加熱式たばこの健康影響評価のためバイオマーカーを用いた評価手法の開発

文献情報

文献番号
202209004A
報告書区分
総括
研究課題名
加熱式たばこの健康影響評価のためバイオマーカーを用いた評価手法の開発
課題番号
20FA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大森 久光(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 博雅(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 黒澤 一(東北大学 高等教育開発推進センター 学生生活支援部 保健管理室)
  • 緒方 裕光(女子栄養大学 疫学・生物統計学研究室)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 改正健康増進法(2018年7月公布)において、加熱式たばこによる受動喫煙が人の健康に影響を及ぼす調査研究を一層推進し、可能な限り早期に結論を得るよう附帯決議がなされた。
 本研究の目的は、加熱式たばこによる受動喫煙が人の健康に及ぼす影響について結論を得ることである。
 我が国において、近年、加熱式たばこ使用者が特に若い世代を中心に増加している。国民健康栄養調査(2019年)によると、加熱式たばこ使用者の割合は20歳以上男女全体で26.7%と報告されている。若い世代での使用率が高い。
 これまで、加熱式たばこによる健康影響および受動喫煙等の周囲への影響について、我々の知る限り明らかでない。
 そこで本研究では,加熱式たばこ使用者・受動喫煙者の健康影響を評価することを目的として,使用者・受動喫煙者の生体試料(尿)に含まれているたばこ由来の有害化学物質の代謝物と影響マーカー(酸化ストレスマーカー)値から健康影響評価を行った。
 本研究の第1の目的は、加熱式たばこ使用による受動喫煙の実態を明らかにすることである。第2の目的は、加熱式たばこ使用者・その受動喫煙者の健康影響を評価することを目的とした。

