アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究

文献情報

文献番号
202213009A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究
課題番号
20FE2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
足立 雄一(富山大学 学術研究部医学系小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 幸一(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
  • 福家 辰樹(国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター 総合アレルギー科)
  • 福冨 友馬(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
  • 高橋 亨平(独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児科)
  • 今野 哲(北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野)
  • 後藤 穣(日本医大千葉北総病院耳鼻咽喉科)
  • 田中 暁生(広島大学大学院 医系科学研究科 皮膚科学)
  • 手塚 純一郎(福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科)
  • 松﨑 寛司(国立病院機構福岡病院 小児科)
  • 長尾 みづほ(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 中村 好一(自治医科大学 地域医療学センター公衆衛生学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2015年にアレルギー疾患対策基本法が成立し、2017年のアレルギー疾患対策の推進に関する基本指針には、疫学研究によるアレルギー疾患の長期にわたる推移(自然史)の解明等良質なエビデンスの蓄積とそれに基づく定期的な診療・管理ガイドラインの改訂が必要であると示されており、疫学調査は国の施策として非常に重要である。しかしながら、今までの本邦における疫学研究は疾患別・年齢別に調査されている事が多く、またアレルギー疾患が個々の患者で複数の疾患を合併することから、既存の疫学調査では年齢によるアレルギー疾患の有病率やその経時的推移を明らかになっていない。 そこで本研究班では、基本指針に基づき全国で選定されている各都道府県アレルギー疾患医療拠点病院と連携し、その職員とその家族を対象とした全年齢層におけるアレルギー疾患の疾患有病率および個々の合併率を明らかにし、本邦におけるアレルギー疾患の現状を把握すると共に、今後同手法を用いて経時的に評価することで、有病率の推移を評価可能な疫学調査のベースを作成することを目的とする。また、40年前から10年毎に行っている西日本小学児童調査を2022 年に実施することで、日本における小児アレルギー疾患の長期的な推移を検討することも同時に行う。
研究方法
アレルギー疾患拠点病院活用疫学調査では、2020年度に実施したパイロットスタディーと2021年度に実施した本調査を踏まえて各都道府県のアレルギー疾患医療拠点病院が出揃った令和4年度に再度調査を実施した。調査対象者はアレルギー疾患医療拠点病院に勤務する職員(医療従事者ならびに病院事務職員)とその同居する家族とし、それぞれの属性ならびにアレルギー疾患の有無についてネット上のアンケートフォームにアクセスして回答する形式で行った。西日本小学児童アレルギー有症率調査では、調査対象となる全ての調査校から回答済みの調査票を回収して解析を行った。
結果と考察
アレルギー疾患拠点病院活用疫学調査では、全てのアレルギー疾患医療拠点病院(79施設)に調査への協力を要請したところ77施設が参加に同意したことより、この調査がアレルギー疾患医療拠点病院の事業として認識されてきたと思われる。しかし、施設別に回答者数に大きなばらつきがあったことより、今後もアレルギー疾患医療拠点病院の事業として継続して実施するためには、各施設における更なる認識を深めてもらう必要があると考える。各疾患の有病率は、質問において「医師から診断された」+「医師から診断されていないが、そう思う」とし、食物アレルギーに関しては上記に「診断されたが、寛解した」を加えて評価した。また、有症率は過去1年間に「症状あり」+「症状ない+治療あり」とした。全年齢を合わせた各疾患の既往を含む有病率は、花粉症が最も多く(41.4%)で、次いで通年性アレルギー性鼻炎(31.2%)、アレルギー性結膜炎(22.3%)の順であった。気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーはほぼ同程度(14.7%、16.3%、16.4%)であり、薬剤アレルギー(4.4%)、金属アレルギー(2.2%)、アナフィラキシー(1.1%)は少数ならが存在した。
結論
