糖尿病神経障害・糖尿病足病変の診断ガイドラインならびに管理法の確立

文献情報

文献番号
202209012A
報告書区分
総括
研究課題名
糖尿病神経障害・糖尿病足病変の診断ガイドラインならびに管理法の確立
課題番号
20FA1017
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中村 二郎(愛知医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 神谷 英紀(愛知医科大学 医学部)
  • 姫野 龍仁(愛知医科大学 医学部内科学講座糖尿病内科)
  • 下田 博美(愛知医科大学 医学部)
  • 麻生 好正(獨協医科大学 内科学(内分泌代謝))
  • 加瀬 正人(獨協医科大学 内分泌代謝内科学講座)
  • 出口 尚寿(鹿児島大学 医学部・歯学部附属病院 糖尿病・内分泌内科)
  • 有村 愛子(冨田 愛子)(鹿児島大学 医学部)
  • 水上 浩哉(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 村上 千恵子(鈴木 千恵子)(弘前大学 医学部)
  • 石橋 宏之(愛知医科大学 血管外科)
  • 折本 有貴(愛知医科大学 血管外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
4,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病神経障害(DPN)は早期発症と高い有病率が特徴の糖尿病性合併症であり、また下肢切断等に至る糖尿病足病変(DF)の重要なリスクである。
 DPNの診断におけるゴールドスタンダードは標準的神経伝導検査(NCS)であるが、NCSにおいて90%以上の糖尿病患者が何らかの神経機能異常を呈することが知られている。しかしながら、現在、発症・進展を阻止するための成因に基づいた治療法は未確立である。その結果、DPNおよびDPNを背景とするDFは依然として解決すべき臨床課題として残されている。
 そこで本研究では、DPN・DFの諸評価法を用いて、各評価法の信頼性・有用性を検討し、得られた知見を基に診断ガイドライン・管理法案を作成し、その妥当性を検証した。また診断ガイドライン・管理法を策定後、2年間の縦断的研究により心血管イベントの予後調査を行い、DPN・DFの心血管イベントのリスク因子としての重要性を検証する。
研究方法
本研究は、第一段階の症例集積においては、目標症例数は2000例とし、評価項目には、一般身体所見、検体検査、神経伝導検査、心電図R-R間隔変動係数(CVR-R)等を含めた。解析は、DPNについては「糖尿病性神経障害を考える会」の簡易診断基準および馬場類等による層別化を行った後に、群間差の因子解析を行った。DFについては、IWGDF策定のSINBAD System等を用いて層別化を行いDPNと同様に解析した。解析の結果を用いて診断ガイドライン・管理法を策定する予定である。
第二段階として2年間の縦断研究を実施する。第一段階で集積した症例において2年間の心血管イベントの発生率を評価する。主要評価項目として、DPN・DFの層別の心血管イベント3-point major adverse cardiovascular events(3P-MACE)(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)発生率を解析する。副次評価項目として、DPN・DFの発症率・進展率を層別解析する。また、プロペンシティマッチング法により薬物療法の3P-MACE発生率への影響を解析する。
結果と考察
対象は標準的NCS検査と簡易NCS機器DPNチェックとCVR-Rを施行した225名の糖尿病患者とした。平均年齢59.7±15.2歳、平均BMI 25.3±5.8、平均糖尿病罹病期間9.0±10.1年。DPN重症度2度以上は87名(38.7%)であった。馬場分類2度以上の診断を再現しうる検査項目をロジスティック回帰分析(強制投入法)により判定したところ、DPNチェックのSNAPとSCVと深呼吸時CVR-Rを投入した場合はいずれの項目も有意な説明変数であることが判明した。回帰式による正答率は79.0%、ROC解析を用いると曲線下面積0.856であり、良好な診断能を有することが判明した。一方、投入項目を深呼吸時CVR-Rの代わりに安静時CVR-Rを用いた場合でもいずれの項目も有意な説明変数であることが判明した。個々の検査項目の診断能をROC解析で評価すると曲線下面積はDPNチェックのSCV 0.719、DPNチェックのSNAP 0.811、安静時CVR-R 0.640、深呼吸時CVR-R 0.659とDPNチェックのSNAPが最も優れていた。
以上の結果より、これらのカットオフ値を用いて各項目における異常の有無を判定し、その判定結果を組み合わせることで容易で客観性に優れた診断基準を次のように策定した。
【糖尿病性神経障害診断基準】
必須項目(以下の2項目を満たす)
1. 糖尿病が存在する
2. 糖尿病性神経障害以外の末梢神経障害を否定しうる

