がん検診の利益・不利益等の適切な情報提供の方法の確立に資する研究

文献情報

文献番号
202208022A
報告書区分
総括
研究課題名
がん検診の利益・不利益等の適切な情報提供の方法の確立に資する研究
課題番号
20EA1023
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 博(青森県立中央病院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国ではがん検診の正確な情報提供が不十分であり、その要因の一つに医療・がん検診従事者(以下、がん検診従事者)ががん検診を十分に理解していないことが挙げられる。また、科学的根拠のない検診の実施など、成果を上げるための要件を満たさないがん検診が横行している。本格的な成書が国内にほとんどない現状で、がん検診従事者向けに(1)がん検診の教科書的資材の出版、(2) e-learning資材の作成、(3) 各都道府県のがん検診従事者が自身の地域の実態を把握し、主体的に改善するための資料コンテンツを作成した。また、一般市民向けのがん検診の不利益の説明を含めた正確な情報提供のために (4)一般市民への知識普及のための動画資材を作成した。
研究方法
(1) がん検診従事者向けのがん検診の教科書的資材の作成
国際標準のがん検診の原則を理解するための質の高い教科書的資材として特定した世界保健機関(WHO)による2資材のうち、現在でも国際的に検診のバイブルとみなされている’ Principles and practice of screening for disease’を著作権者から許可を得て翻訳した。
(2)がん検診従事者向けのe-learning資材の作成
(1)の教科書的資材に記述されているがん検診を含めたスクリーニングに関する基本的事項や原則が効率よく学べる資材としてe-learning資材を作成した。全体の構成は ‘Screening programmes : a short guide’ にしたがった。
医療従事者に対する教育効果の評価のために、弘前大学医学部学生4年生のボランティア(109名)を対象に、資材内の動画の視聴前後でのがん検診に関する理解度の変化を測定した。
(3) 各都道府県のがん検診従事者が自身の地域の実態を把握し、主体的に改善できるための
資料コンテンツの作成
昨年度までに、子宮がんについて地域保健・健康増進事業報告および全国がん検診実施状況データブックを用いて作成した精検受診率などのプロセス指標や市区町村用チェックリスト項目などを視覚化した資料コンテンツを作成、公開した。今年度は、大腸がん、乳がん検診についても作成、公開した。
(4)一般市民向けの情報提供動画の評価
OECD Health Statisticsなどのデータを基に抽出した先進的な国々で市民向けに発信している情報を参照し、それを基に昨年度作成した10分弱の動画について、一般市民を想定して、日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT)を通じて募集した対象者と弘前大学教育学部学生のボランティア(44名)を対象に、動画の視聴前後でのがん検診に関する理解度の変化をテストし、この資材の学習効果を評価した。
結果と考察
(1) WHOによる資材の日本語訳版を弘前大学出版会の審査を経て「スクリーニングの原則と実践」として刊行し、全国の大学医学部公衆衛生学分野、医学部附属図書館、がん検診関連学会に頒布するとともに、研究班ホームページ(HP)で公開した。
(2)検診従事者への専門知識普及のツールとして、実際のがん検診を効果的に実施するために必要な運用方法も加味したe-learning資材を約50分程度の構成で作成し、理解度のセルフチェックができる内容として公開した。
医療従事者を想定した弘前大学医学部学生4年生のボランティア(109名)による e-learning資材の評価では、ほとんどの項目で高い教育効果が確認された。
(3)昨年度に子宮頸がん検診をモデルにして各地域(都道府県、市町村別)の精密検査受診率等のがん検診実施体制の整備状況に関するデータをウェブで閲覧できるコンテンツを作成して研究班HP上で公開した。今年度は、乳がん検診と大腸がん検診について同様のコンテンツを研究班HPに公開した。また、今後のデータ更新に対応するため、HPのバックグラウンドに Tableau を導入した。
(4)一般市民向けの動画資材の一般市民ボランティア(44名)による評価では、理解度テストの結果から、資材の明確な学習効果が確認された。一方で、わが国ではがん検診の目的は「がんの早期発見、早期治療」であるという誤った認識が強く植え付けられていることが明らかになった。
以上により、がん検診従事者用のスクリーニングに関する基本の理解のための教科書資材、及びがん検診の不利益を含めた市民のための情報資材が完成し、その教育効果も確認された。
結論
