認知症の家族のための「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別認知行動療法プログラム」の開発と効果検証のための研究

文献情報

文献番号
202217001A
報告書区分
総括
研究課題名
認知症の家族のための「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別認知行動療法プログラム」の開発と効果検証のための研究
課題番号
20GB1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 数井 裕光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
  • 小杉 尚子(専修大学)
  • 山中 克夫(筑波大学人間系)
  • 鈴木 麻希(大阪大学 連合小児発達学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,254,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究全体の目的はwithコロナ時代に対応できる「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別認知行動療法(CBT)プログラム」の2つのコンポーネントからなる認知症の家族介護者(family caregiver: FC)に対する「教育的支援プログラム」を開発し、その有効性を検証することである。今年度は、「パーソナルBPSDケア電子ノート」の一般公開と利用者の調査、「疾患別CBTプログラム」のマニュアル文書の完成、および、有効性の検討を目指した。
研究方法
「パーソナルBPSDケア電子ノート」の開発研究では、実装するコンテンツのうち「利用する認知症の人の原因疾患、要介護度、性別の情報に基づいて計算される奏功確率が高いBPSD対応法」の元となる認知症ちえのわnetへのケア体験投稿を促進する活動を継続した。また投稿されたケア体験から同じ内容の「困った認知症の人の発言や行動」を半自動的に抽出する人工知能(AI)モデル(「パーソナルBPSDケアノートに資するケア体験のAIモデル」)を認知症ちえのわnetに組み込み、一般利用者が「パーソナルBPSDケア電子ノート」を作成・利用できるようにした。その後、実際にこれを作成した「認知症の人の属性」「奏功確率が掲示されたBPSD対応法のカテゴリー」「具体的な状況」を調査した。「疾患別CBTプログラム」の開発研究では、セッションごとにマニュアル文書を用意することで、CBTに関する専門的な知識がないセラピストでも均質な指導ができるように配慮した。今年度は、昨年度より作成を開始しているマニュアル文書の完成を目指した。プログラムをアルツハイマー型認知症患者のFC3名で試用し改善点を確認した後、FC2名に対して本プログラムを実施し、①プログラム前後における介護負担感や抑うつ感の変化、②プログラムの完遂率と満足度、について検討した。初回と最終回のセッションは対面方式で、他のセッションはオンラインで実施することとした。また意味性認知症を対象とした疾患別CBTプログラムの作成を開始した。
結果と考察
今年度は昨年度に開発した「パーソナルBPSDケアノートに資するケア体験のAIモデル」を認知症ちえのわnetに組み込むことで、「同様のおきたことで、かつ同様の対応法」の抽出作業の円滑化に成功し、FCにとって有用性の高いものになった。このAIモデルが組み込まれた「パーソナルBPSDケア電子ノート」を一般公開したところ、37名の認知症の人の情報が作成された。「認知症の人の属性」は、認知症の疫学および認知症ちえのわnetの一般利用者の特性に沿ったもので、アルツハイマー病、女性が多く、介護度は要介護1が多かった。また「奏功確率が掲示されたBPSD対応法のカテゴリー」「具体的な状況」についても認知症ちえのわnetへの投稿が多いケア体験の種類を反映しているものと考えられた。「疾患別CBTプログラム」の開発研究では、昨年度より作成を開始しているマニュアル文書を完成させた。本プログラムをアルツハイマー型認知症患者のFCに実施した結果、プログラムの完遂率、満足度は非常に高かったが、プログラム前後で介護負担感や抑うつ感などに改善を認めなかった。一方で、FCの感想からは、疾患教育を通じた症状理解がFCの介護に対する考え方の変化を促進したり、CBTを通じた実践的な学びがFCの日常生活での物事の考え方の変化を促す可能性が示唆された。またFCの生活環境によっては、オンラインでのプログラム導入が困難な場合があることが見出された。さらに疾患教育のパートについて意味性認知症を対象にした内容に入れ替えることで、この疾患に特化したプログラムを作成した。
結論
