もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究

文献情報

文献番号
202211007A
報告書区分
総括
研究課題名
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究
課題番号
20FC1015
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
宮本 享(国立大学法人京都大学 附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 冨永 悌二(東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経外科学分野)
  • 岩間 亨(岐阜大学 脳神経外科)
  • 黒田 敏(富山大学 大学院医学薬学研究部(医学))
  • 高橋 淳(近畿大学医学部)
  • 高木 康志(徳島大学医歯薬学研究部)
  • 藤村 幹(北海道大学大学院医学研究院 脳神経外科学教室)
  • 片岡 大治(国立循環器病研究センター 脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,930,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、[1]診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの改訂・普及、[2]もやもや病認定の地域格差是正、[3]診療実態可視化、[4]病態解明を主な目的とする。
研究方法
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)の診断、治療に関する政策研究課題を達成するため、重点課題と複数の多施設共同研究支援を効率的に実施、総括するために、2回の班員全体会議を開催した。そのほかに、各作業グループを組織し、その活動を総括支援した。
結果と考察
[1]診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの改訂・普及
改定版診断基準の国内外への周知を目的として、診断基準改定に関する論文を英文誌に上梓した。さらに、国際的議論を通じて日本の基準を国際的基準に高めることを目的として、最新版診療ガイドラインの英訳論文を英文誌に上梓するとともに、本研究班主催の国際学会(Winc Moyamoya 2022.会長:宮本享、プログラム委員長:黒田敏)を令和4年10月12日に開催した。令和4年4月20日に全国学会(STROKE2022)において診断基準・重症度分類改定をテーマとしたWeb Live Symposiumを開催した。さらに、改訂版診断基準の市民への普及等を目的とした市民公開講座を令和4年6月25日に開催した。

[2]もやもや病認定の地域格差是正を目的としたシンポジウム開催
令和4年4月20日に開催されたSTROKE2022 Web Live Symposiumにおいて、認定基準の均霑化を目的として、もやもや病認定・診断に迷う症例に関するシンポジウム・ケースカンファレンスを開催した。

[3]学会・AMEDと連携した疾患レジストリ構築
医療現場の負担を軽減するための、構造化電子カルテ情報自動抽出ソフトウェアを用いた疾患レジストリ構築プロジェクト(CyberMoya)についてSTROKE2022 Web Live Symposiumにおいて発表され、日本脳卒中学会学会登録WGにおいて検討された登録項目が日本脳卒中学会理事会で承認され正式に決定した。倫理審査が承認され次第登録を開始予定である。

[4]臨床上重要性が高い事項に対する科学的根拠創出を目指した多施設共同研究の取りまとめと支援
無症候性もやもや病の自然歴を明らかにする多施設共同研究(AMORE)では、5年間の追跡データの解析が行われ、もやもや半球での新規脳卒中発生率が1%/年(7例中6例が出血)であること、脳室周囲吻合の一種である脈絡叢型側副路や微小出血所見が出血性脳卒中の独立危険因子であること等が示された。本結果は全国学会(STROKE2022)で初めて発表され、令和5年3月30日に海外誌(Stroke)に採択された。AMORE研究は、今後さらに10年間の経過観察を継続する予定である。また、乳幼児もやもや病の病態、診断、治療に関する多施設調査(MACINTOSH)が開始され、全73例が登録され現在解析中である
もやもや病における高次脳機能障害に関する検討(COSMO-JAPAN study)では、高次脳機能障害を有するもやもや病患者では正常データベースと比較して前頭葉内側面に有意なIMZ-SPECT集積低下が認められた。本結果は令和5年3月に英文誌(Neurol Med Chir)に公表された。
片側性もやもや病の進行と遺伝的要因に関する患者登録研究 (SUPRA Japan Registry)では、RNF213遺伝子のR4810K変異が両側進展の独立した危険因子であることが示された。本結果は海外誌に公表され(J Neurosurg 136:1005-1014, 2021)、現在第二報の論文作成中である。
脈絡叢型側副路を有するもやもや病の多施設共同登録研究(Moyamoya P-ChoC Registry)は、脈絡叢型側副路を有する非出血もやもや病症例の長期予後と治療方針の解明を目的とする観察研究であり、現在58半球の登録がなされている。今後登録期間を2028年まで延長して登録を継続する予定である。
60歳以上の高齢発症もやもや病に関する多施設共同調査(MODEST)では、9例でフォローアップ中にエンドポイントを迎えた。主要評価項目における脳出血が4例、脳梗塞が4例、副次的評価項目における死亡が1例であった。
さらに、もやもや病第5-6期の病期進行例の臨床像、脳循環、自然歴を明らかにすることを目的とするHIGMA研究が令和5年度より新たに開始されている。
結論
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)における難病の医療水準の向上やQOL向上に資する研究の研究成果について総括した。

公開日・更新日

公開日
2024-04-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2024-04-02
更新日
2024-04-11

