成人期における口腔の健康と全身の健康の関係性の解明のための研究

文献情報

文献番号
202209029A
報告書区分
総括
研究課題名
成人期における口腔の健康と全身の健康の関係性の解明のための研究
課題番号
21FA1013
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 辻 一郎(東北大学  大学院医学系研究科 公衆衛生学分野)
  • 相田 潤(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野)
  • 澤田 典絵(倉橋 典絵)(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 予防研究部)
  • 葭原 明弘(新潟大学 大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野)
  • 岩崎 正則(北海道大学 歯学部)
  • 財津 崇(東京医科歯科大学大学院健康推進歯学分野)
  • 大城 暁子(東京医科歯科大学)
  • 大野 幸子(東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
6,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大規模な住民コホートデータやレセプトなどのリアルワールドデータ用いて、成人の口腔の健康と全身の健康の関連について明らかにすること。
研究方法
既存のコホート研究やレセプトのデータから、成人の口腔の健康と全身の健康の関連を検討した。日本老年学的評価研究機構JAGES、国立がん研究センターの多目的コホート研究「JPHC Study」およびJPHC-Next Study」、「大崎2006コホート研究」、レセプトデータからは「JMDC歯科レセプトデータ」が用いられた。
結果と考察
健康寿命 大崎コホートを解析した。その結果、現在歯数が少ないほど健康寿命は短かったが、現在歯数が少ない群において、義歯を使用する者は使用しない者と比較し、健康寿命が長いことが観察された。1日2回以上の歯磨き実施の有無では、「0~9本」群と「10~19本」群の両方において、「歯磨きあり」群の健康寿命が「歯磨きなし」群と比較して男女ともに約2年長かった。義歯使用の有無では、「義歯あり」群の健康寿命が「義歯なし」群と比較して、男女ともに「0~9本」群で約3年、「10~19本」群で0.8年長かった。歯科健診受診の有無では、「0~9本」群と「10~19本」群の両方において、「受診あり」群の健康寿命が「受診なし」群と比較して男女ともに約0.5年長かった。
認知症 口腔と認知症のメカニズムのシステマティックレビューが存在した。動物研究を中心に、咬合支持の喪失が認知機能低下に影響する経路が調べられていた。26本の研究より、咬合支持の喪失と認知機能低下の間のメカニズムは次の3つに分類された:1)メカニカルパスウェイ:咀嚼刺激の減少による神経経路の結合強度の低下による脳領域の変性、2)昂進経路:歯の喪失がアポトーシスやミトコンドリアのオートファジーにより神経叢賞を加速し脳内のアミロイド沈着を増加、3)長期的な炎症性ストレス経路:口腔内の炎症が炎症性細胞を活性化、脳の神経細胞の炎症状態が促進された。
全ての共変量を調整後、所得の低い人は認知症リスクが1.13倍有意に高かった(ハザード比 [95% 信頼区間]:男性: 1.13 [1.04, 1.23]、女性: 1.12 [1.03, 1.21])。残存歯数を調整したモデルではハザード比が減少した(ハザード比 [95% 信頼区間]:男性: 1.12 [1.03, 1.22]、女性: 1.10 [1.02, 1.20])。残存歯数の媒介効果は男性で4.8%、女性で5.3%だった。JAGESを調査対象とした解析の結果、歯の喪失と認知症発症との間に有意な関連が見られ男性では特に友人・知人との交流人数、女性では特に野菜や果物摂取が、歯の本数と認知症発症の因果関係を仲立ちする役割を果たしていた。
