ヒト免疫機構を構築した新規「ヒト化マウス」を用いたエイズワクチン・治療薬評価系の開発

文献情報

文献番号
200908008A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト免疫機構を構築した新規「ヒト化マウス」を用いたエイズワクチン・治療薬評価系の開発
課題番号
H19-政策創薬・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
田中 勇悦(国立大学法人・琉球大学 大学院医学研究科(医学部))
研究分担者(所属機関)
  • 山本直樹(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 小柳義夫(国立大学法人・京都大学 ウイルス研究所)
  • 伊藤守((財)実験動物中央研究所)
  • 藤田次郎(国立大学法人・琉球大学 大学院医学研究科(医学部) )
  • 大隈和(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
19,088,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は個体レベルで新規エイズ薬やワクチンの評価に不可欠な小型動物モデル“新規ヒト化マウス”を開発し、その最適化と普及化を図ることにより我が国内外でのエイズ戦略に寄与することを最終目的とする。平成21年度はHIV感染動物モデルとしてのヒト化マウスのさらなる改良と応用性について検証、組み換えVSV を用いる新規治療法の検証、および最近のエイズの臨床像の特徴を明らかにすることを目的とした。
研究方法
これまで日本で独自に開発された“超”免疫不全マウスを用いて成人末梢血単核球や臍帯血由来造血幹細胞(HSC)を移植し移植技術のさらなる最適化を図った。感染に使ったHIVは細胞指向性の異なるHIV-1クロン株を用いた。感染実験は、各施設のP3実験室で行った。
 (倫理面への配慮)本研究は各研究機関のバイオハザード委員会、動物実験委員会、遺伝子組換え生物等使用実験安全委員会, 倫理委員会の承認を得て行った。ヒトサンプルの使用については利益ならびに人権保護の取り扱いに十分配慮した。
結果と考察
我々のヒト化マウスは用途に応じて使い分けることにより、R5指向性およびX4指向性HIV-1の急性感染と慢性感染を再現できるため、エイズワクチン・薬剤の評価系モデルとしてその有用性が示された。さらにHSC移植ヒト化マウスでは、ヒトリンパ腫発症が再現できるためエイズ日和見感染の治療を目的とした薬剤等の評価にも応用できると期待された。一方、ワクチン評価系としてのヒト化マウスを普及化するため、樹状細胞(DC)の分化培養方法を樹立し、DCを免疫に用いることによりHIV-1感染を抑制するT細胞免疫応答を惹起できることを検証した。また、HIV-1がIFN-α誘導を介してミエロイドDCの分化阻害を起こすメカニズムを明らかにした。一方、新規エイズ治療法としてHIV-1の受容体とOX40Lを発現する組み換えVSV は、HIV-1感染細胞を破壊することを示した。今後は、HIVの変異にも対応する治療を確立するために、患者のHIVを対象とした治療薬選択やテーラーメイド樹状細胞ワクチン等の新規エイズ治療開発に本成果が応用されることを望む。
結論
HIV抑制薬やワクチンおよび新規治療法開発の基盤をなす評価系として、ヒト末梢血単核球およびヒト造血幹細胞を移植した2系統のヒト化マウスの作製技術を樹立し、それらを用いたHIV感染実験による創薬評価の基盤を確立した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200908008B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト免疫機構を構築した新規「ヒト化マウス」を用いたエイズワクチン・治療薬評価系の開発
課題番号
H19-政策創薬・一般-008
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
田中 勇悦(国立大学法人・琉球大学 大学院医学研究科(医学部))
研究分担者(所属機関)
  • 山本直樹(国立感染症研究所 エイズ研究センター)
  • 小柳義夫(国立大学法人・京都大学 ウイルス研究所)
  • 伊藤守((財)実験動物中央研究所)
  • 藤田次郎(国立大学法人・琉球大学 大学院医学研究科(医学部))
  • 大隈和(国立感染症研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本ではHIV感染者数が増加し続けており、これまで以上に国内エイズ対策の強化が必要である。現在、エイズ治療には化学療法が功を奏しているが、薬に耐性ウイルスが出現することや副作用等の重大問題が浮上している。そのため新たな作用機序に基づく新規薬剤、新規ワクチン法や免疫療法の開発は世界の研究テーマである。そこで、本研究では個体レベルで新規エイズ薬やワクチンの評価に不可欠な小型動物モデル“新規ヒト化マウス”を開発し、その評価系の最適化と普及化を図ることにより我が国のエイズ戦略に寄与することを最終目的とした。
研究方法
これまで日本で独自に開発された“超”免疫不全マウスは、実中研で作製、繁殖、供給された。成人末梢血単核球(PBMC)や臍帯血由来造血幹細胞を移植材料とし、実際にHIV-1感染での評価を行った。(倫理面への配慮)本研究は動物実験委員会、遺伝子組換え生物等使用実験安全委員会, 倫理委員会の承認を得て行った。ヒト由来研究材料の使用については各所属機関の倫理委員会の規定に従った。