本教育的支援プログラム(「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別CBTプログラム」)の認知症者のFCに対する一定の有用性が確認できた。しかし今後、さらなる検討が必要である。本プログラムは、疾患別で個別性が高いこと、疾患教育とCBTを含む複合的なプログラムであることが最大の特徴であるが、さらに、FCの状況に応じて、対面・非対面のいずれでも対応が可能となるようにするなど、FCがこのような心理的介入を受けやすい環境を構築することが重要であると考えられた。また疾患教育を別の疾患群に置き換えることで、様々な疾患群にも使用できる汎用性が高いプログラム構成であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202217001B
報告書区分
総合
研究課題名
認知症の家族のための「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別認知行動療法プログラム」の開発と効果検証のための研究
課題番号
20GB1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
池田 学(国立大学法人 大阪大学 大学院医学系研究科情報統合医学 精神医学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 数井 裕光(高知大学 教育研究部医療学系臨床医学部門)
  • 小杉 尚子(専修大学)
  • 山中 克夫(筑波大学人間系)
  • 鈴木 麻希(大阪大学 連合小児発達学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究全体の目的はwithコロナ時代に適応できる「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別認知行動療法(CBT)プログラム」の2つのコンポーネントからなる認知症の家族介護者(family caregiver: FC)に対する個別性の高い「教育的支援プログラム」を開発し、その効果検証することを目的とした。
研究方法
初年度(2020年度)と2021年度は、認知症FCに対する「教育的支援プログラム」を構成する2つのコンポーネント(「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別CBTプログラム」)の開発と試用をおこない、2022年度で、それぞれのコンポーネントを完成させ、その効果検証をおこなう計画とした。「パーソナルBPSDケア電子ノート」はFCが必要なケア情報が集約された携帯可能な電子ノートで、認知症ちえのnet(https://chienowa-net.com/)に実装することを目指した。この実現のためには、①FCが必要とする適切なコンテンツを選定すること、②各FCがケアする認知症者に合った認知症原因疾患、性別、重症度に相当する奏功確率の情報を半自動的に抽出する頑強なシステム(AIモデル)を開発すること、③奏功確率の信頼性向上のためのケア体験数の投稿を増やすこと、が重要と考え研究を推進した。「疾患別CBTプログラム」の開発研究では、内容を「疾患教育」と「心理教育(CBT)」の2つにコンポーネントを絞りセッション数を少なくすることで、FCの参加に対する制約を低減させ、日常診療でも実施が可能なプログラムの開発を目指した。しかし新型コロナの流行に伴い、「疾患別CBTプログラム」は当初の計画から内容と構成を大きく変更する必要が生じた。またプログラムの有用性の検討方法も、当初の計画から変更することに決定した。開発したプログラムは研究代表者・研究分担者の所属する病院に通院中の認知症者のFCに試用し、必要な修正をおこないながら完成を目指した。さらに認知症の専門家が学術的および実践的な観点から精査をおこなった。
結果と考察
「パーソナルBPSDケア電子ノート」の開発研究では、2020年度に電子ノートに実装するコンテンツ4種類を決定し、2021~2022年度にそのうち最もFCにとって有効な「利用する認知症の人の原因疾患、要介護度、性別の情報に基づいて計算される奏功確率が高いBPSD対応法」の元となる認知症ちえのわnetへのケア体験投稿を促進する活動をおこなった。また投稿されたケア体験から同じ内容の「困った認知症の人の発言や行動」を半自動的に抽出する人工知能(AI)モデル(「パーソナルBPSDケアノートに資するケア体験のAIモデル」)を2021年度に開発、2022年度に認知症ちえのわnet上に実装することで、FCにとって有用性の高いシステムを構築した。2022年7月21日「パーソナルBPSDケア電子ノート」を一般公開したところ、37名の認知症の人の情報が作成された。「疾患別CBTプログラム」の開発研究では、初年度~2021年度に新型コロナの蔓延に伴い、当初の研究計画より、プログラムの実施を対面方式の集団セッションから非対面方式(オンライン)を主体とした個別セッションとする、プログラムの有用性の検証は無作為比較試験(RCT)から対照群を設けないシングルアーム試験とする、などの変更をおこなった。