ナノテクノロジーを用いたDDSによる耳鳴の克服

文献情報

文献番号
200912035A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノテクノロジーを用いたDDSによる耳鳴の克服
課題番号
H19-ナノ・若手-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 達則(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 壽一(京都大学医学部医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 田畑 泰彦(京都医学再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体組織工学・材料学)
  • 中川 隆之(京都大学医学部医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内耳ドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いることによって治療方法のなかった耳鳴に対する新規治療を提供する。リドカインは経鼓膜的に鼓室内投与すると耳鳴に有効だが持続時間が短くめまいが起こることから治療として受け入れがたいが、徐放製剤を蝸牛の正円窓膜上に極細径内視鏡を用いて留置する方法を試みる。またステルス型ナノパーティクルによる難聴治療についても検討した。このDDSは将来的には広く他の内耳疾患に対して応用可能である。
研究方法
リドカイン徐放パーティクルを作成し、in vitroで徐放すること、in vivoではモルモットの蝸牛にリドカインを運搬できた。本年度は平均直径100µmのパーティクルを用いた。今年度は、1) リドカインの効果を検出するための分子生物学的手法の確立、2) 同生理学的検査、3) 動物行動モデルを用いた有用性の評価、4) ヒト頭部標本を用いた検討を行い、臨床試験の準備を行った。
結果と考察
リドカインを内耳に投与したときに発現量の変化する分子を検索し、GABA関連の分子について、有用な結果を得た。生理学的検査として、聴性脳幹反応や聴性複合活動電位などを検討したが、リドカインによる有意な変動を検出するには至らなかった。行動モデルとして、音響暴露によって耳鳴を誘発したラットを用いた評価が可能であることを共同実験によって確認した。臨床試験のデザインについて、討論を行ったが、GMP基準を満たす製剤の作成など、いくつかの問題点が明らかになった。
他に、ステロイド含有ステルス型ナノパーティクルがステロイド投与や生食投与群に比べて騒音難聴後の聴力を有意に改善したことについて、論文を投稿した。
結論
リドカイン徐放パーティクルの前臨床試験を行った。動物を用いた有効性評価を具体的に勧めている。ヒトにおける安全性・有効性を確認するための臨床試験プロトコルを作成中である。
ステロイド含有ステルス型ナノパーティクルについて、ステロイド単独よりも高い臨床効果が期待されるが、これについても臨床応用が可能であると考えている。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200912035B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノテクノロジーを用いたDDSによる耳鳴の克服
課題番号
H19-ナノ・若手-002
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 達則(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 壽一(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 田畑 泰彦(京都大学再生医科学研究所 生体組織工学研究部門 生体組織工学、材料学)
  • 中川 隆之(京都大学大学院医学研究科 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
  • 平海 晴一(京都大学医学部附属病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
内耳ドラッグデリバリーシステム(DDS)を用いることによって、これまで現実的な治療方法の存在しなかった耳鳴に対する新たな治療方法を提供する。
研究方法
既存の方法を用いての蝸牛への薬物投与は、蝸牛の緻密な骨、少ない血流、血液-内耳関門の存在などのため、容易ではなかった。我々は、マイクロパーティクルを用いた正円窓膜経由局所投与、ナノパーティクルを用いた全身投与の2つのアプローチで内耳の新規薬物治療を試みた。
1)リドカイン含有PLGAマイクロパーティクルによる耳鳴治療
リドカインは以前から耳鳴抑制効果があることが知られていたが、持続時間が短く、局所投与では重篤なめまいが必発で、現実的な治療法として受け入れがたかった。正円窓膜は内耳と中耳が膜で隔てられている独特の場所である。われわれは、PLGAマイクロパーティクルによるリドカイン徐放製剤を作成し、正円窓膜上に留置することで耳鳴抑制効果を得るというデザインを考按し、パーティクルを作成し、前臨床試験を行った。
2) ベタメサゾン含有ステルス型ナノパーティクルによる難聴治療
耳鳴の主要な原因は感音難聴であり、その治療は急性期のステロイド投与に大きく依存している。しかし、内耳は全身投与薬物の利用率は低く、通常全身大量投与を行うが、副作用は無視できない。我々は、ステロイドを含有させたステルス型ナノパーティクルを用いて、音響外傷による難聴の治療効果を評価した。
結果と考察
1)リドカイン含有PLGAマイクロパーティクル
PLGAマイクロパーティクルを作成し、モルモットを用いて蝸牛内において少なくとも数日間はリドカイン濃度を維持することが出来ることを示した。また、これによる難聴や局所炎症のような有害事象もごく軽度であることが分かった。また、人側頭骨を用いて人への投与手技を検証した。
また、動物実験による耳鳴抑制効果の検証として、リドカイン投与による内耳や脳での様々な分子の発現量の変化を検討した。今後、行動実験や臨床試験でin vivoデータを蓄積する。
2)ベタメサゾン含有ステルス型ナノパーティクル
このパーティクルの全身投与により、蝸牛内には単純なステロイド投与よりも高濃度のステロイドが検出され、聴力も有意に改善した。
結論
本研究で用いた材料はそれぞれすでに臨床で用いられているものであり、臨床応用へのハードルは低い。引き続き臨床応用を実現すべく継続して行く。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200912035C

成果

専門的・学術的観点からの成果
耳鳴の発生・認識機序は明らかになっていない。リドカイン投与によって蝸牛内で発現量の変化する分子を明らかにすることで、耳鳴抑制に対する作用機序、ひいては耳鳴の発生機序についての知見を得るきっかけとなった。
臨床的観点からの成果
積極的な治療手段がきわめて限られている内耳疾患に対する治療方法として、徐放製剤を用いた内耳局所投与や、ナノパーティクルを用いた内耳への効果の改善といった可能性を示すことが出来た。内耳治療薬として候補に挙がっている薬剤は多数存在するので、これらの手技を用いて臨床応用を実現して行く基盤となる研究を行うことが出来た。
ガイドライン等の開発
現在、リドカイン含有PLGAパーティクルは臨床試験のプロトコルを開発中である。
その他行政的観点からの成果
特になし。
その他のインパクト
主任研究者が第25回日本DDS学会においてシンポジストとして招かれた内容について、Medical Tribune誌に掲載された(2009年8月27日号)。また、当科ホームページ http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~ent/ に適宜情報を掲載した。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
21件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
65件
学会発表(国際学会等)
54件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Horie RT, Sakamoto T, Nakagawa T,et al.
Sustained delivery of lidocaine into the cochlea using poly lactic/glycolic acid microparticles
Laryngoscope , 120 (2) , 377-383  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-