でも読み進められるテキストが必要だという意見があり補助教材としてテキストも作成した。テキストにはワークシートの記載例や動画の二次元バーコードを掲載し、患者が動画を視聴しながら利用しやすいよう工夫した。これらのマテリアルは厚労省マニュアルやAMED「各精神障害に共通する認知行動療法のアセスメント、基盤スキル、多職種連携のマニュアル開発」との整合性をもたせるよう、研究班との協力体制を築いた。また、改良したマテリアルはウェブサイトに掲載し、自由にダウンロードして使用できるように配置した。
Ⅱ.12名の軽症以上のうつ病患者(Quick Inventory of Depressive Symptomatology(QIDS)≧6点)に対してSCBTを実施し、有効性及び実施可能性を検証した。研究開始時のQIDSは平均12.9点に対し、12回時点でのQIDSは平均8.6点と低下を認めた(中途集計)。脱落率は0%で、重篤な有害事象は認められなかった。
Ⅲ.SCBTを実施する上で挙がった疑問点についてはスーパービジョンを行い、スーパービジョンの内容を基にCBTやSCBTについてのチャットボット形式のQ&Aを作成した。作成したチャットボットはウェブサイト上に掲載した。
Ⅳ.短時間の認知行動療法に関する医療経済効果のレビューを行ったところ、医療経済効果について触れられている論文は3本であり(Churchill et al, 2001等)、それぞれで高い医療経済効果は示唆されているものの、研究手法に統一性がないことからメタアナリシスは行われていなかった。本研究は、前後比較のパイロットスタディであり費用対効果を算出することは難しいが、SCBTは15-20分の面接時間で精神療法を行うことが可能であり、通常のCBTと比較して低コストで行うことが可能であることが示された。今後は、RCTを行うことにより、増分費用対効果比(ICER)の検証が求められる。
結論
本研究では、1. SCBTを実施するためのマニュアル・ マテリアルの作成、2. それらを集約したウェブサイト(プラットフォーム)の構築、3. CBTの知恵が蓄積されたコンサルテーションシステムの構築、4. 臨床試験によるSCBT の効果に関する有効性の検証を行った。本研究により、CBTの技法を用いた精神療法を効率よく提供するためのSCBTの可能性が見出され、CBTの普及均てん化の加速を促す役割を担うことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202218004B
報告書区分
総合
研究課題名
認知行動療法の技法を用いた効率的な精神療法の施行と普及および体制構築に向けた研究
課題番号
20GC1016
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
久我 弘典(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 大杉 泰弘(藤田医科大学 連携地域医療学)
  • 岡田 佳詠(国際医療福祉大学成田看護学部)
  • 片岡 弥恵子(聖路加国際大学大学院 看護学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
総括 研究代表者交替 堀越勝(令和2年4月1日~令和3年3月31日) →久我弘典(令和3年4月1日~令和5年3月31日)

研究報告書(概要版)

