健康寿命延伸を目指した禁煙支援のための研究

文献情報

文献番号
202209017A
報告書区分
総括
研究課題名
健康寿命延伸を目指した禁煙支援のための研究
課題番号
21FA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
島津 太一(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 順子(国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
  • 渡邉 至(独立行政法人国立循環器病研究センター予防健診部)
  • 瀬在 泉(防衛医科大学校 医学教育部)
  • 谷口 千枝(愛知医科大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,420,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国で普及可能な禁煙治療の利用促進戦略を明らかにし、禁煙治療利用割合および禁煙割合向上につなげることを目的とし、下記の研究を行った。
研究方法
1. 優良事例集の作成と汎用モデルの概案の提示
スコーピングレビュー、アンケート/インタビュー調査の結果、および研究代表者の島津らが実施する職場の喫煙対策のクラスターランダム化比較試験の参加事業所事例をもとに、汎用モデル概案を作成した。汎用モデルを元に、阻害要因ごとにケースシナリオとその対応策(実装戦略)の具体的な事例を掲載した優良事例集を作成した。

2. 職域特定健診の場での短時間支援の効果についての観察研究
全国健康保険協会静岡支部において、支部の事業として短時間支援を含む政策である健康相談を実施している健診機関とそうでない健診機関の喫煙者で、ニコチン依存症管理料の算定や、一年後の禁煙割合を比較する観察研究を行った。主要評価項目は禁煙治療の初回受診とした。また、副次的評価項目は全5回の禁煙治療の完遂、喫煙割合、禁煙達成者の割合とした。解析には、Difference-in Difference(DID)法を用いた前後比較により、健康相談の導入による各アウトカムの変化について検討した。
結果と考察
1. 優良事例集の作成と汎用モデルの概案の提示
禁煙支援の方法には、エビデンスが確立している禁煙支援介入と、禁煙支援介入をうまく実施するための実装戦略に分けて整理を行った。集団および個人アプローチでの様々な禁煙支援介入が行われていたが、実装の阻害・促進要因や実装戦略について記載している研究は限定的であった。一方、地域や職域などの実践現場では様々な実装戦略が活用されていた。実装科学という新しい視点で整理した効果的かつ持続的な禁煙支援方法の汎用モデルを提案し、これに沿った優良事例集を作成した。

2. 職域特定健診の場での短時間支援の効果についての観察研究
健診現場における短時間支援を含む施策である健康相談の導入が禁煙治療受療に与える効果の検討や、健康相談の中での短時間支援の実施状況の把握を行った。まず、職域での健康診断において健康相談を実施している健康保険者の健康相談導入前年度と導入年度の健診・レセプトデータを利用して、差の差分析を行った。加えて、健診で実施される短時間支援の内容や阻害要因について、健康相談を実施している26健診機関にアンケート調査を実施した。喫煙者が健診受診後3か月以内に禁煙治療を受療する割合は、健康相談の導入の有無にかかわらず低かった。健康相談を健診機関が導入することによる禁煙治療の受療増加は、健康相談の実施が公衆衛生的に意味のある効果を持つとは言えなかった。アンケート調査では、禁煙支援を実施する上での阻害要因として、リソース不足や自己効力感の欠如、喫煙者の禁煙支援の拒否を挙げる健診機関が多かった。
結論
エビデンスレビューを通して職場や地域における禁煙支援について国内の知見を網羅的に整理した。集団および個人アプローチでの様々な禁煙支援対策が行われていたが、実装の阻害・促進要因や実装戦略について記載している研究は限定的であった。一方、地域や職域などの現場では様々な実装戦略が活用されていた。今後は、現場で使われている様々な潜在的な実装の知見を、実装科学の枠組みを使って科学的なエビデンスとして知見を蓄積していく必要がある。また、実装科学という新しい視点で作成した効果的かつ持続的な禁煙支援方法の優良事例集を保険者や地域のステークホルダーに普及していく。禁煙支援が含まれる健康相談を健診機関が導入することにより、禁煙治療の受療に対して健康相談の実施が効果を持つとは言えなかった。健診機関近隣の禁煙治療を行う医療機関の連絡先情報の整備や、医療機関からの喫煙者への積極的なアプローチ体制の構築、禁煙支援の研修機会の確保は禁煙治療受療者や禁煙達成者の増加につながることが期待される。今後、健診現場の阻害要因に対応する工夫を加えた上で、短時間支援の禁煙治療受療に対する効果を前向きに検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209017B
報告書区分
総合
研究課題名
健康寿命延伸を目指した禁煙支援のための研究
課題番号
21FA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
島津 太一(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 順子(国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
  • 渡邉 至(独立行政法人国立循環器病研究センター予防健診部)
  • 瀬在 泉(防衛医科大学校 医学教育部)
  • 谷口 千枝(愛知医科大学 看護学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国で普及可能な禁煙治療の利用促進戦略を明らかにし、禁煙治療利用割合および禁煙割合向上につなげることを目的とし、下記の研究を行った。
研究方法
1. 国内の禁煙支援介入研究のエビデンスレビューと実践事例の収集
スコーピングレビューを実施し、日本の職場、地域における禁煙支援介入の研究と事例を特定した。対象文献は、日本の地域、職場、学校などあらゆるセッティングにおける禁煙支援対策についての論文または報告書とした。

