学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究

文献情報

文献番号
202208020A
報告書区分
総括
研究課題名
学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究
課題番号
20EA1021
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小寺 泰弘(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 室 圭(愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部)
  • 川井 章(国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科)
  • 小田 義直(九州大学大学院 医学研究院 形態機能病理学)
  • 杉山 一彦(広島大学病院 がん化学療法科)
  • 西山 博之(筑波大学医学医療系臨床医学域腎泌尿器外科学)
  • 神波 大己(熊本大学 大学院生命科学研究部泌尿器科学講座)
  • 安藤 雄一(名古屋大学医学部附属病院 化学療法部)
  • 西田 佳弘(名古屋大学 医学部附属病院 リハビリテーション科)
  • 廣田 誠一(兵庫医科大学 病院病理)
  • 橋口 陽二郎(帝京大学 医学部 外科学講座)
  • 庄 雅之(奈良県立医科大学 消化器・総合外科学教室)
  • 本間 明宏(北海道大学 大学院医学研究院 )
  • 吉野 孝之(国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 消化管内科)
  • 馬場 英司(九州大学大学院医学研究院社会環境医学講座連携社会医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究費
13,320,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
臓器横断的にがんを扱う学会等の学術団体や各臓器を専門的に扱う学術団体に働きかけて臨床現場でのニーズが高い希少がんのガイドラインの作成を依頼する。研究終了時にはこれらの学術団体の協力を得て、当該希少がんのガイドラインを持続的に改訂していく体制の構築を依頼する。ガイドライン作成のため医療従事者が集う機会を利用して、Clinical Questionを解決しうる新たなエビデンスの創出につながる多施設共同の調査や観察研究、さらには特定臨床研究や医師主導治験を行う体制を構築し、これらを支援することを目指す。これらの活動を通じて、希少がんの診療に習熟しているという観点と希少がんのガイドライン作成に習熟しているという観点での人材育成につなげる。また、活動の成果物について学会や本研究のホームページなどを通じて情報発信に努めると共に、講演会やウェブセミナーを通じて希少がんについての情報を医療者、市民に啓蒙する。
研究方法
ガイドライン作成を各学会の理事長やガイドライン委員長と討議し、要請があればガイドライン作成に必要な人材を日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会等から推薦することと、文献検索や、委員会開催に必要な交通費、宿泊費、会議室利用費などの諸費用を提供することで作成に協力することを本研究班の重要な使命のひとつとしており、ガイドライン作成作業を主な役割と考えて、継続している。文献検索のシステマティックレビューにはプロである図書館司書や業者の支援を受けることが望ましいことから、本研究の中では現時点では後腹膜腫瘍診療ガイドラインのみが国際医学情報センターの支援を受けているが、今後はこの形の支援を他のガイドラインも依頼していく方向であると認識している。
その他、個別の案件として、NCDを使用したAll Japanでのデータ収集と解析(十二指腸癌)、ゲノム検査で生じる希少フラクションに対する先進医療による医師主導治験の実施(EGFR遺伝子増幅を有する上部消化管癌、乳癌)などを支援した。
結果と考察
頭頸部領域においては本研究期間内に改定作業の最終段階が行われた頭頸部癌診療ガイドライン第4版が出版された。脳腫瘍領域では引き続き新しい癌種のガイドライン作成に取り組んでおり、その一部が「脳腫瘍診療ガイドライン小児脳腫瘍編2022年版」として出版された。
その他に先行研究と本研究における多くの作業が実を結んで主に昨年度出版されたガイドラインがいくつかあるが、本研究期間については、これらのガイドラインの外部評価や英文化の作業が進められた。
ガイドラインの中には外部評価の結果を踏まえつつ改定を予定しているガイドラインもあるが、こうしたガイドラインについては関係各学会と改めて相談し、今後の改定において持続可能な支援体制を確立した。現在、研究費の一部で先進医療による分子標的治療薬の医師主導型バスケット試験が計画され、症例登録が開始され、EGFR遺伝子増幅陽性進行固形癌というきわめて希少なフラクションでありながら順調に症例集積が進んでいる。数多くの大型資金が獲得されて癌の進展に関係する遺伝子変異等の全てを網羅できるほどの臨床試験が実施されないとパネル検査の結果として有用な薬剤にマッチングされる確率を診療上満足のできるレベルに向上させることはできない。分子標的薬の選択肢を充実させることは希少がんの薬物療法の発展には必須であり、われわれが行っている希少がんのガイドライン作成と並行して進めていかねばならない課題である。本研究の今後の展開としては、作成された各ガイドラインが客観的な評価を受けPDCサイクルを回す体制を構築するとともに、特にガイドラインの作成過程について議論を交わすことにより、さまざまなタイプの希少癌におけるガイドラインの作成方法について何らかの指針が出せることが望ましいと考えている。特に、今回第1版を作成することができたガイドラインについては数年の間に改定の気運が高まり、各学会の支援の元でsustainableな改定の体制が確立されることを期待しているが、それも今後行われる各ガイドラインの評価次第であろうと考えている。各診療科で情報を結集し、可能な範囲の希少がんについて自施設、あるいは他施設である程度の自信を持って診療できるようにする第一歩として、本院に希少がんセンターを開設した。
結論
