宿主ゲノム多様性を考慮したCTL誘導エイズワクチン開発戦略

文献情報

文献番号
200908006A
報告書区分
総括
研究課題名
宿主ゲノム多様性を考慮したCTL誘導エイズワクチン開発戦略
課題番号
H19-政策創薬・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
俣野 哲朗(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 朱 亜峰(ディナベック株式会社)
  • 明里 宏文(京都大学霊長類研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究費
23,191,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界のHIV感染者数増大抑制を目的とした予防エイズワクチン開発は国際的重要課題である。我々はこれまで、センダイウイルス(SeV)ベクターを用いた細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導予防エイズワクチンを開発し、エイズモデルにてワクチンによるウイルス複製制御例を報告してきた。本研究では、このワクチンの臨床応用に向け、宿主ゲノム多様性のワクチン有効性への影響を明らかにすることを目的とし、エイズモデルにおいて宿主主要組織適合遺伝子複合体(MHC)等の宿主遺伝子多型のワクチン効果への影響を解析することとした。
研究方法
平成19-20年度の成果をもとに、(1) 主に細胞性免疫に関与するMHC遺伝子多型のワクチン有効性への影響の解析、(2) 主に自然免疫に関与する宿主遺伝子多型のワクチン有効性への影響の解析、(3) HIV複製に関与するその他の宿主因子の解析を、さらに進展させた。
結果と考察
(1) MHCクラスI(MHC-I)ハプロタイプ別のGag特異的CTL誘導ワクチン効果の解析を進展させ、90-120-Ia陽性群と90-010-Id陽性群におけるワクチン有効性を確認した。さらに、ワクチンによる単独Gag241-249エピトープ特異的CTLメモリー誘導がウイルス複製制御に結びつくことを明らかにした。一方、MHC-I(Mamu-A・Mamu-B)遺伝子塩基配列解析を進め107以上の新規アリルを同定した。(2) 比較ゲノム解析を用いた進化医科学的手法によりTRIM5αおよびTIM1がHIV・エイズ関連遺伝子であることを証明した。(3) 本研究で見いだしたNefのWVM motifはμ1A鎖との特異的結合によりMHC-I発現制御を規定することを明らかにした。
結論
MHC-Iハプロタイプに依存したワクチン効果を確認し、ワクチンによるCTLメモリー誘導が曝露後のHIV複製制御に貢献しうることを示すエビデンスを初めて提示した。一方、進化医科学的手法によりHIV・エイズ関連遺伝子が同定可能であることを示した。本研究の成果は、CTL誘導予防エイズワクチン効果への宿主ゲノム多様性の影響の解明に結びつき、CTL誘導予防エイズワクチンの論理基盤を提示するものであり、計画推進中の国際共同エイズワクチン臨床試験第1相に引き続く第2・3相への進展に貢献することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

文献情報

文献番号
200908006B
報告書区分
総合
研究課題名
宿主ゲノム多様性を考慮したCTL誘導エイズワクチン開発戦略
課題番号
H19-政策創薬・一般-006
研究年度
平成21(2009)年度
研究代表者(所属機関)
俣野 哲朗(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木村 彰方(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 朱 亜峰(ディナベック株式会社)
  • 明里 宏文(京都大学霊長類研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 創薬基盤推進研究(政策創薬総合研究)
研究開始年度
平成19(2007)年度
研究終了予定年度
平成21(2009)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
世界のHIV感染者数増大抑制を目的とした予防エイズワクチン開発は国際的重要課題である。我々はこれまで、センダイウイルス(SeV)ベクターを用いた細胞傷害性Tリンパ球(CTL)誘導予防エイズワクチンを開発し、エイズモデルにてワクチンによるウイルス複製制御例を報告してきた。本研究では、このワクチンの臨床応用に向け、宿主ゲノム多様性のワクチン有効性への影響を明らかにすることを目的とし、エイズモデルにおいて宿主主要組織適合遺伝子複合体(MHC)等の宿主遺伝子多型のワクチン効果への影響を解析した。
研究方法
主に細胞性免疫に関与するMHC遺伝子多型のワクチン有効性への影響の解析、主に自然免疫に関与する宿主遺伝子多型のワクチン有効性への影響の解析、HIV複製に関与するその他の宿主因子の解析を進展させた。
結果と考察
Gag特異的CTL誘導予防ワクチンによりウイルス持続感染成立阻止にいたるMHCクラスI(MHC-I)ハプロタイプ共有群および持続感染成立が阻止できないMHC-Iハプロタイプ共有群を見出した。さらにエピトープ発現システムを用いた実験により、CTLメモリー誘導の効果を証明した。これらの成果はMHC-I依存的なワクチン効果を初めて明示し、宿主多様性を考慮したワクチン抗原選択の必要性を示すものである。一方、MHC-I遺伝子同定を進め、数多くの新規Mamu-A・Mamu-Bアリルを登録した。さらに、HIV感受性に関与するいくつかの免疫関連遺伝子多型を見出し、宿主因子サイクロフィリンの関与についても新たな知見を得た。これらの成果はCTL誘導予防エイズワクチンの有効性評価系を提供する点においても重要である。
結論
MHC-Iハプロタイプに依存したワクチン効果を確認し、ワクチンによるCTLメモリー誘導の効果を初めて証明した。一方、HIV感受性に関与するいくつかの免疫関連遺伝子多型を見出した。本研究の成果は、CTL誘導予防エイズワクチン効果への宿主ゲノム多様性の影響の解明に結びつき、その開発戦略の方向性を示すものとして極めて重要である。計画推進中のSeVベクター予防エイズワクチン臨床試験第1相に引き続く第2・3相への進展に向けてのさらなる論理基盤の提示に結びつくことが期待される。