2. 優良事例集の作成と汎用モデルの概案の提示
スコーピングレビュー、アンケート/インタビュー調査の結果、および研究代表者の島津らが実施する職場の喫煙対策のクラスターランダム化比較試験の参加事業所事例をもとに、汎用モデル概案を作成した。汎用モデルを元に、阻害要因ごとにケースシナリオとその対応策(実装戦略)の具体的な事例を掲載した優良事例集を作成した。

3. 職域特定健診の場での短時間支援の効果についての観察研究
全国健康保険協会静岡支部において、支部の事業として短時間支援を含む政策である健康相談を実施している健診機関とそうでない健診機関の喫煙者で、ニコチン依存症管理料の算定や、一年後の禁煙割合を比較する観察研究を行った。主要評価項目は禁煙治療の初回受診とした。また、副次的評価項目は全5回の禁煙治療の完遂、喫煙割合、禁煙達成者の割合とした。解析には、Difference-in Difference(DID)法を用いた前後比較により、健康相談の導入による各アウトカムの変化について検討した。
結果と考察
1. 国内の禁煙支援介入研究のエビデンスレビューと実践事例の収集
498件(600介入)が特定された。灰色文献にて特定された禁煙支援実施の企業および団体については、アンケート調査を32企業/団体、インタビュー調査を11企業/団体に実施した。

2. 優良事例集の作成と汎用モデルの概案の提示
禁煙支援の方法には、エビデンスが確立している禁煙支援介入と、禁煙支援介入をうまく実施するための実装戦略に分けて整理を行った。集団および個人アプローチでの様々な禁煙支援介入が行われていたが、実装の阻害・促進要因や実装戦略について記載している研究は限定的であった。一方、地域や職域などの実践現場では様々な実装戦略が活用されていた。実装科学という新しい視点で整理した効果的かつ持続的な禁煙支援方法の汎用モデルを提案し、これに沿った優良事例集を作成した。

