がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現

文献情報

文献番号
200912034A
報告書区分
総括
研究課題名
がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現
課題番号
H19-ナノ・若手-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
狩野 光伸(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ナノ粒子内包薬剤は難治性固形癌の治療では効果を発揮しきれていない。本研究では、TGF-β阻害剤の併用により、副作用の増悪を最小限にしながらナノDDSの薬効を増強することを目指してきた。本年度は、本方法に関して、各種毒性解析を行うこと、また、適応患者の絞込みを行うべく、ヒト腫瘍病理標本を用いて血管壁細胞被覆程度の解析を行うことを目的とした。
研究方法
まず毒性評価には、ヒト膵癌由来BxPC3細胞を皮下移植した担癌ヌードマウス及び非担癌ヌードマウスを用い、DACHPtミセルを投与、または、非担癌ヌードマウスを用い放射性ラベル物質を内包したミセルを投与し用いた。また、ヒト病理標本の組織学的評価では、膵癌、胃癌(通常胃癌とスキルス胃癌双方)、大腸癌(組織型はint)、卵巣癌、胸膜中皮腫について、各5症例以上の病理標本に対して、連続切片を作成し、通常のHE染色、血管内皮を染色するCD34の免疫染色、ペリサイトと考えられる血管外周に存在するSMA陽性細胞の免疫染色による検出を行った。なお本研究では、東京大学医学部の定める規則に則って動物実験を行い、また病理標本解析に関しては同倫理委員会の承認を受けてから行っており、倫理面の問題はないと判断している。
結果と考察
毒性評価の結果、TGF-β阻害剤を併用したナノDDSでは、明らかな副作用の増悪は認められないことが示唆された。また、組織学的評価の結果、膵癌、スキルス胃癌、胸膜中皮腫については、腫瘍血管周囲にSMA陽性細胞がほぼ必ず存在し、ペリサイトによる被覆がある血管パターン、一方で、通常胃癌、大腸癌、卵巣癌は、血管周囲にSMA陽性細胞はほぼ認められず、ペリサイトの被覆がほぼない血管パターンであることが判明した。これまでにBxPC3膵癌モデルは前者、C26大腸癌モデルは後者の血管パターンであり、前者はTGF-β阻害剤を併用することでナノDDSが初めて奏功し、後者ではナノDDS単独でも蓄積できることが判明している。この結果と合わせると、ヒトにおいても、膵癌、スキルス胃癌、胸膜中皮腫では、TGF-β阻害剤を併用することでナノDDSが初めて奏功する可能性が示唆された。
結論
本年度は、TGF-β阻害剤を併用したナノDDSの副作用が増悪はしないこと、またこの方法論のヒトでの適応疾患として、膵癌、スキルス胃癌、悪性中皮腫の可能性があることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200912034B
報告書区分
総合
研究課題名
がん微小環境制御を併用したナノドラッグによる難治性固形がん治療の実現
課題番号
H19-ナノ・若手-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
狩野 光伸(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 西山 伸宏(東京大学 大学院医学系研究科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腫瘍標的ナノDDS開発において固形癌での蓄積向上は大きな課題であるが、現状は、一部の腫瘍でしか十分な効果は証明されていない。本研究ではナノDDSの効果を規定するEPR効果の要素、すなわち血管など腫瘍間質の構成要素を特異的に制御することで、一般臓器への薬剤蓄積の増悪なく、特に難治性固形癌でのナノDDS貯留増強を実現することを目的とする。
研究方法
漏出性腫瘍血管を持つC26大腸癌モデルとそうでないBxPC3膵癌モデルを用いて、各種阻害剤の効果と組織学的血管構築を比較した。また毒性解析を行った。これに基づき適応患者の絞込みを行うべく、各種ヒト腫瘍病理標本に対する血管壁細胞被覆程度の解析を行った。
結果と考察
C26腫瘍に対してはVEGF阻害が、BxPC3腫瘍ではTGF-β阻害剤がナノ粒子蓄積増強効果を示した。関連して組織学的には、血管の壁細胞による被覆が強いほど元来の漏出性が低く、TGF-β阻害剤を併用した効果が発揮されることが判明した。この結果から、壁細胞被覆の強い血管を持つ腫瘍においては、本研究の戦略がふさわしいことが示唆された。毒性解析の結果、TGF-β阻害剤の併用投与により有意な体重変化や正常臓器への分布の変化、各種異常所見の出現は認めなかった。ヒト標本の病理学的解析から、膵癌、スキルス胃癌、悪性胸膜中皮腫については同様の血管構築を持ち、本研究による方法の適応対象となりうることが示唆された。また通常の胃癌、大腸癌、卵巣癌は壁細胞被覆が弱く、ナノDDSが単独でも奏功しうることが示唆された。
結論
本研究により、TGF-β阻害剤併用ナノDDSのヒトでの適応疾患として、膵癌、スキルス胃癌、悪性中皮腫の可能性があることが示唆された。これらの現在難治とされる固形腫瘍に対して、有効な化学療法が提供されることが期待される。なかでも、膵癌やスキルス胃癌はわが国でも多く見られる難治性固形癌であり、また悪性中皮腫はアスベスト関連で発がんする難治性の腫瘍として悪名高く、これらの腫瘍に対して効果的かつ副作用の強くない化学療法で奏効率が上がれば福音となる。本研究を通じて、難治性固形癌に対してナノDDSの効果を発揮させられるようになれば、その社会的、医療的効果は計り知れない。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200912034C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究の結果、ナノ粒子とTGFβ阻害剤の併用について、適応癌腫はペリサイトに被覆された腫瘍血管を多く持つような腫瘍である可能性が示唆された。一方、ナノ粒子単独でも蓄積する腫瘍では本方法はナノDDSの効果を変化させないことが示唆された。近年広く行われているVEGF阻害と比較すると、VEGF阻害の併用は後者、すなわちもとより漏出性の高い血管に対してナノDDSの薬効を増強する可能性が示された。なお、長期毒性はナノDDS単独に比べてTGFβ阻害剤併用での増悪は見られなかった。
臨床的観点からの成果