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202211007B
報告書区分
総合
研究課題名
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)における難病の医療水準の向上や患者のQOL向上に資する研究
課題番号
20FC1015
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
宮本 享(国立大学法人京都大学 附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 冨永 悌二(東北大学大学院医学系研究科神経・感覚器病態学講座神経外科学分野)
  • 岩間 亨(岐阜大学 脳神経外科)
  • 黒田 敏(富山大学 大学院医学薬学研究部(医学))
  • 高橋 淳(近畿大学医学部)
  • 高木 康志(徳島大学医歯薬学研究部)
  • 藤村 幹(北海道大学大学院医学研究院 脳神経外科学教室)
  • 片岡 大治(国立循環器病研究センター 脳神経外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、[1]診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの改訂・普及、[2]もやもや病認定の地域格差是正、[3]診療実態可視化、[4]病態解明を主な目的とする。
研究方法
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)の診断、治療に関する政策研究課題を達成するため、重点課題と複数の多施設共同研究支援を効率的に実施、総括するために、2回の班員全体会議を開催した。そのほかに、各作業グループを組織し、その活動を総括支援した。
結果と考察
[1]診断基準・重症度分類・診療ガイドラインの改訂・普及
新たな医学的知見を反映するために2015年以来6年ぶりとなる診断基準改訂を行った(2021年改訂版)。主な変更点は①片側例の明記、②類もやもや病の整理、③MRI診断基準の改訂、である。医療助成認定要件である重症度分類についても「画像上の出血リスク所見(脳室周囲吻合・微小出血所見)」が認定要件に盛り込まれる改訂が行われた。頭蓋内出血は本症の最大の予後悪化因子であり、「画像上の出血リスク所見」が認定要件に含まれる意義は大きい。改訂版診断基準・重症度分類に基づく新たな臨床個人調査票は、令和6年4月より運用開始される予定である。
本研究班の最大の成果は、本研究班が主導したJAM Trialの結果に基づいて、もやもや病の診療ガイドラインである「脳卒中治療ガイドライン2021」の「出血発症もやもや病」の項が改訂されたことである。この改訂により、頭蓋内出血の二次予防の治療方針が確立された。今後本研究班では、P-ChoC registry等により出血の一次予防に取組んでいく予定である。

[2]学会・AMEDと連携した疾患レジストリ構築
医療現場の負担を軽減するための、構造化電子カルテ情報自動抽出ソフトウェア(CyberMoya)を用いた疾患レジストリ構築プロジェクトがAMED・学会との連携で推進された。日本脳卒中学会に学会登録WGを発足し、令和3年12月に同WGで検討した登録項目が日本脳卒中学会理事会で承認され正式に決定した。令和4年4月に都道府県脳卒中対策推進委員会からの推薦を受けた全国の登録施設が決定し、EDCあるいはCyberMoyaを用いて登録を行うことが決定した。現在、研究班参加施設において、CyberMoyaを用いた試行登録が開始予定である。

[4]臨床上重要性が高い事項に対する科学的根拠創出を目指した多施設共同研究の取りまとめと支援
出血二次予防に関する多施設共同研究であるJAM Trialでは、脳循環によるサブ解析が行われ、血行力学的障害(SS 1+2)は脈絡叢型側副路とともに再出血独立危険因子であること、血行力学的障害のある例でバイパスの再出血予防効果が高い傾向が認められたが「血行力学的重症度によって手術効果が異なる」とまではいえないという2つの知見が示された。
無症候性もやもや病の自然歴を明らかにする多施設共同研究(AMORE)では、無症候性もやもや半球での新規脳卒中発生率が1%/年であり、脳室周囲吻合の一種である脈絡叢型側副路や微小出血所見が出血性脳卒中の独立危険因子であることが示された。
もやもや病における高次脳機能障害に関する検討(COSMO-JAPAN study)では、高次脳機能障害を有するもやもや病患者では正常データベースと比較して前頭葉内側面に有意なIMZ-SPECT集積低下が認められた。本論文が高次脳機能障害の画像診断法の確立を通じて、高次脳機能障害を有する患者への適切な診断および支援体制の整備につながることが期待される。来年度以降の研究班では、循環器病対策推進基本計画および脳卒中・心臓病等総合支援センターモデル事業と連動する形で、高次脳機能障害を有する小児・成人患者の就学就労支援体制整備に関する政策研究がなされる予定である。
片側性もやもや病の進行と遺伝的要因に関する患者登録研究 (SUPRA Japan Registry)では、RNF213遺伝子のR4810K変異が両側進展の独立した危険因子であることが示された。
このほか研究班では、脈絡叢型側副路を有するもやもや病の多施設共同登録研究(Moyamoya P-ChoC Registry)、乳幼児もやもや病の病態、診断、治療に関する多施設調査(MACINTOSH)、60歳以上の高齢発症もやもや病に関する多施設共同調査研究(MODEST)、もやもや病第5-6期の病期進行例の臨床像、脳循環、自然歴を明らかにすることHIGMA研究が現在進行中である。小児から高齢者に至るシームレスな診療に関するエビデンス創出が期待されるとともに、小児成人期移行期の具体的な指針の策定が来年度以降の研究班において取り組むべき課題と思われる。
結論
もやもや病(ウイリス動脈輪閉塞症)における難病の医療水準の向上やQOL向上に資する研究の研究成果について総括した。

