高齢者に向けた心不全治療薬の開発

文献情報

文献番号
200917011A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者に向けた心不全治療薬の開発
課題番号
H21-トランス・一般-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
石川 義弘(横浜市立大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 敏(横浜市立大学 大学院医学研究科)
  • 上地 正実(日本大学 獣医学部)
  • 井上 誠一(横浜国立大学 環境情報研究院)
  • 南沢 享(早稲田大学 理工学術院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
34,763,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
心不全治療の世界標準指針は慢性的に亢進した交感神経活動の抑制であり、レニンアンギオテンシン系阻害剤とベータアドレナリン受容体遮断薬(ベータ遮断薬)はその代表薬として使用されている。然るにベータ遮断剤導入に当たっての最大の副作用は一過性の心機能抑制であり、とくに高齢者には大きな妨げとなる。ベータアドレナリン受容体の働きは細胞内アデニル酸シクラーゼ酵素を活性化し、細胞内cAMP濃度を高めて心機能を調節することであり、ベータ遮断薬の薬理効果はアデニル酸シクラーゼ活性の抑制に他ならない。ベータアドレナリン受容体は3つのサブタイプしかないが、アデニル酸シクラーゼには9つのサブタイプが知られており、心臓型とよばれるサブタイプ(5型)は心臓に特異的に発現する。従って心臓型アデニル酸シクラーゼを選択的に阻害することが出来れば、呼吸器抑制を起こさずにベータ遮断剤と同等の心不全治療ができるはずである。本研究は学際的プロジェクトであり、心臓型サブタイプの選択的な抑制剤を、高齢者にも安心して使える心不全治療薬として開発することを目的とする。
研究方法
我々の同定した心臓型サブタイプ阻害剤の個体レベルでの効果を、心臓型サブタイプ遺伝子操作動物および野生型において検討した。
結果と考察
同阻害剤のイソプロテレノール刺激状態での心機能抑制効果は、野生種では認められないが、心臓型サブタイプ過大発現マウスでは高度であり、またPDE阻害剤に対する反応性は不変であったことから、同阻害剤の生体での作用点は、心臓型アデニル酸シクラーゼ酵素であることが確認された。また野生型動物に対する3週間のカテコラミン負荷によって、コントロール群では心筋肥大とともに心機能の顕著な低下がみられたが、同阻害剤群では心機能の低下はみられなかった。
結論
心臓型サブタイプの阻害剤で心臓保護効果を示すと考えられた。そのような薬剤は既に抗ウイルス剤としても市販されており、安全性も確認されているため、臨床応用が可能であるとも考えられる。アデニル酸シクラーゼは9つのサブタイプを持つため、それぞれのサブタイプが創薬の対象となり、既に世界各国で薬剤開発が行われ、英国では睡眠障害を対象として脳型サブタイプの阻害剤開発が進んでいる。心臓型サブタイプ抑制剤の開発は、高齢者に向けた副作用の少ない薬としてだけでなく、我々の長年の研究成果に裏づけされたコンピュータによる予測技術を含めて、次世代の創薬手法の代表例となることが考えられ、わが国に普及を目指していきたい。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-