文献情報
文献番号
202217005A
報告書区分
総括
研究課題名
併存疾患に注目した認知症重症化予防のための研究
課題番号
21GB1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
研究分担者(所属機関)
- 小島 太郎(東京大学大学院医学系研究科)
- 亀山 祐美(梅田 祐美)(東京大学医学部附属病院 認知症センター)
- 田村 嘉章(東京都健康長寿医療センター)
- 堀江 重郎(順天堂大学大学院 医学研究科 泌尿器外科学)
- 山口 泰弘(自治医科大学附属さいたま医療センター 呼吸器内科)
- 山本 浩一(大阪大学 医学系研究科 老年・総合内科学)
- 海老原 孝枝(杏林大学 医学部)
- 鈴木 裕介(名古屋大学医学部附属病院地域連携・患者相談センター)
- 仲上 豪二朗(東京大学大学院医学系研究科 老年看護学/創傷看護学分野)
- 石川 譲治(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 循環器内科)
- 松原 全宏(東京大学医学部附属病院)
- 八木 浩一(東京大学 医学部 医学系研究科 消化管外科学)
- 溝神 文博(国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター 薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和5(2023)年度
研究費
8,885,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
認知症者は、併存疾患も多くなり、薬剤数も増えていくが、その実態はつかめていない。一方、認知症のために入院や手術、抗がん剤治療ができず過少医療も懸念される。入院、手術に伴い認知症の重症度はどの程度進行するのか、また、せん妄や転倒などの有害事象はどの程度発生するか、低侵襲手術や多職種によるチーム医療が導入された最先端の医療現場で検証する必要がある。そこで本研究では、「認知症の併存疾患管理ガイドブック」の作成をゴールとして、必要な調査研究と作業を行うことを目的とした。
研究方法
研究1.認知症者の併存疾患と治療・管理の実態調査(認知症疾患医療センター、老年科、老健、地域)をする。
研究2.認知症者の併存疾患: 高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、心疾患、胃食道がん、骨折、泌尿器疾患における認知症の頻度、治療・管理(治療薬、術式等)について実態調査をする。
研究3.認知症者の外科手術・肺炎入院の調査を行う。入院に伴う認知症重症度変化、入院中の有害事象(せん妄、転倒・転落等)、併存疾患等についてデータを前向きに登録し解析を行う。
研究4.処方適正化による入院認知症高齢者の処方変化:入院中に処方適正化ツール(Japan-FORTA)とPIM (Potentially Inappropriate Medication)リスト(老年医学会)を用いて、併存疾患の治療薬を含む処方適正化介入研究を行う。
研究5.「認知症の併存疾患管理ガイドブック」を作成のための文献調査を行い、 併存疾患と認知症は関係するか、認知症によって併存疾患の治療で気を付ける点はあるか、併存疾患によって、認知症の治療(薬物療法・非薬物療法)で注意すべき点はあるか、について文献的考察を行い実地で使えるガイドブックを作成出版する。
研究2.認知症者の併存疾患: 高血圧、糖尿病、呼吸器疾患、心疾患、胃食道がん、骨折、泌尿器疾患における認知症の頻度、治療・管理(治療薬、術式等)について実態調査をする。
研究3.認知症者の外科手術・肺炎入院の調査を行う。入院に伴う認知症重症度変化、入院中の有害事象(せん妄、転倒・転落等)、併存疾患等についてデータを前向きに登録し解析を行う。
研究4.処方適正化による入院認知症高齢者の処方変化:入院中に処方適正化ツール(Japan-FORTA)とPIM (Potentially Inappropriate Medication)リスト(老年医学会)を用いて、併存疾患の治療薬を含む処方適正化介入研究を行う。
研究5.「認知症の併存疾患管理ガイドブック」を作成のための文献調査を行い、 併存疾患と認知症は関係するか、認知症によって併存疾患の治療で気を付ける点はあるか、併存疾患によって、認知症の治療(薬物療法・非薬物療法)で注意すべき点はあるか、について文献的考察を行い実地で使えるガイドブックを作成出版する。
結果と考察
研究1:実態調査では、呉市のレセプトデータでは、65歳以上の11.9%に、大学病院入院患者(82歳)の48%に、在宅医療を受ける(85歳)90%に、老健施設入所(86歳)の81%に認知症を認めた。ただし、在宅医療を受けている患者で認知症の診断45%にしかついていないことから、認知症があるのに見落とされていることが多いと判明した。
研究2:高血圧レジストリで認知機能が1年間で低下する群は高齢で家庭血圧が高く、握力低下が関係していた。心不全の入院中の死亡は、DASC21で評価した認知症に伴う生活レベルの低下がリスクとなっていた。糖尿病患者において、認知症疑いの群では、HbA1cが高く、歩行速度が遅く、要介護、DASC-8カテゴリーIIIの頻度が有意に高かった。
研究3:誤嚥性肺炎入院(86歳)の98%に認知症があり、21%に入院中せん妄がみられた。細菌性肺炎の13%に入院中の転倒を認めた。胃食道がん手術、骨折、肺炎入院の症例登録をさらにすすめていく。
研究4:コロナ禍でPIM処方が増えており、特に認知症治療薬処方者での増加が目立った。
研究5:認知症と併存疾患のシステマティック・レビューを行い「認知症の併存疾患管理ガイドブック」執筆を開始した。
研究2:高血圧レジストリで認知機能が1年間で低下する群は高齢で家庭血圧が高く、握力低下が関係していた。心不全の入院中の死亡は、DASC21で評価した認知症に伴う生活レベルの低下がリスクとなっていた。糖尿病患者において、認知症疑いの群では、HbA1cが高く、歩行速度が遅く、要介護、DASC-8カテゴリーIIIの頻度が有意に高かった。
研究3:誤嚥性肺炎入院(86歳)の98%に認知症があり、21%に入院中せん妄がみられた。細菌性肺炎の13%に入院中の転倒を認めた。胃食道がん手術、骨折、肺炎入院の症例登録をさらにすすめていく。
研究4:コロナ禍でPIM処方が増えており、特に認知症治療薬処方者での増加が目立った。
研究5:認知症と併存疾患のシステマティック・レビューを行い「認知症の併存疾患管理ガイドブック」執筆を開始した。
結論
隠れ認知症がいることもわかり、高齢者は積極的に認知機能を評価し把握することを心掛けたい。高血圧レジストリ参加者の1年後の認知機能の改善や悪化に握力が関係しており、認知症に糖尿病が併存すると歩行速度が遅くなるなど、1つの疾患だけ治療するのではなく、全人的に診療し、フレイル対策、Multimorbidity対策が重要であることを改めて認識する結果であった。
糖尿病、高血圧は認知症者の管理手法の指針化がなされており、糖尿病専門外来での実態調査では認知症者で緩めの管理をしていた。他の疾患に関しては、有用なエビデンスの報告がないことが明らかとなり、今後、本研究で、実態調査とシステマティック・レビューにより、日常診療に役立つ手引きを作成することで、認知症者に過度でも過少でもない適正な医療提供を行えると期待できる。
糖尿病、高血圧は認知症者の管理手法の指針化がなされており、糖尿病専門外来での実態調査では認知症者で緩めの管理をしていた。他の疾患に関しては、有用なエビデンスの報告がないことが明らかとなり、今後、本研究で、実態調査とシステマティック・レビューにより、日常診療に役立つ手引きを作成することで、認知症者に過度でも過少でもない適正な医療提供を行えると期待できる。
公開日・更新日
公開日
2023-07-28
更新日
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