高齢者での神経ペプチドの役割

文献情報

文献番号
199700599A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者での神経ペプチドの役割
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
満間 照典(愛知医科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 矢内原昇(矢内原研究所)
  • 松永宗雄(弘前大学医学部)
  • 橋本浩三(高知医科大学医学部)
  • 安田武司(名古屋大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者における神経ペプチドの役割を明らかにして、高齢者に伴う疾患の病態における神経ペプチドの役割の解明や神経ペプチドのそれらの疾患への治療応用の可能性を追求することを目的とする。
研究方法
1.末梢神経疾患の生検神経におけるglia cell line-derived neurotrophic factor(GDNF)及びその受容体のmRNAの発現をRT-PCR法で検討した。2.endotoxin polysaccride(LPS)投与のラットの各種ホルモンの反応性に及ぼす加齢の影響を検討した。3.クロモグラニンA(CgA)の測定法としてのRIA法の開発を試みた。4.6-hydroxydopamineを黒質線条体に投与して作製したパーキンソン病モデル動物の線条体からのドーパミン放出に及ぼすアデノシン作動薬の影響をマイクロダイアリシス法で観察した。5.加齢に伴う神経ペプチド(TRH,somatostatin,VIP,beta-endorphin)の変動に及ぼす飼料中の蛋白量の影響をDonryuラットの中枢神経系で観察した。
結果と考察
1.末梢神経障害ではGDNF,GDNFR-alpha-mRNAの発現が著明に増加することを認めたが、疾患特異性はなかった。また、GDNFR-alpha-mRNAの発現量は軸索病変の程度と正の相関が見られた。これらの成績は障害神経部位でGDNFR-alphaが増加したGDNFを捕捉して、GDNFを神経の再生軸索末端の機能的RET-GDNF-alphaに提供することによって、神経再生が促進されることを示す所見であり、加齢による神経系の変化にもこの様な機構が関与していると推定された。2.LPS単回投与でyoung(Y),adult(A)群ともACTH,cortocosterone(B)が著明に増加した。LPS反復投与では新たなLPSのチャレンジに対するACTH,Bの反応は抑制されたが、A群ではY群に比してその抑制は不良であった。LPS単回投与に対する1L-1-beta,TNF-alphaの反応性はY群に比してA群でより高い傾向を示した。Y群ではLPS単回、反復投与共に投与24時間後の血糖値は低下したが、A群では有意な変動を示さなかった。LPS単回投与でY群ではインスリンの上昇が見られたが、A群では上昇しなかった。この様にendotoxinの生体侵襲に対する生体の反応性に加齢の影響が見られ、高齢者の感染症の病態を理解する上で有用な所見である。3.CgAの測定法としての特異性の高いRIA法を確立した。この方法で測定した血清CgA濃度は腎不全、褐色細胞腫、甲状腺髄様癌、下垂体腺腫、パーキンソン病で高値であった。さらに、唾液中のCgA濃度は精神的ストレス負荷で増加した。この様に血中、唾液中のCgAの測定はカテコラミン異常分泌や高齢者に伴う疾患の病態を理解する上で有用である。4.パーキンソン病モデル動物の線条体からのドーパミンの放出はアデノシン受容体拮抗剤で促進された。この成績はアデノシン拮抗剤はドーパミン放出促進剤として臨床応用の可能性を示すものである。5.ラットの視床下部及び大脳のTRH,pro-TRH,somatostatin,VIP,beta-endorphinは加齢と共に低下したが、その変動は高蛋白食飼育群で早期であった。一方、脳幹、小脳の神経ペプチド濃度は加齢による変動は認めなかった。この様な成績は摂取蛋白量が神経ペプチドの変動に関与していることを示しており、食事内容の検討も加齢による変化を追求する上で大切であると考えられた。
結論
以上の成績から、神経ペプチドが高齢者の生体機能や高齢者に伴う疾患の病態生理にかかわっていついことが示唆された。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)