精神障害のある方に対するがん検診及びがん診療のアクセシビリティを向上するための実装研究

文献情報

文献番号
202208040A
報告書区分
総括
研究課題名
精神障害のある方に対するがん検診及びがん診療のアクセシビリティを向上するための実装研究
課題番号
21EA1013
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
稲垣 正俊(国立大学法人島根大学 医学部精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 島津 太一(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
  • 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 支持・サバイバーシップTR研究部 支持・緩和・心のケア研究室)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 藤原 雅樹(岡山大学病院精神科神経科)
  • 山田 了士(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター)
  • 田端 雅弘(岡山大学 岡山大学病院)
  • 児玉 匡史(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 医療部)
  • 堀井 茂男(公益財団法人慈圭会 慈圭病院)
  • 樋之津 史郎(札幌医科大学 医学部)
  • 田村 研治(国立大学法人島根大学医学部附属病院 先端がん治療センター)
  • 小林 孝文(島根県立こころの医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者のがん死亡率は高い。その原因として、がん診断の遅れ、標準的治療への障壁がある。我々は、精神障害者にもがん検診・ケアを届けるため、阻害・促進要因を明らかとし、介入の開発、効果検証という実装科学の手法に基づいたプロセスで研究を進めてきた。これまでの研究で、精神障害者に対するがん検診の個別勧奨法を開発し、無作為化比較試験で理想的環境下での有効性を確認した。同時に、精神障害者のがんの診断・治療における課題の抽出、整理を行った。本研究課題では、さらに日常臨床の場でがん検診・ケアの向上を目指すため、①精神障害者に対するがん検診勧奨法を日常臨床の場に合わせ修正(適応)し、効果を検証する[研究1]、②実装効果のモニタリングのため、精神障害者のがん検診受診率の動向調査法を確立する[研究2]、③精神障害者のがん診療上の課題を改善する取り組みのプロセスを明らかにする[研究3]ことを目的とする。
研究方法
研究1:精神科病院の医療者を対象とした介入(=勧奨法に関する教育・支援)を行い、日常診療下におけるがん検診勧奨法の実施可能性を評価するための多施設介入研究を実施する。
研究2:市町村の保有する住民がん検診の受診(記録)データベース、障害福祉データベース、国民健康保険データベース等を利用し、精神障害者のがん検診受診率を算出する動向調査法の実施可能性を明らかにする研究を実施する。
研究3:がん診療連携拠点病院等において、がん医療者が直面する精神障害者のがん診療上の課題を改善するためのプロセスを明らかにする質的研究を実施する。
結果と考察
研究1: 2年目である今年度は、6施設の参加を得て、日常診療下におけるがん検診勧奨法の実施可能性を確認するパイロット研究を実施した。1年目で作成した勧奨法の実施ガイドおよび教育資料をもとに、全施設でガイドに沿ったがん検診勧奨が実施可能であった。勧奨期間の終了後、主要評価項目に関するデータ収集および、副次評価項目に関する医療者へのインタビューを実施した。
研究2: 2年目である今年度は、岡山市の協力を得て、自立支援医療データとがん検診データを利用した動向調査の実施可能性を確認するための予備的調査を実施した。計画通り、自立支援医療データベースから精神科病名の把握が可能であり、また一次検診の受診有無、要精検か否か、精検受検の有無が把握できることを確認した。
研究3:2年目は、12のがん診療連携拠点病院等の協力を得て、1年目に作成した自己評価票を用いて、精神障害者のがん診療上の課題を改善するための現在ある取組の自己点検と、可能な取組の検討を依頼した。年度内に自己評価票の回答を得て、各施設での取組を集約した。
結論
2年目である今年度は、1年目に計画して倫理審査を受けた研究1-3それぞれを予定通り実施した。データを解析して、結果を公表し、研究成果を還元する。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208040B
報告書区分
総合
研究課題名
精神障害のある方に対するがん検診及びがん診療のアクセシビリティを向上するための実装研究
課題番号
21EA1013
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
稲垣 正俊(国立大学法人島根大学 医学部精神医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 島津 太一(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 行動科学研究部)