アレルギー疾患は、その発症年齢、発症臓器、増悪因子、寛解時期などがそれぞれの疾患によって異なり、さらに疾患同士が合併することも多く、極めて多様性の大きな疾患群である。このような多様性を理解することが疾患の増悪阻止や発症予防への第一歩となるが、本邦ではこれまで全年齢層をカバーしたアレルギー疾患の大規模な疫学調査は行われてこなかった。本研究では、我が国におけるアレルギー疾患の多様性を経時的に評価することを目的に、全ての都道府県にあるアレルギー疾患医療拠点病院の職員ならびにその家族を対象とした調査手法を確立することができた。これによって、今後我が国の全年齢層における各アレルギー疾患の有病率ならびに有症率と、それぞれの疾患の関連を評価できると考える。また、1982年から10年毎に同一手法を用いて同一地域で行われている西日本小児児童アレルギー疾患有症率調査は今回で5回目となり、過去50年間の変化を評価した点で極めて有意義なデータである。今後もこのような大規模な疫学調査を経時的に実施することで、本邦のアレルギー疾患の実情を把握し、データに基づくアレルギー疾患への対策が可能となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-10-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202213009B
報告書区分
総合
研究課題名
アレルギー疾患の多様性、生活実態を把握するための疫学研究
課題番号
20FE2001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
足立 雄一(富山大学 学術研究部医学系小児科学)
研究分担者(所属機関)
  • 吉田 幸一(東京都立小児総合医療センター アレルギー科)
  • 福家 辰樹(国立研究開発法人国立成育医療研究センター アレルギーセンター 総合アレルギー科)
  • 福冨 友馬(国立病院機構相模原病院 臨床研究センター)
  • 高橋 亨平(独立行政法人国立病院機構相模原病院 小児科)
  • 今野 哲(北海道大学大学院医学研究科呼吸器内科学分野)
  • 後藤 穣(日本医大千葉北総病院耳鼻咽喉科)
  • 田中 暁生(広島大学大学院 医系科学研究科 皮膚科学)
  • 手塚 純一郎(福岡市立こども病院 アレルギー・呼吸器科)
  • 松﨑 寛司(国立病院機構福岡病院 小児科)
  • 長尾 みづほ(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
  • 中村 好一(自治医科大学 地域医療学センター公衆衛生学部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2015年にアレルギー疾患対策基本法が成立し、2017年のアレルギー疾患対策の推進に関する基本指針には、疫学研究によるアレルギー疾患の長期にわたる推移(自然史)の解明等良質なエビデンスの蓄積とそれに基づく定期的な診療・管理ガイドラインの改訂が必要と示され、疫学調査は国の施策として非常に重要である。しかし、今までの本邦における疫学研究は疾患別・年齢別に調査されている事が多く、またアレルギー疾患が個々の患者で複数の疾患を合併することから、既存の調査では年齢によるアレルギー疾患の有病率やその経時的推移を明らかになっていない。そこで本研究班では、基本指針に基づき全国で選定されてたアレルギー疾患医療拠点病院と連携し、その職員とその家族を対象とした全年齢層におけるアレルギー疾患の疾患有病率および個々の合併率を明らかにし、本邦におけるアレルギー疾患の現状を把握すると共に、今後同手法を用いて経時的に評価することで、有病率の推移を評価可能な疫学調査のベースを作成することを目的とする。また、40年前から10年毎に行っている西日本小学児童調査を2022 年に実施することで、日本における小児アレルギー疾患の長期的な推移を検討することも同時に行う。
研究方法
アレルギー疾患拠点病院活用疫学調査では、2020年度にパイロットスタディー、2021年度に本調査、さらに各都道府県のアレルギー疾患医療拠点病院が出揃った令和4年度に再度調査を実施した。調査対象者はアレルギー疾患医療拠点病院に勤務する職員(医療従事者ならびに病院事務職員)とその同居する家族とし、それぞれの属性ならびにアレルギー疾患の有無についてネット上のアンケートフォームにアクセスして回答する形式で行った。西日本小学児童アレルギー有症率調査では、調査対象となる小学校ならびに調査に協力する医師を選定し、調査対象となる全ての調査校から回答済みの調査票を回収して解析を行った。
結果と考察
結果と考案
初年度は16施設を対象としたパイロットスタディーを、次年度には56施設を対象とした本調査を行い、全ての都道府県のアレルギー疾患医療拠点病院が出揃った最終年度に全拠点病院を対象とした調査を行った。最終調査では、79施設のうち77施設が参加し、24,444名のデータを解析したところ、全年齢を合わせた各疾患の既往を含む有病率は、花粉症が最も多く(41.4%)、次でアレルギー性鼻炎(31.2%)、アレルギー性結膜炎(22.3%)の順であった。気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーはほぼ同程度(14.7%、16.3%、16.4%)であり、薬剤アレルギー(4.4%)、金属アレルギー(2.2%)、アナフィラキシー(1.1%)は少数ながら存在した。また、全年齢を合わせた各疾患の期間有症率は、花粉症とアレルギー性鼻炎を合わせて38.1%と最も多く、次いでアレルギー性結膜炎(15.3%)であった。以上の結果は前回ならびに前々回の調査結果と同様な傾向にあり、今後の経時的疫学調査に使用可能と考えられた。また、1982年から10年ごとに実施している西日本小児児童調査の5回目の調査を実施した。西日本の11県76校より30,024名(回収率93.1%)のデータを解析した結果、アレルギー疾患有症率は、気管支喘息 2.7%、アトピー性皮膚炎 13.0%、アレルギー性鼻炎 33.9%、アレルギー性結膜炎 12.2%、花粉症 14.5%、食物アレルギー 4.9%、アナフィラキシー 0.9%であった。過去の調査との比較による経年推移では、気管支喘息は2002年をピークに減少傾向、アトピー性皮膚炎、アナフィラキシーは横ばい、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーは増加傾向であった。