結果と考察
本研究では、免疫不全マウス系統の維持と新規マウスの開発、それらのヒト化によるHIV感染実験方法の確立、日本人由来臨床HIV株の分離と樹状細胞ワクチンの検討、および新規治療法の開発の基盤作りを進めた。そして、HIV増殖・感染抑制薬の簡易in vivo評価系として、ヒトPBMC移植マウスの作製技術を確立した。また、造血幹細胞を移植するヒト化マウスは、種々の日和見感染病態をも再現できるのでエイズ関連日和見腫瘍を伴うHIV治療を目的とする種々の薬剤や療法の評価への応用が可能であることを示した。さらに樹状細胞ワクチンの基礎準備として、機能的な樹状細胞の分化誘導培養方法の改良、自家HIVウイルス粒子の調製分離法、およびHIVの不活化法と免疫方法の基盤を確立した。同時に、日本人由来のHIV野生株パネル作製を進めた。さらに、新たな試みとしてOX40リガンドを組み込んだ改良型VSVによるHIV感染細胞を攻撃治療法についてその効果の評価を行った。
結論
HIV抑制薬やワクチンおよび新規治療法開発の基盤をなす評価系として、ヒトPBMCおよびヒト造血幹細胞を移植した2系統のヒト化マウスの作製技術を樹立し、それらを用いたHIV感染実験による創薬評価の基盤を確立した。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2010-12-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200908008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当初の計画に従って研究を進めたことにより、基本的な目標は十分に達成ができたと評価したい。とりわけ、使用マウスの改良とヒト化の最適化と簡素化、およびヒト化マウスの実験利用範囲の拡大を図ることができた。本研究システムは共同研究として国内外の研究機関へ供与されるので今後の利用が大いに期待される。
臨床的観点からの成果
本研究では、日本のエイズ戦略に貢献するために、新規エイズ医薬品やワクチンの実効性を前臨床試験として評価できる小型汎用動物として「ヒト化マウスを用いた評価系」を開発した。同様な評価系としてサルを用いる系があるが、それと比較するとヒト化マウスは、HIVを用いて薬剤の効果が直接観察できること、多数の検体を処理できること、および優れた経済性などから、HIV感染抑制・エイズ克服を目的としたわが国の新規エイズ医薬品・ワクチンの開発において貢献度が高く国際社会への平和貢献にもつながると期待される。
ガイドライン等の開発
現在まで特にないが、必要に応じて作成する準備は整っている。
その他行政的観点からの成果
現在のところ特にないが、評価を必要とする新規薬剤やワクチンが開発された場合は、積極的に協力できる体制を整えている。
その他のインパクト
国内外に論文、学会発表を通して本研究成果を発表した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
60件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
1件
ヒト化マウス研究に関する総説
学会発表(国内学会)
97件
学会発表(国際学会等)
24件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
(1) Tanaka R, Takahashi Y, Kodama A, et al.
Suppression of CCR5-tropic HIV-1 infection by OX40 stimulation via enhanced production of β-chemokines.
AIDS Res & Hum Retroviruses  (2010)
原著論文2
(2) Kodama A, Tanaka R, Zhanng LF, et al.
Impairment of in vitro generation of monocyte-derived human dendritic cells by inactivated HIV-1:involvement of type-1 interferon produced from plasmacytoid dendric cells.
Human Immunology  (2010)
原著論文3
(3) Sato K, Nie C, Misawa N, et al.
Dynamics of memory and naïve CD8+ T lymphocytes in humanized NOD/SCID/IL-2Rgnull mice infected with CCR5-tropic HIV-1
Vaccine  (2010)
原著論文4
(4) Kamiyama H, Yoshii H, Tanaka Y, et al.
Raft localization of CXCR4 is primarily required for X4-tropic human immunodeficiency virus type 1 infection
Virology , 386 , 23-31  (2009)
原著論文5
(5) Murakami T, Kumakura S, Yamazaki T, et al.
