がん患者の自殺予防プログラムの開発に向けた研究

文献情報

文献番号
202208035A
報告書区分
総括
研究課題名
がん患者の自殺予防プログラムの開発に向けた研究
課題番号
21EA1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 支持・サバイバーシップTR研究部 支持・緩和・心のケア研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
  • 吉本 世一(独立行政法人国立がん研究センター中央病院頭頸部腫瘍科)
  • 松村 由美(京都大学医学研究科皮膚科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,231,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
がん患者の自殺リスクは一般人口よりも高いにも関わらず実証的エビデンスに基づき確立されたがん患者の自殺予防対策は世界的に存在せず、がん種、病期、診断後早期といったリスク因子に着目した予防法開発の必要性が指摘されている。本研究では実証的ながん患者の自殺予防対策の実現を目指し、以下の3点を目的とする。研究1自殺実数、リスク因子を含む実態を解明する。研究2ハイリスク集団への予防介入法を開発する。研究3医療安全の視点に基づき病院内自殺が発生した際の遺族や医療従事者への支援法を検討する。
研究方法
研究1-1
全国がん登録情報を用いて2016年~2016年にがんと診断された患者を追跡。がん患者における自殺、その他の外因子、心疾患および心血管系疾患による死亡の標準化死亡比(standardized mortality ratios;SMR)を算出し関連要因を多変量解析により検討した。
研究1-2
日本医療機能評価機構事例DBを用いて2010年~2019年までに登録された事例を抽出。事例の記述統計量の算出、事例報告の内容を分析した。
研究2-1
自殺ハイリスク群にあたる頭頸部がん患者の自殺関連エピソードに基づく対策樹立を目指し日本頭頸部外科学会指定研修施設の頭頸部がん診療責任者および日本頭頸部癌学会歯科口腔外科代議員にアンケート調査を行い担当患者の自殺関連エピソード経験(未遂、既遂)、自殺対策への関心を評価し集計を行った。
研究2-2
頭頸部外科で治療をうける頭頸部がん患者を対象として縦断調査を実施した。様々なリスク因子を検討するための縦断調査(初診後、治療前、初回治療終了後、治療、6か月後、12か月後調査)を実施した。
研究 3-1
重要他者との死別を経験し名市大病院精神科に紹介となった患者のうち大うつ病性障害もしくは持続性複雑死別障害と診断された20歳以上75歳以下の患者に対して臨床的に対人関係療法を提供しその有用性を抑うつ(PHQ)-9および複雑性悲嘆(ICG)得点から検討した。
研究3-2
医療従事者への事後対応法に関連する先行研究や先行事例の情報を収集、検討を行った。
結果と考察
結果
研究1-1
2016年の1年間にがんと診断された患者1,070,876人を対象とし2年間の追跡期間中の自殺による死亡は660人であった。
研究1-2
対象期間中に報告された医療事故情報の総数40,157件のうち身体疾患を有し自殺をした人の総数は307人であった。また自殺者の約半数ががん患者であること主な第一発見者は看護師であった。
研究2-1
頭頸部がん診療医師181名にアンケート調査票した結果、152名から回答を得た。担当患者の自殺関連行動の経験があるとの回答は82名であった。所属施設での自殺関連行動の経験があるとの回答は93名であり137件(未遂29件、既遂108件)報告された。
研究2-2
主施設の研究計画審査が完後し2022年11月に終了した。登録期間中に224件の症例が登録され現在フォローアップ調査を継続している。
研究 3-1
2021年7月から2023年3月まで治療者2名により7名のご遺族に対人関係療法(IPT)を実施。さらなる症例の集積を継続している。
研究3-2
自殺関連行動の第一発見者が主に看護師であることが示唆されたことから特に看護師を対象とした情報を収集した結果、病院内での自殺対策や事後対応法に関する手順書等を有している病院は限られること看護師は医師と比して患者の自殺・自殺予防に関する学習の経験が少なくスキルが低いことが示唆された。
考察
研究1-1
がん患者の自殺対策は診断後早期が重要であることが示唆され、諸外国の報告とも一致していた。
研究1-2
入院患者の自殺の内、がん患者の自殺は半数であり、先行研究を支持する結果であった。がんが自殺のリスクになる可能性が示唆された。
研究2-1
研究手法上の制限はあるものの本研究で確認された自殺行為は非常に多く頭頸部がん患者が自殺ハイリスク集団であることが再確認された。
研究2-2
症例登録を完了し登録目標数である200症例が登録され、現在フォローアップ調査が継続されているが、調査完了後には頭頸部がん患者のがん罹患後の自殺念慮、抑うつ、不安の実態および危険因子と保護因子が明らかになる。
研究 3-1
今後、症例集積を重ねることで遺族支援としてのIPTの有用性を評価することが可能であると考えられる。
研究3-2
先行研究や先行事例から、病院内での多職種が参画する自殺対策や事後対応法に関する手順書、学習法を作成し、提案する必要があると考えられた。
結論
がん患者の自殺リスクは一般人口よりも高いこと、2年経過してもリスクの高さが持続することが示された。がんの診断から早期、進展していることがリスク因子として示された。病院内で自殺関連行動を経験している医療者は多く、対応が必要であることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208035B
報告書区分
総合
研究課題名
がん患者の自殺予防プログラムの開発に向けた研究
