高齢者消化器がん手術における診療指針策定と、指針普及・人材育成を目指した協働型意思決定支援システムおよび病院評価プログラムの開発

文献情報

文献番号
202208032A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者消化器がん手術における診療指針策定と、指針普及・人材育成を目指した協働型意思決定支援システムおよび病院評価プログラムの開発
課題番号
21EA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
丸橋 繁(公立大学法人 福島県立医科大学 医学部 肝胆膵・移植外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 満一(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 掛地 吉弘(神戸大学大学院医学研究院 食道胃腸外学)
  • 北川 雄光(慶應義塾大学 医学部)
  • 瀬戸 泰之(東京大学 医学部附属病院)
  • 楽木 宏実(大阪大学大学院 医学系研究科 老年・総合内科学)
  • 秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
  • 中島 和江(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
  • 宮田 裕章(慶應義塾大学 医学部 医療政策・管理学教室)
  • 隈丸 拓(東京大学 医学部附属病院)
  • 高橋 新(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、先行研究「厚生労働科学研究費補助金(がんの医療提供体制のおよび医療品質の国際比較(29050501)を発展させ、我が国で未確立である高齢者消化器外科手術・診療指針の作成を行い、その普及と医療品質向上のため病院評価プログラムを開発する事である。研究を3つのプロジェクトに分け、A)全国手術データベース(NCD)を用いた、消化器外科主要術式に対する高齢者指標を取り入れたリスクモデルの開発、B) 高齢者アウトカム予測式を用いた医師患者協働型意思決定支援システムの確立・応用、そしてC) 高齢者消化器外科手術診療指針の作成、を行うことで、高齢者に対する消化器外科手術医療品質の向上を目指すことを目標とした。
研究方法
以下の3プロジェクトを同時に進めた。
A) 全国手術データベース(NCD)を用いた、消化器外科主要術式に対する高齢者指標を取り入れたリスクモデルの開発
先行研究で明らかになった周術期アウトカムに関連する高齢者指標(認知症、転倒の既往、移動補助具の使用)および入院経路、退院時身体機能(ADL)などの実効性のある項目を選定したNCD高齢者周術期登録システムを実装し、令和3年1月より登録が開始した。先行研究のリスクモデルを強化し、術後合併症、術後30日死亡、術後在院死亡、術後在院期間、社会サービス必要性を含めた、高齢者消化器がん手術周術期リスクモデル(強化版)を作成する。

B) 高齢者アウトカム予測式を用いた協働型意思決定支援システムの確立・応用と、全国多施設アンケート調査
先行研究で開発した高齢者アウトカム予測式を元に、新たにiPad/スマートフォンのアプリを開発した。収集したデータはNCDサーバ内に蓄積され、他のNCDデータと紐つけることが可能なプラットフォームを開発した。また、高齢者指標予測の結果を、同じシステム内で、医師および医療チームと患者/家族が共有できるようシステム開発した。

