種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究

文献情報

文献番号
202211048A
報告書区分
総括
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究
課題番号
20FC1056
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 竹島 多賀夫(富永病院 脳神経内科・頭痛センター)
  • 西上 智彦(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部)
  • 西原 真理(愛知医科大学 医学部 学際的痛みセンター)
  • 端詰 勝敬(東邦大学 医学部)
  • 細井 昌子(九州大学病院 心療内科)
  • 森岡 周(畿央大学健康科学部)
  • 坂部 貢(東海大学 医学部医学科)
  • 岩田 昇(広島国際大学心理科学部)
  • 鈴木 圭輔(獨協医科大学 内科学(神経))
  • 春山 康夫(獨協医科大学医学部公衆衛生学講座)
  • 佐々木 啓一(東北大学大学院歯学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,579,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢性感作症候群(CSS)の疫学的特徴と疾患概念を明らかにし、患者への理解と対策を行うことを目的として、疾患横断的な多施設共同疫学調査研究を中心とした複数の研究を行う。
研究方法
(1)CSS関連症状・危険要因等の前方視調査
新規に作成した質問紙を用いて、調査対象者のリクルートとベースライン調査とフォローアップ縦断調査を行う。従来CSI項目については項目反応理論(IRT)等を用いた検証を行い、本調査票改良のための基礎資料とする。
(2) CSS関連疾患の実態調査と治療法検討
各分担研究者は全年度を通じて実態調査と治療法解明に向けた検討を行う。
(3)連携体制による患者理解と啓発対策
複数の学会でのイベント、ホームページ等を通じて患者会等との交流・連携・啓発を行う。
結果と考察
結果:(1) CSS関連症状・危険要因等の前方視調査
基礎疾患を持つ患者、化学物資過敏症や電磁波過敏症などの患者及び訴えのある者(主に患者会等)および住民を対象として共通調査票によるデータ収集を行った。本研究期間において合計4992人のデータが収集され、データベース化された。性、年齢及びCSSを評価するCSI-A(Central Sensitization Inventory Part A)のデータに欠損のある者を除いた4436人を住民群、患者群、化学物質・電磁波過敏症患者または患者会メンバーに分けて記述疫学および分析疫学的解析を実施した結果、各群の中枢神経感作の有病率は、それぞれ6.4%、37.1%、55.8%であった。また、患者群と化学物質・電磁波過敏症患者または患者会メンバー群において化学物質に対する反応の強さとCSSとは関連を認めた。
上記データベースは臨床情報もリンクされることからCSS患者レジストリの役割も果たし、住民に対する縦断的調査等と併せて、今後も縦断的フォローアップと新規リクルートを継続する予定である。
一方、このデータベースを用いてCSI-JのCOSMINチェックを行ったところ、①CSI-Jは3因子構造(上半身の痛み・下半身の痛み・メンタル)で構成されるが、4項目は各因子への寄与が乏しいこと、②項目反応理論分析に基づく各項目(上述4項目を除く)の心理測定法的特性(識別力・選択値の閾値)は良好であること、③地域住民と各医療施設の外来患者の特異項目機能(DIF)を検討すると、患者の主訴に関係する症状項目で過大表出DIFが見られること、④決定木分析で頭痛患者と一般住民との識別ルートを探索すると、DIF項目が分類項目となっていることなどが明らかとなった。
(3)CSS 関連疾患の実態調査と治療法検討
各分担研究者の研究結果の概要は各々の分担研究報告書参照。
(3)連携体制による患者理解と啓発対策
患者等向けの市民公開講座を複数の学会にて開催した。またwebベースでの調査票の構築を行い、本研究班のホームページを新しく開設した。
考察:
今回のCOSMINチェックの結果から、CSI-Jの下位尺度を集約できる可能性がある。CSSの有病率が化学物質・電磁波過敏症患者、患者会メンバー群で高かったことは、CSSが化学物質・電磁波過敏症と関連する可能性も考えられる。患者群と化学物質・電磁波過敏症患者または患者会メンバー群との化学物質に対する反応の強さとCSSの有病率に有意な関連が見られたことから、化学物質への反応とCSSとの間に何らかの関連がある可能性がある。化学物質過敏症状出現の要因(発症契機)に関する最新動向によれば、約70%の有訴者の発症契機が、柔軟剤、洗剤、除菌剤等に含まれる香料の香りであるといわれている。化学物質過敏症状を訴える集団の脳科学的解析に関する最新の研究では、有訴者では前頭前野の活動が、非有訴者と比して高いこと、大脳辺縁系を構成する神経核群のネットワークについても同様の傾向が見られるとの報告がある。
今後は本疫学調査をさらに拡大(リクルートされた対象のフォローアップ、新規リクルート、調査項目の追加など)して行い、化学物質・電磁波過敏症とCSSとの因果関係を明らかにしていく必要がある。
CSSの診断には、現在の「症状の単純な足し算スコア」だけでは難しく、「化学物質曝露や電磁波曝露、過去の逆境的体験、現在受けているソーシャルサポート等も簡易・定量的に把握し、縦断調査の中で介入や曝露状況による症状の変化を確かめる」方向で、更なる研究を行う必要があると考えられた。
結論
CSSおよびその関連要因について、新規開発した調査票を用いた多施設共同前方視調査を行い、合計4992人のデータが収集され、以下の結果を得た。
患者からの回答でCSI-JのCOSMINチェックの結果、CSI-J尺度は集約可能と考えられた。
CSIとQEESIの関連分析から、化学物質への反応とCSSとの間に何らかの関連がある可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
2023-12-04