本研究年度には従来開始していた希少がん診療ガイドラインの多くが出版され、成果のわかりやすい1年となった。2022年度は研究最終年度となるので、本研究の最終到達点とすべく、ポストコロナにおいて実現可能な形での希少がん診療ガイドライン作成の道筋をとりまとめて報告することと、これまでの研究を通じて得られた人脈やノウハウを生かして希少がんセンターを充実させることに尽力する。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
202208020B
報告書区分
総合
研究課題名
学会連携を通じた希少癌の適切な医療の質向上と次世代を担う希少がん領域の人材育成に資する研究
課題番号
20EA1021
研究年度
令和4(2022)年度
研究代表者(所属機関)
小寺 泰弘(国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 室 圭(愛知県がんセンター中央病院 薬物療法部)
  • 川井 章(国立がん研究センター中央病院 骨軟部腫瘍・リハビリテーション科)
  • 西田 佳弘(名古屋大学 医学部附属病院 リハビリテーション科)
  • 小田 義直(九州大学大学院 医学研究院 形態機能病理学)
  • 杉山 一彦(広島大学病院 がん化学療法科)
  • 西山 博之(筑波大学医学医療系臨床医学域腎泌尿器外科学)
  • 神波 大己(熊本大学 大学院生命科学研究部泌尿器科学講座)
  • 安藤 雄一(名古屋大学医学部附属病院 化学療法部)
  • 廣田 誠一(兵庫医科大学 病院病理)
  • 橋口 陽二郎(帝京大学 医学部 外科学講座)
  • 本間 明宏(北海道大学 大学院医学研究院 )
  • 庄 雅之(奈良県立医科大学 消化器・総合外科学教室)
  • 吉野 孝之(国立研究開発法人 国立がん研究センター東病院 消化管内科)
  • 馬場 英司(九州大学大学院医学研究院社会環境医学講座連携社会医学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
令和2(2020)年度
研究終了予定年度
令和4(2022)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
希少癌の診療ガイドラインの作成を支援し、促進することが本研究の根幹であり、各ガイドライン作成作業の完成後、ガイドラインが各学会に紐付いて将来の改定が視野に入ること、持続可能性をもたせること、さらに多くのガイドライン作成を手がけることを主たる目的とした。さらに、その積み重ねによりエビデンスが少ない領域でのガイドライン作成ノウハウを確立し、何らかの提言を残することを副次的な目的とした。また、その過程で希少癌全般に関わる様々な情報が収集され、各種希少癌に関係する研究グループができて当該希少癌の研究が進むこと、その過程でこうした希少癌の診療やガイドライン作成に従事できる人材の育成がなされることにも期待した。
研究方法
一般の方々の関心が高いがガイドラインが作成されていない癌種を抽出し、関係各学会とコンタクトを取ってガイドラインの作成を依頼し、必要に応じて日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会から作成委員を推薦した。
ガイドライン作成は各癌種のガイドライン作成委員会により「Minds診療ガイドライン作成マニュアル2017」に沿って進められ、Mindsガイドラインに関わる勉強会を開催した。
本研究で支援したガイドラインの作成委員長には日本癌治療学会ガイドライン作成・改訂委員への就任を依頼し、ガイドライン作成・改訂委員会は主にweb開催となった。
結果と考察
「十二指腸癌診療ガイドライン第1版」、「陰茎癌診療ガイドライン第1版」、「後腹膜肉腫診療ガイドライン第1版」、「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン第3版」、「GIST診療ガイドライン2022年版(第4版)」、「脳腫瘍診療ガイドライン2022年版(小児脳腫瘍編)」、「頭頸部癌診療ガイドライン2022年版(第4版)」が刊行された。さらに、数多くの希少癌を抱える脳腫瘍領域においては引き続いて新たな癌種のガイドラインの作成を継続しており、日本脳腫瘍学会のホームページに順次掲載されている。本研究期間中にこれらのガイドラインのいくつかは日本癌治療学会による外部評価を受け、改定に向けての貴重な助言を得た。また、学会の演題等で紹介する機会を積極的に活用して国内での使用を促進するとともに、英文化を鋭意進めて国際的な拡散をはかった。
ガイドライン作成の過程では当該希少がんの診療や研究に関わる複数診療科にまたがる人材の交流が活発に行われた。後腹膜肉腫診療ガイドラインは実に8学会の共同作業であり、様々な診療科の人材が一堂に会してガイドライン作成が進められた。十二指腸癌診療ガイドラインの作成においては消化器内科、消化器外科、腫瘍内科、病理診断科の比較的若い作成委員が推薦を受けて作成委員会に参集し、十二指腸癌という希少疾患の各診療科の枠を越えた病態などの情報の共有とMindsガイドライン作成マニュアルに沿ったガイドライン作成の手法の習得がon the job trainingの中で積極的になされる結果となった。希少疾患ならではのデータやエビデンスの不足ゆえに、ガイドライン作成に付随して学会認定施設におけるアンケート調査やレジストリーの作成、NCDなどのビッグデータを用いた研究が推進された点も有益であった。
こうしたガイドラインに則った診療においては確実な病理診断が基本であるが、これも希少癌においては大きな課題である。本研究では希少癌がん病理コンサルテーションの整備、特に骨軟部腫瘍領域やGISTでの診断基準の確立や分子病理学的解析も支援した。
結論
研究期間内に「十二指腸癌診療ガイドライン」、「後腹膜肉腫診断ガイドライン」、「陰茎癌診療ガイドライン」、「脳腫瘍診療ガイドライン 小児脳腫瘍編2022年版」を新規ガイドラインとして作成し、「頭頸部癌診療ガイドライン第4版」、「GIST診療ガイドライン第4版」、「成人・小児進行固形がんにおける臓器横断的ゲノム診療のガイドライン第3版」の改定を行った。こうしたガイドライン作成の過程で活発な人材交流が行われ、人材育成がなされた。
さらに希少癌診療ガイドラインの作成法について各委員長の見解を取りまとめたが、希少癌によって各々異なった事情を抱えていることからも、現時点では他癌種における様々な経験談を参考にしながら自身が担当する希少癌に向き合って作成を進めるしかないように思われる。