研究目的
認知行動療法の技法を用いた精神療法を効率よく提供するための効率認知行動療法(Streamlined-Cognitive Behavioral Therapy; SCBT)に関して、以下を目的とする。
1. SCBTの実施マニュアル・マテリアルの作成
2. マニュアルに基づくSCBTの研修効果の評価
3. ICT/人工知能技術を用いたコンサルテーションシステムの構築
4. 臨床試験によるSCBTの有効性及び実施可能性の検証
研究方法
1.多職種からのインタビューを行った。
2.妊産婦に対し、CBTと通常ケア、CBT以外の介入などと比較したシステマティックレビュー(SRs)を選定した。
3.国外の看護師が実施した精神疾患へのCBT効果研究を系統的に抽出し、研究バイアスリスクの低い研究における実践の質の確保について質的に検討した。
4.社交不安症、パニック症、うつ病に対するSCBTマニュアル・マテリアルを開発し、エキスパート・オピニオンにより改定した。
5.助産師領域でのCBTの研修と研修前後でアンケート調査を行い、研修評価を行った。
6.看護領域でのCBTの研修と研修前後でアンケート調査を行い、研修評価を行った。
7.開発したパニック症及び社交不安症のマニュアル・マテリアルを用いて研修を実施した。
8.開発したうつ病のマニュアル・マテリアルを用いて臨床試験の治療者を対象に予備的に研修を行った。
9.人工知能技術を用いて、チャットボットによるコンサルテーションシステムをウェブサイト上に構築し、治療者が抱く疑問に対して自動的に回答した。
10.軽症のうつ病の患者12名を対象にSCBTの有効性および実施可能性を検証する。国立精神・神経医療研究センター倫理委員会の一括審査にて承認を得て(2021年11月10日、承認番号:B2021-080)、国立精神・神経医療研究センターと信貴山病院 ハートランドしぎさんで実施した。
結果と考察
1.看護師、助産師、総合診療医、実装科学等の専門家らの各フィールドにおける多職種からのインタビュー調査では、治療者が各自で動画やウエブサイトを用いてCBTを学ぶニーズがあることや動画を用いて患者自身のCBTの学びを補助できるような在り方が示唆された。
2.CBTによる産後うつ病や不安症の予防効果に関するオーバーレビューでは、CBTによる介入は通常ケア、教育的介入、介入なしと比較して、7件中5件でうつ病を減少させ、不安に関する効果を解析しているSRは1件で、CBTを含む精神療法は通常ケアまたは介入なしと比較して不安を減少させた。
3.看護師のCBTの効果と実践の確保に関する文献レビューでは、在宅高齢者へのうつ病発症の予防効果および介入前・中のCBTの質の確保は示唆されたが、介入中の質の確保は十分ではないことが明らかになった。
4.社交不安症、パニック症、うつ病に対するSCBTマニュアルと、動画やワークシート、理解を補助するテキスト、ウェブサイトなどを開発し、エキスパート・オピニオンを得て改定した。
5.助産師領域、看護領域、精神科領域の医療従事者を対象にSCBT研修を実施した。
6.ICT/人工知能技術を用いて、CBTやSCBTを実施する中での疑問に答えられるコンサルテーションシステムを構築し、ウェブサイトに搭載した。
7.うつ病に対するSCBTの臨床試験を12名のうつ病患者を対象に実施した。
8.短時間の認知行動療法に関する医療経済効果のレビューを行ない、海外の論文3本でその効果が触れられていた。
9.SCBTを実施中にスーパービジョンを行い、その内容を基に人工知能技術を用いて、CBTやSCBTについてのチャットボット形式のQ&Aを作成した。
10.12名の軽症以上のうつ病患者(Quick Inventory of Depressive Symptomatology(QIDS)≧6 点)に対して SCBTを実施した。研究開始時のQIDSは平均12.9点に対し、12回時点では8.6点となり、中途集計であるものの減少を認めた。脱落率は0%で、重篤な有害事象は認められなかった。
結論
我が国における CBT 普及に係る現状と結果を踏まえて、効率的にCBTを提供する手法、すなわち、SCBTのマニュアルとマテリアルを開発した。また、それらを集約したウェブサイト(プラットフォーム)の構築を行った。臨床試験では、うつ病に対するSCBTの有効性及び安全性が示唆される結果となった。さらに、ICT/人工知能技術を用いて、CBTの知恵が蓄積されたコンサルテーションシステムを構築した。今後、認知行動療法を必要としている患者へ十分に行き届くよう、本マニュアル・マテリアルが広く活用されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我が国における CBT 普及に係る現状と結果を踏まえて、効率的にCBTを提供する手法、すなわち、効率型認知行動療法(Streamlined Cognitive Behavioral Therapy; SCBT)を開発し、有効性及び実施可能性を検証した。成果は学会等で発表を行い、さまざまなフィールドから大きな反響があり、早期の実装が期待される。
臨床的観点からの成果
通常、50分前後で行われてきたCBTが、動画や補助教材を使用して患者の自己学習を可能にすることで、より短時間で効率的に精神療法を行えるようにした。このことによって、CBTを必要とするより多くの患者へCBTの考えを用いた支援を届けられることになる。
ガイドライン等の開発
該当しない
その他行政的観点からの成果
CBT説明動画やロールプレイ動画はSCBTに限らず、通常のCBTの治療者にとっても各技法の学習や患者への治療に役立つため、今後、厚生労働省認知行動療法研修事業等の研修においても学習資料として活用を検討することで、CBTの普及・均てん化への貢献が期待できる。
その他のインパクト
本研究で作成したSCBTマニュアル、CBT説明補助動画、CBTワークシート、セラピストのロールプレイ動画、CBT説明補助テキストとそれらを集約したウエブサイト「認知行動療法マップ(https://cbtmap.jp)」は、認知行動療法に関してのマテリアル等を一元的に管理するプラットフォームである。一般公開されており、誰でも視聴、ダウンロードして利用することができるようにしている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
ホームページ2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
202218004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,664,000円
(2)補助金確定額
11,662,000円
差引額 [(1)-(2)]
2,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 907,567円
人件費・謝金 5,223,299円
旅費 41,736円
その他 2,799,380円
間接経費 2,691,000円
合計 11,662,982円

備考

備考
収入と支出において差額が発生した理由について、982円は研究者の自己資金によって補いました。計画よりも1000円余りましたが、研究遂行に支障はございませんでした。 ご了承いただきますようお願い申し上げます。

公開日・更新日

公開日
2024-03-27
更新日
-