公開日・更新日

公開日
2011-05-30
更新日
-

行政効果報告

文献番号
200908006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、ワクチンによるCTLメモリー誘導の効果を初めて証明し、宿主MHC-I遺伝子型に依存したワクチン効果を確認した。この成果は、CTL誘導予防エイズワクチン効果への宿主ゲノム多様性の影響の解明に結びつく点で、学術的に高い意義を有している。また、進化医科学的手法によりHIV・エイズ関連遺伝子が同定可能であることを示した点も重要である。
臨床的観点からの成果
本研究の成果は、CTL誘導予防エイズワクチン開発において、ウイルスゲノムだけでなく、その地域の宿主ゲノムの多様性の影響を考慮した戦略の必要性を示すものとして極めて重要である。したがって、計画推進中のSeVベクター予防エイズワクチン臨床試験第1相に引き続く第2・3相への進展に向けてのさらなる論理基盤の提示に結びつくことが期待される。また、本研究の成果は、今後のエイズワクチン有効性の評価系の確立、特に臨床試験における評価系確立に結びつく情報を提供する点でも重要である。
ガイドライン等の開発
特に無し。
その他行政的観点からの成果
本研究におけるMHC-Iアレル同定の進展は、エイズモデルにおける、より高度なウイルス学的解析および免疫学的解析を可能とするものであり、予防エイズワクチン開発のみでなく、数多くの疾患の解明およびその予防・治療法の開発研究に有用な系の提供に結びつくと考えられる。我々は治療エイズワクチン開発研究への活用を計画している。
その他のインパクト
研究内容等について、日本経済新聞第1面(平成19年10月9日)、日本経済新聞科学欄(平成19年8月12日)、日経産業新聞科学欄(平成20年12月16日)、朝日新聞科学欄(平成20年12月5日)、国際エイズワクチン推進構想(IAVI)Web site(http://www.iavi.org/publications-resources/pages/publicationdetail.aspx?pubid=d080d41a-00c6-47db-8a96-96f247c69d93)に掲載された。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
7件
学会発表(国内学会)
42件
学会発表(国際学会等)
31件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kawada M, Tsukamoto T, Yamamoto H, et al.
Long-term control of simian immunodeficiency virus replication with central memory CD4+ T-cell preservation after non-sterile protection by a cytotoxic T lymphocyte-based vaccine.
J Virol , 81 , 5202-5211  (2007)
原著論文2
Yamamoto H, Kawada M, Takeda A, et al.
Post-infection immunodeficiency virus control by neutralizing antibodies.
PLoS ONE , 2  (2007)
原著論文3
Tsukamoto T, Yuasa M, Yamamoto H, et al.
Induction of CD8+ cells able to suppress CCR5-tropic simian immunodeficiency virus SIVmac239 replication by controlled infection of CXCR4-tropic simian-human immunodeficiency virus in vaccinated rhesus macaques.
J Virol , 81 , 11640-11649  (2007)
原著論文4
Takeda A, Matano T
Inhibition of infectious murine leukemia virus production by Fv-4 env gene products exerting dominant negative effect on viral envelope glycoprotein.
Microbes Infect , 9 , 1590-1596  (2007)
原著論文5
Nakajima T, Ohtani H, Naruse T, et al.
Copy number variations of CCL3L1 and long-term prognosis of HIV-1 infection in asymptomatic HIV-infected Japanese with hemophilia.
Immunogenetics , 59 , 793-798  (2007)
原著論文6
Moriya C, Igarashi H, Takeda A, et al.
Abrogation of AIDS vaccine-induced cytotoxic T lymphocyte efficacy in vivo due to a change in viral epitope flanking sequences.
Microbes Infect , 10 , 285-292  (2008)
原著論文7
Shichi D, Matsuzawa Y, Ota M, et al.
HLA-DP beta chain may confer the susceptibility to hepatitis C virus-associated hypertrophic cardiomyopathy.
Int J Immunogenet , 35 , 37-43  (2008)
原著論文8
Seki S, Kawada M, Takeda A, et al.
