加熱式タバコの急性影響を評価する疫学実証研究

文献情報

文献番号
202209005A
報告書区分
総括
研究課題名
加熱式タバコの急性影響を評価する疫学実証研究
課題番号
20FA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)
研究分担者(所属機関)
  • 財津 將嘉(産業医科大学)
  • 堀 愛(筑波大学 医学医療系)
  • 谷上 博信(大阪国際がんセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
3,465,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現状では、加熱式タバコの能動喫煙及び受動喫煙による急性健康影響は十分には把握されていない。加熱式タバコが発売されてからの期間が短く、長期追跡が困難な現状において、周産期および周術期などの比較的短期間の喫煙関連曝露とアウトカムの関連を観察できる研究デザインが有効であると考えられた。そこで本研究では、加熱式タバコによる急性影響の実態把握を行うことを目的とし、加熱式タバコの能動喫煙及び受動喫煙の曝露の実態および肺炎や周産期アウトカム、周術期アウトカム等の急性症状・急性疾患との関連について、インターネット調査及び患者調査の2つの調査研究デザインを主に採用し、データ収集および分析を行った。
研究方法
(方法・結果・考察1)インターネット調査研究では、2022年度には、2023年2月に実施したJASTIS2023年調査により、加熱式タバコの使用率および場所別の受動喫煙の割合のデータを更新した。加熱式タバコの使用率は、2021年、2022年調査と比べて横ばいであった。過去一ヶ月間に加熱式タバコによる受動喫煙を受けていたのは全体の39.8%、非喫煙者の32.4%であった。加熱式タバコ受動喫煙の割合は、2021年、2022年調査と比べて、職場、家庭、居酒屋・バーなどいずれの場所も増加しており、特に居酒屋・バーやレストランで増加していた。
さらに、JASTIS研究縦断調査データの分析から加熱式タバコと禁煙および喫煙再開の関連について調べた。紙巻きタバコを喫煙している人における加熱式タバコ使用が及ぼす影響について分析したところ「禁煙治療など有効な禁煙法を試したことがある」「1日20本以上紙巻きタバコを吸う」「学歴が高卒以下」「健康状態が良くない」という項目のどれかが当てはまる場合、加熱式タバコ使用により(1か月以上の)禁煙に失敗しやすいとの結果が得られた。「年齢が20代」「フルタイム労働者」のどちらかが当てはまる場合、加熱式タバコ使用により(6か月以上の)禁煙に失敗しやすかった。
結果と考察
(方法・結果・考察2)2021年7-8月に実施したインターネット調査JACSIS研究妊産婦調査データを用いて、2023年には母親の加熱式タバコ使用が子どものアレルギーと関連するかどうか調べた。アレルギーの罹患率は、妊娠中の加熱式タバコ使用群の子どもで15.2%と増加していた。
患者データ研究では、2021年12月から2022年9月までに収集された問診情報をカルテ情報とリンケージし、2850人を分析対象とした。直近30日間で加熱式タバコを使用した患者の割合は4.6%、紙巻きタバコを喫煙した患者は10.7%であり、気道閉塞の有病率は16.8%だった。気道閉塞の有病率は、現在加熱式タバコのみ使用している患者と紙巻きタバコのみ使用している患者で有意な差を認めなかった。
結論
本研究は、タバコ規制・対策に関わる主要課題として近年急浮上してきた加熱式タバコ問題について、政策立案・提案につながるエビデンスの構築を目的としている。2022年度は研究3年目の最終年度であり、加熱式タバコの急性健康影響を評価するために役立つ重要な研究成果(研究論文出版)が多く得られた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209005B
報告書区分
総合
研究課題名
加熱式タバコの急性影響を評価する疫学実証研究
課題番号
20FA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
田淵 貴大(地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部)
研究分担者(所属機関)
  • 財津 將嘉(産業医科大学)
  • 堀 愛(筑波大学 医学医療系)
  • 谷上 博信(大阪国際がんセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現状では、加熱式タバコの能動喫煙及び受動喫煙による急性健康影響の実態は十分には把握されていない。加熱式タバコが発売されてからの期間が短く、長期追跡が困難な現状において、周産期および周術期などの比較的短期間の喫煙関連曝露とアウトカムの関連を観察できる研究デザインが有効であると考えられた。そこで本研究では、加熱式タバコによる急性影響の実態把握を行うことを目的とし、加熱式タバコの能動喫煙及び受動喫煙の曝露の実態および肺炎や周産期アウトカム、周術期アウトカム等の急性症状・急性疾患との関連について、インターネット調査及び患者調査の2つの調査研究デザインを主に採用し、データ収集および分析を行った。
研究方法
(方法・結果・考察1)インターネット調査研究では、加熱式タバコ問題に関するインターネット調査であるJapan“Society and New Tobacco” Internet Survey :JASTIS研究データを分析した。2020年度には、加熱式タバコの能動喫煙及び受動喫煙への曝露の割合を推計した。日本人成人における加熱式タバコ使用割合は、2015年0.2%から2019年11.3%と、急速に増加していた。JASTIS研究2019年調査データを用いて、15〜73歳の8784人の回答者を分析したところ、紙巻タバコの受動喫煙を経験したのは58.5%で、加熱式タバコの受動喫煙を経験したのは33.3%であった。このうち、紙巻タバコでは56.8%、加熱式タバコでは39.5%が、受動喫煙によって何らかの症状を経験していた。中でも、喘息発作と胸痛は、加熱式タバコの受動喫煙によって引き起こされた頻度(それぞれ10.9%と11.8%)が、紙巻タバコの受動喫煙によって引き起こされた頻度(それぞれ8.4%と9.9%)よりも高かった。
