文献情報
文献番号
202208026A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム情報を活用した遺伝性腫瘍の先制的医療提供体制の整備に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
20EA1027
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
櫻井 晃洋(札幌医科大学 医学部遺伝医学)
研究分担者(所属機関)
- 青木 大輔(慶應義塾大学 医学部 産婦人科学)
- 新井 正美(順天堂大学 大学院医学研究科 臨床遺伝学)
- 戸崎 光宏(相良病院 放射線科)
- 中村 清吾(昭和大学 医学部 外科学講座 乳腺外科学部門)
- 西垣 昌和(国際医療副次大学大学院医療福祉学研究科)
- 平沢 晃(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病態制御科学専攻 腫瘍制御学講座 (臨床遺伝子医療学分野) )
- 山内 英子(聖路加国際大学 聖路加国際病院 ブレストセンター 乳腺外科)
- 吉田 玲子(昭和大学 先端がん治療研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
11,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
がん全体の5-10%を占める遺伝性腫瘍では、より正確な臨床経過や予後の予測、ゲノム情報に基づいた薬剤選択やリスク低減治療が実現しつつある。遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)は遺伝性腫瘍の中でも最も頻度の高い疾患であり、癌における戦略的な先制医療のモデルとなる疾患と言える。遺伝学的検査を含むHBOC診療の一部保険診療化に伴い、今後は血縁者の未発症変異保持者数も飛躍的に増加すると予想されるが、わが国では十分なデータは得られておらず、また国民皆保険制度下においては、罹患者ではない未発症変異保持者は保険診療の対象外という問題もある。未発症変異保持者は先制医療の有用性が最も期待できる集団であり、わが国において未発症者に対する先制医療を実現するためのデータを集積する。
研究方法
先行研究の成果をふまえ、5つの課題を設定して研究を進める。すなわち、1)先行研究から継続してのデータの収集と解析、2)遺伝学的検査の対象者を抽出する基準と提供すべき検査の標準化、3)サーベイランスの有用性と費用対効果の評価、4)遺伝医療提供体制の整備に向けた実態評価と課題抽出、5)関連学会・団体と連携の上での遺伝性腫瘍診療標準化・均てん化実現のための教育・啓発活動、を行う。
結果と考察
1)遺伝性腫瘍の発症者及び未発症者、遺伝学的検査対象者の国内実態調査
先行研究から継続して全国から症例の登録を行い、令和3年8月末日までに入力されたデータを用いて、全国登録集計を行った。対象者(BRCA遺伝学的検査を受検した人)は、15,996例、登録者(対象者+第2度近親者まであるいはいとこでがんを発症した人)は、52,765例を登録した。BRCA1病的バリアント保持者1359例、BRCA2病的バリアント保持者1520名、BRCA1+BRCA2病的バリアント保持者13名を登録した。
2)遺伝学的検査の対象者を抽出する基準と提供すべき検査の標準化
現在は遺伝性腫瘍の確定診断のための遺伝学的検査や遺伝性腫瘍診療の大部分が保険未収載であるが、今後は多遺伝子パネル検査(MGPT)の導入が急速に進むと考えられる。MGPTを含む遺伝性腫瘍診療の保険収載に向けて解決すべき課題を整理する目的のウェビナーを開催した。
3)サーベイランスの有用性と費用対効果の評価
2018年4月~2022年12月までに、昭和大学病院で施行されたMRIガイド下生検症例を対象として、BRCA1/2病的バリアント保持者とそれ以外の症例(対象群)と2群を分けて、MRIガイド下生検の当日のキャンセルの割合、MRI所見、カテゴリー判定および病理学的特徴を比較検討した。BRCA1/2群と対象群で最も有意差があったのは、浸潤癌の割合であった(p=0.003)。また、BRCA1/2病的バリアントに対するMRIサーベイランス中の新出病変は、画像所見がカテゴリー3であっても、MRIガイド下生検を検討する必要があると考えられた。