がん検診従事者向けの国際標準の教科書資材とその関連ツール、および一般市民向けe-learningの作成により、本研究班の目的であるがん検診に関する利益・不利益当等の適切な情報提供とその理解が促進されるものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208022B
報告書区分
総合
研究課題名
がん検診の利益・不利益等の適切な情報提供の方法の確立に資する研究
課題番号
20EA1023
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 博(青森県立中央病院)
研究分担者(所属機関)
  • 中山 富雄(国立研究開発法人国立がん研究センター 社会と健康研究センター検診研究部)
  • 山本 精一郎(公立大学法人静岡社会健康医学大学院大学 社会健康医学研究科)
  • 笠原 善郎(福井県済生会病院 乳腺外科)
  • 加藤 勝章(宮城県対がん協会がん検診センター)
  • 齊藤 英子(国際医療福祉大学三田病院予防医学センタ-)
  • 高橋 宏和(国立研究開発法人国立がん研究センター がん対策研究所検診研究部検診実施管理研究室)
  • 立道 昌幸(東海大学医学部)
  • 雑賀 公美子(国立研究開発法人国立がん研究センター社会と健康研究センター国際連携研究部)
  • 町井 涼子(国立がん研究センター がん対策情報センターがん医療支援部検診実施管理支援室)
  • 松坂 方士(国立大学法人弘前大学 医学部附属病院)
  • 田中 里奈(弘前大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国ではがん検診の正確な情報提供が不十分であり、その要因の一つに医療・がん検診従事者(以下、がん検診従事者)ががん検診を十分に理解していないことが挙げられる。しかし、がん検診の本格的な成書が国内にほとんどないのが現状である。また、一般市民ががん検診を正しく理解するのに必要な情報資材も不在である。そこで、がん検診従事者向けに(1)がん検診の教科書的資材の出版を目指した。同時に(2)一般市民向けの情報提供動画資材を開発した。さらに、がん検診従事者が理解を深める補助資材として(3) e-learning資材の作成、(4) 各都道府県のがん検診従事者が自身の地域の実態を把握し、主体的に改善するための資料コンテンツを作成した。
研究方法
(1) がん検診従事者向けのがん検診の教科書的資材の作成
国際標準のがん検診の原則を理解するための質の高い教科書的資材を検討し、それを基に教科書資材の作成を行った。
(2) 一般市民向けの情報提供動画の評価
初年度はがん検診に関する国際的な情報を収集している ① Cancer Screening in Five Continents (CanScreen5) プロジェクトと ② OECD Health Statistics のデータを基に、組織型検診の基準を満足している国々を抽出した。2年目にそれら諸国で市民向けに発信している情報を基に10分弱の動画を作成して研究班HP上で公開した。最終年度は、一般市民を想定し、日本癌医療翻訳アソシエイツを通じて募集した対象者と弘前大学教育学部学生のボランティア(44名)を対象に、動画の視聴前後での理解度の変化をテストし、この資材の学習効果を評価した。
(3)がん検診従事者向けのe-learning資材の作成
(1)で作成した教科書的資材に記述されているスクリーニングに関する基本的事項や原則が効率よく学べるe-learning資材を作成した。
医療従事者における学習効果を評価するために、弘前大学医学部学生4年生のボランティア(109名)を対象に、資材内の動画の視聴前後での理解度の変化をテストし、評価した。
(4) 各都道府県のがん検診従事者が自身の地域の実態を把握し、主体的に改善できるための資料コンテンツの作成
2年目までに、地域保健・健康増進事業報告などを用い、精検受診率などを視覚化した資料コンテンツの表示について検討した。
結果と考察
(1) 初年度に教科書資材の内容を検討し、世界保健機関(WHO)によって公開されている2つの資材、‘Screening programmes : a short guide’、及び長年にわたり国際的に検診のバイブルとみなされてきた’ Principles and practice of screening for disease’を教科書資材として特定し、著作権者から許可を得て翻訳した。2年目と最終年度で日本語訳版を弘前大学出版会の審査を経て刊行し、全国の大学医学部公衆衛生学分野、医学部附属図書館、がん検診関連学会に頒布するとともに、研究班ホームページ(HP)で公開した。
(2) 2年目に作成・公開した一般市民向けの10分弱の動画の一般市民ボランティア(44名)による評価では資材の明確な学習効果が確認された。一方で、がん検診の目的に関する誤解が強く植え付けられていることが明らかになった。