肥満・低体重 過去の論文検索を実施し、5編の論文について精査した。歯の喪失の数が多い人はより肥満であること、低社会経済グループの肥満女性は、他のどのグループよりも有意に高い歯の喪失があることが示された。また遺伝子欠損との関連を示した研究もある。
不整脈 魚沼コホート研究の参加者を対象とした解析により、心房細動の危険因子によって調整した後も抗P. g抗体価と心房細動の既往との間に有意な関連性が認められ、そのオッズ比〔95%信頼区間; p値〕は2.13〔1.23–3.69; p < 0.01〕であった。
仕事の欠勤 インターネット調査の解析により、口腔の問題により仕事に支障があると答えた者は全体の6.2%だった。
死亡 歯が20本以上ある人と比べて、歯が20本未満の人は6年後の死亡リスクが10~33%、高いことがわかった(10-19補綴あり:RR=1.10、10-19補綴なし:RR=1.16、0-9補綴あり:RR=1.26、0-9補綴なし:RR=1.33)。   
別の研究では歯を20本以上有する者と比べて19本以下の者では、死亡リスクが1.28倍高いことが示された。このうち、5%超の体重減少がその関連のうち13.1%を説明しており、5%超の体重増加は1.3%を説明していた。
身体活動量 身体活動量,歯の喪失,脳卒中の既往に関する関連については,ロジスティック回帰分析の結果から,脳卒中の既往と歯の喪失および既往総身体活動量が少ないことが関連していることが示された.
時間外労働 残業時間が長い人ほどOHQoLが低い傾向にあった。
糖尿病 研究対象者は42,772名とする解析では、咀嚼に問題がない対象者と比較して咀嚼に困難がある対象者で有意にHbA1cが高かった。
結論
口腔と全身疾患のなかで、健康寿命、認知症、不整脈、死亡、身体活動量、仕事の欠勤、時間外労働、糖尿病との関係が示された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209029B
報告書区分
総合
研究課題名
成人期における口腔の健康と全身の健康の関係性の解明のための研究
課題番号
21FA1013
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 辻 一郎(東北大学  大学院医学系研究科 公衆衛生学分野)
  • 相田 潤(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 健康推進歯学分野)
  • 澤田 典絵(倉橋 典絵)(国立がんセンター がん予防・検診研究センター 予防研究部)
  • 葭原 明弘(新潟大学 大学院医歯学総合研究科口腔保健学分野)
  • 岩崎 正則(北海道大学 歯学部)
  • 財津 崇(東京医科歯科大学大学院健康推進歯学分野)
  • 大城 暁子(東京医科歯科大学)
  • 大野 幸子(東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 大規模な住民コホートデータやレセプトなどのリアルワールドデータ用いて、成人の口腔の健康と全身の健康の関連について明らかにすること。
研究方法
既存のコホート研究やレセプトのデータから、成人の口腔の健康と全身の健康の関連を検討した。具体的に活用するデータは、歯科検診も実施しており国立がん研究センターの多目的コホート研究「JPHC Study」および次世代多目的コホート研究「JPHC-Next Study」、生活習慣や全身の健康で多くの論文を生み出している「大崎2006コホート研究」、近年活用が注目されるレセプトデータからは「JMDC歯科レセプトデータ」、並びに日本老年学的評価研究機構JAGESのデータが用いられた。
結果と考察
健康寿命
男女ともに現在歯数が少ないほど健康寿命は短かったが、現在歯数が少ない場合でも、口腔ケアの実践により健康寿命が延伸しうる可能性が示唆された。
現在歯数および口腔ケアと死亡や要介護リスクとの関連を検討した先行研究では、口腔ケアの実践により、死亡および要介護のリスクが46%低下することが報告された。本研究では、相対的なリスク評価ではなく、健康寿命という指標を用いて現在歯数と口腔ケアの健康影響を定量的に評価し、現在歯数の少ない群において口腔ケアを実践することにより健康寿命の延伸が期待できることを明らかにした。

