アンチセンス・モルフォリノによるDuchenne型筋ジストロフィーのエクソン・スキップ治療に向けた臨床応用研究

文献情報

文献番号
200917002A
報告書区分
総括
研究課題名
アンチセンス・モルフォリノによるDuchenne型筋ジストロフィーのエクソン・スキップ治療に向けた臨床応用研究
課題番号
H19-トランス・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 昭則(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 岡田 尚巳(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 横田 俊文(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 村田 美穂(国立精神・神経センター 病院 第二病棟部)
  • 中林 哲夫(国立精神・神経センター 病院 治験管理室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
75,037,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は米国・国立小児医療センターとの共同研究により、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)のモデル動物である筋ジストロフィー犬に対して、アンチセンス・モルフォリノを全身的に複数回投与してジストロフィン遺伝子のエクソン6及び8を強制的にスキップすることにより、全身の骨格筋でジストロフィンの発現が回復し、筋ジストロフィー症状が改善することを見出した。複数のエクソンを同時にスキップすることが可能になったことから、エクソン・スキップ治療の対象となるDMD患者の範囲が拡大し、遺伝子欠失例の80%をカバーできることになった。
研究方法
ジストロフィン遺伝子のエクソン6及び8スキップの対象となるエクソン7単独欠失のDMD患者を国内で1名見出した。そこで、皮膚生検により得られた培養細胞を用いてエクソン6と8のin vitro exon skippingを行う。一方、DMDの遺伝子異常のホットスポット領域に含まれる変異の多くをin frame化することが可能な、エクソン51スキップを目標として、ジストロフィン遺伝子のエクソン52を欠失したmdx52マウスを用いて研究を進める。
結果と考察
筋ジス犬の遺伝子変異に相当するエクソン7単独欠失DMD患者からinformed consentを得て、倫理委員会の承認の下、入院して頂き、皮膚生検を行った。樹立した線維芽細胞を変換した筋芽細胞を用いてモルフォリノによるエクソン6及び8スキップが可能であることを実証した。一方、mdx52マウスに対してモルフォリノのin vivo導入によるエクソン51スキップの結果、筋ジストロフィー所見が改善することを見出した。エクソン45-50欠失DMD患者由来の細胞でエクソン51スキップが可能であることも実証できたので、米国と共同でモルフォリノの毒性試験を行い、ほぼ終了することができた。
結論
ジストロフィン遺伝子のエクソン6と8スキップに関しては、エクソン7単独欠失患者由来の細胞を用いてモルフォリノによるin vitroでのスキップを実現できたことが特筆される。エクソン51スキップに関しては、mdx52マウスにおけるproof of conceptを提出することができたばかりでなく、別途進めているDMD患者さんの遺伝子診断を含むレジストリー事業も開始できたので、研究者としてモルフォリノを用いた臨床治験を行うための準備は全て整ったと言える。治験を行うためにはGMPレベルのモルフォリノを入手することが唯一の残された課題である。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200917002B
報告書区分
総合
研究課題名
アンチセンス・モルフォリノによるDuchenne型筋ジストロフィーのエクソン・スキップ治療に向けた臨床応用研究
課題番号
H19-トランス・一般-003
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
武田 伸一(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 友子(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 中村 昭則(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 岡田 尚巳(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 横田 俊文(国立精神・神経センター 神経研究所 遺伝子疾患治療研究部)
  • 村田 美穂(国立精神・神経センター 病院 第二病棟部)
  • 三好 出(国立精神・神経センター 病院 治験管理室)
  • 中林 哲夫(国立精神・神経センター 病院 治験管理室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療技術実用化総合研究(基礎研究成果の臨床応用推進研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は米国・国立小児医療センターとの共同研究により、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)のモデル動物である筋ジストロフィー犬に対して、アンチセンス・モルフォリノを全身的に複数回投与してジストロフィン遺伝子のエクソン6及び8を強制的にスキップすることにより、全身の骨格筋でジストロフィンの発現が回復し、筋ジストロフィー症状が改善することを見出した。複数のエクソンを同時にスキップすることが可能になったことから、エクソン・スキップ治療の対象となるDMD患者の範囲が拡大し、遺伝子欠失例の80%をカバーできることになった。
研究方法