公開日・更新日

公開日
2024-04-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202211007C

成果

専門的・学術的観点からの成果
AMORE研究・JAM研究により、脳室周囲吻合の一種である脈絡叢型側副路(choroidal anastomosis)が、初回出血・再出血の画像バイオマーカーであることが示された。これは出血予防・予後改善を目指すうえで画期的成果である。遺伝子多型ともやもや病の進展との関連を明らかにするSUPRA Japan研究では、RNF213遺伝子のp.Arg4810Lys変異が両側性進行の独立危険因子であることが示され、遺伝因子の臨床的意義が初めて明らかにされた。
臨床的観点からの成果
AMORE研究等により術後長期安定例・無症候例等における出血リスクが明らかになりつつあることを踏まえ重症度分類に画像上の出血リスク所見が追加された。頭蓋内出血は本症における最大の予後悪化因子で、本項目が指定難病認定要件に含まれる意義は大きい。また我が国では精神障害者保健福祉手帳取得の原則として脳器質性障害を示す画像診断が必要であり、COSMO-Japan研究により高次脳機能障害を有する患者の画像特徴が示された意義は大きく、今後高次脳機能障害患者への適切な診断・支援体制整備に繋がることが期待される
ガイドライン等の開発
もやもや病の診療ガイドラインである「脳卒中治療ガイドライン2021」の「もやもや病」の項が改訂され、出血もやもや病に対する直接バイパス術の推奨度がB(「行うことが妥当である」)に改訂された。改訂版診療ガイドラインの国際的認知度を高めるため、令和4年に英語版ガイドラインを英文誌(Neurol Med Chir)に公表した。
その他行政的観点からの成果
高次脳機能障害を有する患者の特徴を明らかにしたCOSMO-Japan研究の成果は、循環器病対策推進基本計画および脳卒中・心臓病等総合支援センターモデル事業による高次脳機能障害を有する小児・成人患者の就学就労支援体制整備の重要な基礎資料となった。
その他のインパクト
国際的議論を通じて日本の基準を国際的基準に高めることを目的として、本研究班主催の国際学会(World Internet Conference on Moyamoya Disease 2022:Winc Moyamoya)を令和4年10月12日に開催した。さらに、改訂版診断基準の市民への普及等を目的とした市民公開講座を令和4年6月25日に開催した。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
59件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
3件
ガイドライン作成1件、診断基準改訂1件、重症度分類改訂1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
市民公開講座1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takahashi JC, Funaki T, Houkin K, et al
Impact of cortical hemodynamic failure on both subsequent hemorrhagic stroke and effect of bypass surgery in hemorrhagic moyamoya disease: a supplementary analysis of the Japan Adult Moyamoya Trial
J Neurosurg , 134 , 940-945  (2021)
10.3171/2020.1.Jns192392
原著論文2
黒田 敏、藤村 幹、髙橋 淳、他
もやもや病診断基準2021年改訂版
脳卒中の外科 , 50 , 1-7  (2022)
https://doi.org/10.2335/scs.50.1
原著論文3
Kuroda S, Fujimura M, Takahashi J, et al
Diagnostic Criteria for Moyamoya Disease - 2021 Revised Version.
Neurol Med Chir (Tokyo) , 62 (7) , 307-312  (2022)
10.2176/jns-nmc.2022-0072
原著論文4
Fujimura M, Tominaga T, Kuroda S, et al
2021 Japanese Guidelines for the Management of Moyamoya Disease: Guidelines from the Research Committee on Moyamoya Disease and Japan Stroke Society.
Neurol Med Chir (Tokyo) , 62 (4) , 165-170  (2022)
10.2176/jns-nmc.2021-0382
原著論文5
Kuroda S, Yamamoto S, Funaki T, et al
5-year stroke risk and its predictors in asymptomatic moyamoya disease – The results of multi-center, prospective cohort study, Asymptomatic Moyamoya Registry (AMORE)
Stroke  (2023)
10.1161/strokeaha.122.041932
原著論文6
Mineharu Y, Takagi Y, Koizumi A, et al
Genetic and non-genetic factors for contralateral progression of unilateral moyamoya disease:the first report from the SUPRA Japan Study Group.
J Neurosurg , 136 , 1005-1014  (2021)
10.3171/2021.3.Jns203913
原著論文7
Kikuchi T, Takagi Y, Nakagawara J, et al
Neuronal Loss in the Bilateral Medial Frontal Lobe Revealed by (123)I-iomazenil Single-photon Emission Computed Tomography in Patients with Moyamoya Disease: The First Report from Cognitive Dysfunction Survey of Japanese Patients with Moyamoya Diseas
Neurol Med Chir (Tokyo)  (2023)
10.2176/jns-nmc.2023-0041

公開日・更新日

公開日
2024-04-02
更新日
-

収支報告書

文献番号
202211007Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,000,000円
(2)補助金確定額
9,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,322,812円
人件費・謝金 0円
旅費 326,270円
その他 2,281,207円
間接経費 2,070,000円
合計 9,000,289円

備考

備考
自己資金289円

公開日・更新日

公開日
2023-11-27
更新日
-