4)遺伝医療提供体制の整備に向けた実態評価と課題抽出
米国のがんハイボリュームセンター2施設の遺伝カウンセラー2名に、半構造化インタビューを実施した。今後拡大するがん遺伝カウンセリング(GC)の需要に対応する目的で、クライエントとGC実施機関を直接結ぶ遠隔GCの実装・普及のためには、遠隔による検査提供体制の整備、遠隔GC後のサーベイランス体制の整備、日本における遠隔GCのクライエントアウトカムへの影響に関するエビデンスの生成が必要と考えられた。
5)関連学会・団体と連携の上での遺伝性腫瘍診療標準化・均てん化実現のための教育・啓発活動
本研究班を主体とした市民公開講座及びセミナー、さらに共催、協力による公開セミナーを実施した。市民向けセミナーや各地域の現状や課題について、患者や地域の医療者との意見交換会を行って課題を共有した。HBOC当事者向けの支援、情報共有、意見交換会の実施。当事者団体と連携し正しい情報共有の持続可能な体制の構築。ホームページ(https://www.geneticsinfo.jp)、SNSを活用した研究活動の案内、報告、募集、解説文書の掲示、過去セミナーの動画公開などの活動を展開した。
先行研究から継続して全国から症例の登録を行い、令和3年8月末日までに入力されたデータを用いて、全国登録集計を行った。対象者(BRCA遺伝学的検査を受検した人)は、15,996例、登録者(対象者+第2度近親者まであるいはいとこでがんを発症した人)は、52,765例を登録した。BRCA1病的バリアント保持者1359例、BRCA2病的バリアント保持者1520名、BRCA1+BRCA2病的バリアント保持者13名を登録した。
2)遺伝学的検査の対象者を抽出する基準と提供すべき検査の標準化
現在は遺伝性腫瘍の確定診断のための遺伝学的検査や遺伝性腫瘍診療の大部分が保険未収載であるが、今後は多遺伝子パネル検査(MGPT)の導入が急速に進むと考えられる。MGPTを含む遺伝性腫瘍診療の保険収載に向けて解決すべき課題を整理する目的のウェビナーを開催した。
3)サーベイランスの有用性と費用対効果の評価
2018年4月~2022年12月までに、昭和大学病院で施行されたMRIガイド下生検症例を対象として、BRCA1/2病的バリアント保持者とそれ以外の症例(対象群)と2群を分けて、MRIガイド下生検の当日のキャンセルの割合、MRI所見、カテゴリー判定および病理学的特徴を比較検討した。BRCA1/2群と対象群で最も有意差があったのは、浸潤癌の割合であった(p=0.003)。また、BRCA1/2病的バリアントに対するMRIサーベイランス中の新出病変は、画像所見がカテゴリー3であっても、MRIガイド下生検を検討する必要があると考えられた。
4)遺伝医療提供体制の整備に向けた実態評価と課題抽出
米国のがんハイボリュームセンター2施設の遺伝カウンセラー2名に、半構造化インタビューを実施した。今後拡大するがん遺伝カウンセリング(GC)の需要に対応する目的で、クライエントとGC実施機関を直接結ぶ遠隔GCの実装・普及のためには、遠隔による検査提供体制の整備、遠隔GC後のサーベイランス体制の整備、日本における遠隔GCのクライエントアウトカムへの影響に関するエビデンスの生成が必要と考えられた。
5)関連学会・団体と連携の上での遺伝性腫瘍診療標準化・均てん化実現のための教育・啓発活動
本研究班を主体とした市民公開講座及びセミナー、さらに共催、協力による公開セミナーを実施した。市民向けセミナーや各地域の現状や課題について、患者や地域の医療者との意見交換会を行って課題を共有した。HBOC当事者向けの支援、情報共有、意見交換会の実施。当事者団体と連携し正しい情報共有の持続可能な体制の構築。ホームページ(https://www.geneticsinfo.jp)、SNSを活用した研究活動の案内、報告、募集、解説文書の掲示、過去セミナーの動画公開などの活動を展開した。
結論
上記の通り、症例登録やガイドライン作成、患者・市民を対象とした調査やセミナー、HBOC診療に関連する医療者を対象としたセミナーなど、それぞれを予定通りに進めることができた。いずれの領域もこれまで以上に多くの関心を集めており、HBOC診療の一部保険収載が、医療者、患者・家族、一般市民のいずれにおいても大きな関心を集めていることがうかがわれた。
公開日・更新日
公開日
2023-07-04
更新日
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