アレルギー疾患患者(乳幼児~成人)のアンメットニーズとその解決法の可視化に関する研究

文献情報

文献番号
202213002A
報告書区分
総括
研究課題名
アレルギー疾患患者(乳幼児~成人)のアンメットニーズとその解決法の可視化に関する研究
課題番号
20FE1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
藤澤 隆夫(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 福永 興壱(慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
5,350,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患は、小児から成人までライフステージを通して、罹患者の生活の質に大きな影響を与える。アレルギー疾患対策基本法の下、医療提供体制の整備が進められているが、患者数は多く、アンメットニーズが知られないまま対策から取り残されている可能性がある。本研究ではアンメットニーズを可視化して適切なサポートにつなげるために、小児と成人において広く利用可能なツール・アプリを開発することを目指した。
研究方法
1. 乳幼児期アレルギー疾患による養育者負担評価質問表開発
初年度に作成した候補質問から質問表を構成する質問を統計学的に選び出すロジスティック回帰解析のために、アウトカムとなる既存尺度として、育児ストレスインデックスショートフォーム(PSI-SF)と日本語版HSL-14(14-item health literacy scale)を採用し、アレルギー疾患治療中の乳幼児の養育者(受診群)、アレルギー疾患発症のリスクあるいはすでに発症しているが未だ医療機関を受診していない乳幼児の養育者(未受診群)を対象として調査を行った。それぞれ400名、合計800名を目標として、同意を得た上で、サーベイモンキーウェブアンケートフォームを利用して、背景情報、候補質問、既存尺度への回答を依頼した。養育者負担の探索のために、インターネットのSNSに投稿された質問(Yahoo!知恵袋)のテキストマイニングを実施、養育者がどのようなことに問題を抱えているのかも探索した。
2. 食物アレルギー診断支援アプリの開発
食物アレルギーが疑われる成人患者の診療で、標準化された診断プロセスを経て、適切な管理に導くために開発した医師向けアプリケーションの妥当性を検証する臨床試験を実施した。まず、模擬症例問題への回答を熟練医に依頼、回答の一致率が80%以上となる問題を選定した。続いて、非熟練医にこれらの症例問題への解答を依頼し、アプリ使用前後での正答率の変化を評価する予備試験を経て、非熟練医/医学生などを対象に、アプリ使用群、不使用群の2群に無作為割り付けして、正答率を比較し
3. 「小児のアレルギー疾患保健指導の手引き」の改訂
前年度に実施した自治体に対する「手引き」活用状況と現場のニーズの調査結果を解析して、これをもとに近年の医学の進歩を反映して、「手引き」の改定を行った。
結果と考察
1 乳幼児期アレルギー疾患による養育者負担評価質問表開発
3歳未満のアレルギー疾患(または疑い)児の養育者880名から回答を得た。回答データを無作為に2:1に分け、前者の開発データセットをもちいてロジスティック回帰解析を用いて、候補質問の中から11項目を選出した。さらに後者の検証データセットを用いて、妥当性の検証を完了した。今後、別の対象でさらなる妥当性の検証を行い、広く活用できる質問票として公表予定である。SNSデータのテキストマイニングではアレルギー児の養育者は主に皮膚の問題(アトピー性皮膚炎)への対処法を求めていることが明らかとなった。
2 食物アレルギー診断支援アプリの開発
模擬症例問題への正答率は、アプリ使用により有意に上昇することが明らかとなった。非専門医であっても、成人食物アレルギー患者の正しい診断を行うことが可能となり、これまで不十分であった管理が向上する可能性があると考えられた。
3 「小児のアレルギー疾患保健指導の手引き」の改訂
「手引き」をより使いやすい形で改定を行い、全国の都道府県に送付するとともに、アレルギーポータルから自由にダウンロードできる形とした。
結論
アレルギー疾患児の養育者が抱える疾患関連の負担感を可視化ツール作成が完了した。インターネットSNSのテキストマイニング分析によりアンメットニーズは皮膚(アトピー性皮膚炎)に多い可能性が示唆された。乳幼児のアレルギー疾患に関わる保健指導に利用できる「手引き」改訂版が完成したので、アンメットニーズへの対応がより進展することが期待された。食物アレルギー診断支援アプリは、成人食物アレルギーの正しい診断と管理が行われていない現状を打開する有用なツールとなりえる。

