高齢者がん診療ガイドライン策定とその普及のための研究

文献情報

文献番号
202208031A
報告書区分
総括
研究課題名
高齢者がん診療ガイドライン策定とその普及のための研究
課題番号
21EA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
佐伯 俊昭(埼玉医科大学 国際医療センター乳腺腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 石黒 洋(埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科)
  • 二宮 貴一朗(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)
  • 小寺 泰弘(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 吉田 好雄(福井大学 学術研究院医学系部門)
  • 唐澤 久美子(東京女子医科大学 医学部)
  • 石川 敏昭(順天堂大学 医学部)
  • 渡邊 清高(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科)
  • 吉田 陽一郎(福岡大学 医学部)
  • 松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
  • 杉本 研(川崎医科大学 総合老年医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者のがん診療ガイドラインの策定とその普及を目的に、次の5つの研究・事業を検討・実践する。
1.高齢者のがん診療において臓器横断的ながん種共通のガイドライン(以下、GL)を策定する。
2.GLの基盤となる学問としての老年腫瘍学のテキストブックを作成する。
3.作成されたGLの医療現場への周知ならびにその効果の評価のため研修会や公開討論会を開催し、紙媒体だけでなくITを利用して研究成果や新情報の提供を行う。
4.高齢者のがん診療における高齢者機能評価(GA)の応用を促進するために、GAの有用性に関するエビデンスの蓄積を行う。
5.医療と介護の適正な連携について現状を把握し連携の有り方について検討する。
これらの研究・事業を通して人材育成をはかる。
研究方法
2021年度に構築した体制を活用し研究を遂行した。「高齢者がん診療ガイドライン作成委員会」とそのコアメンバーからなる「運営委員会」がMindsのGL作成マニュアルに則り臓器横断的な共通GLを作成した。老年腫瘍学のテキスト編集委員会がコンセプト、項目立てを行い、執筆者の選定・査読、編集を行った。執筆・査読には、高齢者がん医療協議会、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)が支援した。GLの普及・評価委員会は、ITを利用してGLや情報を発信し、地域がん診療連携拠点病院を対象に研修会を開催した。また、がん関連学会診療GLから高齢者に関する記載の有無、内容について調査し、本GLの各学会GLへの普及について検討した。重要な臨床的課題でエビデンスが少ない課題(外科領域のGA、がん医療と介護と連携等)について後ろ向き・前向き観察研究を行った。
結果と考察
1.「高齢者がん診療ガイドライン」の総論、ならびに臨床的重要課題から「高齢者機能評価(GA)」、「がんリハビリテーション」「栄養・サルコペニア」に関して、clinical question(CQ)を立てClinical practice guideline (CPG)を作成・公表した。高齢がん患者において①がん薬物療法とGA、②術前リハビリテーション治療(リハビリ)、③がん薬物療法中のリハビリ。④がんサバイバーとリハビリ、⑤治療に際して,栄養療法もしくはサルコペニアの対策、これら5つのCQについて「行うことが推奨されるか?」の課題に対し、①③④は行うことを提案、②⑤はエビデンスの欠如からfuture research questionとした。その他、エビデンスの少ない領域については課題を抽出し議論を開始した。
2.「よくわかる老年腫瘍学」テキストブックを作成し、査読者による評価後、修正・追記し完成した。老年腫瘍学の普及・確立のため、JASCCに編集を依頼し、2023年3月発刊した。
3.「高齢者がん診療ガイドライン、コンセンサス会議」「地域がん診療拠点病院~高齢者のがん診療ガイドライン 研修会」を開催した。研修会の案内や議事録の発信にsocial mediaを利用した。また、がん関連学会作成26の診療GLのうち46%に高齢者に関する記載あったが、GAに関する記載は14%に過ぎず、さらなる普及が必要である。
4.GAと外科治療成績の関連について「高齢がん患者に対する術前高齢者機能評価(GA)と術後合併症との関連解析研究」は2023年4月時点で315例の登録があり、継続して研究を遂行している。
5.①悪性リンパ腫モデルケースに対する介護度と血液専門医の診療方針についてWebアンケート調査を行い、介護度の悪化に比例して標準治療から乖離していくことを明らかにし学会発表した。
②がんと診断され介護認定を受けた1045名を対象とし、介護度と治療・予後について検討
し、介護度が高いほど治療へ移行する割合が低く、予後が悪かった。
③DPC対象病院退院直後に訪問診療に移行したがん患者3784例の介護保険サービス利用状況、予後を検討した。患者の80%以上がサービスを利用し、その多くがターミナルステージで早期に死に至ることが明らかとなった。