筋ジストロフィー犬の遺伝子変異と本質的には同じ遺伝子のエクソン7単独欠失のDMD患者を国内で1名見出した。そこで、皮膚生検により得られた培養細胞を用いてエクソン6と8のin vitro exon skippingを行う。しかし、筋ジストロフィー犬型の遺伝子変異は極めて稀なため、DMDの遺伝子異常のホットスポット領域に含まれる変異の多くをin frame化することが可能な、エクソン51スキップを目標として、ジストロフィン遺伝子のエクソン52を欠失したmdx52マウスを用いて研究を進める。

結果と考察
筋ジス犬の遺伝子変異に相当するエクソン7単独欠失DMD患者からinformed consentを得て、倫理委員会の承認の下、入院して頂き、皮膚生検を行った。樹立した線維芽細胞を変換した筋芽細胞を用いてモルフォリノによるエクソン6及び8スキップが可能であることを実証した。一方、mdx52マウスに対してモルフォリノのin vivo導入によるエクソン51スキップの結果、筋ジストロフィー所見が改善することを見出した。米国と共同でモルフォリノの毒性試験を行い、ほぼ終了することができた。
結論
ジストロフィン遺伝子のエクソン6と8スキップに関しては、エクソン7単独欠失患者由来の細胞を用いてモルフォリノによるin vitroでのスキップを実現できたことが特筆される。エクソン51スキップに関しては、mdx52マウスにおけるエクソン・スキップ治療を行う上でのproof of conceptを提出することができたばかりでなく、毒性試験がほぼ終了し、別途進めているDMD患者さんの遺伝子診断を含むレジストリー事業も開始することができた。治験を行うためには、GMPレベルのモルフォリノを入手することが唯一の残された課題である。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200917002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我々は、Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)のモデル動物である筋ジストロフィー犬でモルフォリノを用いたエクソン・スキップにより、ジストロフィンの発現が回復し、筋ジストロフィー症状が改善されたことを受けて、筋ジス犬の遺伝子変異に相当するエクソン7単独欠失DMD患者から生検により線維芽細胞を得てヒト細胞でもエクソン・スキップが可能であることを実証した。一方、mdx52マウスに対してモルフォリノの全身導入によるエクソン51スキップの結果、筋ジストロフィー所見が改善することを見出した。
臨床的観点からの成果
筋ジストロフィー犬においてモルフォリノによるエクソン6/8スキップにより筋ジストロフィー症状の改善をみたことは、筋ジストロフィーに対するエクソン・スキップ治療に関するProof of Conceptを提出したと評価される。より対象患者数の多いエクソン51スキップに関しては、mdx52マウスにおける有効性試験並びに毒性試験がほぼ終了し、DMD患者さんの遺伝子診断を含む登録事業も開始することができた。GMPレベルのモルフォリノを入手して治験に進むことが次のステップである。
ガイドライン等の開発
本研究を進める過程で、臨床グレーディング、赤外線による定量的行動量測定、MRI、CT等を用いた筋ジストロフィー犬の治療評価系を確立することができた。大型のモデル動物を用いた新たな治療開発研究は、内外に極めて大きなインパクトを与え、米国・国立保健研究所(NIH)は、米国内で筋ジス犬飼育施設の整備を行っている。我が国の施設についても、呼吸・循環器機能の定量的評価が可能になるよう努めている他、これらの経験を下に小型モデル動物における筋ジストロフィー治療評価ガイドラインの策定と専用の設備の整備を進める。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果として、ジストロフィン遺伝子の特定の変異を対象にした筋ジストロフィーに対するテーラーメイド治療が可能になった。実際に治療を進める上では、遺伝子診断を含むDMD患者登録を進めることが重要である。各方面に強く要望した結果、平成20年度から厚生労働省精神・神経疾患研究委託費によるDMD患者登録を進めるための研究班(川井班)の設立をみ、また国立精神・神経センターの事業としても取り上げられたことが特筆される。
その他のインパクト
筋ジストロフィーに対する主任研究者らの取り組みは、筋ジストロフィー協会の全国並びに地方大会、国立精神・神経センターで開催された市民公開講座、米国で最も大きな患者団体であるParent Projectの集会等で繰り返し採り上げられた。これらを契機として08年1月、フジテレビ「僕らへの手紙」の中で筋ジストロフィーに対する最先端治療について放映されたことを始め、08年11月日本経済新聞、09年3月日本経済新聞、読売新聞、産経新聞及び共同通信などメディアにも多数取り上げられている。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
57件
その他論文(和文)
17件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
103件
学会発表(国際学会等)
57件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
23件
市民講座:5件、患者団体啓蒙活動:10件、新聞:7件、テレビ:1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kobayashi M, Nakamura A, Hasegawa D, et al.
Evaluation of dystrophic dog pathology by fat-suppressed T2-weighted imaging.
Muscle Nerve , 40 (5) , 815-826  (2009)
原著論文2
Nakamura A, Takeda S
Exon-skipping therapy for Duchenne muscular dystrophy.
Neuropathology , 29 (4) , 494-501  (2009)
原著論文3
Yokota T, Lu QL, Partridge T, et al.
