小児から成人期発症遺伝性QT延長症候群の突然死予防に関する研究

文献情報

文献番号
202211053A
報告書区分
総括
研究課題名
小児から成人期発症遺伝性QT延長症候群の突然死予防に関する研究
課題番号
21FC1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
相庭 武司(国立循環器病研究センター 病院中央診療部門(内科系)臨床検査部)
研究分担者(所属機関)
  • 大野 聖子(国立循環器病研究センター分子生物学部)
  • 草野 研吾(国立研究開発法人国立循環器病研究センター心臓血管内科)
  • 坂口 平馬(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 朝野 仁裕(国立循環器病研究センター)
  • 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター・研究開発基盤センター 予防医学・疫学情報部 EBM・リスク情報室)
  • 竹上 未紗(国立循環器病研究センター 研究基盤開発センター 予防医学・疫学情報部)
  • 住友 直方(埼玉医科大学国際医療センター 小児心臓科)
  • 村上 卓(筑波大学 医学医療系 小児科)
  • 吉永 正夫(国立病院機構鹿児島医療センター 小児科)
  • 加藤 浩一(滋賀医科大学 循環器内科)
  • 牧山 武(京都大学医学部)
  • 林 研至(金沢大学)
  • 森田 宏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科先端循環器治療学)
  • 金古 善明(群馬大学大学院 医学系研究科)
  • 八木原 伸江(新潟大学 医学部循環器内科)
  • 古庄 知己(国立大学法人信州大学 医学部 遺伝医学教室)
  • 吉田 葉子(大阪市立総合医療センター 小児不整脈科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
2,310,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性QT延長症候群(Long QT Syndrome: LQTS)は主に運動やストレスが誘因となり失神発作や心室細動などを生じ、小児期から成人における失神・心臓突然死の原因として重要な疾患である。小児期に診断されることが多いが、発症年齢は幅広く成人以降も継続して診療が必要である。先天性LQTSの約7割に遺伝子異常が見つかり、遺伝子検査が保険償還されていることからも遺伝子検査の診断における役割は大きい。一方で約3割の遺伝子型不明例に対する評価は定まってない。さらに本邦では2018年のガイドライン改訂により、無症状でもQTc時間が470ms以上あればβ遮断薬が推奨されるが、成人期以降の服薬継続や予後に関しては不明である。特にKCNH2遺伝子変異(LQT2)の女性では思春期以後に心事故のリスクが増加し、β遮断薬などの薬物治療抵抗性で植込み型除細動器(ICD)を適用せざるを得ない症例も多い。本研究では、先天性LQTSの全国多施設登録を行い早期診断とリスク層別化、生活指導や薬物・非薬物治療が適切に行われているかどうかを検証する。
研究方法
対象は先天性LQTSとその類縁疾患(Andersen-Tawil症候群、Timothy症候群など)である。登録基準は日本循環器学会・遺伝性不整脈ガイドラインに従い、1)LQTSリスクスコア≧3.5点、2)LQTSの原因遺伝子変異を有する、3)心電図QTc≧500ms、のいずれかを満たす症例とする。遺伝学的検査は国立循環器病研究センターまたは滋賀医科大学にてDirect sequence法を用いて行うが、他の分担施設あるは外部検査機関で実施分も含める。
REDCapを用いたEDC(LQTSレジストリ)を用いて国循と分担施設ごとに対象患者の登録を行う。具体的には、生年月(日)・性別・初診時年齢・心電図(安静時・運動負荷後)所見・症状の有無・家系図・治療の有無さらに遺伝学的検査結果を登録する。フォローアップ可能な患者については最終フォロー時の心電図・失神発作や致死性不整脈の有無・治療薬・ICDの有無などを登録する。
結果と考察
結果:令和4年度は前年度に引き続き対象患者の登録を行った。令和4年度末までに3800例のLQTS患者が登録された。登録例のうち約33%に失神発作の既往を認め、遺伝子型はKCNQ1(LQT1), KCNH2(LQT2), SCN5A(LQT3)の順に多く、一方少ないながらもKCNJ2やCACNA1cなども認められている。診断時年齢は若年者(10代前半)が多いが、一方中年以降にもピークを認め、発端者の家族あるいは中年以降に初発で見つかる患者も少なからず存在した。診断時QTc時間についても非常に幅があり、必ずしも全ての患者でQT時間が延長していないことがわかった。
今後登録症例の中から施設間の重複例などを除き、データのクリーニングを実施し最終的なデータ固定後に発端者・家族、遺伝子型、バリアント別、年齢、性別によるリスク評価、さらにβ遮断薬治療の実施状況、β遮断薬治療の有効性、安全性、ICD植込み状況とその有効性と安全性について解析を行う。統計解析については、統計専門官の指導のもと実施する。特にLQT2の女性については成人期以降もイベント発生が継続して観察されることから、ハイリスク患者における治療とQOLについて解析を行う。さらに本結果をもとに現状のICD適応基準の妥当性についても検証を行う予定である。
考察:本研究により先天性LQTSの早期診断とリスク層別化、生活指導や薬物・非薬物治療が適切に行われているかどうかを検証することは、若年者の心臓突然死予防に貢献できる。目標4000例の世界的にも最大規模の先天性LQTSデータを解析することで、個々の患者に沿ったきめ細かな生活指導や治療方法を選択することが可能となる。
結論
LQTSの全国多施設登録を行い、目標の4000症例に近い数の登録に至った。今後データ解析を行い我が国のLQTS患者の早期診断とリスク層別化、生活指導や薬物・非薬物治療について検証する。