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
202208020C

成果

専門的・学術的観点からの成果
後腹膜肉腫診療ガイドラインの作成委員となった名古屋大学の横山幸浩教授が2024年2月に第7回日本サルコーマ治療研究学会学術集会を会長として開催し、西田圭弘研究分担者、川井章研究分担者と共に充実したセミナーを行った。同年4月に小寺研究責任者は日本外科学会定期学術集会を会頭として開催し、「希少腫瘍を臨床と基礎から解き明かす」、「希少癌に対する治療戦略―標準化に向けた取り組み(司会は橋口陽二郎研究分担者、庄雅之研究分担者)」、「後腹膜肉腫の治療」という希少癌に関わる3つの上級演題を設定して討議した。
臨床的観点からの成果
NCDをもちいてわが国で十二指腸癌に対する膵頭十二指腸切除術による切除例881例を検討し、予後因子(深達度MP以深、低分化型、リンパ節転移あり、乳頭部頭側、膵臓側)を同定、解剖学的部位別のリンパ節転移の特徴、非修練施設で膵液瘻の頻度は変わらないが出血量、胆汁瘻が多い傾向がみられることなどが判明した。第124回日本外科学会定期学術集会で公表し、論文準備中であるが、世界的にも例を見ない症例数の検討であり、今後のガイドライン作成に資する結果と考える。
ガイドライン等の開発
「十二指腸癌診療ガイドライン」(作成委員長は庄雅之研究分担者)については第2版の作成委員が決まって2023年1月に初回の作成委員会が開催され、2023年7月の第2回作成委員会でCQの策定がなされた。文献検索などを行った上で2024年3月にvotingを行ない、合意に至りにくい点についてさらに討議を重ねて推奨を決定した。「成人小児がんゲノム診療ガイドライン」(作成委員長は馬場英司研究分担者)については2024年1月に作成委員会が開催され第3版の捕逸を作成することとなった。
その他行政的観点からの成果
研究代表者として特に厚生労働行政に関わる会議資料等で活用されたとの情報は得ていない。
その他のインパクト
既に記載した通り希少腫瘍の学会である第7回日本サルコーマ治療研究学会学術集会学会を開催し、特に外科医の参加を促したこと、第124回日本外科学会定期学術集会において希少癌にかかわる上級演題を増設したことは、外科治療の専門家に希少癌への意識付けをさせる観点でインパクトがあったと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-07-04
更新日
2024-05-28

収支報告書

文献番号
202208020Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
15,000,000円
(2)補助金確定額
14,853,000円
差引額 [(1)-(2)]
147,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 2,130,414円
人件費・謝金 114,060円
旅費 2,086,230円
その他 8,842,777円
間接経費 1,680,000円
合計 14,853,481円

備考

備考
自己資金481円

公開日・更新日

公開日
2024-05-28
更新日
-