主項目
①CVR-R:安静時<2.2%あるいは深呼吸時<3.9%
② DPNチェックによる簡易神経伝導検査において腓腹神経伝導速度<50 m/s
③ DPNチェックによる簡易神経伝導検査において腓腹神経活動電位<8 µV

診断
糖尿病性神経障害の存在が疑われる:①~③の1つを満たす
糖尿病性神経障害と診断する:①~③の2つ以上を満たす
結論
本研究により簡便に評価できる項目を用いた明解なDPNの診断基準を策定できたが、その診断基準の臨床的有用性特に予後における重要性については今後の検討が必要である。本研究計画に基づき継続した縦断的研究を継続する予定である。

公開日・更新日

公開日
2023-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209012B
報告書区分
総合
研究課題名
糖尿病神経障害・糖尿病足病変の診断ガイドラインならびに管理法の確立
課題番号
20FA1017
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
中村 二郎(愛知医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 神谷 英紀(愛知医科大学 医学部)
  • 姫野 龍仁(愛知医科大学 医学部内科学講座糖尿病内科)
  • 下田 博美(愛知医科大学 医学部)
  • 麻生 好正(獨協医科大学 内科学(内分泌代謝))
  • 加瀬 正人(獨協医科大学 内分泌代謝内科学講座)
  • 出口 尚寿(鹿児島大学 医学部・歯学部附属病院 糖尿病・内分泌内科)
  • 有村 愛子(冨田 愛子)(鹿児島大学 医学部)
  • 水上 浩哉(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 村上 千恵子(鈴木 千恵子)(弘前大学 医学部)
  • 石橋 宏之(愛知医科大学 血管外科)
  • 折本 有貴(愛知医科大学 血管外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
糖尿病は、細小血管障害や大血管障害等のさまざまな合併症を引き起こす。これらのうち細小血管障害は厳格な血糖管理によって、一定程度の発症予防・重症化予防が可能であることが報告されているものの十分とはいえず、新たな予防法の開発が求められている。中でも糖尿病神経障害(DPN)は早期発症と高い有病率が特徴であり、また下肢切断等に至る糖尿病足病変(DF)の重要なリスクである。
DPNの診断におけるゴールドスタンダードは標準的神経伝導検査(NCS)であるが、NCSにおいて90%以上の糖尿病患者が何らかの神経機能異常を呈することが知られており、高頻度な疾患であることが推察される。しかしながら現在、発症・進展を阻止するための成因に基づいた治療法は未確立であり、弥縫策として糖尿病患者の数%~約10%に認められるしびれ・痛み等に対する疼痛管理療法が主たる治療法として施行されている。その結果、DPNおよびDPNを背景とするDFは依然として解決すべき臨床課題として残されている。
DPNの成因にアプローチする治療法の開発が遅れている要因として、DPNの評価方法(診断基準ならびに重症度判定法)が未確立であることが挙げられる。
そこで本研究では、2020年度にDPN・DFの諸評価法を用いて、各評価法の信頼性・有用性を検討した。2021年度以降には得られた知見を基に必要な評価項目を集積したデータベースを構築した。2022年度には診断ガイドライン・管理法案を作成した。また診断ガイドライン・管理法を策定後、2年間の縦断的研究により心血管イベントの予後調査を行い、DPN・DFの心血管イベントのリスク因子としての重要性を検証する。
研究方法
本研究は、第一段階の症例集積においては実態調査であることから、可能な限り偏りのない糖尿病患者集団を形成することを視野に入れ、各種国家行政データを基に年齢・性別・就労業種等を考慮しつつ症例を収集した。目標症例数は2000例とし、評価項目には、年齢、性別、糖尿病罹病期間、糖尿病の病型、心血管イベント既往歴、ヘモグロビンA1c、空腹時血糖値、随時血糖値、糖尿病腎症および網膜症の病期、一般検体(血液・尿)検査、血圧、DPN・DF関連自覚所見、DPN・DF関連他覚所見、神経伝導検査、心電図R-R間隔変動係数(CVR-R)、網膜光干渉断層像(OCT)等を含めた。2021年度以降、解析は、DPNについては「糖尿病性神経障害を考える会」の簡易診断基準(以下、簡易診断基準)および馬場ら提唱の“神経伝導検査に基づく糖尿病性神経障害重症度分類”(以下、馬場分類)等による層別化を行った後に、群間差の因子解析を行った。解析の結果を用いて診断ガイドライン・管理法を策定した。
2021年度以降、第二段階として2年間の縦断研究を開始した。第一段階で集積した症例において2年間の心血管イベントの発生率を評価する。主要評価項目として、DPN・DFの層別の心血管イベント3-point major adverse cardiovascular events(心血管死、非致死性心筋梗塞、非致死性脳卒中)発生率を解析する。副次評価項目として、DPN・DFの発症率・進展率を層別解析する。
結果と考察
以下の10項目に関する結果を得、考察した。
結果1.角膜内神経線維長(CFNL)・密度(CFND)による簡易診断基準に基づくDPNの診断率
結果2. CFNL・CFNDによる馬場分類に基づくDPNの診断率
結果3. CFNL・CFNDによる馬場分類に基づく顕性DPNの診断率
結果4. DPNの診断における心電図QT時間(QTc)の有用性
結果5. フリッカー網膜電位計レチバルTMによる糖尿病性神経障害の診断率
結果6. OCTによる網膜構造分析による各網膜層の厚さとDPNの相関
結果7. 血糖改善期における網膜血管とDPNおよび糖尿病性合併症の相関
結果8.簡易NCS機器DPNチェックTMに付属するメーカー供与の結果判定レポートにおけるDPNの重症度評価の妥当性
結果9. 簡易NCS機器DPNチェックTMによるDPN重症度の予測式を用いた診断能改善の試み
結果10.簡易NCS機器とCVR-Rを用いたDPN診断基準の策定
結論
上記の結果と考察より、下記の診断基準案を策定した。
【糖尿病性神経障害診断基準】(案)
必須項目(以下の2項目を満たす)
1. 糖尿病が存在する
2. 糖尿病性神経障害以外の末梢神経障害を否定しうる

