アルコール依存症の早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のための研究

文献情報

文献番号
202218003A
報告書区分
総括
研究課題名
アルコール依存症の早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のための研究
課題番号
20GC1015
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
木村 充(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 秀幸(岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
  • 湯本 洋介(独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 精神科)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部))
  • 佐久間 寛之(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 精神科)
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 吉本 尚(筑波大学 医学医療系)
  • 加賀谷 有行(瀬野川病院 KONUMA記念依存とこころの研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,463,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルコール使用障害の新ガイドラインでは、従来の断酒に加えて減酒が治療目標として取り上げられるなど、より早期からの介入を行うことにより、多くのアルコールによる健康損失を軽減させることが期待されている。一方で、専門治療施設での入院加療が必要な進行した患者も多く、自助グループ等も含めた回復支援も重要となっている。本研究班は、早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のため、飲酒量低減の治療目標が健康障害の改善に寄与しているかどうかのエビデンスを集め、より幅広い対象に対する飲酒による身体・社会的問題の介入を可能とすることを目的としている。主に、外来での集団治療プログラムの開発とその有効性の検証、新ガイドラインに基づく診療の実施状況調査、飲酒量低減によるアルコール健康障害の改善効果に関するエビデンスの収集、女性・高齢者や災害・救急医療におけるアルコール問題、専門治療施設、プライマリケア、自助グループでの支援についての課題抽出を行う。
研究方法
(1)外来治療プログラムを作成し、複数施設での効果検証のためのRCTを行った。(2)アルコール専門治療施設へのアンケート調査から、治療の実態、減酒を目標とした治療、コロナ禍の影響について解析した。(3)薬剤師、医師、患者へのアンケート調査の結果から、ナルメフェンの使用への要素を検討した。(4)減酒を入口にしながら経過の中で断酒を選択する者の事例について考察した。(5)アルコールが医療コストに与える影響について文献研究を行った。(6)架空の在宅高齢者アルコール問題21事例を作成し、この仮想事例について多機関7職種による事例検討会を開催した。(7)妊産婦向けのメンタルヘルス用リーフレットを作成した。(8)COVID-19が看護師に与えた精神的影響とアルコール及び処方薬の乱用リスクとの関連調査を行った。(9)Hazelden病院の作成した12ステップファシテーションプログラム(TSFプログラム)について検討を行った(10)専門医療機関選定前後の物質使用障害者の入院状況、アルコール依存症者における内受容感覚を検討した。(11) 大学病院および診療所に設置されたアルコール低減外来の状況について調査した。
結果と考察
(1)アルコール外来治療プログラムの集団療法群の方が通常診療群に比べて、断酒している患者の割合が高い傾向が認められたが、有意な差ではなかった。(2)多くの医療機関で減酒を目標とした治療が少なくとも一部の患者に行われていた。(3)ナルメフェンは患者に効果の感覚を生み出しやすいが、副作用で続けられない患者も多かった。(4)減酒外来から断酒に至った例は10%程度存在し、SDMの一環と考えられた。(5)エタノール換算週およそ450g以上の群では入院率および総医療費が増加することを示された。(6)「在宅高齢者アルコール問題対応の道標~多機関多職種による事例検討集~」を作成した。(7)長崎県版、兵庫県版妊産婦向けのメンタルヘルス用リーフレットをを作成した。(8)COVID-19対応ストレス下で無視できない率の看護師がベンゾジアゼピン、アルコールの依存・乱用リスク、抑うつ症状を持つことが分かった。(9) Hazelden病院の作成した12ステップファシテーションプログラム(TSF)日本版(試行版)を作成した。(10)依存症専門医療機関に選定された後に1年を超える入院が減少していたことから、社会的入院が減ったことが示唆された。アルコール依存症者のBPQBAVSFJは通院治療開始群より入院治療開始群で高く、肝機能は入院治療開始群で有意に悪かった。(11)大学病院および診療所に設置されたアルコール低減外来では、4年間強の間に189人が受診し、90%以上の患者が依存症と診断された。75%以上の患者が治療を継続していた。
結論
新ガイドラインに基づいた特に減酒を目標とした治療は、多くの専門医療機関で行われていた。疫学調査では、アルコール450g/週を超える飲酒は医療費増大の原因となることが分かった。アルコール問題を持つ高齢者の事例集を作り、広く活用できるようにした。プライマリケアで行われるアルコール低減外来でも、多くの患者が治療継続ができていた。これらの知見は、今後のアルコールによる健康被害低減の政策に活用できるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-09-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202218003B
