生まれ年度によるHPVワクチン接種環境の違いに着目した子宮頸がん罹患リスクの評価・子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発とHPVワクチンの有効性評価

文献情報

文献番号
202208024A
報告書区分
総括
研究課題名
生まれ年度によるHPVワクチン接種環境の違いに着目した子宮頸がん罹患リスクの評価・子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発とHPVワクチンの有効性評価
課題番号
20EA1025
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
上田 豊(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 平井 啓(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター/大学院医学系研究科生体機能補完医学講座/人間科学研究)
  • 中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科生殖生育病態医学)
  • 榎本 隆之(新潟大学 医歯学系)
  • 池田 さやか(国際医療福祉大学 三田病院 女性腫瘍センター・婦人科)
  • 中川 慧(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 八木 麻未(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
7,690,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究は、本邦におけるHPV ワクチンによる子宮頸がん(浸潤がん)の予防効果の検証のためのコホートの形成を第一の目的としている。さらに、生まれ年度ごとの20歳での細胞診異常やCINの発生率を継続的に把握していくことで、HPVワクチン導入前世代・接種世代・停止世代の子宮頸がん罹患リスクを評価することを第二の目的としている。さらに、子宮頸がん罹患リスクの特に高いワクチン停止世代に対して適切な子宮頸がん検診受診手法を開発して検診受診率を上昇させることで、HPVワクチン積極的勧奨差し控え継続による弊害の低減に寄与することが第三の目的である。
研究方法
(1) 生まれ年度による子宮頸がん罹患リスクの評価
(1-1)20歳子宮頸がん検診結果の経年的観察調査
<2022年度>
前研究では7自治体からのデータを活用して解析を行ったが、当研究では協力自治体を増やし、HSIL以上の細胞診異常や前がん病変の頻度の大規模な時系列調査および停止世代(2000年度以降生まれ)での細胞診異常・前がん病変の再増加の検証を実施するためのデータ収集を行う予定とした。
(1-2)生まれ年度による子宮頸がん累積罹患率・死亡率の解析
(調査(A):全国がん登録システムを活用した生まれ年度によるコホート研究)
<2022年度>
協力自治体と契約して自治体のHPVワクチン接種記録の電子化・解析対象リスト作成を行い、全国がん登録データの使用申請を行う予定とした。
(2) HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果の解析
(調査(B):全国がん登録システムを活用したHPVワクチン接種コホート研究)
<2021年度>上記(1-2)と同様
(3) HPVワクチン停止世代に対する子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発
<2022年度>
HPVワクチン停止世代の女性に対する子宮頸がん検診受診勧奨リーフレットの効果検証の評価を行う。
結果と考察
(1) 生まれ年度による子宮頸がん罹患リスクの評価
(1-1)20歳子宮頸がん検診結果の経年的観察調査
前年度までのデータに加え、2000年度生まれの20歳時検診未受診者の21歳時検診データおよび2021年度生まれの20歳時検診データが加わった。停止世代の細胞診異常率(ASC-US+)は2001年度生まれで著明に上昇し、積極的勧奨差し控えによる停止状態の弊害が顕著に現れた。
 さらに、2000年度生まれの20歳時の子宮頸がん検診の生検結果まで入手できたため、組織診異常率(CIN 1+)の経年変化も解析した。細胞診の異常率と同じく、停止世代における前がん病変(CIN 1+)の発見率が有意に上昇(p<0.01)しており、積極的勧奨差し控えによって前がん病変が増加したことが示唆された。
(1-2)生まれ年度による子宮頸がん累積罹患率・死亡率の解析
(調査(A):全国がん登録システムを活用した生まれ年度によるコホート研究)
 2022年度も継続して計約200自治体に協力を依頼し、順次交渉を行った。結果、神戸市・川口市・都城市・西都市・久留米市・門川町・新富町から了解を得ることができ(自治体総人口規模約260万人)、解析必要症例数をクリアした。さらに前向きに検討中の自治体も複数あり、十分な解析を行える見込みとなった。
(2) HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果の解析
(調査(B):全国がん登録システムを活用したHPVワクチン接種コホート研究)
