ナノ分子イメージングを活用した次世代創薬アプローチ

文献情報

文献番号
200912006A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノ分子イメージングを活用した次世代創薬アプローチ
課題番号
H19-ナノ・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
盛 英三(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 望月 直樹(国立循環器病センター研究所 循環器形態部)
  • 若林 繁夫(国立循環器病センター研究所 循環分子生理部)
  • 武田 壮一(国立循環器病センター研究所 心臓生理部)
  • 増田 道隆(国立循環器病センター研究所 循環器形態部)
  • 平山 令明(東海大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
29,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分子標的薬剤の開発に向けて、 標的タンパクの分子構造解析に基づく薬剤設計/探索(創薬スクリーニング)、と分子機能を蛍光イメージンングで評価する技術(薬効スクリーニング)の開発を推進する。前者についてはVWFの重合体の切断に関わるADAMTS13の構造の決定と、がん細胞に特異的なイオン交換輸送体(NHE1)調節因子CHP2の分子構造をもとにした医薬品のin silicoでの探索を行なう。後者に関しては先天性奇形、胃がん、白血病にかかわるSHP2の基質の同と阻害薬の探索ならびに、阻害効果の判定のためのアッセイ系の確立を目指す。
研究方法
ADAMTS13-DTCSを糖鎖修飾酵素変異株CHO Lec 3.2.8.1に分泌発現させ、精製した。単結晶を得てSPring-8の放射光を用いて構造を決定した。
X線解析で得られたCHP2-NHE複合体の構造を出発構造とした。Sigma-Aldrichの分子群から種々のフィルターを通し1,000分子を選択し,ドッキングシミュレーションにより結合性を判別した。
ゼブラフィッシュにヒト型SHP2変異体を発現させるために、pCS2ベクターに変異SHP2をコードするcDNAを挿入した。心臓の形態、ならびに両眼間の距離ならびに両眼の大きさを指標にD61G変異体の発現によって、Noonan症候群の症状を呈するモデルを作成することができるか否かを検討した。SHP2の基質の同定を試みた。
結果と考察
ADAMTS13のMドメインを除くDTCS部について構造決定を行った。既知のMD部の構造決定と合わせMDTCSドメイン部全体のモデルを世界で初めて提案した。また、ADAMTS13の分子表面にVWF認識部位をマッピングした。
NHEのC末端はCHP2のconcavity内で結合部位から大きくずれることがあることを示し、この部位(hot spot)に結合する分子をドッキング・シミュレーションにより探索した。
まずSHP2の基質分子を同定し、同分子が結合するTyrがSHP2によって効率よく脱リン酸化されることを突き止めた。SHP2の脱リン酸化酵素ドメインの既知の構造をもとにして化合物ライブラリーの6,500化合物のドッキング計算を行い、候補化合物を選別した。
結論
ADAMTS13-DTCSの構造を決定した。NHE1調節因子CHP2の分子構造をもとにがん治療に関わる医薬品を探索した。先天性奇形、胃がん、白血病にかかわるSHP2の基質の同定から、SHP2の阻害薬の候補化合物の探索ならびに、阻害効果の判定のためのアッセイ系を確立した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200912006B
報告書区分
総合
研究課題名
ナノ分子イメージングを活用した次世代創薬アプローチ
課題番号
H19-ナノ・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
盛 英三(東海大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 望月 直樹(国立循環器病センター研究所 循環器形態部)
  • 若林 繁夫(国立循環器病センター研究所 循環分子生理部)
  • 武田 壮一(国立循環器病センター研究所 心臓生理部)
  • 増田 道隆(国立循環器病センター研究所 循環器形態部)
  • 平山 令明(東海大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 医療機器開発推進研究(ナノメディシン研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
分子標的薬剤の開発に向けて、 標的タンパクの分子構造解析に基づく薬剤設計/探索(創薬スクリーニング)、と分子機能を蛍光イメージンングで評価する技術(薬効スクリーニング)の開発を推進する。前者について標的タンパクの構造の決定と、タンパクの分子構造をもとにした医薬品のin silicoでの探索を行なう。後者に関しては先天性奇形、胃がん、白血病にかかわるSHP2の基質の同と阻害薬の探索ならびに、阻害効果の判定のためのアッセイ系の確立などを目指す。
