悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の遺伝子診断

文献情報

文献番号
200918010A
報告書区分
総括
研究課題名
悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の遺伝子診断
課題番号
H19-臨床試験・一般-018
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
師井 洋一(九州大学 大学院医学研究院 皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 古江 増隆(九州大学 大学院医学研究院 皮膚科学分野 )
  • 戸倉 新樹(産業医科大学 医学部 皮膚科 )
  • 岩月 啓氏(岡山大学医学部 皮膚・粘膜・結合織科 )
  • 石川 治(群馬大学医学部 皮膚科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究・予防・治療技術開発研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
3,172,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予後不良と考えられている悪性黒色腫における治療法は手術療法が基本であるが、臨床的に腫大のない(転移の疑いがない)所属リンパ節の扱いは難しく、これまでは主治医により(予防的)リンパ節郭清の判断がなされていた。所属リンパ節に最初に流入するセンチネルリンパ節を同定、生検する事で郭清の適応を判断できる。さらにその転移の有無を、より正確に診断する目的で遺伝子検査が併用されることがある。本邦でもこの手技が安全かつ有効に施行できるか確認する目的で、5施設共同で臨床試験を施行した。
研究方法
臨床的にリンパ節や内臓臓器に転移がない悪性黒色腫患者に文書による同意を得て、センチンルリンパ節生検を施行した。
結果と考察
平成21年度、九州大学、群馬大学、東京大学、岡山大学、産業医科大学の各大学病院皮膚科において早期悪性黒色腫44例にセンチネルリンパ節生検を施行した。すべての症例で、センチネルリンパ節が同定され、生検可能であった。RI法、色素法とも、その手技に直接関しての重篤な有害事象は認められなかった。平成21年1-12月では総例数45例、うち最終的にin situ(表皮内癌)と診断されたものが8例、転移陽性と診断し、廓清された症例が14例あった。一施設で、PCR法の感度の低さが問題となったが、全施設、最終診断に関しては免疫染色を含めた病理診断に重点を置いているため、PCR用のサンプルの取り方が不十分であったと考えられた。また、real time PCR法を採用している施設では、カットオフ値を変更することで偽陽性率を減少させることができた。
結論
従来主治医の経験にゆだねられていた早期悪性黒色腫のリンパ節廓清の適応が、このセンチネルリンパ節生検によって明確に判断できるようになった。今回の経験から、センチネルリンパ節生検はきわめて安全に施行できる検査手技であることが示された。このことより、不必要な予防的廓清術(転移がないのに廓清する)は回避できるようになり、患者のQOL向上に大きく貢献する。本邦では悪性黒色腫の臨床型が欧米とは異なるため、日本独自の検討を進めていきたい。また、センチネルリンパ節の遺伝子診断についても欧米のコンセンサスは一定していいない。この点についても症例の追加、追跡を続ける事で明らかにしていきたい。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