研究方法
Ⅰ.加熱式たばこ使用による受動喫煙の実態調査
1)父親の加熱式たばこ使用とその非喫煙家族(配偶者および子供)における尿中ニコチン代謝物およびたばこ特異的ニトロソアミン代謝物の評価
2)父親の加熱式たばこ使用による受動喫煙状況(質問票による分析)と尿中ニコチン代謝物およびたばこ特異的ニトロソアミン代謝物との関連
Ⅱ.加熱式たばこ使用者・その受動喫煙者の健康影響の評価
1)揮発性有機化合物代謝物の一斉分析法の確立と日本人喫煙者および受動喫煙者への適用
 加熱式たばこ喫煙者・受動喫煙者の揮発性有機化合物代謝物の分析法を確立し,日本人喫煙者,受動喫煙者の揮発性有機化合物代謝物( Volatile Organic Compounds: VOC代謝物)の分析を行なった。
結果と考察
 本研究では、加熱式たばこ使用者の非喫煙家族の尿中ニコチン代謝物(TNM)の値は、非喫煙・非使用者の非喫煙家族に比べて、有意に高値を示した。
 父親からの「受動喫煙有り」の配偶者および子供の尿中ニコチン代謝物(TNM)の値は、「受動喫煙なし」の配偶者および子供に比べて有意に高値を示した。
 さらに、紙巻たばこ喫煙に比べて、加熱式たばこ使用者の方が、家族の前で喫煙している割合が高いことがわかった。このことは、「加熱式たばこが紙巻たばこに比べて、受動喫煙を生じさせない、より安全と使用者が考え、非喫煙者である家族の前で使用している可能性あるものと考えられた。加熱式たばこ使用者に対して、得られたエビデンスに基づく啓発が重要と考えられた。
 喫煙者の尿中ニコチン代謝物分析、NNAL、酸化ストレスの分析結果より、加熱式たばこを使用してもニコチン曝露量が紙巻たばこと比較して低減されることはないと予想された。
 加熱式たばこを使用することによって発がん性物質の曝露量が低下することは確認されなかった。酸化ストレスマーカーについては喫煙者群のサンプル数が少ないために非喫煙者との分析値に違いが認められなかった。
 喫煙者の尿中VOC代謝物の分析結果とニコチン代謝物量を比較すると喫煙者が紙巻たばこまたは加熱式たばこを使用しているのかが判定できる可能性が示唆された。
 受動喫煙者の尿中ニコチン代謝物分析とNNALの分析の結果より、現段階で,紙巻たばこが加熱式たばこよりも健康影響が低いまで言及することが困難であることが分かった。
 受動喫煙者の尿中VOC代謝物の分析結果より、受動喫煙のバイオマーカーとなる可能性のある成分は,2-HPMAとXyleneの代謝物である2-MHAと3-MHA,4-MHAの合算値 などが考えられた。
 今後,サンプル数が増えることによってバイオマーカーとして活用の可能性が示唆された。
 加熱式たばこは受動喫煙を生じさせないと考え、非喫煙者の近くにおいて喫煙をしている可能性もあると考えられた。
結論
 本研究では、曝露マーカーを測定し、家族における加熱式たばこ使用による曝露の実態を明らかにした。
 本研究の成果は、「改正健康増進法」で経過措置として店内を喫煙可能としている施設において屋内禁煙化の推進に寄与する科学的根拠の一部になると考えられる。また、国民の加熱式たばこによる受動喫煙防止に対する認知の向上につながるものと期待される。
 さらに健康影響の評価のためには、開発した曝露マーカーの分析に加えて、生体機能の変化を評価する必要がある。本研究を発展させることで、加熱式たばこ使用による健康影響が明らかとなり、その結果、受動喫煙による疾病および喫煙関連疾患の予防に貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202209004B
報告書区分
総合
研究課題名
加熱式たばこの健康影響評価のためバイオマーカーを用いた評価手法の開発
課題番号
20FA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
大森 久光(国立大学法人熊本大学 大学院生命科学研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 井上 博雅(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
  • 黒澤 一(東北大学 高等教育開発推進センター 学生生活支援部 保健管理室)
  • 緒方 裕光(女子栄養大学 疫学・生物統計学研究室)
  • 欅田 尚樹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 稲葉 洋平(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 改正健康増進法(2018年7月公布)において、加熱式たばこによる受動喫煙が人の健康に影響を及ぼす調査研究を一層推進し、可能な限り早期に結論を得るよう附帯決議がなされた。
 本研究の目的は、加熱式たばこによる受動喫煙が人の健康に及ぼす影響について結論を得ることである。
 我が国において、近年、加熱式たばこ使用者が特に若い世代を中心に増加している。国民健康栄養調査(2019年)によると、加熱式たばこ使用者の割合は20歳以上男女全体で26.7%と報告されている。
 これまで、加熱式たばこによる健康影響および受動喫煙等の周囲への影響について、我々の知る限り、我々の先行研究しかなく明らかでない。
 そこで本研究では,加熱式たばこ使用者・受動喫煙者の健康影響を評価することを目的として,使用者・受動喫煙者の生体試料(尿)に含まれているたばこ由来の有害化学物質の代謝物と影響マーカー(酸化ストレスマーカー)値から健康影響評価を行った。
本研究の第1の目的は、加熱式たばこ使用による受動喫煙の実態を明らかにすることである。
第2の目的は、加熱式たばこ使用者・受動喫煙者の健康影響を評価することである。
さらに、受動喫煙のリスクに関する研究をメタ・アナリシスの手法を用いて,解析,定量的に統合すること,リスクの高い疾患を明確にすることを目的とした。
研究方法
1,加熱式たばこ使用による受動喫煙の実態調査
1)父親の加熱式たばこ使用とその非喫煙家族(配偶者および子供)における尿中ニコチン代謝物およびたばこ特異的ニトロソアミン代謝物の評価
2)父親の加熱式たばこ使用による受動喫煙状況(質問票による分析)と尿中ニコチン代謝物およびたばこ特異的ニトロソアミン代謝物との関連
2. 加熱式たばこ使用者・その受動喫煙者の健康影響評価
日本人喫煙者および受動喫煙者のニコチン代謝物、たばこ特異的ニトロソアミン代謝物(4-(methylnitrosamino)-1-(3-pyridyl)-1- butanol(NNAL)、揮発性有機化合物代謝物と酸化ストレスマーカー(DNA損傷体、脂質の酸化ストレスマーカー)の分析による健康影響評価
3.受動喫煙の健康リスクに関するメタ・アナリシス
受動喫煙のリスクに関する研究をメタ・アナリシスの手法を用いて,解析,定量的に統合すること,リスクの高い疾患を明確にした。
結果と考察
1. 本研究では、加熱式たばこ使用者の非喫煙家族の尿中ニコチン代謝物(TNM)の値は、非喫煙・非使用者の非喫煙家族に比べて、有意に高値を示した。
父親からの「受動喫煙有り」の配偶者および子供の尿中ニコチン代謝物(TNM)の値は、「受動喫煙なし」の配偶者および子供に比べて有意に高値を示した。
さらに、紙巻たばこ喫煙に比べて、加熱式たばこ使用者の方が、家族の前で喫煙している割合が高いことがわかった。
2. 喫煙者の尿中ニコチン代謝物分析、NNAL、酸化ストレスの分析結果より、加熱式たばこを使用してもニコチン曝露量が紙巻たばこと比較して低減されることはないと予想された。
 加熱式たばこを使用することによって発がん性物質の曝露量が低下することは確認されなかった。
 酸化ストレスマーカーについては喫煙者群のサンプル数が少ないために非喫煙者との分析値に違いが認められなかった。
 受動喫煙者の尿中ニコチン代謝物分析とNNALの分析の結果より、現段階で,紙巻たばこが加熱式たばこよりも健康影響が低いまで言及することが困難であることが分かった。
 受動喫煙者の尿中VOC代謝物の分析結果より、受動喫煙のバイオマーカーとなる可能性のある成分は,2-HPMAと Xyleneの代謝物である 2-MHAと 3-MHA 4-MHAの合算値などが考えられた。
3. 受動喫煙の健康リスクに関するメタ・アナリシスの結果、受動喫煙と脳卒中,精神疾患,睡眠障害,肺がん,乳がん,COPDには正の関連が認められた。
結論
 本研究では、曝露マーカーを測定し、家族における加熱式たばこ使用による曝露の実態を明らかにした。
 加熱式たばこは受動喫煙を生じさせないと喫煙者が考え、受動喫煙者の近くにおいて喫煙をしている可能性もあると考えられた。
 本研究の成果は、「改正健康増進法」で経過措置として店内を喫煙可能としている施設において屋内禁煙化の推進に寄与する科学的根拠の一部になると考えられる。また、国民の加熱式たばこによる受動喫煙防止に対する認知の向上につながるものと期待される。
 さらに健康影響の評価のためには、開発した曝露マーカーの分析に加えて、生体機能の変化を評価する必要がある。本研究を発展させることで、加熱式たばこ使用による健康影響が明らかとなり、その結果、受動喫煙による疾病および喫煙関連疾患の予防に貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2023-07-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202209004C