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202213002B
報告書区分
総合
研究課題名
アレルギー疾患患者(乳幼児~成人)のアンメットニーズとその解決法の可視化に関する研究
課題番号
20FE1002
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
藤澤 隆夫(独立行政法人国立病院機構三重病院 臨床研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 福永 興壱(慶應義塾大学 医学部 内科学(呼吸器))
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫・アレルギー疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アレルギー疾患は、小児から成人までライフステージを通して、罹患者の生活の質に大きな影響を与える。アレルギー疾患対策基本法の下、医療提供体制の整備が進められているが、患者数は多く、アンメットニーズが知られないまま対策から取り残されている可能性がある。本研究ではアンメットニーズを可視化して適切なサポートにつなげるために、小児と成人において広く利用可能なツール・アプリを開発することを目指した。
研究方法
1. 乳幼児期アレルギー疾患による養育者負担評価質問表開発
養育者負担の探索のために、インターネットのSNSに投稿された質問(Yahoo!知恵袋)のテキストマイニングを実施、養育者がどのようなことに問題を抱えているのかを探索した。次に、これらSNSデータと患者会への聞き取りから養育者負担に関連すると想定される候補質問を作成した。質問表を構成する質問を統計学的に選び出す多変量解析のために、アウトカムとなる既存尺度として、育児ストレスインデックスショートフォーム(PSI-SF)と日本語版HSL-14(14-item health literacy scale)を採用し、アレルギー疾患治療中の乳幼児の養育者(受診群)、アレルギー疾患発症のリスクあるいはすでに発症しているが未だ医療機関を受診していない乳幼児の養育者(未受診群)を対象として調査を行った。それぞれ400名、合計800名を目標として、同意を得た上で、サーベイモンキーウェブアンケートフォームを用いて、背景情報、候補質問、既存尺度への回答を依頼した。
2. 食物アレルギー診断支援アプリの開発食物アレルギーが疑われる成人患者の診療で、標準化された診断プロセスを経て、適切な管理に導くために開発した医師向けアプリケーションを開発した。その妥当性を検証する臨床試験を実施した。成人食物アレルギーの診断に関わる模擬症例問題を熟練医が作成、これらへの回答を別の熟練医に依頼し、回答の一致率が80%以上となる問題を選定した。続いて、非熟練医にこれらの症例問題への解答を依頼し、アプリ使用前後での正答率の変化を評価する予備試験を経て、非熟練医/医学生などを対象に、アプリ使用群、不使用群の2群に無作為割り付けして、正答率を比較した。
3. 「小児のアレルギー疾患保健指導の手引き」の改訂
無作為に抽出した自治体に対して「手引き」活用状況と現場のニーズの調査を行い、その結果をもとに近年の医学の進歩を反映して、「手引き」の改定を行った。
結果と考察
1 乳幼児期アレルギー疾患による養育者負担評価質問表開発
SNSデータのテキストマイニングではアレルギー児の養育者は主に皮膚の問題(アトピー性皮膚炎)への対処法を求めていることが明らかとなった。候補質問および既存尺度への回答は養育者880名から得た。これら回答データを無作為に2:1に分け、前者の開発データセットをもちいて重回帰解析で、既存尺度を予測する統計モデルを構築、候補質問の中から11項目を選出した。さらに後者の検証データセットを用いて、妥当性の検証を行った。今後さらに検証を重ねて、広く活用できる質問票として公表予定である。
2 食物アレルギー診断支援アプリの開発
非熟練医/研修医などの模擬症例問題への正答率は、アプリ使用により有意に上昇することが明らかとなった。成人食物アレルギー患者の診療に精通していなくとも正しい診断を行うことが可能となり、これまで不十分であった管理が向上する可能性があると考えられた。
3 「小児のアレルギー疾患保健指導の手引き」の改訂
「手引き」をより使いやすい形で改定を行い、全国の都道府県に送付するとともに、アレルギーポータルから自由にダウンロードできる形とした。
結論
アレルギー疾患児の養育者が抱える疾患関連の負担感を可視化ツール作成が完了した。インターネットSNSのテキストマイニング分析によりアンメットニーズは皮膚(アトピー性皮膚炎)に多い可能性が示唆された。乳幼児のアレルギー疾患に関わる保健指導に利用できる「手引き」改訂版が完成したので、アンメットニーズへの対応がより進展することが期待された。食物アレルギー診断支援アプリは、成人食物アレルギーの正しい診断と管理が行われていない現状を打開する有用なツールとなりえる。

