構造生物学的アプローチによるアルツハイマー病の病態解明と分子標的治療の開発

文献情報

文献番号
200912031A
報告書区分
総括
研究課題名
構造生物学的アプローチによるアルツハイマー病の病態解明と分子標的治療の開発
課題番号
H21-ナノ・一般-007
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
星 美奈子(京都大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 藤吉 好則(京都大学 大学院理学研究科)
  • 鍋島 陽一(京都大学 大学院医学研究科)
  • 菊地 和也(大阪大学 大学院工学研究科)
  • 廣明 秀一(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 村松 慎一(自治医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
アルツハイマー病には未だ有効な治療法は存在しない。問題点は、患者脳内にある多様なAβの凝集体の何が原因物質かを特定せずに、Aβを除去しようとしてきたことであり、これは残念ながら安全面で大きな問題があることが治験でわかってきた。これを解決するには原因物質を特定した新たな治療法の開発が必要である。我々は、世界で初めて原因物質と考えられるアミロスフェロイド(amylospheroid; 以降ASPD)を患者脳から単離することに成功した。ASPDは特異的な立体構造を取ることで強い神経細胞毒性を持つ。本研究ではASPDの立体構造を解明し、神経細胞上にある標的分子へのASPDの結合を阻止することで安全で効果的な新規分子標的治療法の開発を目指す。
研究方法
倫理面に配慮し、ASPDの(1)分子構造解析、(2)標的分子の同定と機能解析、(3)非侵襲的観測法の構築を目標とし、達成に必要な臨床・化学・構造生物学などの専門知識と技量を持つ研究者とチームを組んで研究を遂行した。
結果と考察
目標(1)は、NMRによりASPD立体構造の一部解明に成功し、新規な立体構造であることが構造情報からも確認された。正しい構造情報により、原因分子のみを標的とした安全で、かつ抗体よりも安価に調製出来る低分子化合物による治療法開発が期待出来る。目標(2)は、ASPD標的分子をほぼ同定したので、この機能を解析し制御することで、よりヒトの病気を反映した創薬モデルを開発可能と考えている。目標(3)は、困難とされる凝集体形成過程の観測に初めて成功した。これをもとに、既に我々が確立したASPD立体構造認識抗体をMRIプローブ化することで脳内での観測手法を構築していく。これらにより、現在ではまだ不明である原因物質が脳内で形成される初期段階において、原因物質と神経細胞上の標的分子の相互作用を阻止する(あるいは標的分子の機能を制御する)ことによる新たな、そして安全な分子標的医療を可能にする。
結論
初年度の研究は予定通り順調に進めることが出来た。アルツハイマー病の初期段階モデルにあたる齧歯類疾患モデルを基に開発された複数の薬剤が、いずれも患者に対する臨床治験で成果を上げられていない現状では、ヒト脳における神経細胞死のメカニズムの解明こそが、根本的治療法構築への道筋を立てるために必要である。従って、本研究でアミロスフェロイドないしはその標的分子の構造を解明することで神経細胞死機構と形成機序に迫ることで、全く新しい切り口の診断と治療方法を開発する基盤を産業界に提供できるのではないかと考えている。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
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