  • 藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 支持・サバイバーシップTR研究部 支持・緩和・心のケア研究室)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 藤原 雅樹(岡山大学病院精神科神経科)
  • 山田 了士(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター)
  • 田端 雅弘(岡山大学 岡山大学病院)
  • 児玉 匡史(地方独立行政法人岡山県精神科医療センター 医療部)
  • 堀井 茂男(公益財団法人慈圭会 慈圭病院)
  • 樋之津 史郎(札幌医科大学 医学部)
  • 田村 研治(国立大学法人島根大学医学部附属病院 先端がん治療センター)
  • 小林 孝文(島根県立こころの医療センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
精神障害者のがん死亡率は高い。その原因として、がん診断の遅れ、標準的治療への障壁がある。我々は、精神障害者にもがん検診・ケアを届けるため、阻害・促進要因を明らかとし、介入の開発、効果検証という実装科学の手法に基づいたプロセスで研究を進めてきた。これまでの研究で、精神障害者に対するがん検診の個別勧奨法を開発し、無作為化比較試験で理想的環境下での有効性を確認した。同時に、精神障害者のがんの診断・治療における課題の抽出、整理を行った。本研究課題では、さらに日常臨床の場でがん検診・ケアの向上を目指すため、①精神障害者に対するがん検診勧奨法を日常臨床の場に合わせ修正(適応)し、効果を検証する[研究1]、②実装効果のモニタリングのため、精神障害者のがん検診受診率の動向調査法を確立する[研究2]、③精神障害者のがん診療上の課題を改善する取り組みのプロセスを明らかにする[研究3]ことを目的とした。
研究方法
研究1:精神科病院の医療者を対象とした介入(=勧奨法に関する教育・支援)を行い、日常診療下におけるがん検診勧奨法の実施可能性を評価するための多施設介入研究を実施した。1年目に、勧奨法の実施ガイドおよび教育資料を開発し、パイロット研究のプロトコルを作成し、倫理承認を得た。2年目に、参加施設の医療者への介入を行い、がん検診勧奨を実施した。
研究2:市町村の保有する住民がん検診の受診(記録)データベース、障害福祉データベース、国民健康保険データベース等を利用し、精神障害者のがん検診受診率を算出する動向調査法の実施可能性を明らかにする研究を実施した。1年目に、データ利用に必要な手続きや利用上の課題、各データの特徴および突合可能性を明らかにした。2年目に、岡山市の協力を得て、がん検診データベースと自立支援医療データベースを利用した予備的な動向調査を実施した。
研究3:がん診療連携拠点病院等において、がん医療者が直面する精神障害者のがん診療上の課題を改善するためのプロセスを明らかにする質的研究を実施した。1年目は、精神障害者のがん診療上の課題を改善するための現在ある取組の自己点検と、可能な取組の検討を行うための自己評価票を作成した。2年目は、がん診療連携拠点病院等へ自己評価票への回答を依頼し、取組を集約した。
結果と考察
研究1: 研究者で協議を重ね、医療者への介入として用いるための勧奨法の実施ガイドおよび教育資料を作成した。パイロット研究には6施設が参加し、全施設でガイドに沿ったがん検診勧奨が実施可能であった。勧奨期間の終了後、主要評価項目である対象者への勧奨実施割合に関するデータ収集および、副次評価項目に関する医療者へのインタビューを実施した。現在、結果の解析を行い、論文作成中である。
研究2: 岡山市等の協力を得て、各データの特徴および突合可能性、データ利用に必要な手続き、データ利用上の課題を明らかにした。その上で、岡山市が保有するがん検診データベースと自立支援医療データベースを利用した予備的な動向調査を実施し、実際にH30、令和元年、令和2年度のがん検診の解析を行うための匿名化データベースの提供を受けた。計画通り、自立支援医療データベースから精神科病名の把握が可能であり、また一次検診の受診有無、要精検か否か、精検受検の有無が把握できた。現在、解析結果について論文投稿を進めている。
研究3:先行調査をもとに、精神障害者のがん診療上の課題を改善するための現在ある取組の自己点検と、可能な取組の検討を行う自己評価票を作成した。島根県および岡山県内の12のがん診療連携拠点病院等が研究参加し、自己評価票への回答を得た。現在、得られた回答の取組を集約するための質的解析を進めている。
結論
研究1:精神科病院でがん検診勧奨を実施可能とするための医療者に対する介入を開発した。今後は、がん検診勧奨法を広く精神科病院へ採用を促す方略を検討し、普及につなげる。
研究2:がん検診データベースと自立支援医療データベースを利用した精神障害者のがん検診受診の動向調査の実施可能性を明らかとした。今後は、全国的な動向調査法を確立する。
研究3:がん診療連携拠点病院等で精神障害者のがん診療における課題に対して、実施可能な組織的な取組が集約された。今後は、この知見をもとに、精神障害のあるがん患者の治療を支援するためのプログラムを開発する。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208040C