C) 高齢者消化器外科手術診療指針の作成
米国での老人外科診療ガイドライン「Optimal resources for Geriatric Surgery」を参考に、先行研究で明らかになった我が国の高齢者医療の特徴を踏まえ、日本の医療システムに適合するような日本版高齢者消化器外科手術診療指針「Optimal resources for Geriatric Surgery」の作成と普及を行う。
結果と考察
(1)全国手術データベース(NCD)を用いた、消化器外科主要術式に対する高齢者指標を取り入れた高齢者消化器がん手術周術期リスクモデルの開発を進めた。
令和3年1月から12月の1年間で消化器外科学会に関連する手術登録があった施設は、2367施設で、総計761,851例が登録された。この中で消化器外科主要7術式は、104,779例(1,918施設)より登録があり、65歳以上の高齢者に限ると、80,604例(1,905施設)が登録された。さらに、この中で、高齢者項目が1項目以上登録された症例は、65,438例(1,853施設)であった。現在高齢者項目と死亡率、入院期間延長などと関連を解析し、リスクモデル作成を行なっている。
(2)高齢者アウトカム予測式を用いた協働型意思決定支援システムは、令和4年6月にシステムが完成し、7月から実際に患者登録が始まった。またこれと並行して、OSにとらわれないWebアプリの開発を進め、令和4年11月に完成して公表した。
患者登録は、全国のがん診療連携拠点病院から、39施設41診療科を選定し、それぞれの施設から、NCD登録と同様に高齢者リスクモデルフィードバックとePRO登録ができるようシステム改変を行なった。令和5年2月8日現在、212例のePROデータ登録があった。
本アプリには患者アンケートが搭載されており、ePROアプリに関する患者側の意見も収集できた。ePRO導入開始後7カ月の時点で、術前項目には58例、術後30日項目には29例の患者が回答した。これによると、多くの患者では操作性、理解度ともに良好な回答であった。患者・家族のアプリ利用には課題もあるが、新たな情報共有手段として、今後ePROが有効活用されることが期待される。
 (3)高齢者消化器外科手術診療指針に関して、指針ワーキングを立ち上げ、各専門家からの指針案をまとめ、分担研究者によって査読が行われ、完成版が作成された。内容は、第1章 高齢者消化器手術:総論、第2章 高齢者消化器手術:各論、第3章 NCD データ登録と利用からなる指針となった。
結論
本研究の結果、最終目標の「高齢者に対する消化器外科手術医療品質の向上」達成のための画期的なWebシステム構築と高齢者関連項目およびePROデータ収集システムを確立し運用を開始することができた。また、高齢者消化器外科手術・診療指針が作成された。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208032B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者消化器がん手術における診療指針策定と、指針普及・人材育成を目指した協働型意思決定支援システムおよび病院評価プログラムの開発
課題番号
21EA1005
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
丸橋 繁(公立大学法人 福島県立医科大学 医学部 肝胆膵・移植外科学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 後藤 満一(大阪府立急性期・総合医療センター)
  • 掛地 吉弘(神戸大学大学院医学研究院 食道胃腸外学)
  • 北川 雄光(慶應義塾大学 医学部)
  • 瀬戸 泰之(東京大学 医学部附属病院)
  • 楽木 宏実(大阪大学大学院 医学系研究科 老年・総合内科学)
  • 秋下 雅弘(東京大学 医学部附属病院 老年病科)
  • 中島 和江(国立大学法人 大阪大学 医学部附属病院)
  • 宮田 裕章(慶應義塾大学 医学部 医療政策・管理学教室)
  • 隈丸 拓(東京大学 医学部附属病院)
  • 高橋 新(慶應義塾大学医学部 医療政策・管理学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、先行研究「厚生労働科学研究費補助金(がんの医療提供体制のおよび医療品質の国際比較(29050501)を発展させ、我が国で未確立である高齢者消化器外科手術・診療指針の作成を行い、その普及と医療品質向上のため病院評価プログラムを開発する事である。研究を3つのプロジェクトに分け、A)全国手術データベース(NCD)を用いた、消化器外科主要術式に対する高齢者指標を取り入れたリスクモデルの開発、B) 高齢者アウトカム予測式を用いた医師患者協働型意思決定支援システムの確立・応用、そしてC) 高齢者消化器外科手術診療指針の作成、を行うことで、高齢者に対する消化器外科手術医療品質の向上を目指すことを目標とした。
研究方法
以下の3プロジェクトを同時に進めた。
A) 全国手術データベース(NCD)を用いた、消化器外科主要術式に対する高齢者指標を取り入れたリスクモデルの開発
先行研究で明らかになった周術期アウトカムに関連する高齢者指標(認知症、転倒の既往、移動補助具の使用)および入院経路、退院時身体機能(ADL)などの実効性のある項目を選定したNCD高齢者周術期登録システムを実装し、令和3年1月より登録が開始した。先行研究のリスクモデルを強化し、術後合併症、術後30日死亡、術後在院死亡、術後在院期間、社会サービス必要性を含めた、高齢者消化器がん手術周術期リスクモデル(強化版)を作成する。

B) 高齢者アウトカム予測式を用いた協働型意思決定支援システムの確立・応用と、全国多施設アンケート調査
先行研究で開発した高齢者アウトカム予測式を元に、新たにiPad/スマートフォンのアプリを開発した。術前評価項目(Comprehensive geriatric assessment)として、G8を採用し、術後体重変化なども追加した。また、PROに関しては、EQ5D、EORTC-C30を、術前、術後30日、90日で収集することとした。収集したデータはNCDサーバ内に蓄積され、他のNCDデータと紐つけることが可能なプラットフォームを開発した。また、高齢者指標予測の結果を、同じシステム内で、医師および医療チームと患者/家族が共有できるようシステム開発した。