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202211048B
報告書区分
総合
研究課題名
種々の症状を呈する難治性疾患における中枢神経感作の役割の解明と患者ケアの向上を目指した複数疾患領域統合多施設共同疫学研究
課題番号
20FC1056
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小橋 元(獨協医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 雄一(公益財団法人神経研究所 研究部)
  • 竹島 多賀夫(富永病院 脳神経内科・頭痛センター)
  • 西上 智彦(甲南女子大学 看護リハビリテーション学部)
  • 西原 真理(愛知医科大学 医学部 学際的痛みセンター)
  • 端詰 勝敬(東邦大学 医学部)
  • 細井 昌子(九州大学病院 心療内科)
  • 森岡 周(畿央大学健康科学部)
  • 坂部 貢(東海大学 医学部医学科)
  • 岩田 昇(広島国際大学心理科学部)
  • 鈴木 圭輔(獨協医科大学 内科学(神経))
  • 春山 康夫(獨協医科大学医学部公衆衛生学講座)
  • 佐々木 啓一(東北大学大学院歯学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中枢性感作症候群(CSS)の疫学的特徴と疾患概念を明らかにし、患者への理解と対策を行うことを目的として、多施設共同疫学調査を中心とした複数の研究を行う。
研究方法
(1)中枢性感作症候群(CSS)関連症状・危険要因等の調査票の新規作成
CSS関連症状およびその危険要因候補(特に精神的・身体的ストレス曝露状況・曝露既往、成育環境等)の調査票を、既存のCSIや化学物質過敏症調査票(QEESI)に加えて新規作成する。
(2) CSS関連症状・危険要因等の前方視調査
調査対象者のリクルートとベースライン調査とフォローアップ縦断調査を行う。従来CSI項目については項目反応理論(IRT)等を用いた検証を行い、調査票改良のための資料とする。
(3) CSS関連疾患の実態調査と治療法検討
各分担研究者は全年度を通じて実態調査と治療法解明に向けた検討を行う。
(4)連携体制による患者理解と啓発対策
複数の学会でのイベント、ホームページ等を通じて患者会等との交流・連携・啓発を行う。
結果と考察
結果:
(1) 中枢性感作症候群(CSS)関連症状・危険要因等の調査票の新規作成
専門家および患者・一般市民への調査をもとに調査票を開発した。また、地域住民22,963名の調査票への回答データに基づき、各因子の構成項目ごとに多値型 IRT解析を行い、各症状項目の項目特性(識別力・閾値)を算出し、従来の 25 項目全体の合計点ではなく、3軸上のIRT推定値(θ)を用いた多軸評価の方法論を提案した。また、項目情報量に基づくと3因子とも4項目で7割近くの情報が得られることが明らかとなったため、項目特性を用いて多軸測定CATの試作版を作成した。
(2) CSS関連症状・危険要因等の前方視調査
基礎疾患を持つ患者、化学物資過敏症や電磁波過敏症などの患者及び訴えのある者(主に患者会等)および住民を対象として共通調査票によるデータ収集を行った。本研究期間において合計4992人のデータが収集され、データベース化された。性、年齢及びCSSを評価するCSI-A(Central Sensitization Inventory Part A)のデータに欠損のある者を除いた4436人を住民群、患者群、化学物質・電磁波過敏症患者または患者会メンバーに分けて解析を実施した結果、各群の中枢神経感作の有病率は、それぞれ6.4%、37.1%、55.8%であった。また、患者群と化学物質・電磁波過敏症患者または患者会メンバー群において化学物質に対する反応の強さとCSSとは関連を認めた。上記データベースはCSS患者レジストリの役割も果たす。今後も縦断的フォローアップと新規リクルートを継続する予定である。
一方、このデータベースを用いてCSI-J(25項目)のCOSMINチェックを行い、①CSI-Jは大まか上記で提案した3因子構造に分けられること、②項目反応理論分析に基づく各項目(上述4項目を除く)の心理測定法的特性(識別力・選択値の閾値)は良好であること、③地域住民と各医療施設の外来患者の特異項目機能(DIF)を検討すると、患者の主訴に関係する症状項目で過大表出DIFが見られること、④決定木分析で頭痛患者と一般住民との識別ルートはDIF項目が分類項目となっていること等が明らかとなった。
(3)CSS 関連疾患の実態調査と治療法検討
各分担研究者の研究結果の概要は各々の分担研究報告書参照。
(4)連携体制による患者理解と啓発対策
患者等向けの市民公開講座を複数の学会にて開催した。またwebベースでの調査票の構築を行い、本研究班のホームページを新しく開設した。
考察:
今回の検討結果からCSI-J尺度は集約改良できる可能性がある。CSSの有病率や得点が化学物質・電磁波過敏症患者、患者会メンバー群で高かったことは、CSSが化学物質・電磁波過敏症と関連する可能性を示唆している。
化学物質過敏症状の発症契機は、約70%が柔軟剤、洗剤、除菌剤等に含まれる香料の香りであるといわれている。最新の研究では、有訴者では前頭前野の活動が高く、大脳辺縁系を構成する神経核群のネットワークについても同様の傾向が見られるとの報告がある。
今後は本疫学調査をさらに拡大して行い、化学物質・電磁波過敏症とCSSとの因果関係を明らかにしていく必要がある。
CSSの診断には、現在の「症状の単純な足し算スコア」だけでは難しく、「化学物質曝露や電磁波曝露、過去の逆境的体験、現在受けているソーシャルサポート等も簡易・定量的に把握し、縦断調査の中で介入や曝露状況による症状の変化を確かめる」方向で、更なる研究を行う必要があると考えられた。
結論
新規開発した調査票を用いた多施設共同前方視調査を行い、CSI-Jは改良が可能と考えられた。また、化学物質への反応とCSSとの間に何らかの関連がある可能性が示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202211048C