報告書区分
総合
研究課題名
アルコール依存症の早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のための研究
課題番号
20GC1015
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
木村 充(独立行政法人国立病院機構 久里浜医療センター)
研究分担者(所属機関)
  • 神田 秀幸(岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
  • 湯本 洋介(独立行政法人 国立病院機構 久里浜医療センター 精神科)
  • 杠 岳文(独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター(臨床研究部))
  • 佐久間 寛之(独立行政法人国立病院機構さいがた医療センター 精神科)
  • 森田 展彰(国立大学法人筑波大学大学院人間総合科学研究科)
  • 吉本 尚(筑波大学 医学医療系)
  • 加賀谷 有行(瀬野川病院 KONUMA記念依存とこころの研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルコール使用障害の新ガイドラインでは、従来の断酒に加えて減酒が治療目標として取り上げられるなど、より早期からの介入を行うことにより、多くのアルコールによる健康損失を軽減させることが期待されている。一方で、専門治療施設での入院加療が必要な進行した患者も多く、自助グループ等も含めた回復支援も重要となっている。本研究班は、早期介入から回復支援に至る切れ目のない支援体制整備のため、飲酒量低減の治療目標が健康障害の改善に寄与しているかどうかのエビデンスを集め、より幅広い対象に対する飲酒による身体・社会的問題の介入を可能とすることを目的としている。主に、外来での集団治療プログラムの開発とその有効性の検証、新ガイドラインに基づく診療の実施状況調査、飲酒量低減によるアルコール健康障害の改善効果に関するエビデンスの収集、女性・高齢者や災害・救急医療におけるアルコール問題、専門治療施設、プライマリケア、自助グループでの支援についての課題抽出を行う。
研究方法
(1)アルコール使用障害に対する外来集団治療プログラムを作成した。その効果を検証するためランダム化比較試験を行った。(2)アルコール専門治療機関に対する治療実態のアンケート調査を行った。(3)薬剤師、医師、患者にナルメフェン処方についてのアンケートを行った。(4)減酒外来を受診した患者で、断酒に至った患者の事例を検討した。(5)飲酒量低減によるアルコール健康障害の改善効果についての文献レビューを行った。(6)介護を受ける高齢者のアルコール問題について、全国の介護支援専門員に対するアンケート調査を行った。その結果に基づき、架空患者を想定して事例検討会を行った。(7)産婦人科医らと協力して、実践的な妊産婦への飲酒に対する指導用のリーフレット作成を行った。(8)アルコール使用障害に対する認知行動療法についての実施状況を調査した。(9)救急医療におけるアルコール問題について、ウェブアンケートによる調査を行った。COVID-19に対応した看護師の睡眠薬、飲酒状況を調査した。(10)自助グループについての文献レビューを行い、12ステップ促進療法(TSF) について検討した。(11)無床診療所、大学病院でのアルコール低減外来の状況について調査した。(12)依存症専門医療機関での減酒外来での治療成績、依存症専門医療機関に選定されたことの影響について調べた。
結果と考察
(1)アルコール使用障害に対する外来集団治療プログラムを作成した。ランダム化比較試験を行い、プログラムを受けた患者では、通常治療群よりも断酒率が高い傾向が示唆された。(2)アルコール専門治療機関では多くの医療機関で減酒を目標とする治療を行っていた。コロナ禍前後の比較で、患者数が減少した医療機関が多かった。(3)ナルメフェンの服用期間が短くても患者は継続して通院していた。ナルメフェンの効果は自覚するものの不快な症状のために継続できない患者が多かった。(4)減酒から断酒へと至ったケースの特徴として重症度が高くなく社会機能が安定している患者が挙げられた。(5) 文献レビューにより、飲酒量低減によるアルコール健康障害の改善効果については、少量飲酒による疾患抑制効果は循環器疾患など疾患限定的にみられるものの、疾患予防の観点から飲酒量をできるだけ抑えることが、アルコールによる健康障害の防止につながることが明らかとなった。飲酒量低減によるアルコール健康障害の医療コストでは、医療経済的な面からは、わが国において少なくともエタノール換算週およそ450g未満とすることが、医療費軽減につながることが示唆された。(6)介護支援専門員が関わるケースの男性で8.0%にアルコール問題が認められた。架空の在宅高齢者アルコール問題21事例を作成、事例検討集を作成した。(7)実践的な妊産婦への飲酒に対する指導用のリーフレットを作成した。(8)わが国の大半の施設において認知行動療法を用いた治療プログラムが行われていることが判明した。(9)救急医療で患者の飲酒行動に対する医療者の陰性感情などから対応困難感を生みやすく、ストレス対処の低下やバーンアウトのリスクと連関していた。(10)TSFプログラムの一つであるMAEEZの翻訳、日本で用いることができるTSFのマニュアルの試作版を作成した。(11)減酒治療は早期で軽症のアルコール依存症患者に対して有効であり、依存症専門医療機関でも治療の選択肢の一つにすることで治療の幅が広がることが示唆された。(12)診療所、大学病院での飲酒低減外来でも治療継続率は高く、有効性が示唆された。
結論
本研究での治験、外来治療プログラムや高齢者事例集は、今後のアルコール治療の臨床や政策形成に寄与できるものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2024-03-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202218003C

収支報告書

文献番号
202218003Z