がん登録を利用したがん検診の精度管理方法の検討のための研究

文献情報

文献番号
202208029A
報告書区分
総括
研究課題名
がん登録を利用したがん検診の精度管理方法の検討のための研究
課題番号
21EA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
松坂 方士(国立大学法人弘前大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田 智大(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 国際政策研究部)
  • 雑賀 公美子(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター国際連携研究部)
  • 高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所検診研究部検診実施管理研究室)
  • 斎藤 博(青森県立中央病院)
  • 京 哲(島根大学医学部 産科婦人科)
  • 金村 政輝(宮城県立がんセンター研究所 がん疫学・予防研究部)
  • 柴崎 智美(埼玉医科大学 医学部医学教育学)
  • 井口 幹崇(和歌山県立医科大学 消化器内科)
  • 田中 里奈(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,900,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、先行事例を活用してがん登録情報を利用したがん検診の精度管理を全国の市町村に実装する体制を整備することである。具体的には、精度管理の標準的な手順と、信頼性のある結果を得るための基準と精度指標を設定する。また、新規にこの事業を展開する自治体に対して、実装支援としてこの標準的な手順や精度管理の手法を適用し、経過や算出された精度指標を公開する。
 わが国ではその算出に不可欠であるがん登録情報とがん検診情報との照合がほとんど実施されておらず、これまで実測することはほぼ不可能だった。このことが、がん検診によって対象がんの死亡率を減少させている諸外国とわが国との最大の差である。
 本研究により、精度管理のための重要な評価指標の算出が可能になることで、全国の市町村で評価指標を設定してがん検診体制を徹底的に精度管理する体制を整備することが可能になる。
研究方法
(A) がん検診の精度管理にがん登録情報を利用するための都道府県および市町村の機能強化と評価手法の標準化

1)体制整備(個人情報取り扱いのための規約、手続きなど)を実現するための具体的な基準・指標の案を設定した。

2) 青森県、島根県、宮城県、和歌山県などのモデル地域において、基準・指標と照合のための課題に関する調査を行い、その妥当性を評価した。

(B) がん登録情報とがん検診情報の照合データを用いたがん検診事業の評価手法の整理、および評価指標と解釈の提示

1) 標準的な手法でがん検診事業の評価を行い、感度や特異度などを算出するための具体的な方法について記述した。

2) がん検診情報は市町村やデータベースのベンダー等によって定義や形式が異なり、それらの取り扱いについて取りまとめることとした。
3) 照合で得られた感度、特異度やその他の指標の正確な解釈を検討し、それらを含めて精度管理のフォーマットを取りまとめた。

(C) がん登録情報を用いたがん検診精度管理のモデル地域での実装

1) 全国の自治体の担当者を対象に、研修会等でがん登録情報とがん検診情報の照合による精度管理を実施した自治体の事例紹介を行い、新たに事業展開を希望する地域を抽出した。

2) 新規の地域において実際にデータ照合によるがん検診事業の精度管理を実施し、課題達成のためにこれまでに明らかになっていない点の抽出や事例収集を行った。
結果と考察
化と評価手法の標準化
1) がん検診の精度管理の手順と、これを実現するための基準・指標の設定
がん検診情報は単独での精度評価は困難で、これを利用して算出される集計値である感度・特異度の信頼性を評価することも困難である。ただし、がん検診の不適切な受診者やがんの集計により、おおむね信頼性の評価は可能であると考えられた。

2) モデル地域における基準・指標と照合のための課題に関する調査
宮城県の取り組みから、新規にデータ照合を開始する際に、市区町村や都道府県ではどのようなことが課題になるのか、個人情報をどのように保護すればよいのかについて、さらに知見が集積された。

(B) がん登録情報とがん検診情報の照合データを用いたがん検診事業の評価手法の整理、および評価指標と解釈の提示
1) 感度、特異度の算出方法
本研究班で作成した感度・特異度算出マニュアルを多くの自治体で利用してブラッシュアップすることで汎用性が高まり、全国の行政職が利用できるマニュアルになると期待される。

2) ベンダー等による定義や形式の取りまとめ
全国で同一のデータ形式でがん検診情報が出力可能になれば、全国がん登録システムでの照合が容易になり、がん登録情報のがん検診事業への利用が促進されるものと期待される。

