慢性疼痛発症に関与する炎症・侵害受容増幅因子HMGB1の血中動態解析に基づく客観的評価法の確立

文献情報

文献番号
202215003A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疼痛発症に関与する炎症・侵害受容増幅因子HMGB1の血中動態解析に基づく客観的評価法の確立
課題番号
22FG1003
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
西堀 正洋(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 森松 博史(岡山大学 学術研究院医歯薬学域)
  • 松岡 義和(岡山大学病院 集中治療部)
  • 荒川 恭佑(岡山大学病院 麻酔科蘇生科)
  • 渡邊 政博(就実大学 薬学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 慢性の痛み政策研究
研究開始年度
令和4(2022)年度
研究終了予定年度
令和6(2024)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 がん性疼痛や神経障害性疼痛では、持続的激痛から自殺念慮が生じることも稀ではない。このような痛みの状態では、仕事や学業を継続することが困難になるだけでなく、最低限の社会生活を営むことすら難しくなる。これまで世界的に、痛み知覚に関与する分子群を解析し、それに基づく治療薬開発が実施され、またリポジショニング薬が登場してきたが、著効する薬物は存在せず、また痛みの軽減を評価するための簡便な客観的評価法は確立されていない。
 研究代表者の西堀が実施してきた生体における炎症反応に関する一連の研究において、西堀らが作製した抗HMGB1単クローン抗体が、HMGB1の働きを効率的に中和し、炎症増幅と侵害受容増幅の双方に作用した結果、極めて高い鎮痛効果を発揮することを動物の疼痛モデルで見出した(J Neurochem, 2016; 2019; Neuropharmacol, 2018ほか)。その鎮痛作用は、急性期のみでなく慢性期にも及ぶ(Biomed Pharmacother,2022)。この時、炎症や神経組織損傷に応じて、血中HMGB1値が上昇することも観察した。既に抗HMGB1単クローン抗体治療の実用化に向け、抗体の国際的特許(JP6247646, US9550825ほか)を取得済みで、治療用ヒト化抗体(OKY-001)も独自に作製した。
 本研究は上記の背景のもとに、「血中HMGB1レベルが疾患横断的な慢性疼痛患者の簡便な客観的評価法になる」との仮説を実証することを目的とする。臨床におけるそれぞれ基礎疾患の異なる慢性疼痛患者約200名の血中HMGB1レベルの測定により、臨床症状との連関について情報を集積・解析し、客観性と有用性を備えた評価法となり得るか否かを判定する。
研究方法
 岡山大学病院麻酔科蘇生科ペインセンター外来を新たに受診する慢性疼痛患者200名を対象に、痛みの病態別に5群に分類(末梢神経障害性疼痛、中枢性神経障害性疼痛、変形性脊椎疾患、術後遷延痛、要因不明の難治性疼痛)の上、各患者の痛み強度(VAS/BPI)・心理的評価(HADS/PCS)、QOLアンケート(EQ-5D)および血液検査により血中HMGB1測定(副次評価項目:オキシトシン、コルチゾール、シスタチンC)を行う。これらは同意取得時(全項目)と1ヶ月目(HADS/PCSとEQ-5Dを除く)、3か月目(HADSを除く)で実施し、解析する。  
 血中HMGB1値の測定は、2つのアッセイ法(Shino-test Elisa と自家製 Elisa)で実施する。自家製のElisa 法に用いる最適な抗体の組み合わせを選定するために、ラット抗HMGB1単クローン抗体として、#10-22, #4-1, #11-19の3種類の抗体産生クローン細胞を培養し、回収された上清から、それぞれの単クローン抗体をアフィニティ精製して実験に用いる。#10-22, #4-1, #11-19, OKY-001を固相化に用いた場合と、HRP標識抗体として検出に用いた場合の最適な組み合わせを決定する。スタンダートとして用いるHMGB1は、LPS-freeとすることに留意し、昆虫細胞sf-9を用いて製造する。
結果と考察
 臨床研究は、倫理委員会の承認を得て10月より同意取得・検体収集を開始した。令和5年3月末までに、25症例、49検体(1ヶ月後および3ヶ月後採血を含む)の登録を得た。
 HMGB1測定に関して、自家製のElisa 法では、エピトープの異なる2つの単クローン抗体(#4-1、エピトープはHMGB1のB-Box内;OKY-001、エピトープはHMGB1のC末端配列)を選抜し用いることとした。標準品の測定において、自家製Elisaと市販品Shinotest Elisaで感度に大きな違いがないことを確認した。
 2月末までに得られた患者検体の測定を実施したところ、両方の測定値に若干の食い違いがあることが見い出され、その解消に向けた検討を次年度の課題とした。患者サンプルの集積を止めることなく、測定法のレベルで解決を図る。検討項目として、血液希釈液中に低濃度海面活性剤を添加し、その効果を明らかにする。
結論
 令和5年度にできるだけ多くの患者登録と検体収集を継続する。令和6年度の前半までに前症例登録を完了させ、測定・解析を終え、情報発信を測る。
 現象論のレベルでヒトの疼痛知覚と血中HMGB1値の関係を示すことにより、痛みの客観的評価法を臨床現場に提示することができ、将来的なガイドライン作成への貢献が期待される。

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
202215003Z