先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ

文献情報

文献番号
202211038A
報告書区分
総括
研究課題名
先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ
課題番号
20FC1046
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 洋一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター )
  • 森崎 裕子(公益財団法人榊原記念財団附属 榊原記念病院  臨床遺伝科)
  • 仁科 幸子(蓮江 幸子)(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 眼科)
  • 松永 達雄(独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター聴覚・平衡覚研究部 / 臨床遺伝センター)
  • 小崎 里華(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 遺伝診療センター遺伝診療科)
  • 青木 洋子(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 森山 啓司(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面頸部機能再建学系 顎顔面機能修復学講座 顎顔面矯正学分野)
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター 遺伝科)
  • 古庄 知己(国立大学法人信州大学 医学部 遺伝医学教室)
  • 緒方 勤(国立大学法人浜松医科大学  医学部)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学 大学院医学研究科新生児・小児医学分野)
  • 水野 誠司(愛知県医療療育医療総合センター 発達障害研究所 遺伝子医療研究部 兼 中央病院)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療科)
  • 松浦 伸也(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 副島 英伸(国立大学法人佐賀大学 医学部 分子生命科学講座)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学 原爆後障害医療研究所)
  • 樋野村 亜希子(国立大学法人滋賀医科大学 倫理審査室)
  • 難波 栄二(国立大学法人鳥取大学 研究推進機構)
  • 渡邉 淳(金沢大学附属病院)
  • 加藤 光広(昭和大学 医学部)
  • 上原 朋子(愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 遺伝子医療研究部)
  • 渡辺 智子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 遺伝子診療部門)
  • 鈴木 寿人(慶應義塾大学 医学部)
  • 吉橋 博史(東京都立小児総合医療センター 臨床遺伝科)
  • 武内 俊樹(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
27,692,000円
研究者交替、所属機関変更
①研究分担者:小﨑里華 組織改編に伴い、所属部署の名称が変更 (旧)国立研究開発法人国立成育医療研究センター・小児内科系専門診療部遺伝診療科・診療部長  (新)国立研究開発法人国立成育医療研究センター・遺伝診療センター 遺伝診療科・診療部長  ②研究分担者:吉橋博史 所属機関の地方独立行政法人化に伴い、所属機関の名称が変更 (旧)東京都立小児総合医療センター・遺伝診療部 臨床遺伝科・部長                               (新)地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立小児総合医療センター・遺伝診療部 臨床遺伝科・部長 

研究報告書(概要版)

