老年者の高脂血症治療ガイドライン作成に関する研究

文献情報

文献番号
199700596A
報告書区分
総括
研究課題名
老年者の高脂血症治療ガイドライン作成に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
北 徹(京都大学)
研究分担者(所属機関)
  • 秦葭哉(杏林大学)
  • 馬渕宏(金沢大学)
  • 斎藤康(千葉大学)
  • 寺本民生(帝京大学)
  • 山田信博(東京大学)
  • 及川眞一(東北大学)
  • 江草玄士(広島大学)
  • 山下静也(大阪大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会が進む中で、虚血性心疾患や脳血管障害といった、動脈硬化症に起因する疾患が日本人の死因の上位を占めている。その危険因子として、高脂血症が重要であることは周知である。近年作用機序が明確な抗高脂血症薬の開発が進み、その結果虚血性心疾患の発症が低下したという報告が認められるに至った。一方で、冠動脈造影を行った冠動脈の狭窄度の変化を指標として脂質低下剤の効果を検討した調査によれば、コレステロール低下剤により必ずしも冠動脈の狭窄度の改善はみられない。これらの結果は、コレステロール低下による動脈硬化の退縮というよりも、血管内皮細胞機能をも含めた、動脈硬化プラークの安定性などを考えないと虚血性心疾患の発症の低下を説明することができない。いずれにしても、すでに成人対象には高脂血症治療ガイドラインが提唱されようとしているが、この様に短期間での効果が期待されることは、高齢者にも治療が必要であることを示唆している。従って、このことをふまえて、現在動脈硬化学会で作成中の成人の高脂血症治療ガイドラインをも参考にしながら、高齢者に特別な治療ガイドラインの必要性があるかを含めて検討する必要がある。
研究方法
従来より提唱されている高脂血症治療ガイドライン、国民の血清脂質の推移、血清脂質値と虚血性心疾患の罹患率との関係については、諸外国の例を含めて報告があり、私共はそれを参考にして、日本人のそれとを比較することから進めていきたいと考えている。また必要があれば治療方針のアンケート調査も実施する。また、分担研究において、老年者における高脂血症とインスリン抵抗性、ライフスタイルの欧米化と日本人の血清脂質値、更年期女性における高脂血症対策に関する検討なども参考にしながら、ガイドライン作りを進める。
結果と考察
結果=(A)高齢者における高脂血症と虚血性心疾患との疫学的研究調査
欧米における高齢者を対象とした高脂血症と虚血性心疾患との疫学的研究を調査したところ65歳から80歳の高齢者においても血清総コレステロール値と虚血性心疾患発生との相関を示す成績が多い。また、コレステロール低下による虚血性心疾患の二次予防のトライアルにおいても、65歳以上の高齢者においてもリスクの低下が示されている。一次予防に関しては高齢者において現在にところ必ずしも明確な報告がないが、少なくとも壮健で高い社会性を有する高齢者においては積極的な治療の必要性が述べられている。一方、わが国における高齢者を対象とした高脂血症と虚血性心疾患との疫学的研究は現在のところ皆無といってよい。だが、日本人と遺伝的背景を等しくするハワイ在住の日系人を対象とした米国での疫学調査によれば、65歳以上の高齢者においても血清総コレステロール値の上昇に伴い虚血性心疾患の発生が明らかに増加することが示されており、その発生率の増加(Jカーブ)は65歳以下の若年者と比較しほぼ同様である。日本とはライフスタイルの異なるこれら米国在住日系人の結果は必ずしもそのまま日本人にあてはまるとは言えないかも知れないが、食生活の欧米化が進んでいる現在、これらの結果は、今後の日本人高齢者の高脂血症の治療ガイドラインを作成する際に十分に参考になるものと考えられる。
(B)年齢の分け方として、65~74才、75才以上の前期、後期高齢者の2段階に設定できるか。
全国144施設に対するアンケートの結果、回答の得られた109施設のうち56%の施設より、これまでの臨床経験からの意見として65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者とすべきとの回答を得た。また、23%の施設からは65~79歳を前期、80歳以上を後期高齢者とすべきとの回答が得られた。
考察=秦班員を中心に進められた日本動脈硬化学会高脂血症治療ガイドライン(高齢者用ではない)が昨年発表された。このガイドラインと、北班長を中心に進められてきた長寿科学研究「老年者の動脈硬化治療ガイドライン作成に関する研究」における全国144施設に対する高齢者の高コレステロール血症治療アンケートを基に作成された班ガイドライン試案を比較検討し、以下の問題点について、検討を進める方針となった。
結論
問題点=(A)高齢者の特殊性(脂質のプロフィール、病態、薬物の反応、代謝など)を加味し治療ガイドラインに、盛り込む必要があるか。
(B)65~74才、75才以上と高齢者を前期、後期と分けるとすれば、それぞれ異なったガイドラインが必要か。
これらの問題点につき今後さらに分担研究の成果も参考にしながらガイドライン作成に向けて検討を進めたい。

公開日・更新日

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