上述の(1-2)生まれ年度による子宮頸がん累積罹患率・死亡率の解析(調査(A))と同じ。
(3) HPVワクチン停止世代に対する子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発
HPVワクチン停止世代(2000年度生まれ)の女性を対象とした子宮頸がん検診のリコールにて郵送し、効果検証を実施した。茨木市では、2021年度の20歳子宮頸がん検診対象者のうち、11発末までの未受診者を半数に分け、それぞれに当研究班作成リーフレット(図20)と通常の市の案内を送付したが、受診率の有意な上昇とはならなかった。熊取町では2021年度は20歳子宮頸がん検診対象者全員に当研究班作成リーフレット(図20)を送付し、通常の市の案内を送付した2020年度と比較したが、こちらも受診率の有意な上昇とはならなかった。
結論
 COVID-19対応によって自治体業務のひっ迫により、自治体への負担が懸念されたが、研究はおおむね順調に進捗した。ワクチン接種が停止状態となった弊害が現実のものとなっており、子宮頸がん検診の受診勧奨の強化が求められる。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208024B
報告書区分
総合
研究課題名
生まれ年度によるHPVワクチン接種環境の違いに着目した子宮頸がん罹患リスクの評価・子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発とHPVワクチンの有効性評価
課題番号
20EA1025
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
上田 豊(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究分担者(所属機関)
  • 平井 啓(大阪大学 コミュニケーションデザイン・センター/大学院医学系研究科生体機能補完医学講座/人間科学研究)
  • 中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部)
  • 宮城 悦子(横浜市立大学 大学院医学研究科生殖生育病態医学)
  • 榎本 隆之(新潟大学 医歯学系)
  • 池田 さやか(国際医療福祉大学 三田病院 女性腫瘍センター・婦人科)
  • 中川 慧(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
  • 八木 麻未(大阪大学大学院医学系研究科産科学婦人科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
当研究は、本邦におけるHPV ワクチンによる子宮頸がん(浸潤がん)の予防効果の検証のためのコホートの形成を第一の目的としている。さらに、生まれ年度ごとの20歳での細胞診異常やCINの発生率を継続的に把握していくことで、HPVワクチン導入前世代・接種世代・停止世代の子宮頸がん罹患リスクを評価することを第二の目的としている。さらに、子宮頸がん罹患リスクの特に高いワクチン停止世代に対して適切な子宮頸がん検診受診手法を開発して検診受診率を上昇させることで、HPVワクチン積極的勧奨差し控え継続による弊害の低減に寄与することが第三の目的である。
研究方法
(1) 生まれ年度による子宮頸がん罹患リスクの評価
(1-1)20歳子宮頸がん検診結果の経年的観察調査
<2020年度・2021年度・2022年度>
前研究では7自治体からのデータを活用して解析を行ったが、当研究では協力自治体を増やし、HSIL以上の細胞診異常や前がん病変の頻度の大規模な時系列調査を実施するためのデータ収集を行う予定とした。
(1-2)生まれ年度による子宮頸がん累積罹患率・死亡率の解析
(調査(A):全国がん登録システムを活用した生まれ年度によるコホート研究)
<2020年度・2021年度・2022年度>
協力自治体と契約して自治体のHPVワクチン接種記録の電子化・解析対象リスト作成を行い、全国がん登録データの使用申請を行う予定とした。
(2) HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果の解析
(調査(B):全国がん登録システムを活用したHPVワクチン接種コホート研究)
<2020年度・2021年度・2022年度>上記(1-2)と同様
(3) HPVワクチン停止世代に対する子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発
<2020年度>
HPVワクチン導入前世代と接種世代と停止世代の女性に対するインタビュー調査および停止世代の女性に対する子宮頸がん検診受診勧奨メッセージ案の作成する予定とした。
<2021年度>
HPVワクチンの定期接種・キャッチアップ接種の進捗に関するインターネット調査および停止世代の女性に対する子宮頸がん検診受診勧奨リーフレットの送付を行う予定とした。
<2022年度>
HPVワクチン停止世代の女性に対する子宮頸がん検診受診勧奨リーフレットの効果検証の評価を行う予定とした。
結果と考察
(1) 生まれ年度による子宮頸がん罹患リスクの評価
(1-1)20歳子宮頸がん検診結果の経年的観察調査