文献情報

文献番号
200918010B
報告書区分
総合
研究課題名
悪性黒色腫におけるセンチネルリンパ節の遺伝子診断
課題番号
H19-臨床試験・一般-018
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
師井 洋一(九州大学 大学院医学研究院 皮膚科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 古江 増隆(九州大学 大学院医学研究院 皮膚科学分野 )
  • 岩月 啓氏(岡山大学 医学部 皮膚・粘膜・結合織科 )
  • 戸倉 新樹(産業医科大学 医学部 皮膚科学)
  • 石川 治(群馬大学 医学部 皮膚科・皮膚科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(臨床研究・予防・治療技術開発研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
予後不良と考えられている悪性黒色腫における治療法は手術療法が基本となっている。特に、臨床的に腫大のない(転移の疑いがない)所属リンパ節の扱いは難しく、これまでは主治医により(予防的)リンパ節郭清の判断がなされていた。欧米では所属リンパ節に最初に流入するセンチネルリンパ節を同定、生検する事で郭清の適応を判断するようになっており、有用性が認められている。さらにセンチネルリンパ節における転移の有無を、より正確に診断する目的でPCR法が併用されている。本邦でもこの手技が安全かつ有効に施行できるか確認する目的で、5施設共同で臨床試験を施行した。
研究方法
臨床的にリンパ節や内臓臓器に転移がない悪性黒色腫患者で、原発巣の浸潤が真皮内に及ぶと予測される場合か、原発巣表面にびらん潰瘍を伴う場合、文書による同意を得てセンチンルリンパ節生検を施行した。
結果と考察
平成19年度から平成21年度までの3年間で、九州大学、群馬大学、東京大学、岡山大学、産業医科大学の各大学病院皮膚科において早期悪性黒色腫98例にセンチネルリンパ節生検を施行した。すべての症例で、センチネルリンパ節が同定され、生検可能であった。RI法、色素法とも、その手技に直接関しての重篤な有害事象は認められなかった。1例にのみ、術翌日に肺塞栓症の有害事象が認められた。その症例は適切な治療で、その後の後遺症を残す事なく軽快・退院した。肺塞栓症は手術全般に起こりえる有害事象であり、センチネルリンパ節生検に特異的なものではなかった。また、術後明らかなリンパ浮腫を生じた症例もなかった。生検された症例98例のうち、最終的にin situ症例と判断された症例が9例あった。センチネルリンパ節に転移陽性と認められた症例が29例あり、そのうち28例で所属リンパ節郭清術が施行されている。平成22年4月末まで、偽陰性(センチネルリンパ節が転移陰性と診断されたにもかかわらず、所属リンパ節領域に転移を認めること)症例を認めていない。
結論
従来主治医の経験にゆだねられていた早期悪性黒色腫のリンパ節廓清の適応が、このセンチネルリンパ節生検によって明確に判断できるようになった。今回の経験から、センチネルリンパ節生検はきわめて安全に施行できる検査手技であり、98例中偽陰性症例はなく、その診断精度も高いことが示された。このことより、不必要な予防的廓清術(転移がないのに廓清する)は回避できるようになり、患者のQOL向上に大きく貢献する。

公開日・更新日

公開日
2011-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200918010C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦におけるセンチネルリンパ節生検を広く普及させるために、98例のセンチネルリンパ節生検を施行した。全例で問題なく同定、生検が可能であった。それぞれ、経験値が向上し、複数の術者で施行可能となっている。診断に関しては、免疫染色を含めて病理診断に重訂をおいているが、補助診断としての遺伝子診断の精度は高いものの、欧米では疑陽性の高さが問題視されている。今後は、他の臨床研究と比較しながら慎重に予後を検討したい。
臨床的観点からの成果
センチネルリンパ節生検は予防的郭清術に比べ、術後の縫合不全、リンパ漏、リンパ浮腫がほとんどなく、患者のQOL向上に大きく貢献している。また、同様の理由で初回治療入院期間は短縮されたものと思われる。また、この検査によって正確な病期診断が可能となり、術後のアジュバント療法(経過観察のみ、インターフェロンの維持療法、または化学療法の適応)の適応の判断が容易になった。現在まで、観察期間が短く、本来の予後に関する検討が十分ではないため、今後も観察が必要である。
ガイドライン等の開発
2007年4月に日本皮膚悪性腫瘍学会が編集し発表された皮膚悪性腫瘍診療ガイドラインにおいても悪性黒色腫のセンチネルリンパ節生検は高い推奨度で推奨されている。「原発巣の厚さが1-4mmのメラノーマ患者に対してはセンチネルリンパ節生検を実施することが推奨される。それにより顕微鏡的なリンパ節転移が早期に発見され、そのリンパ節領域を廓清することにより予後が改善する可能性がある。」と記載されている。
その他行政的観点からの成果
2010年4月の診療報酬改定において、乳癌と悪性黒色腫においてセンチネルリンパ節生検が新進医療技術として保険導入となった。また、その診断としての遺伝子検査も新たに保険導入となった。
その他のインパクト
インターネット(Google)で「悪性黒色腫」「センチネルリンパ節」と検索をかけると,国立がんセンターのサイトに続いて九州大学病院皮膚科のサイトが2,3番目に掲載されている。そこで、センチネルリンパ節の概念、方法、遺伝子検査の詳細について記載している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
平成22年4月1日診療報酬改訂により保険導入。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本皮膚科学会西部支部企画講習会(専門医むけ)2008.10.17

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-