3) 感度、特異度やその他の指標の正確な解釈の検討と精度管理フォーマットの公表
評価指標はそれに関する解釈を付して公表することは必要であるが、がん検診全体に関する知識に普及も重要であると考えられた。

(C) がん登録情報を用いたがん検診精度管理のモデル地域での実装
1) 研修会での事例紹介と新たな地域の抽出
首都圏で新規に事業が開始されたことは重要で、地方都市だけでなく全国の自治体でのがん検診精度管理にデータ照合が応用可能であることが実証されたと考えられる。

2) 新規地域でのがん検診事業の評価、課題達成のための課題抽出、事例収集
今後の検討課題では、①集計作業をどこが実施するのか、②個人情報保護法やがん登録推進法などの法的課題、の2つが主要なものと思われる。
結論
 新規にデータ照合事業を開始する際の課題とその解決策についての事例を収集し、来年度もさらに多くの事例を収集する見込みである。また、データ照合のための標準的な手順や指標なども整理し、実際に複数の自治体でデータ照合による精度管理を実施した。今後、データ照合の開始から実際の精度管理までの一貫したプロセスの整備が進展するものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-05-24

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208029B
報告書区分
総合
研究課題名
がん登録を利用したがん検診の精度管理方法の検討のための研究
課題番号
21EA1001
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
松坂 方士(国立大学法人弘前大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 松田 智大(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所 国際政策研究部)
  • 雑賀 公美子(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター国際連携研究部)
  • 高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所検診研究部検診実施管理研究室)
  • 斎藤 博(青森県立中央病院)
  • 京 哲(島根大学医学部 産科婦人科)
  • 金村 政輝(宮城県立がんセンター研究所 がん疫学・予防研究部)
  • 柴崎 智美(埼玉医科大学 医学部医学教育学)
  • 井口 幹崇(和歌山県立医科大学 消化器内科)
  • 田中 里奈(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和3(2021)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、先行事例を最大限に活用してがん登録情報を利用したがん検診の精度管理を全国の市町村に実装する体制を整備することである。また、新規にこの事業を展開する自治体に対して、実装支援としてこの標準的な手順や精度管理の手法を適用し、実施までの経過や算出された精度指標を公開する。
研究方法
(A) がん検診の精度管理にがん登録情報を利用するための都道府県および市町村の機能強化と評価手法の標準化
 整備すべき体制、手順、基準・指標の案を設定した。また、モデル地域での基準・指標と課題に関する調査を行い、その妥当性を検討した。

(B) がん登録情報とがん検診情報の照合データを用いたがん検診事業の評価手法の整理、および評価指標と解釈の提示
 これまでに照合を実施した経験がある自治体に具体的な内容を聞き取った。また、がん登録情報には存在しなかったがんやがん検診受診日とがん診断日の関係の取り扱いについて取りまとめた。照合で得られた感度、特異度やその他の指標の正確な解釈を検討し、フォーマットを取りまとめた。

(C) がん登録情報を用いたがん検診精度管理のモデル地域での実装
 新たに事業展開を希望する地域を抽出した。また、実際のデータ照合によるがん検診事業の精度管理かられまで明らかになっていない点の抽出等を行った。
結果と考察
C.研究結果
(A) がん検診の精度管理にがん登録情報を利用するための都道府県および市町村の機能強化と評価手法の標準化
 第4次対がん総合戦略研究事業終了時までに実現すべき目標と基準を8分野、4段階に分けて設定した。また、複数の自治体で指標を算出し、信頼性が高いことを確認した。

(B) がん登録情報とがん検診情報の照合データを用いたがん検診事業の評価手法の整理、および評価指標と解釈の提示
 データ照合の結果をがん検診の精度管理に利用できたのは福井県のみだった。また、集計作業を自治体が行うことを想定し、行政職でも利用可能な感度・特異度算出マニュアルを作成した。なお、データベースのベンダーによるデータ形式の違い等の調査は中止した。

(C) がん登録情報を用いたがん検診精度管理のモデル地域での実装
 研修会等での本研究班の紹介に応じて、宮城県、東京都、愛媛県がデータ照合によるがん検診の精度管理事業を開始した。ただ、秋田県(1市)が新たに事業を開始する予定だったが、全国がん登録データベースの外部照合機能の障害が続き、実現されなかった。
 事業を開始するための都県や市区町村、都県がん登録室での議論の中では、法的根拠、個人情報の取り扱い、集計作業、指針外検診が検討課題として取り上げられた。

