老年者における呼吸不全に関する研究

文献情報

文献番号
199700593A
報告書区分
総括
研究課題名
老年者における呼吸不全に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 英忠(東北大学医学部附属病院老人科)
研究分担者(所属機関)
  • 矢内勝(東北大学医学部附属病院老人科)
  • 米山武義(米山歯科クリニック)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
8,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
老年者の呼吸不全に陥る原因として最も多い疾患は肺炎である。肺炎は日本人の死因の第四位で上昇中であり、特に男性は第三位と増加している。また、老年者の直接死因では肺炎が最も多く約1/3を占めている。本研究では老年者の呼吸不全を予防するには肺炎の予防を目的として組み立てている。
私共は、これまで長寿科学総合研究助成により老人性肺炎の病態について明らかにしてきた。老人性肺炎は不顕性誤嚥によって生じる。不顕性肺炎は大脳基底核の脳血管障害によって生じる。そして、不顕性誤嚥は嚥下反射と咳反射の低下によって生じることをつきとめた。嚥下反射と咳反射はサブスタンスPの不足がこれらの反射を低下させていることをつかんだ。
大脳基底核の障害は、ドーパミンの合成能をも低下させ、ドーパミンはサブスタンスPを刺激して産生を上昇させていることから、サブスタンスPを上昇させ両反射を正常に保つにはドーパミン補充法が有効なことを見出した。更に、末梢性にカプサイシンを少量投与しても嚥下反射を正常化したことから、肺炎を起こす老年者には、ある程度辛い食物も不顕性誤嚥を予防するには有効であると考えられた。ACE阻害剤もサブスタンスPを上昇させ嚥下反射を正常化する。
老人性肺炎の防止は薬物でも予防できないことは当然であり、日常生活の習慣性や介護がどのように役立つかは更に重要である。私共は、食後2時間の座位保持は不顕性誤嚥を予防すること及び口腔ケアが肺炎発症の予防につながることを証明した。しかし、これらはいづれも予備的研究であり、口腔ケアがどのくらい老人性肺炎の予防につながるか否かは不明である。不顕性誤嚥を起こしても、せめて肺内へ入る細菌数が少なければ肺炎成立には到らないと考えられる。本研究では、全国規模で口腔ケアの調査を2年間行い、今年度末には1年目の中間報告を出す予定である。
研究方法
全国10ヶ所の老人福祉施設に入所中の老年者を対象に、同一施設50人を2群に分け、一群には口腔ケアを、他群には口腔ケアをしないというプロトコールで肺炎の発症率を2年間にわたって調べる。一施設50人で500人を対象に口腔ケア群250人、非口腔ケア群250人を対象としている。施設による差をなくすため、同一施設に入所中の老年者を半分に分ける方法をとっている。平成9年度12月に行われた班会議で、既に研究開始から中間研究成績の集計ができ、施設及び開始日は表1の如くである。
口腔ケアは歯科医が診察、治療を1週間に1回は行い、その間は歯科衛生士や介護者に口腔ケアの方法を伝授し、毎日少なくとも1回が行うことにした。午後2時頃が最も多い。非口腔ケア群は老年者が自分で歯磨きをするのは拒まないが、歯科の診療のみで一切口腔ケアをしないという方法をとった。
調査票は個人表1枚、歯の診断表1枚、ADLの記入17項目1枚、認知機能MMS1枚、口腔に関するADL1枚、口腔衛生状態1枚の計6枚綴りとなっている。これを、3ヶ月に一回記入するものである。また、体温表を毎日記入し、37.8度以上の発熱日数が何日あるか集計する。胸部レ線写真上肺炎が認められれば肺炎罹患回数を集計する。
結果と考察
研究協力者と協力施設10ヶ所の選定を一年目に行い各施設で説明会を開いて協力を得た施設が10ヶ所ある。口腔ケア開始はまちまちであったが、平成8年9月~12月よりスタートした。現在一年目がほぼ終了しかけており、平成10年1月~2月にかけてコンピューターへ入力して集計を行う予定になっている。中間報告書は、班員の一人である米山武義氏の報告書に述べられてるが、口腔ケアと認知機能とは相関関係が示されており、今後、肺炎の回数の減少や死亡率の減少を経年的に調べる予定である。現在、引き続き2年目の口腔ケアを続行中であり、一年目で差がなくとも二年目で差は更に出てくると考えられる。
平成9年8月28日に班会議を行い、その時班員および研究協力者から印象として中間報告が出されたが、口腔ケアをすることによって、それまで寝たきりのお年寄りが起きるようになった。肺炎が少ない。風邪も引き方が少ないなどの印象が話され、印象をよくした。
本プロジェクトは、3年計画のプロジェクトであり集計が待たれる。もし、口腔ケアが老年者の呼吸器感染予防につながるとすれば、公的介護保険導入の際にも口腔ケアは一項目として組み入れなければならないと考えられる。口腔は大脳運動野でも他の身体全部と同等の大きな領域を占めており、口腔の刺激は大脳のリハビリテーションとしても最も有用な部位と考えられ、老年者介護にとって不可欠と考えられることを証明する。
結論
老人性肺炎は不顕性誤嚥で生じることを私共は実証してきたが、せめて不顕性誤嚥が生じても口腔内雑菌が少ないと肺炎発症が少ないはずである。全国10施設の老人ホームで2年間計画で歯科医による口腔ケアを毎日行い肺炎発症低下を観察する。今年は2年目である。中間報告では入口調査のみの集計であるが、口腔ケアと認知機能が相関した。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)