医学研究に資するカニクイザル体細胞由来クローンES細胞の樹立に関する研究

文献情報

文献番号
200911001A
報告書区分
総括
研究課題名
医学研究に資するカニクイザル体細胞由来クローンES細胞の樹立に関する研究
課題番号
H19-生物資源・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
下澤 律浩(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小倉 淳郎(理化学研究所 バイオリソースセンター)
  • 山海 直(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
  • 柴田 宏昭(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
8,650,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
カニクイザルにおいて、免疫拒絶を生じないようなクローンES・iPS細胞は、将来的にヒト多能性幹細胞研究やそれを利用した医療応用を計る上で、安全性および移植の効果などの評価・検証のための霊長類を用いた医科学研究に重要な生物資源となり、厚生労働行政においても重要な研究である。クローンES細胞を作出するために必要な卵の採取や核移植に関する検討、さらに樹立細胞株の性状解析を行った。
研究方法
カニクイザルからの効率的で多数の成熟卵を採取する方法、カニクイザル体細胞の細胞周期同期法ならびに体細胞核移植法の検討およびiPS細胞の性状などの課題を検討した。
結果と考察
回収卵中、MII卵とGVBD卵が各1/4ほど確認された。これらの卵をMII期の状態で回収することが可能になればMII卵は回収卵の約50%になる。また、投与したホルモンに対する反応性に個体差が見られた。サル類の場合、実験動物として人工管理下で飼育されたとしても、遺伝的に均一な個体は存在しない。それがサルの多様性であり、サル類を研究に用いる意義の一つでもある。個体差の小さい、より効果的な卵巣刺激法の確立が急務である。骨髄間葉系幹細胞はノコダゾール処理により、G2/M期への同調に顕著な効果は見られず、ノコダゾール処理濃度や時間を更に長くする必要があることが示唆された。体細胞核移植において、hCG投与によって誘導された卵の成熟時間が比較的に長いときには、除核および核移植卵の発生の面から、成熟個体を使用する方が良いことが示唆された。マウスと異なりサルでは未成熟個体を使用する利点が認められなかった。樹立した細胞株の未分化マーカーの発現は、カニクイザルES細胞などと同様であった。また、三胚葉性の細胞種から成るテラトーマを形成し、多分化能を持つことが確認された。さらに、調べられた株の約8割以上の細胞で正常な核型が確認され、その安定性が示された。iPS細胞の樹立が確認された。
結論
カニクイザルにおいては、ある程度の卵の数が確保され、その中にMII卵が含まれるが、個体差が存在する。サル類を研究に用いる前提として個体差があることを受け入れ、個体ごとにモニタリングした卵巣刺激法の開発が必要である。体細胞核移植において、卵を採取するカニクイザルとしては、成熟個体に由来する卵を使用することの優位性が示唆された。ES細胞と同様な性質を持つiPS細胞の誘導が、カニクイザル自身の遺伝子を利用することで可能であることを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200911001B
報告書区分
総合
研究課題名
医学研究に資するカニクイザル体細胞由来クローンES細胞の樹立に関する研究
課題番号
H19-生物資源・一般-001
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
下澤 律浩(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 小倉 淳郎(理化学研究所 バイオリソースセンター)
  • 山海 直(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
  • 柴田 宏昭(独立行政法人医薬基盤研究所 霊長類医科学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(生物資源・創薬モデル動物研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
医科学研究に多くの実績のあるカニクイザルの体細胞に由来する多能性幹細胞は、将来的にヒト多能性幹細胞研究やそれを利用した医療への応用を計る上で、安全性および移植などの評価・検証のために非ヒト霊長類を用いた医科学研究に重要な生物資源となる。そこで、ヒトと同じ霊長類に属するカニクイザル体細胞に由来するクローンES細胞およびiPS細胞の樹立を目指した。
研究方法
クローンES細胞・iPS細胞を樹立するために、成熟卵の採取法、体細胞核移植技術、ES細胞の樹立法、未分化細胞への誘導法などに関して検討を行った。
結果と考察
GnRH、FSHおよびhCG を用いた卵の採取では、MII卵とGVBD卵がそれぞれ全採取卵の1/4を占めた。また、卵成熟を誘導するhCGの投与量の比較を行ったところ、いずれも回収卵の1/3程度の成熟卵しか得られず、顕著な効果を認めなかった。投与したFSH、hCGに対する反応性に個体差があることが明らかとなった。核移植のドナー候補として骨髄由来間葉系幹細胞で細胞周期制御を検討したが、ノコダゾールに対する感受性が低いことが示唆された。核移植に必須な卵の核は、細胞質へのダメージを極力抑えることで除くことが可能であった。そして、クローン胚の活性化法については、IonomycinとDMAPの複合処理がより効果的なものであり、また、受精卵を利用した核移植では、正常受精由来の細胞質を利用する利点を確認した。さらに、卵の由来として、個体の年齢および卵の成熟時間の観点から調べたところ、ホルモン投与後の卵成熟時間にかかわらず、成熟個体から採取される卵を使用する方が核移植研究に効果的であった。カニクイザル体細胞へカニクイザル由来の初期化誘導遺伝子を導入することで作製されたiPS細胞は、正常核型が安定的に維持され、また未分化マーカーの発現および三胚葉性テラトーマ形成能が確認された。これはカニクイザル自身の遺伝子を利用することでヒトなどと同様に人為的に多能性幹細胞を誘導できることを示している。