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202211053B
報告書区分
総合
研究課題名
小児から成人期発症遺伝性QT延長症候群の突然死予防に関する研究
課題番号
21FC1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
相庭 武司(国立循環器病研究センター 病院中央診療部門(内科系)臨床検査部)
研究分担者(所属機関)
  • 大野 聖子(国立循環器病研究センター分子生物学部)
  • 草野 研吾(国立研究開発法人国立循環器病研究センター心臓血管内科)
  • 坂口 平馬(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器部)
  • 細田 公則(国立研究開発法人国立循環器病研究センター 糖尿病・脂質代謝内科)
  • 西村 邦宏(独立行政法人国立循環器病研究センター・研究開発基盤センター 予防医学・疫学情報部 EBM・リスク情報室)
  • 竹上 未紗(国立循環器病研究センター 研究基盤開発センター 予防医学・疫学情報部)
  • 住友 直方(埼玉医科大学国際医療センター 小児心臓科)
  • 堀米 仁志(筑波大学 医学医療系)
  • 吉永 正夫(国立病院機構鹿児島医療センター 小児科)
  • 宮﨑 文(静岡県立総合病院 移行医療部成人先天性心疾患科)
  • 加藤 浩一(滋賀医科大学 循環器内科)
  • 牧山 武(京都大学医学部)
  • 林 研至(金沢大学)
  • 森田 宏(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科先端循環器治療学)
  • 中島 忠(群馬大学 循環器内科)
  • 朝野 仁裕(国立循環器病研究センター)
  • 村上 卓(筑波大学 医学医療系 小児科)
  • 金古 善明(群馬大学大学院 医学系研究科)
  • 八木原 伸江(新潟大学 医学部循環器内科)
  • 古庄 知己(国立大学法人信州大学 医学部 遺伝医学教室)
  • 吉田 葉子(大阪市立総合医療センター 小児不整脈科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
先天性QT延長症候群(Long QT Syndrome: LQTS)は主に運動やストレスが誘因となり失神発作や心室細動などを生じ、小児期から成人における失神・心臓突然死の原因として重要な疾患である。小児期に診断されることが多いが、発症年齢は幅広く成人以降も継続して診療が必要である。先天性LQTSの約7割に遺伝子異常が見つかり、遺伝子検査が保険償還されていることからも遺伝子検査の診断における役割は大きい。一方で約3割の遺伝子型不明例に対する評価は定まってない。さらに本邦では2018年のガイドライン改訂により、無症状でもQTc時間が470ms以上あればβ遮断薬が推奨されるが、成人期以降の服薬継続や予後に関しては不明である。特にKCNH2遺伝子変異(LQT2)の女性では思春期以後に心事故のリスクが増加し、β遮断薬などの薬物治療抵抗性で植込み型除細動器(ICD)を適用せざるを得ない症例も多い。本研究では、先天性LQTSの全国多施設登録を行い早期診断とリスク層別化、生活指導や薬物・非薬物治療が適切に行われているかどうかを検証する。
研究方法
対象は先天性LQTSとその類縁疾患(Andersen-
Tawil症候群、Timothy症候群など)である。登録基準は日本循環器学会・遺伝性不整脈ガイドラインに従い、1)LQTSリスクスコア≧3.5点、2)LQTSの原因遺伝子変異を有する、3)心電図QTc≧500ms、のいずれかを満たす症例とする。遺伝学的検査は国立循環器病研究センターまたは滋賀医科大学にてDirect sequence法を用いて行うが、他の分担施設あるは外部検査機関で実施分も含める。
REDCapを用いたEDC(LQTSレジストリ)を用いて国循と分担施設ごとに対象患者の登録を行う。具体的には、生年月(日)・性別・初診時年齢・心電図(安静時・運動負荷後)所見・症状の有無・家系図・治療の有無さらに遺伝学的検査結果を登録する。フォローアップ可能な患者については最終フォロー時の心電図・失神発作や致死性不整脈の有無・治療薬・ICDの有無などを登録する。
結果と考察
結果:令和3年度中に国循の倫理委員会にてEDCを用いた先天性LQTSの多施設登録を行う内容について研究倫理申請が承認された。REDCapを用いた先天性LQTSの入力システムを構築し、過去の厚生労働科学研究費補助金によって登録した先天性LQTSデータ合計1158例について登録を行った。
令和4年度は前年度に引き続き対象患者の登録を行い、令和4年度末までに3800例のLQTS患者が登録された。
登録例のうち約33%に失神発作の既往を認め、遺伝子型はKCNQ1(LQT1), KCNH2(LQT2), SCN5A(LQT3)の順に多く、一方少ないながらもKCNJ2やCACNA1cなども認められている。診断時年齢は若年者(10代前半)が多いが、一方中年以降にもピークを認め、発端者の家族あるいは中年以降に初発で見つかる患者も少なからず存在した。診断時QTc時間についても非常に幅があり、必ずしも全ての患者でQT時間が延長していないことがわかった。
今後登録症例の中から施設間の重複例などを除き、データのクリーニングを実施し最終的なデータ固定後に発端者・家族、遺伝子型、バリアント別、年齢、性別によるリスク評価、さらにβ遮断薬治療の実施状況、β遮断薬治療の有効性、安全性、ICD植込み状況とその有効性と安全性について解析を行う。統計解析については、統計専門官の指導のもと実施する。特にLQT2の女性については成人期以降もイベント発生が継続して観察されることから、ハイリスク患者における治療とQOLについて解析を行う。さらに本結果をもとに現状のICD適応基準の妥当性についても検証を行う予定である。
考察:本研究により先天性LQTSの早期診断とリスク層別化、生活指導や薬物・非薬物治療が適切に行われているかどうかを検証することは、若年者の心臓突然死予防に貢献できる。目標4000例の世界的にも最大規模の先天性LQTSデータを解析することで、個々の患者に沿ったきめ細かな生活指導や治療方法を選択することが可能となる。
結論
LQTSの全国多施設登録を行い、目標の4000症例に近い数の登録に至った。今後データ解析を行い我が国のLQTS患者の早期診断とリスク層別化、生活指導や薬物・非薬物治療について検証する。