2021年度には、JASTIS研究データから加熱式タバコの能動喫煙及び受動喫煙への曝露の割合をそれぞれ疾患の有無および曝露の場所に注目して計算した。JASTIS研究2019年調査データ15-73歳男女合計9,008人において、加熱式タバコ使用、紙巻タバコと加熱式タバコの併用の割合は、全体(慢性疾患の有無に関わらず)でそれぞれ9.0%と6.1%であり、疾患別では、高血圧で10.2%と7.4%、糖尿病で15.9%と12.3%、CVDで 19.2%と15.7%、COPD で40.5%と33.3%、癌で17.5%と11.9%であった。JASTIS2022年調査で、過去一か月に加熱式タバコの受動喫煙があったと回答した割合(重み付け後)は全体で36.5%であり、JASTIS2021年の22.7%よりも増加していた。加熱式タバコの受動喫煙が最も多かった場所は職場であり、全体で16.0%(2021年は13.5%)であった。次いで家庭で14.0%(2021年は12.2%)であった。
2022年度には、JASTIS研究縦断調査データの分析から加熱式タバコと禁煙および喫煙再開の関連について調べた。紙巻きタバコを喫煙している人における加熱式タバコ使用が及ぼす影響について分析したところ「禁煙治療など有効な禁煙法を試したことがある」「1日20本以上紙巻きタバコを吸う」「学歴が高卒以下」「健康状態が良くない」という項目のどれかが当てはまる場合、加熱式タバコ使用により(1か月以上の)禁煙に失敗しやすいとの結果が得られた。「年齢が20代」「フルタイム労働者」のどちらかが当てはまる場合、加熱式タバコ使用により(6か月以上の)禁煙に失敗しやすかった。
結果と考察
(方法・結果・考察2)2020年10月および2021年7-8月に実施したインターネット調査JACSIS研究妊産婦調査データを用いて、2020年は低出生体重児、2021年は在胎不当過小児(SGA児)と加熱式タバコ使用の関連を調べたところ、妊産婦を介した加熱式タバコは胎児成長に悪影響を及ぼしている可能性が示唆された。2023年には母親の加熱式タバコ使用が子どものアレルギーと関連するかどうか調べた。アレルギーの罹患率は、妊娠中の加熱式タバコ使用群の子どもで15.2%と増加していた。加熱式タバコ使用の急性健康影響を評価する上で、妊産婦調査データを活用することが有用だと考えられ、今後も継続的に分析していく。
結論
本研究は、タバコ規制・対策に関わる主要課題として近年急浮上してきた加熱式タバコ問題について、政策立案・提案につながるエビデンスの構築を目的としている。2022年度までの3年間で、加熱式タバコの急性健康影響を評価するために役立つ重要な研究成果(研究論文出版)が多く得られた。先行研究も含めた全ての研究成果を統合して、加熱式タバコの急性健康影響を一定程度の確からしさを持って評価できるようになったことの意義は大きいと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
3年の研究期間で、原著論文27篇(英文24篇、和文3篇)を専門学術誌に掲載した。また、英文書籍1冊を出版した。本研究班では、能動喫煙および受動喫煙について加熱式タバコに関する課題を具体的に解明しており、その成果が国内外で注目されている。
臨床的観点からの成果
本研究では、加熱式タバコの健康影響について医科および歯科の臨床家と協働し、それぞれの分野における臨床アウトカムとの関連にも注目して研究してきた。加熱式タバコ使用による歯周病リスクや喘息リスクなどの知見が得られている。これらの知見は、臨床家にとっても重要であり、今後さらに臨床家に対する周知を図る所存である。
ガイドライン等の開発
現時点ではガイドライン等における成果はないが、加熱式タバコ使用の能動喫煙および受動喫煙が及ぼす害がさまざまな疾患・病態で明らかとなったため、それがガイドライン等へ反映される日も近いものと考えられる。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果は各自治体のタバコ対策担当者等からの注目度が高く、成果が各自治体での禁煙啓発セミナーにて紹介されるなど行政的観点からの成果も得られていっている。また、各自治体で制定される受動喫煙防止条例等にて本研究の成果が活用されている。
厚生労働省のタバコ対策専門官からの求めに応じて、研究成果についての情報提供を行った(2023年~現在にかけて適時)
その他のインパクト
呼吸器学会、循環器学会などの各学会のシンポジウムにおいて加熱式タバコ問題を啓発する発表を行い、好評を得た(年3-5回程度)。多くの研究成果が新聞等にて報道された。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
30件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
日本学術会議の報告につながるなどの施策への反映があった。他に禁煙宣言の策定など
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
2024-05-23

収支報告書

文献番号
202209005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,500,000円
(2)補助金確定額
4,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,211,472円
人件費・謝金 525,688円
旅費 442,160円
その他 1,285,680円
間接経費 1,035,000円
合計 4,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-08-30
更新日
-