Transmission of simian immunodeficiency virus carrying multiple cytotoxic-T-lymphocyte escape mutations with diminished replicative ability can result in AIDS progression in rhesus macaques.
J Virol , 82 , 5093-5098  (2008)
原著論文9
Moriya C, Horiba S, Inoue M, et al.
Antigen-specific T-cell induction by vaccination with a recombinant Sendai virus vector even in the presence of vector-specific neutralizing antibodies in rhesus macaques.
Biochem Biophys Res Commun , 371 , 850-854  (2008)
原著論文10
Kawada M, Tsukamoto T, Yamamoto H, et al.
Gag-specific cytotoxic T lymphocyte-based control of primary simian immunodeficiency virus replication in a vaccine trial.
J Virol , 82 , 10199-10206  (2008)
原著論文11
Takeda A, Igarashi H, Kawada M, et al.
Evaluation of the immunogenicity of replication-competent V-knocked-out and replication-defective F-deleted Sendai virus vector-based vaccines in macaques.
Vaccine , 26 , 6839-6843  (2008)
原著論文12
Nakajima T, Ohtani H, Satta Y, et al.
Natural selection in the TLR-related genes in the course of primate evolution.
Immunogenetics , 60 , 727-735  (2008)
原著論文13
Nakajima T, Kaur G, Mehra NK, et al.
HIV-1/AIDS susceptibility and copy number variation in CCL3L1, a gene encoding a natural ligand for HIV-1 co-receptor CCR5.
Cytogenet Genome Res , 123 , 156-160  (2008)
原著論文14
Izumi T, Takaori-Kondo A, Shirakawa K, et al.
Mdm2 is a novel E3 ligase for HIV-1 Vif.
Retrovirology , 6  (2009)
原著論文15
Yamamoto T, Iwamoto N, Yamamoto H, et al.
Polyfunctional CD4+ T-cell induction in neutralizing antibody-triggered control of simian immunodeficiency virus infection.
J Virol , 83 , 5514-5524  (2009)
原著論文16
Tsukamoto T, Takeda A, Yamamoto T, et al.
Impact of cytotoxic-T-lymphocyte memory induction without virus-specific CD4+ T-cell help on control of a simian immunodeficiency virus challenge in rhesus macaques.
J Virol , 83 , 9339-9346  (2009)
原著論文17
Shichi D, Ota M, Katsuyama Y, et al.
Complex divergence at a microsatellite marker C1_2_5 in lineage of HLA-Cw/-B haplotype.
J Hum Genet , 54 , 224-229  (2009)
原著論文18
Nakajima T, Nakayama EE, Kaur G, et al.
Impact of novel TRIM5alpha variants, Gly110Arg and G176del, on the anti-HIV-1 activity and the susceptibility to HIV-1 infection.
AIDS , 23 , 2091-2100  (2009)
原著論文19
Iwasaki Y, Akari H, Murakami T, et al.
Efficient inhibition of SDF-1α-mediated chemotaxis and HIV-1 infection by novel CXCR4 antagonists.
Cancer Sci , 100 , 778-781  (2009)
原著論文20
Kuroishi A, Saito A, Shingai Y, et al.
Modification of a loop sequence between alpha-helices 6 and 7 of virus CA protein in a HIV-1 derivative that has SIVmac239 vif and CA alpha-helices 4 and 5 loop improves replication in cynomolgus monkey cells.
Retrovirology , 6  (2009)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-