3. 職域特定健診の場での短時間支援の効果についての観察研究
健診現場における短時間支援を含む施策である健康相談の導入が禁煙治療受療に与える効果の検討や、健康相談の中での短時間支援の実施状況の把握を行った。まず、職域での健康診断において健康相談を実施している健康保険者の健康相談導入前年度と導入年度の健診・レセプトデータを利用して、差の差分析を行った。加えて、健診で実施される短時間支援の内容や阻害要因について、健康相談を実施している26健診機関にアンケート調査を実施した。喫煙者が健診受診後3か月以内に禁煙治療を受療する割合は、健康相談の導入の有無にかかわらず低かった。健康相談を健診機関が導入することによる禁煙治療の受療増加は、健康相談の実施が公衆衛生的に意味のある効果を持つとは言えなかった。アンケート調査では、禁煙支援を実施する上での阻害要因として、リソース不足や自己効力感の欠如、喫煙者の禁煙支援の拒否を挙げる健診機関が多かった。
結論
エビデンスレビューを通して職場や地域における禁煙支援について国内の知見を網羅的に整理した。集団および個人アプローチでの様々な禁煙支援対策が行われていたが、実装の阻害・促進要因や実装戦略について記載している研究は限定的であった。一方、地域や職域などの現場では様々な実装戦略が活用されていた。今後は、現場で使われている様々な潜在的な実装の知見を、実装科学の枠組みを使って科学的なエビデンスとして知見を蓄積していく必要がある。また、実装科学という新しい視点で作成した効果的かつ持続的な禁煙支援方法の優良事例集を保険者や地域のステークホルダーに普及していく。禁煙支援が含まれる健康相談を健診機関が導入することにより、禁煙治療の受療に対して健康相談の実施が効果を持つとは言えなかった。健診機関近隣の禁煙治療を行う医療機関の連絡先情報の整備や、医療機関からの喫煙者への積極的なアプローチ体制の構築、禁煙支援の研修機会の確保は禁煙治療受療者や禁煙達成者の増加につながることが期待される。今後、健診現場の阻害要因に対応する工夫を加えた上で、短時間支援の禁煙治療受療に対する効果を前向きに検討する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209017C

成果

専門的・学術的観点からの成果
国内の禁煙支援介入研究のエビデンスレビューに基づき、効果的かつ持続的な禁煙支援方法の汎用モデルを開発した。また、健診機関が短時間支援を実施する際の阻害要因、実施が十分でない短時間支援の構成要素について明らかにできた。本研究の進め方は実装科学の方法論に基づいているため、喫煙以外の対策立案に展開可能である。
臨床的観点からの成果
汎用モデルに沿った優良事例集を作成した。これにより職場の現場担当者レベルでの喫煙対策のノウハウがわかりやすく示された。これにより、具体的な対策の実施が推進されることが期待される。
ガイドライン等の開発
特記事項なし。
その他行政的観点からの成果
「次期健康づくり運動プラン作成と推進に向けた研究」(厚労科研費補助金、研究代表者:辻一郎、R4~R6年度)、日本健康教育学会 環境づくり研究会(委員長 武見ゆかり)との連携を行い、健康日本 21(第三次)の目標到達のための施策として、国及び各自治体が取り組むべき健康増進施策(アクションプラン)のうち、職域における喫煙対策についての提案を、本研究班で作成した優良事例集をもとに行った。
その他のインパクト
優良事例集とその解説動画を国立がん研究センター公式ホームページに公開した。優良事例集は、全国健康保険協会本部を通じ普及を図った。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
第17回日本禁煙学会学術総会でスコーピングレビューの成果を報告。
学会発表(国際学会等)
1件
16th annual conference on the science of dissemination and implementation in healthで職場の禁煙介入のモデルを提示。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
講演2件、ホームページ1件(優良事例集と説明動画公開)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagasawa T, Saito J, Odawara M, et al.
Smoking cessation interventions and implementations in Japan: a study protocol for a scoping review and supplemental survey.
BMJ Open , 12 (12) , e063912-  (2022)
10.1136/bmjopen-2022-063912
原著論文2
Nagasawa T, Saito J, Odawara M, et al.
Smoking cessation interventions and implementations across multiple settings in Japan: a scoping review and supplemental survey.
Implement Sci Commun , 4 (1) , 146-  (2023)
10.1186/s43058-023-00517-0

公開日・更新日

公開日
2023-12-18
更新日
2024-06-10

収支報告書

文献番号
202209017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,446,000円
(2)補助金確定額
4,417,000円
差引額 [(1)-(2)]
29,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 2,737,486円
旅費 7,040円
その他 647,287円
間接経費 1,026,000円
合計 4,417,813円

備考

備考
自己資金813円

公開日・更新日

公開日
2023-09-12
更新日
-