ワクチン導入に伴うCIN 3以上の頻度の減少を大規模なデータで示した。停止世代の細胞診異常率(ASC-US+)は200年度・2001年度生まれで著明に上昇し、積極的勧奨差し控えによる停止状態の弊害が顕著に現れた。前がん病変(CIN 1+)の発見率についても有意に上昇(p<0.01)しており、積極的勧奨差し控えによって前がん病変が増加したことが示唆された。
(1-2)生まれ年度による子宮頸がん累積罹患率・死亡率の解析
(調査(A):全国がん登録システムを活用した生まれ年度によるコホート研究)
 計約200自治体に協力を依頼し、順次交渉を行った。結果、神戸市・川口市・都城市・西都市・・久留米市・門川町・新富町から了解を得ることができ(自治体総人口規模約260万人)、解析必要症例数をクリアした。さらに前向きに検討中の自治体も複数あり、十分な解析を行える見込みとなった。
(2) HPVワクチンによる子宮頸がん予防効果の解析
(調査(B):全国がん登録システムを活用したHPVワクチン接種コホート研究)
上述の(1-2)生まれ年度による子宮頸がん累積罹患率・死亡率の解析(調査(A))と同じ。
(3) HPVワクチン停止世代に対する子宮頸がん検診受診勧奨手法の開発
インタビュールームにてメッセージ案を作成し、その効果をインターネット調査で評価した。そのメッセージを活用したリーフレットを作成し、茨木市よび熊取町にて2000年度生まれの女性を対象とした子宮頸がん検診のリコールにて郵送し、効果検証を実施したが、受診率の有意な上昇とはならなかった。HPVワクチン停止世代に対する子宮頸がん検診受診勧奨については課題を残す結果となった。
結論
 COVID-19対応によって自治体業務のひっ迫により、自治体への負担が懸念されたが、研究はおおむね順調に進捗した。複数の自治体から得られた20歳の子宮頸がん検診の結果の経年的な観察により、細胞診異常率・組織診異常率はHPVワクチン接種世代で減少したものの、停止世代では再び上昇に転じていることが確認できた。この世代に対する子宮頸がん検診の受診勧奨の強化が求められる。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
20歳の子宮頸がん検診の結果の経年的な観察により、HPVワクチン導入によって細胞診異常に加えて組織診異常(CIN)の頻度が有意に減少していることが示された(Vaccine. 2019;37:2889-2891)。一方で、ワクチン停止世代では細胞診異常率が再上昇しており、積極的勧奨差し控えの弊害が現実のものとなっていることが示された(Lancet Reg Health West Pac. 2021;18:100327)。
臨床的観点からの成果
HPVワクチンによるCIN 3 の予防効果の証明は本邦での最初の報告であり、論文として情報発信を行った(Vaccine. 2019;37:2889-2891)。また、積極的勧奨差し控えの弊害の科学的データ(Lancet Reg Health West Pac. 2021;18:100327)は本邦独自のものであり、将来、その世代で子宮頸がんが増加することを示唆するものとして臨床的にも極めて重要なデータである。
ガイドライン等の開発
前述の如く、HPVワクチンによるCIN 3 の予防効果の証明は本邦での最初の報告であり(Vaccine. 2019;37:2889-2891)、今後、本邦におけるHPVワクチンの効果の基礎的データとなり、ガイドライン等に記載されていくものと考える。また、生まれ年度によって将来の子宮頸がん罹患リスクが異なることを示唆するデータは、今後の子宮頸がん検診の在り方の検討などにも活用されるものと考える。
その他行政的観点からの成果
生まれ年度によってHPVワクチン接種率に大きな差があることに起因する、生まれ年度間の子宮頸がん・前がん病変のリスクの違いが示された。これは今後の本邦における子宮頸がん対策の展開に寄与するものである。一方で、これら世代に対する子宮頸がん検診の受診勧奨については、当研究班で開発した手法では受診率上昇につなげられず、課題が残った。いずれにしても、積極的勧奨の差し控えに接した生まれ年度の女性に対する子宮頸がん検診の受診勧奨の強化が望まれる。
その他のインパクト
これら知見は、別紙に示す多くのセミナー・市民公開講座等で提示した。メディアにもたびたび取り上げられた(朝日新聞、産経新聞、読売新聞、Yahoo JAPAN、等)。また、国会議員、メディア、自治体職員を対象としたセミナーでもプレゼンテイションを行った(HPVワクチン推進議連、日本産科婦人科学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ジョイントセミナー、HPVワクチンの最新情報と研究成果報告会、等)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
12件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
23件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
HPVワクチン推進議連、日本産科婦人科学会・日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会ジョイントセミナー、HPVワクチンの最新情報と研究成果報告会