研究目的
研究によって分子遺伝学的に確立された先天異常症候群の乳幼児期・成人後期の臨床情報を収集・解析(Reverse phenotyping)して全ライフステージを網羅することにより真の合併症を明らかにすることを本研究の目的とする。先天異常症候群のような超希少疾患ではランダム化比較試験が困難なことから質の高い自然歴データが対照群データとされる。先天異常症候群の相当数はヒストン修飾やRAS信号伝達経路など限られた過程の異常により発症。ヒストン修飾酵素修飾薬・RAS経路阻害剤などシーズの開発が進んでいることからライフステージ全体の質の高い自然歴の把握は急務。本研究では先天異常症候群患者の自然歴及び合併症について情報を集積し文献との比較検討を行う。得られた結果からガイドラインの作成・公開を行い既存のガイドラインの改定も提言。具体的には以下の3つを研究の柱としている。1.全ライフステージを網羅する診断基準への改定2.指定難病に類縁する症候群の指定難病としての適格性の評価3.乳児期から成人までの全自然歴を網羅した疾患レジストリの構築。本研究は以下の3つの独創的な特色を有する。(1)研究代表者が理事長を務める日本先天異常学会・日本人類遺伝学会、前理事長であった小児遺伝学会との連携により各疾患の研究者と先天異常症候群患者の診療・研究に従事する専門医群の複合的な臨床研究ネットワークが構築済みであり、国内だけでなく、国外からの症例の収集や情報の提供・発信が可能な体制が整っている。(2)研究分担者の多くが患者会と連携しより詳細で長期に渡る情報収集が可能である。(3)研究代表者が主導するIRUD(未診断疾患イニシアチブ)等の全国ゲノム研究により蓄積された変異陽性症例の臨床情報のデータの利活用が可能で、高い費用対効果のある政策研究を実現する。国内の希少遺伝疾患について、網羅的・長期的な情報収集と研究が可能な状態が整っている。令和4年度は、本研究の対象疾患に対して研究分担者と協力し、遺伝学的診断のついた患者の臨床症状の収集を行うReverse phenotypingを進めていく。
研究方法
本研究の対象疾患に関する自然歴をはじめとする臨床症状と合併症、重症度の収集・解析を行い、診療ガイドラインや重症度分類の改定を提言。疾患によってはReverse phenotypingを行い過去に報告のない合併症や病的バリアントの検索・報告なども行った。各疾患の患者会に積極的に参加し情報収集だけではなく疾患レジストリへの参加を促した。患者アンケートなどから先天異常症候群の診療の向上に資する情報および患者のニーズも収集。
結果と考察
本研究の対象疾患に対して各研究分担者と研究を行った。ヌーナン症候群ではMEK阻害薬が重篤な病態の患者に対して効果があることが示された。耳鼻咽喉科を受診するCHARGE症候群未診断患者をReverse phenotypingすることにより早期診断に至る症例の特徴を明らかにした。保険適応となったマイクロアレイ染色体検査については結果の解釈についての検討を行いデータ解釈についての評価を行うとともに結果解釈補助ツールを開発し、臨床現場で使用することにより改良を行った。エーラス・ダンロスをはじめとする結合織疾患に関しては遺伝子だけではなくmRNAを用いたtranscriptome解析による病原性の証明が可能であることを明らかにした。各疾患の患者会に参加し自然歴の収集や合併症に関しての知見を深めた。アンジェルマン症候群の臨床型連関の検討を行ったところ臨床症状のみでは診断できないことが判明し遺伝学的解析の重要性を強調した。歌舞伎症候群においてメチル化率を算定しスコア分類を行った。ベックウィズヴィーデマン症候群患者において多座位低メチル化(MLID)の同定を行いMLID患者に対して成果初のTLE6変異を含む複数のメチル化DMR維持タンパク構造遺伝子変異の同定を行った。脆弱X症候群では患者会を定期開催し診断向上のためのアンケートを行うと同時に患者レジストリの登録を行った。
結論
Reverse phenotypingを目的とする研究は研究対象疾患のスペクトラムの幅が広がる有用な所見を見つけることに繋がった。疾患の自然歴・実態を明らかしデータベースへの蓄積・統合により先天異常症候群の診断・診療の質の向上に寄与することが期待される。小児慢性疾患や指定難病の申請対象疾患の基礎データとなりうることも期待できる。今回の研究で得られた知見を臨床へフィードバックし更に多くの先天異常症候群に対してReverse phenotypingを進めていくことが患者および患者家族のさらなるQOL向上に貢献できると考える。