以上、腫瘍医と老年科専門医が協働し、さらに他の職種も参加してGLやテキスト作成にあたったことは画期的であり、その作成過程を通し、また研修や共同研究の推進は本領域の人材育成につながっている。脆弱な高齢がん患者の生活基盤は介護サービスによって支えられるが、その実態を明らかにする研究は日本では初めてのことであり、今後の重要な研究テーマと考えられる。
結論
本研究の主目的である高齢者のがん診療GLは、総論とGA、リハビリテーション/栄養・サルコペニアについて完成・公表した。GLの基盤となる学問としての老年腫瘍学のテキストブックの発刊、さらにGL普及のための研修会開催、ITの活用、GL検証や介護問題についての観察研究を継続している。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208031B
報告書区分
総合
研究課題名
高齢者がん診療ガイドライン策定とその普及のための研究
課題番号
21EA1004
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
佐伯 俊昭(埼玉医科大学 国際医療センター乳腺腫瘍科)
研究分担者(所属機関)
  • 石黒 洋(埼玉医科大学国際医療センター乳腺腫瘍科)
  • 二宮 貴一朗(岡山大学病院 ゲノム医療総合推進センター)
  • 小寺 泰弘(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 吉田 好雄(福井大学 学術研究院医学系部門)
  • 唐澤 久美子(東京女子医科大学 医学部)
  • 石川 敏昭(順天堂大学 医学部)
  • 渡邊 清高(帝京大学医学部内科学講座 腫瘍内科)
  • 吉田 陽一郎(福岡大学 医学部)
  • 松田 晋哉(産業医科大学 医学部・公衆衛生学)
  • 杉本 研(川崎医科大学 総合老年医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢者のがん診療ガイドラインの策定とその普及を目的に、次の5つの研究・事業を検討・実践する。
1.高齢者のがん診療において臓器横断的ながん種共通のガイドライン(GL)を策定する。
2.GLの基盤となる学問としての老年腫瘍学のテキストブックを作成する。
3.作成されたGLをITを利用して公表し、医療現場への周知のための研修会や公開討論会を開催。またがん関連学会作成GLへの導入に向けて方策を検討する。
4.高齢者のがん診療における高齢者機能評価(GA)の応用を促進するために、GAの有用性に関するエビデンスの蓄積を行う。
5.医療と介護の適正な連携について現状を把握し連携の有り方について検討する。
これらの研究・事業を通して人材育成をはかる。
研究方法
本研究を遂行するための組織作りと関連学会・団体との共同体制を整えた。多診療科、多職種、患者代表から構成される「高齢者がん診療ガイドライン作成委員会」とそのコアメンバーからなる「運営委員会」を設置した。老年腫瘍学のテキスト作成に向けて編集委員会を設置した。両者を支援する組織として高齢者がん医療協議会を関連学会・団体から新たな代表をむかえて刷新、日本がんサポーティブケア学会(JASCC)とも協働する体制を作った。GLの普及とその効果を評価をする「普及・評価委員会」を設置した。
GL作成委員会はMindsのガイドライン作成マニュアルに則り行われた。老年腫瘍学テキスト編集委員会がコンセプト、項目立てを行い、執筆者の選定・査読、編集を行った。執筆・査読には協議会委員、JASCCの関連部会委員が参加した。普及・評価委員会は、Web上でGLを紹介するとともに、地域がん診療連携拠点病院を対象に研修会をWeb開催した。また、がん関連学会作成の診療GLから高齢者に関する記載の有無、内容について調査し、本GLの各学会GLへの普及の可能性について検討した。重要な臨床的課題でエビデンスが少ない課題(外科領域のGA、がん医療と介護と連携)について実態調査・前向き観察研究を行った。
結果と考察
1.「高齢者がん診療ガイドライン」の総論、臨床的重要課題のうち「高齢者機能評価(GA)」、「がんリハビリテーション」「栄養・サルコペニア」を取り上げてclinical  question(CQ)を立てClinical practice guideline を作成・公表した。高齢がん患者において①がん薬物療法とGA、②術前リハビリテーション治療(リハビリ)、③がん薬物療法中のリハビリ。④がんサバイバーとリハビリ、⑤治療に際しての栄養療法/サルコペニア対策、これら5つのCQについて「行うことが推奨されるか?」に対し、①③④は行うことを提案、②⑤はエビデンスの欠如からfuture research questionとした。その他、エビデンスの少ない領域については課題を抽出し議論を開始した。
2.「よくわかる老年腫瘍学」テキストブックを作成し、老年腫瘍学の普及・確立のため、JASCCに編集を依頼し2023年3月発刊した。
3.GLのコンセンサス会議、地域がん診療拠点病院を対象としたGL研修会を開催した。研修会の案内や情報の発信にsocial mediaを利用した。また、がん関連学会作成26の診療GLのうち46%に高齢者に関する記載あったが、GAに関する記載は14%に過ぎず、さらなる普及が必要である。
4.「高齢がん患者に対する術前高齢者機能評価と術後合併症との関連解析研究」は2023年4月時点で315例の登録があり継続している。
5.①悪性リンパ腫モデルケースに対する介護度と血液専門医の診療方針についてのアンケート調査では、介護度に比例して標準治療からの乖離が明らかになり学会発表した。②介護認定を受けたがん患者1045例を対象とした介護度と治療・予後について検討では、介護度が高いほど治療へ移行する割合が低く、予後が悪かった。③DPC対象病院退院直後に訪問診療に移行したがん患者3784例の検討では、80%以上が介護保険サービスを利用し、その多くが終末期で早期に死に至ることが明らかとなった。