研究方法
標的タンパクの構造解析に関しては、蛇毒ADAMホモグロ分子(VAP1,VAP2,RVVX)の構造解析とADAMTS13のMドメインを除くDTCS部とFERキナーゼF-BARドメインの構造決定を行った。
タンパクの分子構造をもとにしたin silicoでの医薬品探索に関しては、X線解析で得られたイオン交換輸送体(NHE)とがん細胞に特異的に発現するNHEの調節因子CHP2との複合体の構造を決定し、医薬品分子群から種々のフィルターを通し1,000分子を選択し,ドッキングシミュレーショにより結合性を判別した。
薬効スクリーニングに関してはゼブラフィッシュにヒト型SHP2変異体を発現させた。臓の形態、ならびに両眼間の距離ならびに両眼の大きさを指標にD61G変異体の発現によって、Noonan症候群の症状を呈するモデルを作成することができるか否かを検討し、またSHP2の基質の同定とその阻害薬のスクリーニングを試みた。
結果と考察
血管内皮細胞のアポトーシスをきたすVAP1,VAP2,凝固因子Factor Xを活性化するRVVX VWF重合体の切断に関わるADAMTS13のDTCS部について構造決定を行った。
分子構造をもとにした医薬品の探索に関しては、NHEのC末端はCHP2のconcavity内で結合部位から大きくずれることがあることを示した。この部位(hot spot)に結合する分子を上ドッキング・シミュレーションにより探索した。
H20年度以降においてSHP2の基質分子Xを同定した。SH2をもつ分子が結合するTyrがSHP2によって効率よく脱リン酸化されることを突き止めた。SHP2の脱リン酸化酵素ドメインはすでに報告されており、これをもとにしてSigma-Aldrichの化合物ライブラリーの6,500化合物のドッキング計算を行い、候補化合物を選別した。
結論
分子標的薬剤の開発に向けて、上記のごとく 標的タンパクの分子構造解析に基づく薬剤設計/探索(創薬スクリーニング)、と分子機能を蛍光イメージンングで評価する技術(薬効スクリーニング)の開発を推進した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200912006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
分子構造解析に基づく創薬スクリーニング系と、細胞・生物を用いた薬効評価スクリーニング系を確立することで研究者が主体となった薬剤開発モデルを確立できる。がん細胞の増殖に関わる細胞内pHの上昇をがん細胞特異的に抑制するCHP2阻害剤のスクリーニングと強心剤および家族性心筋症のターゲット分子と考えられる心筋トロポニンコアドメインの詳細な構造モデルを得た。血管新生への薬物評価系として血管特異的なGFP発現Zebra fishの有用性を確認し、新たな創薬評価系として応用に道を開いた。
臨床的観点からの成果
本研究は効果が高く副作用が少ない分子標的治療薬開発を構造に基づく創薬スクリーニングにより実現する。CHP2阻害剤は、がん細胞の増殖に関わる細胞内pHの上昇をがん細胞特異的に抑制する。これにより、副作用の少ない制がん剤の開発が期待できる。ヒト心筋トロポニンは心筋収縮のカルシウム調節の要分子であり、強心剤および家族性心筋症のターゲット分子と考えられる。GFP発現Zebra fishの発現系を通じて胃がんや白血病に関わるSHP2の阻害薬の開発が期待できる。
ガイドライン等の開発
該当するものなし
その他行政的観点からの成果
構造に基づく創薬は治療効果が高く副作用の少ない分子標的薬剤の開発に道を開き、その開発の成功は大きな医療経済効果に結びつく。CHP2阻害剤は副作用の少ない制がん剤の開発を通じてがん治療に関わる医療コスト軽減に貢献する。同様に、ヒト心筋トロポニンを標的とした薬物は難病とされる肥大型心筋症の治療に関して、SHP2の阻害薬は胃がんや白血病の治療に関する医療コストの軽減を期待できる。
その他のインパクト
武田は2007に年ゴードンリサーチカンファレンス・MMP会議においてADAMファミリータンパクのMDC domainの構造について招待講演を行い、2009年の同会議でADAMTS13の構造に関するポスター発表とPNAS誌への論文発表を行なった。望月は血管調節因子のスフィンゴシン1-燐酸のトランスポーター(Spns2)を同定し、スフィンゴシン1-燐酸シグナルが心臓形成に重要であることををヨーロッパ血液学会血管部会の招待講演で報告し、Sceinceに研究論文を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
74件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
60件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawahara A, Nishi T, Hisano Y, et al.