結論
医科学研究に大きく貢献できるカニクイザルにおいて、体細胞由来クローンES細胞を樹立する基盤的な技術を構築した。また、免疫拒絶のないiPS細胞をカニクイザルで樹立可能であることを確認した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200911001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
卵の採取において、マウスと異なりカニクイザルでは未成熟個体を使用する利点が認められなかった。また、核移植に利用する卵の由来も成熟個体の時に効果的であった。受精卵を利用した核移植では、正常受精由来の細胞質を利用する利点が確認された。
臨床的観点からの成果
医科学研究に大きく貢献できるカニクイザルにおいて、体細胞由来クローンES細胞を樹立する基盤的な技術を構築し、免疫拒絶のないiPS細胞を樹立可能であることを確認した。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
前臨床研究に利用されるカニクイザルにおいて、自家移植可能な多分化能を持つ細胞株を樹立する基盤的技術を構築した。
その他のインパクト
iPS細胞の樹立検討において、ヒトと同様にカニクイザルから4つの初期化誘導遺伝子がクローニングされ、それを利用することで未分化細胞株が樹立された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
28件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
30件
学会発表(国際学会等)
13件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shimozawa N, Nakamura S, Takahashi I et al.
Characterization of a novel embryonic stem cell line from an intracytoplasmic sperm injection-derived blastocyst in the African green monkey.
Reproduction , 139 , 565-573  (2010)
原著論文2
Shimozawa N, Okada H, Hatori M et al.
Comparison of follicular growth stimulation methods for collecting mature oocytes from cynomolgus and African green monkeys
Theriogenology , 67 , 1143-1149  (2007)
原著論文3
Okada H, Hatori M, Shimozawa N et al.
Collection and culture of primordial germ cells from cynomolgus monkeys (Macaca fascicularis)
Reprod Med Biol , 6 , 203-210  (2007)
原著論文4
Sultana F, Hatori M, Shimozawa N et al.
Continuous observation of rabbit preimplantation embryos in vitro by using a culture device connected to a microscope
JAALAS , 48 , 1-5  (2009)
原著論文5
Masuda S, Ageyama N, Shibata H et al.
Cotransplantation with MSCs improves engraftment of HSCs after autologous intra-bone marrow transplantation in nonhuman primate
Exp Hematology , 37 , 1250-1257  (2009)
原著論文6
Tanaka Y, Nakamura S, Shibata H et al.
Sustained macroscopic engraftment of cynomolgus embryonic stem cells in xenogeneic large animals after in utero transplantation
Stem Cells and Development , 17 , 367-382  (2008)
原著論文7
Kishi Y, Tanaka Y, Shibata H et al.
Variation in the incidence of teratomas after the transplantation of nonhuman primate ES cells into immunodeficient mice
Cell Transplantation , 17 , 1095-1102  (2008)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-