D.考察
(A) がん検診の精度管理にがん登録情報を利用するための都道府県および市町村の機能強化と評価手法の標準化
 がん検診情報には精度評価のために照合すべきデータがなく、単独での精度評価は困難であり、これを利用して算出される集計値である感度・特異度の信頼性を評価することも困難である。

(B) がん登録情報とがん検診情報の照合データを用いたがん検診事業の評価手法の整理、および評価指標と解釈の提示
 データ照合によるがん検診の精度管理事業を普及させるためにはマニュアル等を整備する必要があると考えられた。本研究班では、対象者や対象がんを定義することで集計値の精度向上を図り、集計値を明確に定義することで比較可能性を確保した。
 市町村の基幹業務システムの形式統一化は、市町村から照合のために抽出されるデータ形式が同一のものとなり、都道府県がん登録室の照合業務が容易になる。

(C) がん登録情報を用いたがん検診精度管理のモデル地域での実装
これまで研究班が支援してきた自治体での実施主体やデータの流れなどの類型は、新規に事業を開始する自治体のほとんどの類型をカバーしていると考えられた。
今後、がん登録等の推進に関する法律は同法附則4条により改正が見込まれるところであり、それに伴うデータ利用の推進が期待される。
結論
 2年間の研究活動により、新規にデータ照合事業を開始する際の課題とその解決策についての事例を収集するとともに、データ照合のための標準的な手順や指標なども整理し、複数の自治体で新規にデータ照合による精度管理を開始した。今後は、新しい指標である感度・特異度によるがん検診の精度向上の実例を蓄積する必要がある。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-05-24

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208029C

成果

専門的・学術的観点からの成果
がん登録情報とがん検診情報を照合して、市町村が実施するがん検診の精度管理を向上させるために、がん登録推進法や健康増進法、個人情報保護法などの内容を整理するとともに、偽陰性がんなどの定義を決定した。これにより、感度、特異度などの精度管理項目を算出し、自治体間で比較することが可能になった。本研究班の支援によって複数の自治体ががん登録情報とがん検診情報の照合を開始し、以前から実施している自治体を含めて、がん検診の精度管理に感度、特異度などを利用する自治体が増加している。
臨床的観点からの成果
これまで、日本では対策型検診による対象がんの死亡率低下が報告されたことはなく、その理由の一つとして精度管理が不十分だったことがあげられる。組織型検診を実施している諸外国では感度、特異度による精度管理が普及しており、日本の対策型検診でも感度、特異度を算出できる体制の整備が必要である。本研究により、日本でも感度、特異度によるがん検診の精度管理が可能になり、対策型検診の有効性が向上するものと考えられる。
ガイドライン等の開発
ガイドライン等は開発していない。
その他行政的観点からの成果
感度、特異度の算出と自治体間の比較によるがん検診の精度管理は組織型検診を実施している諸外国では成果が上がっており、日本の対策型検診でも十分に効果が期待される。また、がん検診事業評価のためのチェックリスト(都道府県版)に記載されているがん検診受診者の予後調査を実施するためには、がん登録情報とがん検診情報の照合が可能な体制を構築しなければならない。本研究班の取り組みは、2022年7月15日の厚生労働省健康局第36回がん検診のあり方に関する検討会で報告された。
その他のインパクト
本研究班が定義した各項目にしたがって算出された感度、特異度については、参加した自治体の数値を一覧表で比較できる報告書を作成し、全国の都道府県に頒布する。また、2023年6月8-10日に青森県青森市で開催された日本がん登録協議会・第32回学術集会で、学術集会企画シンポジウム「がん登録を利用したがん検診の精度管理」として本研究班の成果を報告した。今後、本研究班の取り組みを日本公衆英英学雑誌に報告する予定である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
日本がん登録協議会第32回学術集会シンポジウム、第81回日本公衆衛生学会総会シンポジウム
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
審議会での議論1件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本がん登録協議会・日本医師会共催シンポジウム

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-05-28

収支報告書

文献番号
202208029Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,421,000円
(2)補助金確定額
5,421,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,921,360円
人件費・謝金 72,000円
旅費 108,700円
その他 67,940円
間接経費 1,251,000円
合計 5,421,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-