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Taniguchi M, Ueda Y, Yagi A, Miyoshi A, Tanaka Y, Minekawa R, Endo M, Tomimatsu T, Hirai K, Nakayama
Disparity of Cervical Cancer Risk in Young Japanese Women: Bipolarized Status of HPV Vaccination and Cancer Screening.
Vaccines (Basel)  (2021)
原著論文2
Yagi A, Ueda Y, Nakagawa S, Ikeda S, Tanaka Y, Sekine M, Miyagi E, Enomoto T, Kimura T.
Potential for cervical cancer incidence and death resulting from Japan's current policy of prolonged suspension of its governmental recommendation of the HPV vaccine.
Sci Rep  (2020)
原著論文3
Ugumori N, Ueda Y, Yagi A, Abe H, Shiomi M, Nakagawa S, Hiramatsu K, Miyoshi A, Kobayashi E, Kimura
A potential means to help the HPV vaccine penetrate the Japanese public while under the continued suspension of governmental recommendation.
Hum Vaccin Immunother.  (2021)
原著論文4
Yagi A, Ueda Y, Nakagawa S, Masuda T, Miyatake T, Ikeda S, Abe H, Hirai K, Sekine M, Miyagi E, Enomo
A nationwide birth year-by-year analysis of effectiveness of HPV vaccine in Japan.
Cancer Sci.  (2021)
原著論文5
Yagi A, Ueda Y, Ikeda S, Miyagi E, Sekine M, Enomoto T, Kimura T.
The looming health hazard: A wave of HPV-related cancers in Japan is becoming a reality due to the continued suspension of the governmental recommendation of HPV vaccine.
Lancet Reg Health West Pac.  (2021)
原著論文6
Yagi A, Ueda Y, Nakagawa S, Ikeda S, Kakuda M, Hiramatsu K, Miyoshi A, Kobayashi E, Kimura T, Mizush
Can Catch-Up Vaccinations Fill the Void Left by Suspension of the Governmental Recommendation of HPV Vaccine in Japan?
Vaccines (Basel).  (2022)
原著論文7
Yagi A, Ueda Y, Nakagawa S, Ikeda S, Kakuda M, Hiramatsu K, Miyoshi A, Kobayashi E, Kimura T, Hirai
Change of HPV vaccination rates in Japan: the effect of individual notifications implemented by local governments.
Int J Clin Oncol.  (2022)
原著論文8
Oka E, Ueda Y, Nagase Y, Sawada M, Egawa-Takata T, Yagi A, Kakuda M, Nakagawa S, Hiramatsu K, Miyosh
Attitudes and behaviors of obstetricians and gynecologists toward HPV vaccination: a 7-year follow-up survey in Japan.
Int J Clin Oncol.  (2022)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
202208024Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,997,000円
(2)補助金確定額
9,997,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 117,191円
人件費・謝金 683,163円
旅費 1,181,771円
その他 5,707,875円
間接経費 2,307,000円
合計 9,997,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-