成果

専門的・学術的観点からの成果
実装科学の手法に基づいて、先行研究で効果を確認したがん検診勧奨法を日常の精神科臨床で実施可能とするためのプロバイダレベルの実装戦略を開発し、その実施可能性を明らかとした。併せて、精神障害者のがん検診受診率の動向調査法を確立するために、自治体の保有するデータを利用した解析の実施可能性を明らかにした。また、精神障害者のがん診療における課題を改善するためのがん診療拠点病院等における組織的な取組を集約し、今後の課題改善プログラムの基盤となる知見を明らかにした。
臨床的観点からの成果
効果が確認されたがん検診勧奨法を、精神科医療機関でどのようにすれば提供できるか、という実装戦略が明らかとなった。これは、その他の介入を実装する上でも参考となる知見である。併せて、自治体のデータを利用して臨床現場に負荷をかけることなく受診率の動向調査が可能となる手法を明らかにした意義は大きい。また、本研究によって精神障害者のがん診療における課題を解決するための実践的な取組を集約できた。
ガイドライン等の開発
精神障害者のがん検診・がん診療の格差を是正するための確立された解決法は、世界的にもない。本研究は、実装科学の手法に基づいて、それぞれの解決法の開発を目指したものである。現時点で研究成果がガイドライン等に反映されるには至っていない。今後さらに研究のステップを進めていくことで、精神障害者のがんの予防、治療に関するガイドラインの開発に結び付くものであるといえる。
その他行政的観点からの成果
効果が示されたがん検診勧奨法を精神科医療機関で実施するための戦略が明らかとなった。併せて、行政の保有するデータで、精神障害者のがん検診受診率の動向調査が可能なことが示唆された。当研究班が取り組んでいる精神障害者のがん検診に関する研究は、第82回がん対策推進協議会で参考にされた。また、本研究で集約された、精神障害者のがん診療の課題を解決するための取組には、地域レベルでの取組も含まれる。精神障害者のがん予防、治療格差への対策に関して、行政的観点からも重要な知見が得られた。
その他のインパクト
精神障害者のがん格差に関するテーマは関心が高まってきており、2023年には国内学会の教育講演およびシンポジウム3件で当研究班の研究内容を紹介した。当研究班は研究ホームページで、本研究の取組やがん検診勧奨法の教育資材等を公開している。本研究の成果は、論文等で公開した後に、研究ホームページでも公開を予定している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
12件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yamada Y, Fujiwara M, Inagaki M et al
Perceptions toward issues in cancer care for people with mental illness among psychiatric care providers: A questionnaire study.
Psychooncology. , 32 (7) , 1022-1029  (2023)
2023 Apr 23. Online ahead of print.
原著論文2
Yamada Y, Fujiwara M, Inagaki M et al
Issues of cancer care in people with mental disorders as perceived by cancer care providers: A quantitative questionnaire survey.
Psychooncology. , 31 (9) , 1572-1580  (2022)
原著論文3
Yamada Y, Fujiwara M, Inagaki M et al
Patients' acceptability and implementation outcomes of a case management approach to encourage participation in colorectal cancer screening for people with schizophrenia: a qualitative secondary analysis of a mixed-method randomised clinical trial.
BMJ Open. , 12 (6) , e060621.-  (2022)
原著論文4
Etoh T, Fujiwara M, Inagaki M et al
Cancer care for people with mental disorders: A qualitative survey among cancer care and psychiatric care professionals in Japan.
Psychooncology. , 30 (12) , 2060-2066  (2021)
原著論文5
Fujiwara M, Yamada Y, Inagaki M et al
Encouraging participation in colorectal cancer screening for people with schizophrenia: A randomized controlled trial.
Acta Psychiatr Scand. , 144 (4) , 318-328  (2021)
原著論文6
Fujiwara M, Yamada Y, Inagaki M et al
A feasibility study of provider-level implementation strategies to improve access to colorectal cancer screening for patients with schizophrenia: ACCESS2 (N-EQUITY 2104) trial.
Implement Sci Commun. , 5 (1) , 2-  (2024)
原著論文7
Fujiwara M, Yamada Y, Inagaki M et al
Increasing disparities in cancer screening among people with severe mental illness during the COVID-19 pandemic.
Schizophr Res. , 258 , 18-20  (2023)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-05-23

収支報告書

文献番号
202208040Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,880,000円
(2)補助金確定額
8,403,000円
差引額 [(1)-(2)]
1,477,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,831,657円
人件費・謝金 2,254,494円
旅費 1,426,920円
その他 609,929円
間接経費 2,280,000円
合計 8,403,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-