主項目
①CVR-R:安静時<2.2%あるいは深呼吸時<3.9%
② DPNチェックによる簡易神経伝導検査において腓腹神経伝導速度<50 m/s
③ DPNチェックによる簡易神経伝導検査において腓腹神経活動電位<8 µV

診断
糖尿病性神経障害の存在が疑われる:①~③の1つを満たす
糖尿病性神経障害と診断する:①~③の2つ以上を満たす

公開日・更新日

公開日
2023-08-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-08-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病性神経障害のレジストリを構築し臨床情報を集積し、早期診断に有用な項目を発掘した。これらの項目は簡便性・汎用性と客観性を両立させたものであり臨床現場への実装性に優れている。
臨床的観点からの成果
糖尿病性神経障害の診断基準案を作成した。当該疾患は神経変性疾患であることより一般的に早期診断が困難であるが、この診断基準案を用いることで客観性と一定程度の再現性を有する当該疾患の早期診断が可能となることが期待できる。
ガイドライン等の開発
糖尿病性神経障害の診断基準案を作成した。日本糖尿病学会あるいは日本糖尿病合併症学会の委員会等において検証の上、学会を通して診断基準として発表される予定である。
その他行政的観点からの成果
多施設共同研究として糖尿病性神経障害に関する臨床情報を集積した。糖尿病性神経障害に対する今後の多様な研究活動において二次利用を含めた活用が期待できる。
その他のインパクト
該当事項なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
16件
その他論文(和文)
8件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
21件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
2024-05-23

収支報告書

文献番号
202209012Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,460,000円
(2)補助金確定額
5,460,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,755,397円
人件費・謝金 0円
旅費 361,892円
その他 82,711円
間接経費 1,260,000円
合計 5,460,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-09-05
更新日
-