C) 高齢者消化器外科手術診療指針の作成
米国での老人外科診療ガイドライン「Optimal resources for Geriatric Surgery」を参考に、先行研究で明らかになった我が国の高齢者医療の特徴を踏まえ、日本の医療システムに適合するような日本版高齢者消化器外科手術診療指針の作成と普及を行う。
結果と考察
(1)全国手術データベース(NCD)を用いた、消化器外科主要術式に対する高齢者指標を取り入れた高齢者消化器がん手術周術期リスクモデルの開発を進めた。
令和3年1月から12月の1年間で消化器外科学会に関連する手術登録があった施設は、2367施設で、総計761,851例が登録された。この中で消化器外科主要7術式は、104,779例(1,918施設)より登録があり、65歳以上の高齢者に限ると、80,604例(1,905施設)が登録された。さらに、この中で、高齢者項目が1項目以上登録された症例は、65,438例(1,853施設)であった。現在高齢者項目と死亡率、入院期間延長などと関連を解析し、リスクモデル作成を行なっている。
(2)高齢者アウトカム予測式を用いた協働型意思決定支援システムは、令和4年7月から患者登録が始まった。
患者登録は、全国のがん診療連携拠点病院から、39施設41診療科を選定し、それぞれの施設から、NCD登録と同様に高齢者リスクモデルフィードバックとePRO登録ができるようシステム改変を行なった。
本アプリには患者アンケートが搭載されており、ePROアプリに関する患者側の意見も収集できた。これによると、多くの患者では操作性、理解度ともに良好であった。新たな情報共有手段として、今後ePROが有効活用されることが期待される。
 (3)高齢者消化器外科手術診療指針に関して、指針ワーキングを立ち上げ、各専門家からの指針案をまとめ、分担研究者によって査読が行われ、完成版が作成された。内容は、第1章 高齢者消化器手術:総論、第2章 高齢者消化器手術:各論、第3章 NCD データ登録と利用からなる指針となった。
結論
本研究の結果、最終目標の「高齢者に対する消化器外科手術医療品質の向上」達成のための画期的なWebシステム構築と高齢者関連項目およびePROデータ収集システムを確立し運用を開始することができた。また、我が国で未確立であった高齢者消化器外科手術・診療指針が作成された。一方で、ePRO/NCDデータ解析、診療指針の普及や、これらを用いた病院評価プログラムの開発に関してはなお課題として残っており、次年度以降の研究に委ねたい。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208032C

成果

専門的・学術的観点からの成果
先行研究で明らかになった周術期アウトカムに関連する高齢者指標をNCD高齢者周術期登録システムとして実装した。
・新たに、アプリ「いいぷろ」を開発した。また連動して医師が管理するWeb管理ソフトウェアを開発し、医師と患者間での情報共有を可能とした。
・日本版高齢者消化器外科手術診療指針を作成した。
高齢者指標と周術期アウトカムをNCD内で収集する新システムを開発した。また、これまで未確立であった高齢者消化器外科手術・診療指針の作成を行った。極めて学術的・国際的・社会的意義が高い成果である。
臨床的観点からの成果
高齢者外科医療における協働的意思決定の支援を行うためのシステムが完成した。また、我が国で取り組みが遅れている、患者報告アウトカム(PRO)に関して、オンライン・アプリを利用しNCDへデータを収集するシステムが開発された。
NCDの周術期データとリンクさせてPROを解析することにより、患者中心(Patient-centered)医療を目指した医療品質向上、がん対策医呂の実現へ大きく前進した。
ガイドライン等の開発
先行研究で明らかになった我が国の高齢者医療の特徴を踏まえ、日本の医療システムに適合するような日本版高齢者消化器外科手術診療指針の原案を作成した。また、パブリックコメントを日本消化器外科学会、日本老年医学会などに依頼し収集した。作成には、消化器外科および老年医学の専門家である研究分担者のほか、ワーキンググループを新たに編成し、医学倫理、麻酔科学、リハビリテーションの専門家や若手医師、女性医師を含め、幅広い意見を取り入れた。さらに診療指針の最終版を作成した。
その他行政的観点からの成果
・第31回日本医学会公開フォーラム「健康長寿に向けたフレイル・ロコモ対策~各領域内および領域横断的取り組みの現状・課題と展望~」日時:2022年7月16日で成果の一部を発表した。
・「第1回高齢者がん診療向上のための国際セミナー」(AMED 津端班)、2023年8月5日で成果の一部を発表予定である。
・解析結果を学術論文に投稿予定である。
その他のインパクト
研究班監修「高齢者に対する消化器外科手術診療指針2023」(へるす出版)が刊行された。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
10件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
丸橋 繁, 掛地 吉弘, 上野 秀樹, 他
肝胆膵領域におけるNCDデータ解析研究とACS-NSQIPから学ぶ外科医療成績向上へのステップ.
日本外科学会雑誌 , 123 (6) , 592-595  (2022)
原著論文2
Yasuhide Kofunato, Arata Takahashi, Mitsukazu Gotoh, et al.
Geriatric Risk Prediction Models for Major Gastroenterological Surgery using the National Clinical Database in Japan: A Multicenter Prospective Cohort Study.
Annals of Surgery , 275 (6) , 1112-1120  (2022)
doi: 10.1097/SLA.0000000000004308.

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202208032Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,960,000円
(2)補助金確定額
11,960,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 67,839円
人件費・謝金 1,553,701円
旅費 1,375,950円
その他 6,202,510円
間接経費 2,760,000円
合計 11,960,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-