課題番号
21EA1008
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
藤森 麻衣子(国立研究開発法人 国立がん研究センター がん対策研究所 支持・サバイバーシップTR研究部 支持・緩和・心のケア研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 内富 庸介(国立研究開発法人 国立がん研究センター 中央病院 支持療法開発部門)
  • 明智 龍男(公立大学法人名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
  • 吉本 世一(独立行政法人国立がん研究センター中央病院頭頸部腫瘍科)
  • 松村 由美(京都大学医学研究科皮膚科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
実証的エビデンスに基づき確立されたがん患者の自殺予防対策は世界的に存在せず、がん種、病期、診断後早期といったリスク因子に着目した予防法開発の必要性が指摘されている。本研究では、実証的ながん患者の自殺予防対策の実現を目指し以下の3点を目的とする。研究1自殺実数、リスク因子を含む実態を解明する。研究2ハイリスク集団への予防介入法を開発する。研究3医療安全の視点に基づき病院内自殺が発生した際の遺族や医療従事者への支援法を検討する。
研究方法
研究1-1
①2016-2018年の全国がん登録情報を用いて解析を行った。
②2016年1月1日~2017年12月31日に全国がん登録に登録されたがん患者を対象として、診断後から2017年12月31日までに自殺で死亡した者を同定し患者背景や自殺手段、自殺場所を検討した。
研究1-2
日本医療機能評価機構DBより2010年~2019年に病院内で自殺未遂を含む自殺が報告された事例のうち、がん及び非がん患者の社会人口的特徴やセンチネルイベント、医療者の事前対応を抽出した。
研究2-1
日本頭頸部外科学会指定研修施設・準認定施設の頭頸部がん診療責任者および日本頭頸部癌学会歯科口腔外科代議員を対象としアンケート調査票を行った。
研究2-2
国立がん研究センター中央病院頭頸部外科に通院している頭頸部がん患者200名を対象とした前向きコホート研究を行った。
研究3-1
重要他者との死別を経験し名市立大病院精神科に紹介となった受患者のうち、大うつ病性障害もしくは持続性複雑死別障害と診断された20歳以上75歳以下の患者を対象として臨床的に対人関係療法を提供しその有用性をPHQ-9およびICGを用いて検討した。
研究3-2
医療従事者への事後対応法に関連する先行研究や先行事例の情報を収集、検討を行った。
結果と考察
結果
研究1-1
①2016年~2016年にがんと診断された患者107万876人を
2年間追跡したところ、自殺で660人、他の外因死で1690人、心血管死で12,705人が亡くなっており、がん診断2年以内の自殺、他の外因死、心血管死の各々の死亡リスクは、1.84倍、1.30倍、1.19倍と一般人口と比較して有意に高いことが明らかになった。
②2016年1月1日~2017年12月31日にがんと診断され解析対象となったがん患者1,915,290人のうち、807人が自殺で死亡していた。
研究1-2
医療事故情報の総数40,157件のうち身体疾患を有し自殺をした人の総数は307人であった。
研究2-2
主施設の研究計画審査を経て承認を得た後、症例登録を2022年2月に開始し11月に終了した。
研究3-1
2021年7月から現在まで、治療者2名がIPT治療を実施し、研究対象者7名のうち4名のIPT治療を終了し、3名のIPT治療を継続中である。
研究3-2
自殺関連行動の第一発見者が主に看護師であることが示唆されたことから、特に看護師を対象とした情報を収集した結果、病院内での自殺対策や事後対応法に関する手順書等を有している病院は限られること、看護師は医師と比して患者の自殺・自殺予防に関する学習の経験が少なく、スキルが低いことが示唆された。
考察
研究1-1
がん患者の自殺対策は、診断後早期が重要である。
研究1-2
入院患者の自殺の内、がん患者の自殺は半数であり、がんが自殺のリスクになることを示した。
研究2-1
頭頸部がん患者が自殺ハイリスク集団であることが再確認された。
研究2-2
症例が224例登録され、目標登録数200症例を完遂した。フォローアップ調査終了後に解析計画に従い統計解析を実施する。
研究3-1
7名登録された現時点において主診断は大うつ病性障害が多かった。
研究3-2
病院内での多職種が参画する自殺対策や事後対応法に関する手順書、学習法を作成し、提案する必要があると考えられた。
結論
研究1-1
がん患者における自殺、その他の心疾患および心血管系疾患による死亡のSMRは診断後2年経過しても一般集団と比較して高かった。
研究1-2
がん種は頭頚部がんが最も多かった。頭頸部がんがハイリスクであることは先行研究と一致していた。主な第一発見者は看護師であった。
研究2-1
2022年度は本研究結果を学会発表と論文公開にて公表した。また追加調査として「頭頸部がん患者の自殺関連行動に関する診療録調査(NASUBE調査)」(研究課題番号2022-046)を開始し多施設共同研究を遂行した。
研究2-2
頭頸部がん患者を対象にした縦断研究を行った。頭頸部がん患者の抑うつや不安に影響する危険因子と保護因子の探索を目指す。
研究3-1
遺族に対しての対人関係療法は良好なアドヒアランスを期待できると考えられるため研究実施を継続していく。
研究3-2
病院内での多職種が参画する自殺対策や事後対応法に関する手順書、学習法を作成し提案する。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208035C

収支報告書

文献番号
202208035Z