The sphingolipid transporter spns2 functions in migration of zebrafish myocardial precursors.
Science , 323 , 524-527  (2009)
原著論文2
Sako K, Fukuhara S, Minami T, et al.
Angiopoietin-1 Induces Kruppel-like Factor 2 Expression through a Phosphoinositide 3-Kinase/AKT-dependent Activation of Myocyte Enhancer Factor 2.
The Journal of Biological Chemistry , 284 , 5592-5601  (2009)
原著論文3
Fukuhara S, Sako K, Minami T, et al.
Differential function of Tie2 at cell-cell contacts and cell-substratum contacts regulated by angiopoietin-1.
Nature Cell Biology , 10 , 513-526  (2008)
原著論文4
Koyama T, Nakaoka Y, Fujio Y, et al.
Interaction of scaffolding adaptor protein Gab1 with tyrosine phosphatase SHP2 negatively regulates IGF-I-dependent myogenic differentiation via the ERK1/2 signaling pathway.
The Journal of Biological Chemistry , 283 , 24234-24244  (2008)
原著論文5
Nakaoka Y, Nishida K, Narimatsu K, et al.
Gab family proteins are essential for postnatal maintenance of cardiac function through transmitting neuregulin-1/ErbB signaling.
THE JOURNAL OF CLINICAL INVESTIGATION , 117 , 1771-1781  (2007)
原著論文6
Nakayama D, Ben Ammar, Takeda S
Crystallization and preliminary X-ray crystallographic analysis of the blood coagulation factor V-activating proteinase (RVV-V) from Russell's viper venom.
Acta Crystallographica F , 65 , 1306-1308  (2009)
原著論文7
Akiyama M, Takeda S, Kokame K, et al.
Crystal structures of the non-catalytic domains of ADAMTS13 reveal multiple discontinuous exosites for von Willebrand factor.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America , 106 , 19274-19279  (2009)
原著論文8
Takeda S
Three-dimensional domain architecture of the ADAM family proteinases.
Seminars in Cell & Developmental Biology , 20 , 146-152  (2009)
原著論文9
Akiyama M, Takeda S, Kokame K, et al.
Production, crystallization and preliminary crystallographic analysis of the exosite-containing fragment of human von Willebrand factor-cleaving proteinase, ADAMTS13.
Acta Crystallographica F , 65 , 739-742  (2009)
原著論文10
Takeda S, Igarashi T, Mori H
Crystal structure of RVV-X: an example of evolutionary gain of specificity by ADAM family proteinases.
FEBS Letters , 581 , 5859-5864  (2007)
原著論文11
Igarashi T, Araki S, Mori H, et al.
Crystal structures of catrocollastatin/VAP2B reveal a dynamic, modular architecture of ADAM/adamalysin/reprolysin family proteins.
FEBS Letters , 581 , 2416-2422  (2007)
原著論文12
Iwata Y, Katanosaka Y, Arai Y, et al.
Dominant-negative inhibition of Ca2+ influx via TRPV2 ameliorates muscular dystrophy in animal models.
Human Molecular Genetics , 18 (5) , 824-834  (2009)
原著論文13
Nakamura T.Y, Iwata Y, Arai Y, et al.
Activation of Na+/H+ exchanger 1 is sufficient to generate Ca2+ signals that induce cardiac hypertrophy and heart failure.
Circulation Research , 103 (8) , 891-899  (2008)
原著論文14
Iwata Y, Katanosaka Y, Hisamitsu T, et al.
Enhanced Na+/H+ exchange activity contributes to the pathogenesis of muscular dystrophy via involvement of P2 receptors.
American Journal of Pathology , 171 (5) , 1576-1587  (2007)
原著論文15
Hisamitsu T, Yamada Y, Nakamura T.Y, et al.
Functional Importance of Charged Residues within the Putative Intracellular Loops in pH regulation by Na+/H+ Exchanger NHE1.
FEBS Journal , 274 (16) , 4326-4336  (2007)
原著論文16
M. Masuda, N. Mochizuki
Structural characteristics of BAR domain superfamily to sculpt the membrane.
Seminars in Cell and Developmental Biology , 21 (4) , 391-398  (2010)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
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