脳の老化の症状評価における生理学的指標の応用に関する研究

文献情報

文献番号
199700585A
報告書区分
総括
研究課題名
脳の老化の症状評価における生理学的指標の応用に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山口 成良(医療法人財団松原愛育会松原病院)
研究分担者(所属機関)
  • 古田壽一(金沢大学医学部附属病院)
  • 山内俊雄(埼玉医科大学)
  • 小島卓也(日本大学医学部)
  • 三島和夫(秋田大学医学部)
  • 井上健(大阪大学医学部)
  • 岩崎真三(金沢医科大学)
  • 柴崎浩(京都大学大学院・医学部)
  • 柿木隆介(岡崎国立共同研究機構生理学研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 総合的プロジェクト研究分野 長寿科学総合研究事業
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、脳波、眼球運動、活動・休止リズム、睡眠・覚醒リズム、深部体温、メラトニン分泌リズム、光刺激による光駆動反応、誘発電位、事象関連電位、SPECT、脳磁図など、生体の活動・反応を電気生理学的、神経生理学的指標にて把握し、老年期の脳の老化の症状評価をすることを目的とするものであり、老年期の脳の老化と痴呆疾患との鑑別診断、処遇(治療・介護)に対して適切な指針を与える基礎資料を得んことを目指している。
研究方法
1997年度の実施計画として、各分担研究者がその専門とする生理学的方法によって脳の老化の症状評価を施行してみることとした。すなわち、山口は覚醒時脳波の  QuickEEGを用いた定量分析から、古田は睡眠脳波の定量分析から、山内は携帯型脳波計を用いて記録した睡眠ポリグラムの睡眠構築から、小島は閉瞼時眼球運動から、三島は活動・休止リズム、深部体温リズム、メラトニン分泌リズムの測定から、井上と柿木は光刺激による光駆動反応、誘発電位、誘発脳磁界、脳磁図の分析から、岩崎は事象関連電位から、柴崎はSPECTから、それぞれ脳の生理的老化の症状評価が可能かどうかの検討を始めた。
結果と考察
1)山口らは60歳以上の健常者15名と成人Down症候群1名について、Quick  EEGを用いて、覚醒安静時ならびに光刺激中の脳波の周波数解析を行った。同時に知的機能検査としてHDS-RとMMSを行った。これらの得点と脳波所見との関連を今後経年的に追跡することは非常に興味あるところである。2)古田らの52~69歳の健常者9名の終夜睡眠脳波のパワスペクトル分析では、NREM睡眠でのδ波の減少、θ波の増加、REM睡眠でのδ波の減少、α波の増加がみられ、これが加齢と相関するか更に検討を要する。3)山内らの終夜睡眠ポリグラフによる睡眠構築の変化とアクチグラフによる活動量との相関の研究では、夜間睡眠時間帯の平均活動量は総睡眠時間、睡眠効率と有意な相関を示した。一方、昼夜の平均活動量の比は睡眠段階覚醒%、睡眠効率、睡眠段階・%と有意な相関を示した。この研究は痴呆患者のみならず、正常高齢者にも試みるべきであろう。4)小島らは63名の健常者を対象として、閉瞼時眼球運動検査を施行した。被験者を壮年、若年者の2群に分けると、壮年者の安静時の速い動きrは有意に多く認められた。この検査はより高齢者を対象として試みられるべきである。5)小島らの深部体温(cBT)、メラトニン(MLT)分泌リズムの検討では、健常老年者と比較して痴呆患者で、cBTリズムの振幅低下、血中MCT分泌リズムの振幅低下および睡眠障害重症度との間に有意な正相関が認められたことより、今後健常老年者の間で加齢による生体リズムの変化を検討する必要がある。6)井上らは、光刺激で誘発される光駆動反応の伝播をポテンシャル・フロー法で捉え、健常高齢者を対象に加齢性変化を領域的に検討した。70歳以上になると加齢性変化が側頭部に広がった。加齢の影響を受ける脳領域が年代によって異なる可能性が示唆された。7)岩崎らは健常高齢者11名と老年痴呆4名を対象として、Stroop型を含む視覚刺激を用いて、その弁別の際に出現する事象関連電位(ERP)のP300成分を測定した。健常高齢者において、年代別3群間では高齢群ほどP300の潜時の延長、振幅の低下が認められたことより、個人の経年的検討が期待される。8)柴崎らは、健常高齢者とパーキンソン病患者の歩行について、SPECTを用いた脳血流賦活試験による検討で、健常
高齢者で、補足運動野・前帯状回・一次運動感覚野の下肢及び体幹に相当する領域・楔前部・中脳から橋の背側部・小脳半球及び虫部に歩行による賦活が認められた。パーキンソン病患者では健常者群に較べ、歩行による賦活が有意に低下していた。更に経過観察が必要と思われる。9)柿木らは、感覚系は加齢に影響されるかを検討するために、少し離れた位置にある二つの光を交互に点滅させると人は運動を知覚する(仮現運動)現象をとらえて、仮現運動視覚刺激に対する脳磁場反応を記録した。反応潜時は線分間の距離が大きくなるほど短縮した。この反応潜時を測定することにより視覚性運動認知の加齢変化を測定できる可能性を見出したことより、各個人の経年的検討が期待される。
結論
脳の生理的老化を生体の生理学的指標を応用して、数値化、視覚化して症状評価をしようとする試みは、平成9年度から着手された。覚醒時ならびに睡眠時脳波の定量分析、睡眠構築の分析、眼球運動の分析、深部体温・メラトニン分泌などの生体リズムの検討、光駆動動反応、事象関連電位、脳血流、脳磁図など、直接、脳の活動および生体の反応から老化の症状評価を検討することが行われたが、次年度からは健常高齢者と痴呆患者の差違のみならず、本年度の結果を経年的に追跡して、健常者でも加齢による変化がないかを検討し、また健常高齢者間での年齢による差違の検討も要する。

公開日・更新日

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