公開日・更新日

公開日
2024-04-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2024-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202211038B
報告書区分
総合
研究課題名
先天異常症候群のライフステージ全体の自然歴と合併症の把握:Reverse phenotypingを包含したアプローチ
課題番号
20FC1046
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 松原 洋一(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター )
  • 森崎 裕子(公益財団法人榊原記念財団附属 榊原記念病院  臨床遺伝科)
  • 仁科 幸子(蓮江 幸子)(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 小児外科系専門診療部 眼科)
  • 松永 達雄(独立行政法人 国立病院機構東京医療センター 臨床研究センター聴覚・平衡覚研究部 / 臨床遺伝センター)
  • 小崎 里華(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター 遺伝診療センター遺伝診療科)
  • 青木 洋子(東北大学 大学院医学系研究科 )
  • 森山 啓司(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 顎顔面頸部機能再建学系 顎顔面機能修復学講座 顎顔面矯正学分野)
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター 遺伝科)
  • 古庄 知己(国立大学法人信州大学 医学部 遺伝医学教室)
  • 緒方 勤(国立大学法人浜松医科大学  医学部)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学 大学院医学研究科新生児・小児医学分野)
  • 水野 誠司(愛知県医療療育医療総合センター 発達障害研究所 遺伝子医療研究部 兼 中央病院)
  • 岡本 伸彦(地方独立行政法人 大阪府立病院機構 大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療科)
  • 松浦 伸也(広島大学 原爆放射線医科学研究所)
  • 副島 英伸(国立大学法人佐賀大学 医学部 分子生命科学講座)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学 原爆後障害医療研究所)
  • 樋野村 亜希子(国立大学法人滋賀医科大学 倫理審査室)
  • 難波 栄二(国立大学法人鳥取大学 研究推進機構)
  • 渡邉 淳(金沢大学附属病院)
  • 加藤 光広(昭和大学 医学部)
  • 上原 朋子(愛知県医療療育総合センター発達障害研究所 遺伝子医療研究部)
  • 渡辺 智子(国立研究開発法人国立がん研究センター 中央病院 遺伝子診療部門)
  • 鈴木 寿人(慶應義塾大学 医学部)
  • 吉橋 博史(東京都立小児総合医療センター 臨床遺伝科)
  • 武内 俊樹(慶應義塾大学 医学部)
  • 沼部 博直(東京医科大学 遺伝子診療センター)
  • 増井 徹(国立精神・神経医療研究センター メディカル・ゲノムセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
①増井 徹 所属機関の規定変更により分担研究者として参加できなくなったため。令和2年度のみ参加。 ②沼部 博直 令和4年3月31日付で退職。令和2年度、3年度参加。 ③仁科幸子 組織改編に伴い、所属部署の名称が変更 (旧)国立研究開発法人国立成育医療研究センター・病院・感覚器・形態外科部眼科・診療部長                       (新)国立研究開発法人国立成育医療研究センター・病院・小児外科系専門診療部 眼科・診療部長  ④小﨑里華 組織改編に伴い、所属部署の名称が変更 (旧)国立研究開発法人国立成育医療研究センター・小児内科系専門診療部遺伝診療科・診療部長  (新)国立研究開発法人国立成育医療研究センター・遺伝診療センター 遺伝診療科・診療部長  ⑤研究分担者:吉橋博史 所属機関の地方独立行政法人化に伴い、所属機関の名称が変更 (旧)東京都立小児総合医療センター・遺伝診療部 臨床遺伝科・部長                               (新)地方独立行政法人東京都立病院機構 東京都立小児総合医療センター・遺伝診療部 臨床遺伝科・部長 