認知症
先行研究における口腔と認知症のメカニズム、および認知症のリスク要因を調べた。その結果、口腔と認知症のメカニズムとして、先行研究では考慮されていない領域が存在すると考えられた。
 具体的な解析では、残存歯数は高齢者の所得と認知症の関連を一部媒介した。その経路として、社会経済状況が低い人は歯を失いやすく、それによる栄養状態の低下やコミュニケーションの機会の減少が認知症の発生に影響することが考えられる。
死亡

身体活動量
本研究では,地域在住の40歳以上を対象として,脳卒中の既往と歯の喪失との関連および脳卒中の既往と総身体活動量との関連を明らかにするとともに,脳卒中の既往と歯の喪失との関連要因として総身体活動量について検討した

時間外労働
時間外労働が口腔関連QOLの重要な因子であり、関連する変数を調整しても時間外労働のある群の労働者は、時間外労働がない群に比べ口腔関連QOLが低いことが明らかになった。
本研究の結果から、今後、この問題を解決するためには、労働環境や就労条件の改善など、社会環境の改善などの対応が必要であること、5時間以上の時間外労働が特に強い負の影響を与えることが明らかとなった。このような長時間の時間外労働を規制することは,職域における歯科保健推進を考える上で、貴重なエビデンスを提供するものと期待される。

糖尿病
本研究では、糖尿病患者において咀嚼困難と血糖コントロールの状況は正の相関があることを確認した。その一方、歯科受診の有無、および頻度はその後の血糖管理と関連しなかった。既存の研究では、歯周病治療がその後の血糖管理に与える影響について異なる結果が得られており、その効果は一貫していない
結論
口腔と全身疾患のなかで、健康寿命、認知症、不整脈、死亡、身体活動量、仕事の欠勤、時間外労働、糖尿病との関係が示された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
口腔と全身疾患の関係について大規模コホートやレセプト解析を行い、口腔の状態と健康寿命、死亡、身体活動量、時間外労働、糖尿病との関係が示され、国際誌に掲載された。
臨床的観点からの成果
口腔と全身疾患の関係について解析を行い、不整脈や糖尿病との関係が示された。
ガイドライン等の開発
直接のガイドライン作成にはつながらなかったものの、歯科健診の健康寿命延伸効果が示されたことは今後の議論のエビデンスとしても重要である。
その他行政的観点からの成果
大規模コホートとレセプト解析で、口腔と全身疾患の関係がしめされた。これまでの関係を更に強化し、新たな項目との関係が示された。
その他のインパクト
口腔と全身疾患の関係について

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
厚労省の審議会で報告した。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Abbas, H., Aida, J., Kondo, K., & Osaka, K.
Association among the number of teeth, dental prosthesis use, and subjective happiness: A cross-sectional study from the Japan Gerontological Evaluation study (JAGES).
The Journal of Prosthetic Dentistry.  (2022)
https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.prosdent.2022.02.014
原著論文2
Yamamoto-Kuramoto, K., Kiuchi, S., Takeuchi et al
Oral status and incident functional disability: A 9-year prospective cohort study from the JAGES.
Archives of Gerontology and Geriatrics  (2023)
https://doi.org/https://doi.org/10.1016/j.archger.2023.105009
原著論文3
Kusama, T., Takeuchi, K., Kiuchi, S. et al
Weight Loss Mediated the Relationship between Tooth Loss and Mortality Risk.
Journal of Dental Research  (2022)
https://doi.org/10.1177/00220345221120642
原著論文4
Kinugawa, A., Kusama, T., Yamamoto, T et al
Association of poor dental status with eating alone: A cross-sectional Japan gerontological evaluation study among independent older adults.
Appetite  (2022)
https://doi.org/10.1016/j.appet.2021.105732
原著論文5
Kiuchi S, Cooray U, Kusama T et al
Oral Status and Dementia Onset: Mediation of Nutritional and Social Factors
Journal of Dental Research  (2021)
DOI: 10.1177/00220345211049399
原著論文6
Kiuchi S, Aida J, Cooray U et al
Education-related inequalities in oral health among older adults: Comparing Singapore and Japan.
Community Dent Oral Epidemiol  (2023)
http://dx.doi.org/10.1111/cdoe.12846.

公開日・更新日

公開日
2023-06-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
202209029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
8,970,000円
(2)補助金確定額
8,970,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,205,271円
人件費・謝金 2,469,239円
旅費 270,060円
その他 2,955,430円
間接経費 2,070,000円
合計 8,970,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-08-29
更新日
-