本研究の結果、ナノ粒子とTGFβ阻害剤の併用について、適応は膵癌、スキルス胃癌、悪性中皮腫である可能性が示唆された。一方ナノDDSの作用増強は見られない可能性が高い腫瘍は通常胃癌、大腸癌、卵巣癌であった。後者では、VEGF阻害の併用がナノDDSの薬効を増強する可能性が示された。なお、長期毒性はナノDDS単独に比べてTGFβ阻害剤併用での増悪は見られなかった。
ガイドライン等の開発
本研究はガイドラインなどの開発とは関係しなかった。
その他行政的観点からの成果
本研究により、現在難治とされる固形腫瘍に対して、新規の有効な化学療法の可能性が示されてきた。なかでも、膵癌やスキルス胃癌はわが国でも多く見られる難治性固形癌であり、また悪性中皮腫はアスベスト関連で発がんする難治性の腫瘍として悪名高く、これらの腫瘍に対して効果的かつ副作用の強くない化学療法で奏効率が上がれば福音となる。本研究により、それをわが国が得意とするナノDDSを利用し、その特徴である低副作用を保ったまま治療を実現できる可能性が示唆されたと考える。
その他のインパクト
本研究の成果は、日経産業新聞(2007年、2008年)、雑誌ATES「現在開発進行中、期待される新薬」特集(2008年)、週刊現代誌「副作用が激減「ナノバイオ療法」」(2009年)、Nature誌日本語版jobs and events欄特集「がんの発生・増殖・転移を探る」(2009年)に掲載された。また、第25回日本DDS学会学術総会(2009年)において国際ワークショップ「DDSとがん組織(間質、脈管)」の企画実行につながった。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
31件
その他論文(和文)
6件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
38件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計5件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
M. Oba, M. R. Kano, N. Nishiyama, et al.
Antiangiogenic gene therapy of solid tumor by systemic injection of polyplex micelles loading plasmid DNA encoding soluble Flt-1
Mol. Pharm. , 7 (2) , 501-509  (2010)
原著論文2
Kano MR, Komuta Y, K. Miyazono, et al.
Comparison of the effects of the kinase inhibitors, Imatinib, Sorafenib, and TGF-β receptor inhibitor, on extravasation of nanoparticles from neovasculature
Cancer Sci. , 100 (1) , 173-180  (2009)
原著論文3
M. Kumagai, M. R. Kano, N. Nishiyama, et al.
Enhanced magnetic resonance imaging of experimental pancreatic tumor in vivo by block-copolymercoated magnetite nanoparticles combined with TGF-beta inhibitor
J. Control. Release , 140 (3) , 306-311  (2009)
原著論文4
M. Han, N. Nishiyama, M.R. Kano, et al.
Enhanced percolation and gene expression in tumor hypoxia by PEGylated polyplex micelles
Mol. Ther. , 17 (8) , 1404-1410  (2009)
原著論文5
A. Komuro, M.R. Kano, K. Miyazono, et al.
Diffuse-type gastric carcinoma: progression, angiogenesis, and transforming growth factor beta signaling
J. Natl. Cancer Inst. , 101 (8) , 592-604  (2009)
原著論文6
M. Oka, M.R. Kano, K. Miyazono, et al.
Inhibition of endogenous TGF-β signaling enhances lymphangiogenesis
Blood , 111 (9) , 4571-4579  (2008)
原著論文7
Miyata K, M. R. Kano, N. Nishiyama, et al.
Polyplex Micelles from Triblock Copolymers Composed of Tandemly Aligned Segments with Biocompatible, Endosomal Escaping, and DNA-Condensing Functions for Systemic Gene Delivery to Pancreatic Tumor Tissue
Pharm Res. , 25 (12) , 2924-2936  (2008)
原著論文8
H. Cabral, N. Nishiyama, K. Kataoka.
Optimization of (1,2-diamino-cyclohexan e) platinum(II)-loaded polymeric micelles directed to improved tumor targeting and enhanced antitumor activity
J. Control. Release , 121 (3) , 146-155  (2007)
原著論文9
C. Iwata, M. R. Kano, K. Miyazono, et al.
Inhibition of Cyclooxygenase-2 (COX-2) Suppresses Lymph Node Metastasis via Reduction of Lymphangiogenesis
Cancer Res. , 67 (21) , 10181-10189  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-