Efficacy of systemic morpholino exon-skipping in duchenne dystrophy dogs.
Ann Neurol , 65 (6) , 667-676  (2009)
原著論文4
Ohshima S, Shin JH, Yuasa K, et al.
Transduction efficiency and immune response associated with the administration of AAV8 vector into dog skeletal muscle.
Mol Ther , 17 (1) , 73-80  (2009)
原著論文5
Yokota T, Takeda S, Lu QL, et al.
A renaissance for antisense oligonucleotide drugs in neurology: exon skipping breaks new ground.
Arch Neurol , 66 (1) , 32-38  (2009)
原著論文6
Miyazaki D, Yoshida K, Fukushima K, et al.
Characterization of deletion breakpoints in patients with dystrophinopathy carrying a deletion of exons 45-55 of the Duchenne muscular dystrophy (DMD) gene.
J Hum Genet , 54 (2) , 127-130  (2009)
原著論文7
Sekiguchi M, Zushida K, Yoshida M, et al.
A deficit of brain dystrophin impairs specific amygdala GABAergic transmission and enhances defensive behaviour in mice.
Brain , 132 (1) , 124-135  (2009)
原著論文8
Yuasa K, Hagiwara Y, Ando M, et al.
MicroRNA-206 is highly expressed in newly formed muscle fibers: implications regarding potential for muscle regeneration and maturation in muscular dystrophy.
Cell Struct Funct , 33 (2) , 163-169  (2008)
原著論文9
Sato K, Yokota T, Ichioka S, et al.
Vasodilation of intramuscular arterioles under shear stress in dystrophin-deficient skeletal muscle is impaired through decreased nNOS expression.
Acta Myol , 27 , 30-36  (2008)
原著論文10
Nishiyama A, Ampong BN, Ohshima S, et al.
Recombinant adeno-associated virus type 8-mediated extensive therapeutic gene delivery into skeletal muscle of alpha-sarcoglycan-deficient mice.
Hum Gene Ther , 19 (7) , 719-730  (2008)
原著論文11
Nakamura A, Yoshida K, Fukushima K, et al.
Follow-up of three patients with a large in-frame deletion of exons 45-55 in the Duchenne muscular dystrophy (DMD) gene.
J Clin Neurosci , 15 (7) , 757-763  (2008)
原著論文12
Hijikata T, Nakamura A, Isokawa K, et al.
Plectin 1 links intermediate filaments to costameric sarcolemma through {beta}-synemin, {alpha}-dystrobrevin and actin.
J Cell Sci , 121 (12) , 2062-2074  (2008)
原著論文13
Urasawa N, Wada MR, Machida N, et al.
Selective vacuolar degeneration in dystrophin deficient canine Purkinje fibers despite preservation of dystrophin-associated proteins with overexpression of Dp71.
Circulation , 117 (19) , 2437-2446  (2008)
原著論文14
Yuasa K, Nakamura A, Hijikata T, et al.
Dystrophin deficiency in canine X-linked muscular dystrophy in Japan (CXMDJ) alters myosin heavy chain expression profiles in the diaphragm more markedly than in the tibialis cranialis muscle.
BMC Musculoskelet Disord , 9 (1) , 1-12  (2008)
原著論文15
Yuasa K, Yoshimura M, Urasawa N, et al.
Injection of a recombinant AAV serotype 2 into canine skeletal muscles evokes strong immune responses against transgene products.
Gene Ther , 14 (17) , 1249-1260  (2007)
原著論文16
Ikemoto M, Fukada SI, Uezumi A, et al.
Autologous Transplantation of SM/C-2.6 (+) Satellite Cells Transduced with Micro-dystrophin CS1 cDNA by Lentiviral Vector into mdx Mice.
Mol Ther , 15 (12) , 2178-2185  (2007)
原著論文17
Fukushima K, Nakamura A, Ueda H, et al.
Activation and localization of matrix metalloproteinase-2 and -9 in the skeletal muscle of the muscular dystrophy dog (CXMDJ).
BMC Musculoskelet Disord , 8 (1) , 54-  (2007)
原著論文18
Yokota T, William Duddy, Terence Partridge
Optimizing exon skipping therapies for DMD
Acta Myol , 26 (3) , 179-184  (2007)
原著論文19
Yokota T, Ed Pistilli, William Duddy, et al.
Potential of exon skipping therapy for DMD.
Expert Opin. Biol.Ther. , 7 (6) , 831-842  (2007)
原著論文20
Naoki Suzuki, Yuko Miyagoe-Suzuki, Shin’ichi Takeda
Gene Therapy for Duchenne Muscular Dystrophy.
Future Neurology , 2 (1) , 87-96  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-