(3) がん検診従事者への専門知識普及のツールとして、実際のがん検診を効果的に実施するために必要な運用方法も加味したe-learning資材を約50分程度の構成で作成し、理解度のセルフチェックができる内容として公開した。
医療従事者を想定した弘前大学医学部学生4年生のボランティア(109名)による評価では、ほとんどの項目で高い教育効果が確認された。
(4) 2年目に子宮頸がん検診をモデルとし、地域のがん検診実施体制の整備状況をウェブで閲覧できるコンテンツを作成して研究班HP上で公開した。最終年度は、乳がん検診と大腸がん検診について同様のコンテンツを作成した。また、今後の最新のデータ更新に対応するため、HPのバックグラウンドに Tableau を導入した。
 以上により、スクリーニングに関する規範・原則を示した国際的基準やがん対策として成果を上げる運用についてのがん検診従事者の理解を形成するための諸資材と一般市民ががん検診を理解するための資材が開発され、いずれもその教育効果が確認された。
結論
わが国で初の検診に関するがん検診従事者向けの国際標準の教科書資材をはじめとする資材と、一般市民向けe-learningの作成により、本研究班の目的であるがん検診に関する利益・不利益当等の適切な情報提供とその理解が促進されるものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208022C

成果

専門的・学術的観点からの成果
スクリーニング/がん検診の教科書的資材としてWHOによる2資材を翻訳し弘前大学出版会から刊行後、全国大学図書館や関連部署に配布した。それらに基づくE-ラーニング資材も作成し、その教育効果も実証した。また各地域の精度管理指標を一望し、精度管理水準や必要な対策が判断できる資材も開発した。市民向け情報提供資材として、組織型検診を一定以上の水準で実施している国々の発信情報を収集・参照し、がん検診の不利益も含めた情報提供の動画資材を作成・公開し、その学習効果を確認した。全て研究班HP上で公開した。
臨床的観点からの成果
我が国では「スクリーニング」が臨床上の医療プロセスではなく、健常者対象のプロセスであることが理解されていない。患者を対象として目的が不明瞭なまま漫然と行われる診断検査が「スクリーニング」と称されて頻繁に行われている。このような検査はそれ自体およびその後追加される無駄な検査を誘発し、対象者にメリットが担保されないばかりか不利益をもたらすリスクがある。本研究による医療従事者向け教科書資材により、スクリーニングに関する理解が醸成されることでこのような状況が改善されると期待できる。
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
我が国のがん検診の実態は国際標準のがん検診のあり方、例えば経済協力開発機構(OECD)加盟国の多くの国で科学的根拠を前提とする組織型検診でがん死亡率減少の成果を上げている中、極めて特異なもので、現在、科学的根拠に基づかないいわゆる指針外検診が80%以上の自治体で行われている。がん検診の有効性の指標ががん死亡率であることが理解されていないことが要因と判明しており、我が国で成果が上がらない要因となっている。本研究による作成資材により、がん検診の理解が形成され、この状況からの脱却が期待できる。
その他のインパクト
本研究による開発・作成資材の活用により、医療従事者のスクリーニング/ がん検診に関する理解が形成されることで、効果的ながん検診の国際的標準の在り方である組織型検診の要件を満たすがん検診の向上が図れる。市民に対するがん検診の不利益を含めた動画資材による情報提供により、一般市民が適切にかつ主体的に検診受診の意思決定をすることが可能となる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
出版物2件(WHOの出版した書籍の日本語訳); e-ラーニング資材1件; 動画資材1件; リーフレット1件; 研究班HP (https://gankenshin.jp/)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2024-03-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
202208022Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,900,000円
(2)補助金確定額
9,900,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 83,600円
人件費・謝金 0円
旅費 49,620円
その他 8,866,924円
間接経費 900,000円
合計 9,900,144円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2024-05-23
更新日
-