The novel CXCR4 antagonist KRH-3955 is an orally bioavailable and extremely potent inhibitor of human immunodeficiency virus type 1 infection: comparative studies with AMD3100.
Antimicrob Agents Chemother. , 53 , 2940-2948  (2009)
原著論文6
(6) Ohba K, Ryo A, Dewan MZ, et al.
Follicular dendritic cells activate HIV-1 replication in monocytes/macrophages through a juxtacrine mechanism mediated by P-selectin glycoprotein ligand 1.
J Immunol , 183 , 524-532  (2009)
原著論文7
(7) Nie C, Sato K, Misawa N, Kitayama H, et al.
Selective infection of CD4+ effector memory T lymphocytes leads to preferential depletion of memory T lymphocytes in R5 HIV-1-infected humanized NOD/SCID/IL-2Rgammanull mice.
Virology , 394 (1) , 64-72  (2009)
原著論文8
(8) Yajima, M., K. Imadome, A. Nakagawa, S, et al.
T cell-mediated control of Epstein-Barr virus infection in humanized mice.
J Infect Dis , 200 , 1611-1625  (2009)
原著論文9
(9) Watanabe, Y., T. Takahashi, A. Okajima, M, et al.
The analysis of the functions of human B and T cells in humanized NOD/shi-scid/gammac(null) (NOG) mice (hu-HSC NOG mice).
Int Immunol , 21 , 843-858  (2009)
原著論文10
(10) Sato K, Yamamoto SP, Misawa N, et al.
Comparative study on the effect of human BST-2/Tetherin on HIV-1 release in cells of various species.
Retrovirology , 6 , 53-  (2009)
原著論文11
(11) Yoshida T, Ebina H, Koyanagi
N-linked glycan-dependent interaction of CD63 with CXCR4 at the Golgi apparatus induces downregulation of CXCR4.
Microbiol Immunol , 53 , 629-635  (2009)
原著論文12
(12) Kondo K, Okuma K, Tanaka R, et al.
Rapid induction of OX40 ligand on primary T cells activated under DNA-damaging conditions.
Hum Immunol , 69 , 533-542  (2009)
原著論文13
(13) Zhang LF, Okuma K, Tanaka R, et al.
Generation of mature dendritic cells with unique phenotype and function by in vitro short-term culture of human monocytes in the presence of interleukin-4 and interferon-beta.
Exp Biol Med (Maywood) , 233 , 721-731  (2008)
原著論文14
(14) Okuma K, Tanaka R, Ogura T, et al.
The IL-4-transgenic hu-PBL-SCID mice: a model for screening of anti-viral drugs and immunotherapeutic agents against X4 HIV-1 viruses.
J Infect Dis , 197 , 134-141  (2008)
原著論文15
(15) 8) Koyanagi Y, Tanaka Y, Ito M, et al.
Humanized mice for human retrovirus infection.
Curr Top Microbiol Immunol , 324 , 133-148  (2008)
原著論文16
(16) Takahashi Y, Tanaka R, Yamamoto M, et al.
Enhancement of OX40-induced apoptosis by TNF co-activation in OX40-expressing T cell lines in vitro leading to decreased targets for HIV-1 production.transplantation of human ovarian tissue into NOD/SCID/gammacnull mice.
AIDS Res & Hum Retroviruses , 24 (3) , 423-435  (2008)
原著論文17
(17) Kawamura T, Koyanagi Y, Nakamura Y, et al.
Significant virus replication in Langerhans cells following application of HIV to abraded skin: Relevance to occupational transmission of HIV.
J Immunol , 180 , 3297-3304  (2008)
原著論文18
(18) Watanabe S, Ohta S, Yajima M, et al.
Humanized NOD/SCID/IL2Rgamma(null) mice transplanted with hematopoietic stem cells under nonmyeloablative conditions show prolonged life spans and allow detailed analysis of human immunodeficiency virus type 1 pathogenesis.
J Virol , 81 (23) , 13259-13264  (2007)
原著論文19
(19) Watanabe S, Terashima K, Ohta S, et al.
Hematopoietic stem cell-engrafted NOD/SCID/IL2Rgamma null mice develop human lymphoid systems and induce long-lasting HIV-1 infection with specific humoral immune responses.
Blood , 109 (1) , 212-218  (2007)
原著論文20
(20) Kondo K, Okuma K, Tanaka R, et al.
Requirements for the functional expression of OX40 ligand on human activated CD4+ and CD8+ T cells.
Hum Immunol , 68 , 563-571  (2007)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-