認知症者の在宅生活を維持する非訪問型の生活評価・介入システムの標準化に関する研究

文献情報

文献番号
202217007A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症者の在宅生活を維持する非訪問型の生活評価・介入システムの標準化に関する研究
課題番号
22GB1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅之(鹿児島大学)
  • 釜江 和恵(繁信 和恵)((財)浅香山病院 精神科医局)
  • 石川 智久(熊本大学大学院 生命科学研究部 神経精神科)
  • 佐藤 俊介(大阪大学 大学院医学系研究科・精神医学教室)
  • 松原 茂樹(大阪大学 大学院工学研究科 地球総合工学専攻)
  • 田平 隆行(鹿児島大学学術研究院医歯学域医学系)
  • 堀田 牧(大阪大学大学院医学系研究科精神医学教室)
  • 永田 優馬(大阪大学 精神医学教室)
  • 石丸 大貴(大阪大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
12,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は認知症者の在宅生活の維持を目的に、新型コロナウィルス感染蔓延期においても専門職種が患家に出向くことなくADLや住環境の評価・生活指導を行うことができるよう、介護者に撮影を依頼した自宅写真に基づいて評価と指導を行うPhoto Assessment(PA)を開発し、また、患家をZoomで病院の多専門職とつないで画面越しに生活指導を行うOnline Management(O-MGT)を開始した。いずれも遠隔による生活評価および介入指導が期待できるシステムだが、現時点のPAには評価の指標がなく、評価者の職種や経験年数、聞き取り方や居室写真の着目点の違いによって評価に差が生じることが考えられた。そのため、今年度はPA評価の標準化にむけて評価者側に必要とされる観察項目が抽出された評価モデルの必要性が検討された。そこで、本研究に参加する多職種とともに自験例から作成された模擬ケースを試行して、現時点のPA評価項目の限界点および修正点を検討し、本研究用の評価モデルとなる環境因子の暫定版チェックリスト(PA-ADLチェックリスト)の作成を目的とした。
研究方法
認知症に関連する日常生活及び生活の環境因子に関する先行研究を元に、セルフケアを含めた日常生活に関わる行為の中から、「家の出入り-玄関」などADLとそのADLが行われる場所を組み合わせた12の項目に絞って暫定版PA-ADLチェックリストを作成した。また、模擬ケースは自験例を元に患者属性および居室写真から作成した。本研究に参加する多職種23名にチェックリストと模擬ケースを郵送し試行評価を行った。回収されたチェックリストの各項目について、各回答者がチェックをつけた割合とつけていない割合を分析し、項目の整合性を確認した。チェックをつけていない場合を0、チェックをつけた場合を1とし、有効解答のうち各項目のそれぞれの割合を算出した。一致の割合は50%-100%の範囲を示す。一致度が低い項目(50%-60%台)を中心に再検討し、暫定版PA-ADLチェックリストの改良を重ねた。
結果と考察
各ADLの工程・動作に関わる環境因子に関して、得られた回答より多くの項目で職種に関係なく高い一致率を示した。これは、写真情報の中からADLを効率的かつ安全に遂行できる環境になっているか、という点に目的を絞ってチェック項目を作成・検討したことが理由として考えられた。しかし、各ADLとも、いくつか一致度が低い項目が抽出された。これは、①今回の模擬ケースの情報だけでは生活の実態を類推することが難しく判断が分かれたこと、②提供された写真の構図によっては、チェックしたかった対象物の判別が難しかったこと、③チェック項目の一部表現において、評価者に的確な趣旨が伝わっていなかったこと、などが影響していると考えられた。①では、参加した職種から環境因子のチェックに留まらず、模擬ケースのADLの詳細や生活習慣に関する質問が多く寄せられた。各専門職の試行評価に対する姿勢が高かったことや、「暫定版PA-ADLは『写真による客観評価』が主目的」という主旨を参加職種に対して簡潔に説明する必要があったと考える。②では、チェックリストに記載されているチェック項目と対応する評価対象物が写真に写っていないケースがいくつかあったため、確認ができずに「不明」となるミスリードが起きた。現時点のPAには介護者が指示された写真を撮影するための「撮影の手引き」があるため、今後はその手引きの撮影指示内容や撮影順番などをチェックリストに合わせる作業が必要となる。その上で、手引きの指示に合わせて撮影された写真とチェック項目の内容に齟齬が生じていないか、また、簡潔で明瞭な指示表現で構成されているかの検証が必要である。③では、一致率が低かった項目で、「『十分』なスペースが確保されている」、「施錠の手順が『少ない』」と表現されており、いずれも評価者間で判断が分かれる表記が一致率の低下へ影響があったと考えられた。判断の客観性を維持するためにも、表記の統制を図る契機になった。以上の課題を見直し、専門職種間で写真情報による観察点に相違が生じにくい暫定版PA-ADLチェックリストの最終修正に取り組む。
結論
暫定版PA-ADLはADLを行う環境について、カメラ撮影された生活場面から環境を把握し、対象者の目的とするADLが安全に効率的に遂行できる状況かを判定する観察チェック表である。環境因子について客観的にチェックが可能な構成となれば、多職種にも活用・応用することが期待でき、対象者のADLの改善に大きく寄与することが考えられた。PA-ADLによる生活課題の抽出とO-MGTによる生活指導が一連の非訪問型の評価・介入システムとして実働可能となるよう、PA-ADLの標準化を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202217007Z