成果

専門的・学術的観点からの成果
患者・住民集団の疫学調査を行い、中枢神経感作症候群(CSS)の従来の評価尺度であるCSI-Jについて初めてIRT分析を実施しCSI-Jが改良できる可能性を示した。また、化学物質過敏症とCSSとの間に何らかの関連がある可能性を示した。この成果は、疾患概念が曖昧なCSSの診断基準策定に繋がる大きな一歩となる。
臨床的観点からの成果
患者、有訴者、一般住民の合計4,992人の調査データが収集され、データベース化された。今後さらに調査対象機関・フィールドを拡大してリクルートを継続する。このデータベースは臨床情報もリンクされることからCSSレジストリの役割も果たし、今後の縦断的フォローアップ調査等と併せて、CSSの本態解明と診断基準策定への貴重な資料となる。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等の開発には至っていない。
その他行政的観点からの成果
中枢性感作症候群(CSS)に関する疾患横断的な多施設共同疫学調査を実施し、住民群、患者群、化学物質・電磁波過敏症患者または患者会メンバー群ごとの有病率(有訴率)を明らかにした、また化学物質に対する反応の強さとCSSとが関連する可能性を示唆した。これらの成果は資料として活用され、CSSや化学物質過敏症対策の効果的な推進に貢献した。
その他のインパクト
患者等向けの市民公開講座などのイベントを複数の学会にて開催し、市民啓発を行った。また、疫学調査を進める中で、CSS や化学物質過敏症候群等の症状に悩む人々から多くの期待 や激励を含む貴重なコメントをいただいた。 今後はWebぺーじなども通じて市民啓発に取り組んで聞きたい。

発表件数

原著論文(和文)
17件
原著論文(英文等)
26件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
56件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
202211048Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,552,000円
(2)補助金確定額
7,336,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,216,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,485,182円
人件費・謝金 1,274,390円
旅費 363,746円
その他 1,239,926円
間接経費 1,973,000円
合計 7,336,244円

備考

備考
自己資金244円

公開日・更新日

公開日
2023-07-19
更新日
2024-01-22