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は平成23年度から先天性異常症候群の研究を実施してきた。それらの研究によって分子遺伝学的に確立された先天異常症候群の乳幼児期・成人後期の臨床情報を収集・解析(いわゆるReverse phenotyping)し、全ライフステージを網羅することにより真の合併症を明らかにすることを本研究の目的とする。先天異常症候群患者の自然歴及び合併症について情報を集積し、文献との比較検討を行う。得られた結果からガイドラインの作成・公開を行い、既存のガイドラインの改定も提言する。具体的には以下の3つを研究の柱としている。(1)全ライフステージを網羅する診断基準への改定 (2)指定難病に類縁する症候群の指定難病としての適格性の評価 (3)乳児期から成人までの全自然歴を網羅した疾患レジストリの構築である。
また本研究は以下の3つの独創的な特色を有する。(1)研究代表者が理事長を務める日本先天異常学会・日本人類遺伝学会、前理事長であった小児遺伝学会との連携により、各疾患の研究者と先天異常症候群患者の診療・研究に従事する専門医群の複合的な臨床研究ネットワークが構築済みであり、国内だけでなく、国外からの症例の収集や情報の提供・発信が可能な体制が整っている。(2)研究分担者の多くが患者会と連携し、より詳細で長期に渡る情報収集が可能である。(3)研究代表者が主導するIRUD(未診断疾患イニシアチブ Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)等の全国ゲノム研究により蓄積された変異陽性症例の臨床情報のデータの利活用が可能で、高い費用対効果のある政策研究を実現する。
国内の希少遺伝疾患について、網羅的・長期的な情報収集と研究が可能な状態が整っている。
研究方法
先天異常症候群に関する自然歴をはじめとする臨床症状と合併症、重症度の収集・解析を行った。Reverse phenotypingを行い、過去に報告のない合併症を報告し、病的バリアントの検索・報告なども行った。各疾患の患者会に積極的に参加し情報収集だけではなく疾患レジストリへの参加を促し先天異常症候群の診療の向上に資する情報oy及び患者のニーズも収集した。保険収載されたマイクロアレイ染色体検査については結果解釈ツールの開発を行った。
結果と考察
ヌーナン症候群の診断基準を作成するにあたって原因遺伝子として新たにMAPK1、SPRED2を追加する一方、PREB1とA2ML1については当面除外することが妥当であると考えられた。ヌーナン症候群の重篤な合併症に対してMEK阻害薬の投与については臨床試験の実施の必要性を指摘した。Costello症候群における遺伝子変異スペクトラムと遺伝子変異に特徴的な臨床症状をまとめ、発がん頻度を含めた臨床症状について検討を行い、診療方針を論文として報告した。CFC症候群についても脊髄神経根腫大という新しい表現型を報告した。血管型エーラス・ダンロス(EDS)症候群では血管合併症の好発年齢は成人後であるが、気胸・血気胸、消化管穿孔は、20歳以下で初発の合併症として認めることが多く、これらを認めるときは血管型EDSを疑い、遺伝学的検査を行うことが早期発見に重要であることが示された。末梢血のDNAを用いた解析で原因のバリアントが指摘できない症例において血液や毛包のmRNAを用いたtranscriptome解析が有用であることも示された。歌舞伎症候群に関しては高率に頭蓋縫合早期癒合症が合併することやメチル化率によってクラスター分類が可能であることを明らかにした。ルビンシュタイン・テイビ症候群について長期予後をまとめ緑内障などの眼科・整形外科的異常が効率に合併することが分かった。ベックウィズヴィーデマン症候群(BWS)についてスコアリングシステムの研究を行い、その有用性を研究期間内に診断した44例で確認した。BWSのスコアリングシステムを使用することによりBWSとウィーバー症候群、ソトス症候群との臨床的な鑑別に有用と考えられた。マイクロアレイ染色体検査の結果解釈ツールに関しては既に全国の施設、医師から合計800回以上のダウンロードをされておりマイクロアレイ染色体検査の結果解釈の均てん化に貢献していると考えられる。
結論
今回の研究で乳幼児期・成人後期を中心として臨床情報を収集・解析(いわゆるReverse phenotyping)を行った。今回の研究によって数多くの疾患の未報告の病的変異や合併症が明らかになり診断基準への改定・提言を行うことができた。また多くの先天異常症候群において全自然歴を網羅した疾患レジストリの構築を行うことができたと考えている。今回の研究で得られた成果を基に、さらなる先天異常症候群の医療の質の向上・患者および家族のQOLの向上に貢献できると考える。

公開日・更新日

公開日
2024-04-10
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2024-04-10
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202211038C

収支報告書

文献番号
202211038Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
35,999,000円
(2)補助金確定額
35,661,000円
差引額 [(1)-(2)]
338,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 10,095,077円
人件費・謝金 7,810,724円
旅費 1,510,934円
その他 7,937,718円
間接経費 8,307,000円
合計 35,661,453円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-02-09
更新日
-