高齢者の排尿機能障害-その予防と治療-に関する研究

文献情報

文献番号
199700598A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者の排尿機能障害-その予防と治療-に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
河邉 香月(東京大学医学部泌尿器科学教授)
研究分担者(所属機関)
  • 山口脩(福島医科大学泌尿器科教学授)
  • 西澤理(信州大学医学部泌尿器科学教授)
  • 藤田公生(浜松医科大学泌尿器科学教授)
  • 吉田正貴(熊本大学医学部泌尿器科学助教授)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、高齢者にみられる排尿に関する不快な症状につき、その病態を明らかにするとともに、病態に応じた有効な予防策や治療法を開発するところにある。高齢者では一般に排尿に関する症状を有する割合が上昇するが、それに伴い排尿に関する不満度も増大する。この不満を軽減し、心身ともにより健全な状態で日常生活を送れるようにはかることは、今後の高齢化社会には必要性の高いことであろう。
研究方法
研究者全員が取り組む共同研究の研究課題として「夜間頻尿の病型診断の基準に関する研究」を設けた。対象は、入院中で、下部尿路症状を訴えておらず、下部尿路機能に影響を与える疾患がなく、同意の得られたものとした。被験者は排尿日誌を連続2日間つけ、排尿量、排尿時刻を記録し、医師はその尿の一部を採取して尿比重を測定した。あわせて尿流率、残尿量及び?清クレアチニン値を測定した。20歳以上89歳までを10~20年毎の5段階の年齢階級に分け、各階級に男女1~2名ずつを各施設で調査することを目標とした。これらの症例を用いて、年齢と相関の高い症状であった夜間頻尿について説明変数を求め、その基準値を定めた。一方各分担研究者は、関連する研究項目として排尿症状の原因となる他の病態について研究を行った。
結果と考察
1.共同研究:調査対象としたのは男35例、女32例である。男女とも加齢にともない夜間排尿回数は増大していた。夜間排尿回数と相関のある要因について、その関与の程度を検討したところ、一回排尿量と夜間(就眠中の)尿量が重要なものであることが分かった。そこでこの2要因についてその重症度分類を設定する試みを行い、次頁の表のような診断基準を提唱した。
2.分担研究:分担研究者山口は特殊な硬度測定装置を開発し、それを用いて加齢にともない膀胱壁の硬化が進行することを確認した。これは膀胱壁中のコラーゲンの増生を意味するものであることが示唆される。西澤は磁気を用いた治療を試みたが、症例によりその効果がかなり異なることから、更なる症例の集積が必要と考えられた。藤田はATP刺激によるラット膀胱壁の収縮を検討し、一坦収縮した後の係留した収縮が、高齢ラットのみで観察されることを見出し、その機序としてプロスタグランディンが関与していることを示した。吉田は、ヒト尿道平滑筋の薬理学的検討を行い、尿道でのノルアドレナリン放出量が加齢にともない減少していくことを見出した。
今回の研究では、下部尿路症状のない者であっても、加齢にともない夜間排尿回数の増大がみられることが示された。その要因として一回排尿量の減少と夜間尿量の増大があげられた。それらの要因について、診断の一助とすべく、夜間頻尿の診断上の基準値を提唱した。この基準値を用いることで、夜間頻尿の原因が一回排尿量の減少によるものか、夜間尿量増大によるものか、両者によるものかもしくは全くそれ以外の要因によるものかが推定できるであろう。
分担研究の結果は、膀胱平滑筋が加齢にともない線維化が進み硬化すること、また筋の収縮そのものにも異常がおこることを示すものである。すなわち、高齢者には生理的に夜間頻尿がみられるが、その機序の一つとして、膀胱壁の硬化や膀胱平滑筋の機能的変化が関与していることが示された。
今後は提唱した診断基準にのっとり、夜間頻尿の機序をより詳しく解明していくとともに、具体的な治療についても研究を進めたい。
結論
排尿状態に異常がないと思う者であっても、加齢にともない夜間頻尿が増悪することが明らかとなった。この原因には夜間尿量の増大と一回排尿量の減少が関与しており、その診断基準を提唱した。今後はこの基準値を用いて、異常の発生する機序や予防・治療の研究もあわせて行うことが必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)