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202213002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アレルギー疾患患者のアンメットニーズに応えるため、2つのツールを開発した。1)アレルギー疾患の乳幼児の養育者の負担感を明らかにするための質問表、2)成人食物アレルギーに対して非専門医でも正しい診断を可能とするサポートアプリである。患者QOL等を評価する質問表は妥当性を統計学的に検証する必要があるが、本研究ではこれら検証過程を経て作成しており、学術的にも価値が高い。アプリもランダム化比較試験にて有用性を確認し、エビデンスとして確立した。前者については英語版も作成しており、国際的に通用する。
臨床的観点からの成果
乳幼児健診の場における養育者負担質問表の利用により、早期に適切な治療に導くことが可能となる。アレルギー疾患の乳幼児を養育する母親はそのニーズを医療者に対して必ずしも明確に伝えられないことがあるが、質問表の利用により患者・家族が抱える問題に共感しながらの診療が可能となる。食物アレルギー診療に精通する成人診療科医師は極めて少ないため、成人発症の食物アレルギー患者は正しい診断が行われないままQOL低下に至ることが少なくなかった。本研究で開発した診断サポートアプリはこの問題を解決できる可能性を有する。
ガイドライン等の開発
平成30年度厚生労働科学特別研究事業で作成された「小児のアレルギー疾患保健指導の手引き」(以下、「手引き」)について、まず現在の保健指導現場での利用状況と要望について調査を行った上で、その結果をもとに、医学的進歩も踏まえて「手引き」改訂を行った。「手引き」2023改訂版は現場の保健師がより利用しやすいものとなった。全国の都道府県に送付したが、「アレルギーポータル」からPDF版を無料でダウンロード可能としたので、今後の活用により小児アレルギー疾患の保健指導レベルの向上が期待される。
その他行政的観点からの成果
アレルギー疾患対策基本法の下、アレルギー疾患医療提供体制の整備が進められているが、患者数は多く、アンメットニーズが知られないまま対策から取り残されている可能性がある。その中で、本研究はアレルギーマーチの「始まり」である年齢層(乳幼児)のニーズと、とくに遅れている成人食物アレルギー医療におけるニーズにフォーカスを絞り、ツールを開発し、ガイドラインの改訂を行った。今後の行政施策の策定に資するものである。
その他のインパクト
本研究班で作成した「手引き」は厚生労働省と日本アレルギー学会が運営するウエブサイト「アレルギーポータル」に掲載された。そして、アレルギー疾患の患者会が、研究班で作成した「手引き」を携え、行政機関に積極的に働きかける活動を開始した。これら草の根活動は小児アレルギー疾患に対する保健指導の向上を助けるものである。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takase T, Nagao M, Kanai R,et al.
Intake of allergenic foods at 1.5 years and 3 years of age in a general child population in Japan: a cross-sectional study.
Environ Health Prev Med , 28 , 6-12  (2023)
10.1265/ehpm.22-00213
原著論文2
佐野英子, 水野友美, 長尾みづほ et al.
アレルギー疾患児の養育者のニーズを可視化する :ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)データのテキストマイニング
日本小児アレルギー学会誌 , in press  (2023)

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
-

収支報告書

文献番号
202213002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,005,000円
(2)補助金確定額
5,005,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 593,710円
人件費・謝金 628,142円
旅費 157,920円
その他 2,470,228円
間接経費 1,155,000円
合計 5,005,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
-