2021~2022年度にセッションごとのマニュアル文書を作成し、試用・改良を経て、完成させた。2022年度にアルツハイマー型認知症のFCに対して本教育支援プログラムを実施し、有用性の検討をおこなった結果、プログラム完遂率と満足度が非常に高い一方で、介護負担感や抑うつ感などはプログラム前後で改善を認めなかった。ただし疾患教育を通じた症状の理解がFCの介護に対する考え方の変化を促進する可能性が示唆された。またFCの生活環境によっては、オンラインの導入が困難な場合があることが分かった。さらに疾患教育のパートを意味性認知症の内容とすることで、この疾患に特化したプログラムを作成することができた。
結論
withコロナ時代に適応可能な教育的支援プログラム(「パーソナルBPSDケア電子ノート」と「疾患別CBTプログラム」)を完成させ、認知症者のFCに対する一定の有用性が確認できた。しかし今後、対象者を増やしてさらなる検討が必要である。本プログラムは、疾患別で個別性が高いこと、疾患教育とCBTを含む複合的なプログラムであることが最大の特徴であるが、さらに、FCの状況に応じて、対面・非対面のいずれでも対応が可能とするなど、参加への障壁を下げる環境を構築することが重要であると考えられた。また疾患教育を別の疾患群に置き換えることで、様々な疾患群にも使用できる汎用性が高いプログラム構成であることが示された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202217001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
認知症者の家族介護者に対する心理的介入として開発されたプログラムの多くは、認知症の原因疾患による違いを考慮したものではない。本研究では疾患別に特化し、かつ、疾患教育と心理療法(認知行動療法)を組み合わせた複合的プログラム(教育的支援プログラム)を作成し、家族介護者に対する一定の有用性を確認することができた。
臨床的観点からの成果
認知症は患者本人だけではなく家族介護者に様々なストレスをもたらす。したがって認知症診療において、家族介護者に対する心理的支援は重要である。先行研究の複合的プログラムの多くは1回あたりのセッション時間が長めで、回数も多いものが多く、家族介護者によっては完遂が難しい。本研究で作成した教育的支援プログラムは、日常臨床での使用に耐えうるように可能な限り回数を少なくした。またオンライン参加を想定している為、まだ続く新型コロナウイルスの影響を避けたり遠隔地に住む家族介護者の参加を促進することが可能である。
ガイドライン等の開発
本研究で作成した教育的支援プログラムは、原因疾患別の「疾患教育」と「認知行動療法」から構成されている。疾患教育の部分を変更することで、様々な認知症疾患に特化したプログラムへと展開させることができ、日常診療における認知症者の家族介護者への心理的介入のひな形として利用することが可能である。
その他行政的観点からの成果
認知症者が住み慣れた環境で暮らすためには、家族介護者のメンタルヘルスの維持は重要なポイントとなる。認知症としての診断を受けて間もない段階で、家族介護者が本研究で開発したような教育的支援プログラムを受ける機会があれば、早い段階で抑うつ症状や不安症状の軽減につながるものと考えられる。したがって本研究の成果は、今後の認知症者の家族介護者の支援施策の決定のための基礎的な知識として貢献できる。
その他のインパクト
本研究の内容について、学術学会での講演や学術雑誌の総説として紹介した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
24件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
26件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-07-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
202217001Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
12,030,000円
(2)補助金確定額
12,030,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,473,515円
人件費・謝金 3,469,271円
旅費 959,382円
その他 3,352,171円
間接経費 2,776,000円
合計 12,030,339円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-05-24
更新日
-