以上、腫瘍医と老年科専門医が協働し、他の職種も参加してGLやテキスト作成にあたったことは画期的であり、その作成過程を通し、また研修や共同研究の推進は本領域の人材育成につながっている。脆弱な高齢がん患者の生活基盤は介護サービスによって支えられるが、その実態を明らかにする研究は日本では初めてのことであり、今後の重要な研究テーマと考えられる。
結論
本研究の主目的である臓器横断的な高齢者のがん診療GLを完成・公表した。GLの基盤となる学問としての老年腫瘍学のテキストブックの発刊、さらにGL普及のための研修会開催、他学会のGLとの調整、ITの活用を行い、GL検証や介護問題についての観察研究を継続している。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208031C

成果

専門的・学術的観点からの成果
高齢者がん診療ガイドラインを作成・公表した。高齢がん患者の治療・ケアにあたって経験的な高齢者がん医療にEBMを導入する契機となった。多診療科、多職種、がんサバイバーが協働で参画し、人材育成につながった。その学問的な基盤として老年腫瘍学テキストを上梓した。これは腫瘍学と老年医学が融合した新しい学問で、それぞれの専門医に基礎医学者、介護・福祉関連の医療者が参画し、高齢がん患者の基礎~臨床、研究方法まで記載した。今後の研究が期待される。
臨床的観点からの成果
高齢がん患者の診療・ケアに対する考え方・マネジメントの総論に加え、3つの重要臨床課題(高齢者機能評価、リハビリテーション治療、栄養/サルコペニア)に対し5CQをあげ推奨度をつけて公表した。これまでの経験的な診療から高齢がん患者を全人的に評価し、それに基づいたより適正な診療につながる。また、がん診療連携拠点病院の指定要件の中に、意思決定能力を含む機能評価を行い、各種ガイドラインに沿った対応を求めていることから、本ガイドラインの速やかな普及が期待される。
ガイドライン等の開発
本ガイドラインでは、エビデンスのあるものを中心に診療指針として公表したが、他にも多くの重要な課題があり臨床的提言として公表する予定である。提言は検証的作業が行われて始めて指針に発展する。進行中の臨床研究の継続、新たな検証的な試験の実施が必要である。また、がん関連学会作成の各臓器がん診療ガイドラインへの高齢者のがん診療に関する記載は少ない。臓器横断的な本ガイドラインをこれらに反映させるために各学会に働きかける必要がある。
その他行政的観点からの成果
「GE-03-05-02 高齢者総合機能評価を実施できる」ことが医学教育モデル・コア・カリキュラムにある。本ガイドラインの重要な指針である機能評価の実践に関し、多くの医学部で老年医学の講義・実習が系統だって行われておらず、またがん診療拠点病院の多くで評価者不足の現状があることから、医系大学の卒前・卒後教育の充実と人材育成とその配置(診療報酬による支援)が必要であることを示唆している。文部科学省、厚生労働省内での議論と連携に期待したい。
その他のインパクト
高齢者のがん診療ガイドラインを作成する過程で、質の高い臨床研究が少なく、診療指針に耐えるエビデンスが極めて少ないことは驚くべきことで、研究を遂行する研究者が少ないことを示唆するものである。すなわち、がんに精通する老年科専門医と腫瘍医、メディカルスタッフの充実と高齢がん患者を支える医療者・介護者・一般市民、行政の共同作業が必須であることをあらためて認識させるものであった。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
ガイドライン作成1件、テキストブック作成1件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
シンポジウム開催2件、ホームページ2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ninomiya K, Inoue D, Sugimoto K, et al
Significance of the comprehensive geriatric assessment in the administration of chemotherapy to older adults with cancer: Recommendations by the Japanese Geriatric Oncology Guideline Committee
Journal of Geriatric Oncology  (2023)
原著論文2
Yoichiro Yoshida, Kazuo Tamura, Geriatric Oncology Guideline-establishing Study Group
Implementation of geriatric assessment and long-term care insurance system by medical professionals in cancer treatment: a nationwide survey in Japan
Japanese Journal of Clinical Oncology  (2022)
原著論文3
佐伯俊昭 高松泰 渡邊清高
日本がんサポーティブケア学会は何を目指すのか?
腫瘍内科 , 33 (ak1) , 12-16  (2024)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-06-10

収支報告書

文献番号
202208031Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
11,960,000円
(2)補助金確定額
11,960,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,010,333円
人件費・謝金 1,769,339円
旅費 432,023円
その他 4,988,305円
間接経費 2,760,000円
合計 11,960,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-