結論
アレルギー疾患は、発症年齢、発症臓器、増悪因子、寛解時期などがそれぞれの疾患によって異なり、さらに合併することも多く、極めて多様性の大きな疾患群である。この多様性を理解することが疾患の増悪阻止や発症予防への第一歩となるが、本邦ではこれまで全年齢層をカバーした大規模な疫学調査は行われてこなかった。本研究では、全都道府県のアレルギー疾患医療拠点病院の職員ならびにその家族を対象とした調査手法を確立することができ、それによって今後本邦の全年齢層における各アレルギー疾患の有病率ならびに有症率と、それぞれの疾患の関連を評価できると考える。また、1982年から10年毎に同一手法を用いて同一地域で行われている西日本小児児童アレルギー疾患有症率調査は今回で5回目となり、過去50年間の変化を評価した点で極めて有意義なデータである。今後もこのような大規模な疫学調査を経時的に実施することで、本邦のアレルギー疾患の実情を把握し、データに基づくアレルギー疾患への対策が可能となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-10-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202213009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本邦における疫学研究は、特定の年齢層や疾患、あるいは特定の地域に限定して調査されることが多かったが、本研究では全都道府県に設置されたアレルギー疾患医療拠点病院の職員及びその家族を対象として、全年齢層における各種アレルギー疾患の有病率ならびに有症率を明らかできた。また、1982年から西日本の同一地域で同一な手法を用いて10年ごとに行なっている調査で学童のアレルギー疾患有症率の過去40年間にわたる推移を調査できたことは、世界的にも類を見ない研究である。
臨床的観点からの成果
全年齢層における調査によって、人口の約2/3が何らかのアレルギー疾患を有していることが明らかとなった。特に花粉症を含むアレルギー性鼻炎は人口の約半数で認められることから、治療法ならびに予防法の開発が一層重要と考える。また、西日本の学童における過去40年間の推移を見ると、喘息は低下傾向、アトピー性皮膚炎は横ばい、花粉症を含むアレルギー性鼻炎と食物アレルギーは増加傾向であり、同じアレルギー疾患でもどうして経時的変化が異なるかについて臨床的に解決すべき問題点が明らかとなった。
ガイドライン等の開発
本研究の成果が疾患の管理や治療法に直結するものではないが、どのアレルギー疾患患者がどの年齢層にどの程度存在し、その傾向が経時的にどのように推移しているのかを知ることは、疾患の管理や治療法を考える上で重要な情報の一つとなる。また、このような調査を継続することで近年行われることが多くなったアレルゲン舌下免疫療法の有効性を検証する基礎データを得ることができたと考える。
その他行政的観点からの成果
アレルギー疾患に罹患していると医療費ばかりでなく社会的な生産性や学習面への影響など日常生活に大きな負担となるが、今回の調査で人口の約2/3が何らかのアレルギー疾患を有し、特に約半数が花粉症を含むアレルギー性鼻炎を有していることが明らかになったことで、今後アレルギー疾患を克服することが日本の将来において重要な課題の一つであると考えられる。今後、特に予防的な観点からの取り組みを行う上でも、このような疫学データが貴重な情報となる。
その他のインパクト
以前の大規模疫学研究は地域住民を対象として紙ベースで行われていたが、近年の個人情報に関する社会情勢の変化でこのような調査を大規模で行うことは困難となってきた。本研究で確立した全都道府県に設置されたアレルギー疾患診療拠点病院の職員ならびに家族を対象としたウェブを用いた調査方法を用いれば、今後も定期的に大規模調査が可能と考える。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito Y, Kato T, Yoshida K, et al
Prevalence of allergic diseases across all ages in Japan: A nationwide cross-sectional study employing designated allergic disease medical hospital network
JMA Journal , 6 (2) , 165-174  (2023)
10.31662/jmaj.2022-0218

公開日・更新日

公開日
2023-10-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
202213009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,600,000円
(2)補助金確定額
9,600,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,693,230円
人件費・謝金 0円
旅費 251,388円
その他 3,655,382円
間接経費 2,000,000円
合計 9,600,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-10-18
更新日
-