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202211053C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内12施設から計3480例(2023年3月時点)のQT延長症候群(LQTS)を登録した。遺伝子型はKCNQ1(45%)、KCNH2(37%)、SCN5A(10%)の順であったが、その他にKCNE1, KCNJ2, CACNA1c, CALM1, CALM2などのLQT関連遺伝子も認めた。遺伝子検査の95%はSanger法、5%がNGSで施行された。臨床情報や家系情報などを分析中である。本レジストリは過去類を見ない多数の登録数で、今後のガイドライン改訂等に重要なエビデンスとなる。
臨床的観点からの成果
登録患者の70%はLQTSの家族歴を有しており、8%は突然死の家族歴を有していた。また33%の患者に失神の既往(中央値13才)を認め、11%に心室細動の既往(中央値22才)を認めた。診断時QTc時間は平均483+/-54msであったが、診断後473+/-92msに短縮(β遮断薬導入12%)していた。LQTSと診断後も約6割の患者はβ遮断薬を未投与であった。
ガイドライン等の開発
日本循環器学会・日本不整脈心電学会「心臓血管疾患における遺伝学的検査と遺伝カウンセリングにおけるガイドライン」の作成を行っている。本ガイドラインは来年度(2024年度)発行予定である。
その他行政的観点からの成果
遺伝性QT延長症候群の全国登録研究を実施、12施設から3400例の登録を行った。現在臨床情報などを解析中であり、今後不整脈発生の危険因子や、予後予測因子などを明らかにする。
その他のインパクト
2023年7月開催の日本不整脈心電学会のシンポジウムにて本結果の一部を発表予定である。また2023年12月小児心電学会において講演またはシンポジウムを予定している。さらに結果は論文化と同時に国立循環器病研究センターのホームページなどでも掲載を予定している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-04-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202211053Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
3,000,000円
(2)補助金確定額
2,974,000円
差引額 [(1)-(2)]
26,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 830,430円
人件費・謝金 652,657円
旅費 299,160円
その他 501,872円
間接経費 690,000円
合計 2,974,119円

備考

備考
自己資金 119円

公開日・更新日

公開日
2023-11-21
更新日
-