成果

専門的・学術的観点からの成果
父親の加熱式たばこ使用と非喫煙配偶者および子供における尿中ニコチン代謝物(TNM)およびたばこ特異的ニトロソアミン代謝物(NNAL)の値は、非喫煙・非使用者の非喫煙家族に比べて有意に高値を示し、曝露の実態が明らかとなった。
TNM、NNAL、揮発性有機化合物代謝物と酸化ストレスマーカー(DNA損傷体、脂質の酸化ストレスマーカー)は紙巻たばこと比較して低減されることは確認されなかった。
メタ・アナリシスの結果、受動喫煙と脳卒中,精神疾患,睡眠障害,肺がん,乳がん,COPDには正の関連が認められた。
臨床的観点からの成果
 本研究では、曝露マーカーを測定し、家族における加熱式たばこ使用による曝露の実態を明らかにした。
 受動喫煙者の尿中VOC代謝物の分析結果より、ニコチン代謝物,たばこ特異的ニトロソアミン代謝物以外の受動喫煙のバイオマーカーとなる可能性のある成分は,2-HPMAとXyleneの代謝物である2-MHAと3-MHA,4-MHAの合算値などが考えられた。
 開発した曝露マーカーの分析に加えて、生体機能の変化を評価することで、加熱式たばこの受動喫煙による健康影響が明らかになると考える。
ガイドライン等の開発
現在、ガイドラインの作成には至っていないが、将来、本研究成果が、各ガイドラインに引用されると期待される。
その他行政的観点からの成果
 本研究成果を、国立保健医療科学院 令和4年度 短期研修「たばこ対策の施策推進における企画・調整のための研修 2022年7月12日(火)」にて、自治体の担当職員の方々の研修の場で発表した。
タイトル「バイオマーカーを指標とした家庭内での受動喫煙調査~加熱式たばこによって受動喫煙は生じるのか?~」
その他のインパクト
本研究成果は、NHK解説アーカイブス 「新型たばこ 健康への影響は?」2022年06月07日(火)にて紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Onoue A, Inaba Y, Omori H et al
Association between Fathers’ Use of Heated Tobacco Products and Urinary Cotinine Concentrations in Their Spouses and Children
International Journal of Environmental Research and Public Health , 19  (2022)
https://doi.org/10.3390/ijerph19106275

公開日・更新日

公開日
2023-06-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202209004Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,000,000円
(2)補助金確定額
8,271,000円
差引額 [(1)-(2)]
729,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,030,444円
人件費・謝金 2,439,498円
旅費 83,038円
その他 518,664円
間接経費 1,200,000円
合計 8,271,644円

備考

備考
自己資金:大森101円、稲葉543円(合計:644円)

公開日・更新日

公開日
2023-09-19
更新日
-